イシュメルガ=リィンでやりたい放題 作:それって
《西ゼムリア通商会議》から一夜明けた、9月2日。
ひと気の無い、トールズ旧校舎の前庭。雑草が生え放題で、廃墟のような雰囲気がある。
俺はそこに、とある人物を呼び出していた。
「―――チッ、男かよ。同性に告白される趣味はねぇんだが」
後ろ姿を見せていた俺はそれを黙殺し、
「―――
「あん? 取引?」
「
「――――」
我ながら本当にいきなりな提案に、今度はクロウが絶句する。
「………はっ、正気か? っつーか俺は一昨日
「
「わりぃが、何を言ってるのか―――」
「先月の自由行動日、ルナリア自然公園」
「―――ッ―――」
「情報局には、未だバレていないだろう。ミリアムが派遣されているあたり紙一重だろうが」
因果律制御について一定の結論が出たこと。そして
「―――仮にそうだとして、リィン・シュバルツァー。お前の目的はなんだ」
「俺の目的は―――、
「……は? それって、来月の、か?」
「ああ」
10月23日と24日の二日間行われる《トールズ士官学院祭》。
学園都市であり、娯楽が少ないトリスタにおいては一大イベントだ。
俺はそこで――――否、そこまでにⅦ組女子の一人を攻略したいと思っている。
普通に仲良くなって、後夜祭でフォークダンスを二人で踊り、その雰囲気でカップル成立。
そういう青春満喫プランだ。
だが、ここでクロウが居なくなったり、クロウ=《C》とバレた状態で偽装死を迎えたら?
先輩組から売店のおっさんまで、クロウは街の人間にかなり好かれている。みんなの笑顔が
「巫山戯てんのか?」
「真面目だ。お前がやっていることが知れれば、トワ会長やジョルジュ先輩は悲しむ。
それが分からないクロウ・アームブラストじゃないだろ?」
「………………」
「俺は、
本命は違う女子だが、理由は大体同じだ」
「楽しくって、オイオイ……」
さしものクロウも、困惑。毒気を抜かれたようだが、その裏に隠せない警戒がある。何か別の意図があるに違いないと。
「なら、こう言う方が納得できるか?―――うちも一応、貴族の端くれだ。ギリアス・オズボーンが失脚、あるいは暗殺でもされた方が都合がいいという面もある」
「だが、お前は――」
「ああ、別に革新派にも宰相にも恨みはない。
クロウは柄にも無く考え込む。サイコパスってやつか?という小声が聞こえてくる。
ククク……ひどい言われようだな。
どうせギリアスは死なない。しかし、それを今教えるのは流石に
これは二人の勝負なのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――
クロウとギリアス。
クロウは、
そして
俺は
この二人についていまいち見定まらないのは、この分裂症的解釈不一致のせいで
イシュメルガはクロウを『無強化の灰に負けたザコザコの蒼の起動者』ぐらいにしか思ってない。一方、リィンからすればギリアスは唯一の肉親であり、その真意を識る今。通常であれば、1対2でギリアスに寄る案件。しかし、未来のリィンのクロウへの想いの強さがそれをさせない。
―――お前らは……まっすぐ前を向いて歩いていけ……。
血染めのクロウ。
それは、原初の誓いを歪ませるほどの、
どちらの人生も、狂わせたのは根本的にはイシュメルガである。だが、
どれも違う気がして、デッドロック状態。
ゆえに俺は、エリゼの絡まないところでは、中立を保つつもりでいた。
だが――――、
ガレリア要塞において――
さらにもう一つ。この日には、
《西ゼムリア通商会議》テロ事件。時間軸を同じくする
クロスベルの西を守る《ベルガード門》は、常に二人体制で見晴台からガレリア要塞を監視している。そしてその常駐監視隊員の一人であるダリルは、クロスベル独立の機運が高まっている9月のタイミングで『過去、極度の緊張状態で行われた軍事演習で列車砲が稼働していたことがある。今回はそうはならないでほしい』ということをロイドたちに語る。直近で起動しているにも関わらず、昔のことのように語っているのだ。
一方、
リィンは当然クロスベル側がそんなことになっていたとは知らなかったが、この状況下で
ヴィータ・クロチルダ。
とはいえ、確証は無かった。ヴィータ説を補強する事実は
長すぎるので端折るが、結論としては、ヴィータが来るか来ないかで歴史とクロウの人間性が変わってしまうため、
「……一つ聞きたい。一昨日の《C》はお前か?」
「さてな。相対して分からなかったなら、否定しようが肯定しようが、意味のない質問だろう」
「少なくともお前でないなら――」
「確定させない方が、
「それは……チッ、
「フッ……」
お互いが想定してるものが同じとは限らない軌跡しぐさ。偽《C》の正体をはっきりさせてもあまり痛手はないが、
《黄昏》の時の会話から察するに、クロウは
クロウ視点では俺は信用ならない存在であり、このまま協力を拒否し、蒸発する可能性もあるが……俺に裏切られたところで、クロウには切り札の『
「まあいい―――」
一度嘆息すると、クロウはあっさりと右手をさし出した。
「正直あんまりよろしくしたくねーが、どの道あと少しだしな。
そんでもって、できれば学院祭を楽しみたいってのは―――俺もそうだったわ。
―――ってわけで、せいぜいよろしく頼むぜ、
握手になる。
やはり。大した決断力と大胆さだ。
「―――ああ、感謝するよ。今は同じクラスなんだろう?
こうして密約は結ばれた。
「んで、その本命ってのは誰なんだ? やっぱアリサか? 委員長か?」
「うーん、アンゼリカ先輩に女子を全て持って行かれてるらしいクロウに相談してもな……」
「てめぇ、それをどこで……」
「まあそっちは
「ハッ、そうかよ。じゃあ俺は対価として何をやりゃいいんだ」
「それは――」
――――――――――――――――――――――――――――――
「おかえりなさい、リィンさん」
「ああ、ただいま」
少し早めの夕食。第三学生寮の食堂に、Ⅶ組のクラスメイト全員が一堂に会していた。
帰ってきたのは昨日の夜だが、お互い、長旅のあと。『明日お疲れ様会をやろう』ということにして、さっさと寝たのだった。
「それでは―――クロウさん、ミリアムちゃん。改めてようこそ、《Ⅶ組》へ!」
「おう、改めてよろしくな」
「うぇーい!! ヨロシクゥ!!(ぱぱぱぱぱーん)」
『Ж"ПЭГК(ぱぱぱぱぱーん)』
「ミリアム、うるさい」
委員長のエマが音頭を取り、クロウが
先月転入してきたというクロウ・ミリアムを迎えて総勢11名。
今日は二人の歓迎会も兼ねているらしい。二人が寮に入ってきた時、一度企画されたのだが「リィンが居る時の方がいいよね」となって延期されていたそうだ。
分かってはいたが……温かすぎるだろ、Ⅶ組。
「フフ、久々の故郷は楽しめたか?」
「はは……涼しいのはよかったけど、街おこしのために色んな企業と話すことになって大変だったよ。半分ぐらいは他の都市に行くことになったし。RFにも行ったな」
人一倍"故郷"というものに愛着を持つガイウスから問われ、俺の土産話になる。
『領地運営の勉強』の一環で、ルーレやクロスベルに行ったと
「そうなの? 私、何も聞いてないんだけど」
アリサに半目で睨まれる。……クラスメイトが自分を通さず、自分の実家や親と接点もっているのはあまり良い気分ではないよな。実態は接点どころではないが……。
シャロンがキッチンから『この前届いた《導力洗濯機》はリィン様からの
早速活用してくれているようだ。
「私たちも今回はハードだったな……」
「要塞のスケールにも考えさせられるところがあったが……なにより」
「《帝国解放戦線》か……
「なんとか退けることができたが……敵は幹部以外、死を覚悟していたように感じた」
「ああ、こちらも同意見だ……凄まじい執念だったというか」
「今回も《C》が出てきた。強敵だった」
「7月のリィンはあいつを一人で押え込んでいたんだよな……」
「そ、そうだったの?」
「悪いな、肝心な時に居なくて。でもみんな無事でよかった」
ガレリア要塞はどちらも激戦だったのだろう、みな顔に疲れが見える。
「そういや、A班はユーシスが大活躍だったらしいな」
「そうそう! なんだっけ?『俺の目指す――」
「ええい、それはもういい!」
「あはは……」
――ミリアムとクロウを除いて。ミリアムとユーシスはもうすっかり仲良しなようだ。
今回の特別実習の行き先はA班がラウラの故郷レグラム、B班がジュライ。その後はどちらもガレリア要塞で合同実習というコースだった。それぞれの思い出話が語られる。クロウはジュライ出身だが、学院内では隠しているようで、しらばっくれている。
……自業自得なのだが、俺だけ重要イベントに参加できなかったので、なんだか寂しくもある。
「――本日はリィン様のお土産で、『百戦百勝ステーキ』になります。ご堪能下さいませ」
遅れてサラが食堂に来たタイミングで、シャロンがメインディッシュを運んできた。
後ろめたい時は
寮に今日届いた、『アルモリカ産特上肉』を焼いて貰った。
「うーん、舌の上でとろけるようだわ……♪」
「おいしい~!」「ほう……」
「もぐもぐ……いけるね」「……(パクパク)」
要請通り買ってきた地酒も含めて、ほっぺに手を当ててご満悦のサラ。トリスタも畜産をやっているケルディックの隣なので、良い肉が手に入らないことはない。そこまでのごちそうではないと思うが、シャロン・クオリティも合わさり、みんなにもおおむね好評だった。
■第三学生寮MAP■ 9/1 Update
3F 女子フロア
| 304(エマ) | 305(フィー) | 休憩所 | 306(ミリアム) |
| 303(ラウラ) | 302(アリサ) | 2F階降 | 301(サラ) |
2F 男子フロア
| 204(ガイウス) | 205(マキアス) | 1F階降 | 206(クロウ) |
| 203(ユーシス) | 202(エリオット) | 3F階登 | 201(リィン) |
1F 共用スペース
| キッチン | シャワー/ランドリー | 2F階登 | WC | |
| 食堂 | ロビー | |||
| 物置 | ||||
| 管理人室 | ||||
夜。シャロンが夜伽に来る時間帯。
「ミリアム様もここを通るとなると……」
「いや、安全を取ってくれ。残念だが、しばらくはお預けだな」
「そうですか……仕方ありませんわね」
クロウが206号室に越してきたことで、いよいよ寮でのシャロンとの逢瀬が困難になってしまった。クロウの索敵能力は侮れない。いかな《死線》と言えど、気づかれずに出入りするのは厳しいと考えられる。密約を結んだとはいえ、シャロンとの関係を知られるのは好ましくない。
さらに
ミリアムの性格上バレバレなのだが、2階に遊びに来るたびに
「それでは、おやすみなさいませリィン様」
「
とはいえ……シャロンとも久しぶりなのだ。
スカートを抓んで礼をし、退出しようとするシャロンを、俺は抱きとめた。
「……会いたかったよ」
「ご主人様……わたくしもですわ」
身も心も重ね合ったソーププレイから数週間。
まあ、その間、俺は別の女を抱きまくっているわけだが、シャロンは別腹だ。
「少しだけ、シャロンを感じさせて欲しい」
「あん……大人のキスはダメですわ♥」
少しだけ、いちゃいちゃタイムを味あわさせてもらった。
――――――――――――――――――――――――――――――
翌日。
今度は俺が、フィーから呼び出されていた。
放課後、本校舎の屋上。学校の屋上はなにかと問題が起こって施錠されることが多いものだが、トールズの場合、休憩所として堂々開放されている。フィーのお気に入りの暇潰し場所だ。
「や。」
「どうしたんだ? 呼び出すなんて―――っと」
片手を挙げた
微かな花の匂いがした。彼女は園芸部に所属している。来る前に水をあげてきたのかな。
(それにしても、もう冬服か。残念なような、ほっとしたような)
夏服期間は大体の生徒がジャケットを脱いでおり、上着は半袖シャツ一枚になっている。
フィーは顔を上げて、ひそひそ声で囁いてきた。
(ねえ。リィンが疑ってたのって
脳内に直接。ではなく、小声。ゼムリア世界には思いっきり目の前に人が居てもその人に聞えないようにする話法がある。しかし今、屋上には俺たち以外誰も居ない。
「うん?……盗聴でも気にしているのか?」
(ん。このまま、話していい?)
「待て。それなら少し移動しよう」
屋上とはいえ人は来る。俺たちは出入り口でもある鐘塔脇の物陰に寄りかかるように座って、俺はフィーの腰に手を回し、フィーが俺の耳元に顔を寄せる構図に。「
(なんか…………まあいっか。……昨日も
フィーの声質は透明感があり、それをウィスパーボイスされるとゾクリとくる。
……彼女の個性との
いかん、勃起してきた。彼女にバレないよう、スラックスのポケットからチンポジを調整しつつ、耳元でこしょこしょと囁かれ続ける。
(それで、わたしたちは最終日、ガレリア要塞に
これもうASMRだろ……。
話の内容は、無情にも真面目だった。
要約すると、フィーは、
そして、考察の結果、《C》の正体をアンゼリカかクロウかまで絞り込み、俺がルーレにあるアンゼリカの
それはズレた推理だったけど、そこまで考えが及ぶのか。
……とはいえ学院関係者なんて言ったら時間の問題だったか?
8月の中頃、クロウの方が情報局のミリアムと一緒に編入してきたことから、フィーはクロウが当たりだと思って観察していた。なのに《ガレリア要塞》で、別の《C》が出てきたのでびっくりしたという。ただし、アンゼリカ共犯説ならアリバイは崩れる。
(どう思う?)
「んー、そうだな……」
『ん……いいよ?』
料理を頼まれたような感覚で快諾してくれるフィーが幻視される。
今のフィーは俺に雇われた
なにをすべきか、
『ん。わかってる。報酬は自分の手でつかみ取るのが猟兵の流儀』
俺の耳元で囁きながら器用にジッパーをおろし、指で俺の巨イナル一物を取り出すフィー。
『ん……わたしの手づかみしこしこで沢山ぴゅっぴゅしてね、リィン』
そして 下品な淫語を吐息まじりに囁かせる。
『また、大きくなったね。言わせて、興奮した?』
悪戯心も滲むその言葉に先走りを分泌してしまう。それを彼女は手で全体に馴染ませていく。
『いい子』
頷くと、亀頭を優しく撫でてくれるフィー。
ぬめりけが十分浸透すると裏筋を中心に刺激してくる。
『リィン、気持ちいい? じゃ、そろそろ
アクセル。手コキの速度を上げていく。
SPDとDEXに秀でた少女はフェイントを含めて緩急を付けチンポを翻弄する。
すぐにでもイキそうだッ、フィーッッ。
『もう出るの?』
視られながら情けなく喘ぐ俺に、少女猟兵は冷静に最終確認をする。
『イグよ。せーの、ぴゅっ♥ ぴゅう~~~』
少女が囁く擬声語に合わせてのシンクロ射精は、きっと至高の射精法の一つであった。
『せいし。いっぱい出たね♥』
みたいな感じで。
勿論俺の妄想であり、特別な絆を結んでおらず、エッチな暗示も掛かっていない彼女は、こんなことはしてくれない。
……正直な気持ち、かなり揺らぐ。
―――いや、ダメだ。
はっ。俺は咄嗟にマルガリータを思い浮かべて心頭滅却した。これはブス専性癖が開花したり、最悪EDになってしまうかもしれない禁呪。多用は出来ない。
……なんの話だっけ。……アンゼリカが《C》かどうかか。
俺は少し腰を屈めて、少女の耳元に囁き返す。
(まあ、結論だけいえば――アンゼリカ先輩は白だった。だが、ログナー侯は《C》ではないものの、テロリストに絡んでいるようだ。それで俺は、帝都時点ではクロウを疑っていた。よくそこまで気づいたな、フィー)
そうしてアホ毛つきの銀髪を撫でると、身体をビクっとさせて、少し照れるフィー。
昨日、さっさと取引を片付けておいてよかった。
流石に、今は俺がクロウとグルという超展開は読めないだろう。
フィーにはどうか学院祭までこのまま迷走していてもらいたい。
その後も《少女探偵とこしょこしょ囁き情報交換プレイ》は続き……俺は寮に帰るとカウパーでカピカピになったパンツを真っ先に取り替えるハメになった。
【PR】買っててよかった、RF製導力洗濯機。
「そいえば、交換した『
「あー、まあ構わないが」
「ん。サンクス」
クク、
『フォース』はこの時期のフィーと非常に相性が良い。5体以上の敵を倒せばCPが100に到達するため、広範囲の敵を掃射するフィーの
もはやフィーは俺の『
とはいえ、俺にとっても『レイヴン』が必要になる戦闘は今後なさそうだ。そろそろ『
――――――――――――――――――――――――――――――
9月5日、日曜日。
一ヶ月も離れていると、違う世界にも感じられるのが学校という存在。それでも、劇的なことはそうそう起こらないし、変わらない日常がふたたび肌に馴染んでくる。
―――トールズ士官学院に戻ってから数日が経過していた。
来週には実力考査もあるが、未来のリィンは既に一度トールズの全カリキュラムを終えて、卒業している。更に教官になる上で、生徒に教えられるよう一通り学び直してもいた。現状、座学はその貯金だけで済んでおり、予習復習等の必要性は全く感じていなかった。
俺の《計画》も第一段階が形になり、順調と言える。シナリオの変更は大小含めてあったが、《西ゼムリア通商会議》での必須事項は、『オルキスタワーが襲撃される』『トワが傷つかない』『列車砲が発射・破壊されない』の三点。
したがって、今の俺の悩みは……相変わらず、《
この前のフィーみたいな不意打ちエロは困る。
っていうかあれ、あのままレイプされても文句は言えない距離感だったよな?
身近で人狼やってるプロが二人も増えて、更にフィー、遠視でこちらを
《夏休み》中、散々"ヤリだめ"したお陰で、辛うじて我慢できているものの……金玉には2日で精子がフルチャージされてしまうとも聞く。早いところ対策を考えなければ。
確実に監視の目を欺けるのは深夜に《精霊の道》で抜け出すぐらいだが――。
(深夜に呼び出してもいつでも問題なさそうな女……誰か居たか?)
……今抱ける女は、みんな社会人。明日に差し支えるような求めは気が引ける。《
それはそれとして。
今日は帝都に出かける。トールズは日曜にも授業や自主練カリキュラムがあるが、女学院は普通に休養日。あわよくば制服姿のエリゼとエッチできるかもしれない。
待っていてくれ、エリゼ―――。
――――――――――――――――――――――――――――――
聖アストライア女学院の貴族寮。
「――はぁ、
「フフ、これで私の3連勝ですね」
テーブルを挟んで向かい合う俺とミント髪の少女。
品よく片付いた、おませな女の子といった感じの部屋。
俺は、一ヶ月ぶりにミュゼと会い、
日頃から不法侵入しまくってるので、ミュゼの部屋に立ち入るのは初めてではないものの、どちらかといえば、フロア全体がミュゼ個人のエントランスホールみたいなところで話すことが多かった。この前のデートで完全に壁が取り除かれたようで、今日はミュゼの方から招いてくれた。
――――エリゼは?
……俺はエリゼに『早く帰ってきてくださいね』とお願いされていたわけだが、結局、俺が帰ったのは夏休みの終わり頃。しかも人を大勢連れてきたため、エッチできそうなタイミングもなく……突っ慳貪な塩対応に戻ってしまった。
流石にそろそろ機嫌も直っているだろうと思っていたが、エリゼはまだ根に持っていた。
「約束を破る兄様なんて知りませんっ!」
破ってはいないぞ。『早く』の解釈違いだ。という弁解が妹に通じるわけもなく。
結ばれてからあまりに従順だったので、そういう部分も鳴りを潜めるかとも思ったのだが、人間そう簡単には変わることはないらしい。
やれやれ。この前喜ばない妹は居ないとか言ってたくせに。
「……来て下さるのは嬉しいですが、それとこれとは別の話です!」
まあ、正直この程度のツンなら可愛く思えてはいるのだが……。
まだ15歳。一つ下のリーヴやミュゼが大分ませてるので子供っぽく思えるが、普通この年代の娘はもっと子供だ。だが、この態度を許しているとまた尻に敷かれてしまうなと思った俺は、「わかった。また来るよ」と頭を撫でて、その場を後にした。
後ろから「……ぁ…………」などというエリゼのやっちゃった感のある声が聞えたが、我慢。リィンとしては滅茶苦茶後ろ髪引かれているが、そうやって顔色を窺うから増長するのである。これも妹の躾。とはいえ、隙あらば誘拐されるのがエリゼだ。冷却期間中も兄として見守り続けるのは変わらないが。
ふう。エリゼに拗ねられると、それはもう気分が落ち込む。だが、それはそれで、こうしてミュゼに浮気しに行けるというものだ。切り替えていこう。
さて、チェスの通算成績はというと俺の2勝-5敗-8分け。
俺がダブルスコアで負け越していた。
ミュゼに勝てたパターンは俺が
俺は元日本人なので、
そしてチェスは
「相変わらず凄いな、ミュゼは。ここまで強いと相手もいないんじゃないか?」
「ええ、私にここまで着いてこれた方は先輩がはじめてです」
「はは、それは光栄というか」
「…………」
勝ったにも関わらず、ミュゼに得意げな表情はない。
今のゲームは
ミュゼの棋風は、
勝てないまでも引き分けていたのは、彼女の
俺としてもミュゼとゲームして楽しみたいだけであって、勝つのが目的ではない。だが、
チェスに限れば
定跡とは『こう来たらこう指すべき』というのが完全に決まっている一連の変化のこと。特に持ち時間が少ない早指しルールではいちいち考えていられないので、定跡と
運要素のない完全情報型のゲームは、創作においては劣勢から思いも寄らない神手で大逆転みたいなドラマが描かれるが、現実にはその物量で絶対的な差が生まれ、一直線に決着しがちだ。
現代においてはAIがほぼ最適解を持ち、人間を凌駕――既に
ミュゼの異能は、不完全な現実をあたかも完全情報型ゲームのように盤面に見立て、仮想実験と修正を掛けて、確度を上げるもののようだ。だが、チェスは元より完全情報であり、その面の強みは関係なく、未知の局面は自力で読まなければならない。ただしその探索力が数十秒集中すれば数千通りという馬力。持ち時間5分以上のルールだと俺に勝機は無い。
逆にオープニングの知識があり、定跡にもならないようなパターンも記憶領域照合により、最善手を読まずにノータイムで指せる俺は、早指し限定ならかなりのアドバンテージを持つ。ミュゼはそれを見極め、あえて定跡から外れに外れた局面に誘導して上回ったのがここ数局。素直に称賛できるというものだった。
俺は拍手した。
にもかかわらず、ミュゼはジト目になった。釈然としないような感じ。
「―――
それも単純な棋譜暗記ではなく、映像としての盤面記憶。だから変化から外れても応用が効く」
大正解。
「流石にこれだけやったらわかるか。
ミュゼとはもう迂闊に指さない方が良いかもな。どんどん手を覚えられてしまう」
ハイレベルの指し手に奇襲は二度と通じない。時間を掛けて研究されれば容易に対策されてしまう。伝家の宝刀はここぞというときに切るべきだった。
「むぅ、やっぱりまだ奥の手があるみたいですね……。
私としてはもっと"手取り足取り"教えてほしいです、先輩♥」
頬に手を寄せ、くねくねと蠱惑しようとするミュゼ。今暫くは初心なミュゼが見られるかと思っていたのだが、もうヴィータの薫陶の片鱗が見え隠れしている。
しかし、ヴィータを目指しているようでは……ハニトラ対策済みの俺にはカモだ。
「"手取り足取り"……か。―――君の勝ちだが、
「ぁ。そ、そうですね……」
当然、俺たちはこの手の勝負事で恒例の『
俺はさりげなくミュゼに近づき、距離を詰めた。自ら蠱惑しておいて少し焦っているミュゼ。
捕食者はこちらだ。
「その……」
「ミュゼ」
「あ……」
察して目をつぶる少女に、俺は、優しく
そして―――俺たちは
「……ん……」
言いよどんだ、ということはミュゼの選択肢は二通り、いや三通りぐらいだったはず。
「では、熱いベーゼを♥」か「先輩のことを知りたい」、「来たるべき時に協力して欲しい」あたりか。
だが、ミュゼは―――、俺という悪い男に引っかかり、弄ばれるために生まれてきた普通の女の子である。
ゆえに、俺が方向性を
初エッチは、正直今すぐにでもしたいが、まだお預けだ。
既にエリゼが俺にガチ恋しているのは見抜いているはず。ミュゼの処女は
そのために必要な《次の一手》は――――。
ミュゼとの絆が深まった!
好感度(絆ポイント)ランクアップ!
★★★☆☆
今まで「・」を全部手動で打ってたんですが、「《」2個で済むのを知って少し書きやすくなりました。大量に誤字報告くれた方、ありがとうございます。