※この作品はR-18です。

イシュメルガ=リィンでやりたい放題   作:それって

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フォースドムーブ/妖精の囁き

 

 《西ゼムリア通商会議》から一夜明けた、9月2日。

 

 ひと気の無い、トールズ旧校舎の前庭。雑草が生え放題で、廃墟のような雰囲気がある。

 俺はそこに、とある人物を呼び出していた。

 

 

「―――チッ、男かよ。同性に告白される趣味はねぇんだが」

 

 

 緑色(平民クラス)の制服を着崩したバンダナ男は、俺の姿を認めると、嘆かわしげに声を上げた。いかにも『女子の告白かと思って来たのに』という体(てい)で、がっくし肩を落とす。

 

 後ろ姿を見せていた俺はそれを黙殺し、

 

 

       正(・)面(・)を(・)向(・)い(・)た(・)。

 

 

「―――い(・)き(・)な(・)り(・)だ(・)が(・)、(・)取(・)引(・)を(・)し(・)た(・)い(・)」

「あん? 取引?」

「俺(・)は(・)ク(・)ロ(・)ウ(・)・(・)ア(・)ー(・)ム(・)ブ(・)ラ(・)ス(・)ト(・)が(・)、(・)テ(・)ロ(・)リ(・)ス(・)ト(・)《C(シー)》で(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)黙(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。いや、正体を隠すのに協力してやってもいい。その代わりお前は俺に協力してくれ」

「――――」

 

 我ながら本当にいきなりな提案に、今度はクロウが絶句する。

 

 

「………はっ、正気か? っつーか俺は一昨日ソレ(≪C≫)と戦ったんだぜ?」

「ア(・)レ(・)は(・)偽(・)物(・)だ(・)。己を騙る者がタイミングよく出てきたのは完全に想定外だった。違うか?」

「わりぃが、何を言ってるのか―――」

「先月の自由行動日、ルナリア自然公園」

「―――ッ―――」

「情報局には、未だバレていないだろう。ミリアムが派遣されているあたり紙一重だろうが」

 

 因果律制御について一定の結論が出たこと。そして一昨日の一件(・・・・・・)により、逆(・)行(・)ク(・)ロ(・)ウ(・)疑惑は、ほぼ消えた。黒幕のように、見透かすように冷笑すると、クロウがここまで醸しだしてきた陽気な雰囲気は消え失せ、場に殺気が立ちこめる。

 

「―――仮にそうだとして、リィン・シュバルツァー。お前の目的はなんだ」

「俺の目的は―――、学(・)院(・)祭(・)だ」

「……は? それって、来月の、か?」

「ああ」

 

 10月23日と24日の二日間行われる《トールズ士官学院祭》。

 学園都市であり、娯楽が少ないトリスタにおいては一大イベントだ。

 

 俺はそこで――――否、そこまでにⅦ組女子の一人を攻略したいと思っている。

 普通に仲良くなって、後夜祭でフォークダンスを二人で踊り、その雰囲気でカップル成立。

 そういう青春満喫プランだ。

 

 だが、ここでクロウが居なくなったり、クロウ=《C》とバレた状態で偽装死を迎えたら?

 

 先輩組から売店のおっさんまで、クロウは街の人間にかなり好かれている。みんなの笑顔が曇らせ(・・・)られてしまい、学(・)院(・)祭(・)の(・)楽(・)し(・)い(・)雰(・)囲(・)気(・)が(・)台(・)無(・)し(・)になってしまうじゃないか。

 

「巫山戯てんのか?」

「真面目だ。お前がやっていることが知れれば、トワ会長やジョルジュ先輩は悲しむ。

 それが分からないクロウ・アームブラストじゃないだろ?」

「………………」

「俺は、ト(・)ワ(・)会(・)長(・)に(・)楽(・)し(・)く(・)学(・)院(・)祭(・)準(・)備(・)を(・)し(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)と願っている。

 本命は違う女子だが、理由は大体同じだ」

「楽しくって、オイオイ……」

 

 さしものクロウも、困惑。毒気を抜かれたようだが、その裏に隠せない警戒がある。何か別の意図があるに違いないと。

 

「なら、こう言う方が納得できるか?―――うちも一応、貴族の端くれだ。ギリアス・オズボーンが失脚、あるいは暗殺でもされた方が都合がいいという面もある」

「だが、お前は――」

「ああ、別に革新派にも宰相にも恨みはない。ど(・)ち(・)ら(・)が(・)勝(・)と(・)う(・)が(・)構(・)わ(・)な(・)い(・)かな。だから俺にとって重要なのは楽しく学院祭準備が行えることだ」

 

 クロウは柄にも無く考え込む。サイコパスってやつか?という小声が聞こえてくる。

 ククク……ひどい言われようだな。

 

 どうせギリアスは死なない。しかし、それを今教えるのは流石に不公平(・・・)だ。

 これは二人の勝負なのだから。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 クロウとギリアス。

 クロウは、未(・)来(・)のリィンが、最も執着した悪友であり、ギリアスの命を狙う復讐者である。

 ギリアス(ドライケルス)は、イシュメルガが過(・)去(・)に最も執着してきた起動者(ライザー)であり、

 そして悪魔(イシュメルガ)に魂を売り渡し、リィンの命を繋いだ実父でもある。

 

 俺は双方(リィンとイシュメルガ)の双方(クロウとギリアス)に対するこの《クソデカ感情》を……扱(・)い(・)か(・)ね(・)て(・)い(・)た(・)。

 この二人についていまいち見定まらないのは、この分裂症的解釈不一致のせいで眼(・)が(・)曇(・)る(・)というべきか……男にそこまで執着するなといいたい。

 

 現(・)在(・)の俺(リィン)からすれば、クロウ(≪C≫)はエリゼを拉致ろうとした許されざる勢力の一人だ。過去に確定したエリゼとの縁(えにし)と異なり、クロウとの縁はあくまで未来に存在しえたもの。とはいえ、この温(ぬる)い男だからこそ、エリゼを救えるルートもあるのであり、俺はクロウが嫌いではなかった。

 

 イシュメルガはクロウを『無強化の灰に負けたザコザコの蒼の起動者』ぐらいにしか思ってない。一方、リィンからすればギリアスは唯一の肉親であり、その真意を識る今。通常であれば、1対2でギリアスに寄る案件。しかし、未来のリィンのクロウへの想いの強さがそれをさせない。

 

―――お前らは……まっすぐ前を向いて歩いていけ……。

へへ……そうすりゃ………きっと……。

 

 血染めのクロウ。

 それは、原初の誓いを歪ませるほどの、呪い(ギアス)であり。

 

 どちらの人生も、狂わせたのは根本的にはイシュメルガである。だが、俺(イシュメルガ)には既に役割(用途)があり、彼らのために悪役を演じて殺されてやることは出来ない。では、クロウの復讐に手を貸し、哀れな父を《贄》にするのか。あるいはクロウの胸ぐらを掴み、神の視点から洗脳(SEKKYOU)し、悲願(ギリアス暗殺)を捨てさせるのか。

 

 どれも違う気がして、デッドロック状態。

 ゆえに俺は、エリゼの絡まないところでは、中立を保つつもりでいた。

 

 

 だが――――、

 

 

 ガレリア要塞において――結(・)局(・)、(・)ク(・)ロ(・)ウ(・)は(・)《(・)G(・)》(・)の(・)抜(・)け(・)た(・)穴(・)を(・)カ(・)バ(・)ー(・)で(・)き(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。オルキスタワーに《V》を回し、ガレリア要塞の部隊指揮は《S》一人にやらせたわけだ。Ⅶ組とナイトハルト教官を《S》だけで抑えるのは流石に厳しい。

 

 

 さらにもう一つ。この日には、4(・)月(・)時(・)点(・)か(・)ら(・)憂(・)慮(・)し(・)て(・)い(・)た(・)、(・)厄(・)介(・)な(・)懸(・)念(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

 

 《西ゼムリア通商会議》テロ事件。時間軸を同じくする閃(・)の(・)軌(・)跡(・)と(・)碧(・)の(・)軌(・)跡(・)に(・)は(・)大(・)き(・)な(・)違(・)い(・)が(・)あ(・)る(・)。クロスベル自治州の警察官ロイド主観の物語『碧の軌跡』においては―――そ(・)も(・)そ(・)も(・)こ(・)の(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)で(・)列(・)車(・)砲(・)は(・)稼(・)働(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)の(・)で(・)あ(・)る(・)。

 

 クロスベルの西を守る《ベルガード門》は、常に二人体制で見晴台からガレリア要塞を監視している。そしてその常駐監視隊員の一人であるダリルは、クロスベル独立の機運が高まっている9月のタイミングで『過去、極度の緊張状態で行われた軍事演習で列車砲が稼働していたことがある。今回はそうはならないでほしい』ということをロイドたちに語る。直近で起動しているにも関わらず、昔のことのように語っているのだ。

 

 一方、閃の軌跡(リィンの記憶)では空(・)砲(・)で(・)は(・)あ(・)る(・)が(・)、(・)間(・)違(・)い(・)な(・)く(・)列(・)車(・)砲(・)は(・)発(・)射(・)さ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。ベルガード門側があの異常に気づかないのはいくらなんでもおかしい。大量破壊兵器を有する要塞がテロリストに乗っ取られ、あまつさえその起動を許すなど、帝国がクロスベル介入の口実を失うレベルの大失態。帝国側が圧力を掛けたと仮定しても、クロスベル警備隊に完全な緘口令を敷くのは無理ではないだろうか。この矛盾は《空砲の謎》と呼ばれ、キーアによる改変、帝国の呪い、創造者(■■■■■)のガバなど様々な考察があったが、特に答えが示されることはなく迷宮入りしていた。

 

 リィンは当然クロスベル側がそんなことになっていたとは知らなかったが、この状況下でベ(・)ル(・)ガ(・)ー(・)ド(・)門(・)の(・)警(・)備(・)隊(・)全(・)体(・)に(・)対(・)し(・)て(・)暗(・)示(・)や(・)幻(・)術(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)も(・)の(・)を(・)掛(・)け(・)ら(・)れ(・)る(・)人(・)物(・)は知っていた――。

 

 ヴィータ・クロチルダ。

 

 とはいえ、確証は無かった。ヴィータ説を補強する事実はレ(・)グ(・)ラ(・)ム(・)ま(・)で(・)つ(・)い(・)て(・)き(・)た(・)セ(・)リ(・)ー(・)ヌ(・)が(・)ガ(・)レ(・)リ(・)ア(・)要(・)塞(・)に(・)は(・)同(・)行(・)せ(・)ず(・)1(・)匹(・)で(・)直(・)帰(・)し(・)た(・)ことについて、ヴィータの呪いが掛かっていたためという理由が付く程度であり、《帝国解放戦線》からすれば襲撃をクロスベル側に隠蔽する意味はない。そこで因果律制御の衝突問題が絡んでくる。

 

 長すぎるので端折るが、結論としては、ヴィータが来るか来ないかで歴史とクロウの人間性が変わってしまうため、結(・)局(・)、(・)俺(・)は(・)Ⅶ(・)組(・)合(・)流(・)ル(・)ー(・)ト(・)を(・)断(・)念(・)し(・)て(・)、(・)そ(・)う(・)し(・)た(・)推(・)移(・)を(・)観(・)測(・)し(・)、(・)ク(・)ロ(・)ウ(・)へ(・)の(・)助(・)け(・)船(・)と(・)列(・)車(・)砲(・)発(・)射(・)を(・)防(・)ぐ(・)両(・)方(・)の(・)保(・)険(・)の(・)意(・)味(・)で(・)偽(・)《(・)C(・)》(・)ル(・)ー(・)ト(・)を(・)創(・)出(・)し(・)た(・)わ(・)け(・)で(・)あ(・)る(・)。

 

 

「……一つ聞きたい。一昨日の《C》はお前か?」

「さてな。相対して分からなかったなら、否定しようが肯定しようが、意味のない質問だろう」

「少なくともお前でないなら――」

「確定させない方が、お(・)前(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)都(・)合(・)が(・)い(・)い(・)はずだ。ゲ(・)ー(・)ム(・)に(・)勝(・)ち(・)た(・)け(・)れ(・)ば(・)な」

「それは……チッ、そういうことかよ(・・・・・・・・)」

「フッ……」

 

 お互いが想定してるものが同じとは限らない軌跡しぐさ。偽《C》の正体をはっきりさせてもあまり痛手はないが、ク(・)ロ(・)ウ(・)の(・)こ(・)と(・)だ(・)か(・)ら(・)録音していてもおかしくない。

 

 《黄昏》の時の会話から察するに、クロウはヴィータからも(地精からも魔女からも)全てを聞かされているわけではない。だが、システムの全容は分からずとも嗅覚でそういうものがある(知ると運命が確定する)と察知している。

 

 クロウ視点では俺は信用ならない存在であり、このまま協力を拒否し、蒸発する可能性もあるが……俺に裏切られたところで、クロウには切り札の『騎神(オルディーネ)召喚』とヴィータのバックアップがある。こちらの背景が分からずとも、物理的に寝首を掻いてこない限りは……ギリギリまでトールズで潜伏する方が合理的、と考えるだろうと俺は踏んでいる。

 

 

「まあいい―――」

 

 一度嘆息すると、クロウはあっさりと右手をさし出した。

 

「正直あんまりよろしくしたくねーが、どの道あと少しだしな。

 そんでもって、できれば学院祭を楽しみたいってのは―――俺もそうだったわ。

 

―――ってわけで、せいぜいよろしく頼むぜ、後輩(・・)」

 

 握手になる。

 

 やはり。大した決断力と大胆さだ。

 

「―――ああ、感謝するよ。今は同じクラスなんだろう? クロウ(・・・)」

 

 

 こうして密約は結ばれた。

 

 

 

 

 

 

「んで、その本命ってのは誰なんだ? やっぱアリサか? 委員長か?」

「うーん、アンゼリカ先輩に女子を全て持って行かれてるらしいクロウに相談してもな……」

「てめぇ、それをどこで……」

「まあそっちは進(・)展(・)方(・)法(・)ま(・)で(・)含(・)め(・)て(・)自(・)分(・)で(・)考(・)え(・)た(・)い(・)と思っているんだ。悪いが、手出し無用だ」

「ハッ、そうかよ。じゃあ俺は対価として何をやりゃいいんだ」

「それは――」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おかえりなさい、リィンさん」

「ああ、ただいま」

 

 少し早めの夕食。第三学生寮の食堂に、Ⅶ組のクラスメイト全員が一堂に会していた。

 

 帰ってきたのは昨日の夜だが、お互い、長旅のあと。『明日お疲れ様会をやろう』ということにして、さっさと寝たのだった。

 

「それでは―――クロウさん、ミリアムちゃん。改めてようこそ、《Ⅶ組》へ!」

「おう、改めてよろしくな」

「うぇーい!! ヨロシクゥ!!(ぱぱぱぱぱーん)」

『Ж"ПЭГК(ぱぱぱぱぱーん)』

「ミリアム、うるさい」

 

 委員長のエマが音頭を取り、クロウが改(・)め(・)返(・)す(・)。陽キャなミリアムが自分一人で(ガーちゃんにも手伝ってもらって)大量のクラッカーを鳴らし、隣に居たフィーが迷惑そうに耳に手を当てた。

 

 先月転入してきたというクロウ・ミリアムを迎えて総勢11名。

 

 今日は二人の歓迎会も兼ねているらしい。二人が寮に入ってきた時、一度企画されたのだが「リィンが居る時の方がいいよね」となって延期されていたそうだ。

 

 分かってはいたが……温かすぎるだろ、Ⅶ組。

 

 

「フフ、久々の故郷は楽しめたか?」

「はは……涼しいのはよかったけど、街おこしのために色んな企業と話すことになって大変だったよ。半分ぐらいは他の都市に行くことになったし。RFにも行ったな」

 

 人一倍"故郷"というものに愛着を持つガイウスから問われ、俺の土産話になる。

 

 『領地運営の勉強』の一環で、ルーレやクロスベルに行ったと学院(サラ)には報告している。イリーナと口裏を合わせ、レミフェリアに俺が同行した件だけを隠すという方針だ。仮にバレたら大公家(リーヴ)の事情が絡んでいるので伏せたと言い訳する、という二重の予防線。

 

「そうなの? 私、何も聞いてないんだけど」

 

 アリサに半目で睨まれる。……クラスメイトが自分を通さず、自分の実家や親と接点もっているのはあまり良い気分ではないよな。実態は接点どころではないが……。

 

 シャロンがキッチンから『この前届いた《導力洗濯機》はリィン様からのオーダー(お土産)ということですわ』とフォローを入れてくれ、主に女子から歓声が上がった。

 早速活用してくれているようだ。

 

「私たちも今回はハードだったな……」

「要塞のスケールにも考えさせられるところがあったが……なにより」

「《帝国解放戦線》か……あの兵器(列車砲)を狙うとは」

「なんとか退けることができたが……敵は幹部以外、死を覚悟していたように感じた」

「ああ、こちらも同意見だ……凄まじい執念だったというか」

「今回も《C》が出てきた。強敵だった」

「7月のリィンはあいつを一人で押え込んでいたんだよな……」

「そ、そうだったの?」

「悪いな、肝心な時に居なくて。でもみんな無事でよかった」

 

 ガレリア要塞はどちらも激戦だったのだろう、みな顔に疲れが見える。

 

「そういや、A班はユーシスが大活躍だったらしいな」

「そうそう! なんだっけ?『俺の目指す――」

「ええい、それはもういい!」

「あはは……」

 

――ミリアムとクロウを除いて。ミリアムとユーシスはもうすっかり仲良しなようだ。

 

 今回の特別実習の行き先はA班がラウラの故郷レグラム、B班がジュライ。その後はどちらもガレリア要塞で合同実習というコースだった。それぞれの思い出話が語られる。クロウはジュライ出身だが、学院内では隠しているようで、しらばっくれている。

 

 ……自業自得なのだが、俺だけ重要イベントに参加できなかったので、なんだか寂しくもある。

 

「――本日はリィン様のお土産で、『百戦百勝ステーキ』になります。ご堪能下さいませ」

 

 遅れてサラが食堂に来たタイミングで、シャロンがメインディッシュを運んできた。

 後ろめたい時は高い肉(・・・)を振る舞うに限る。

 寮に今日届いた、『アルモリカ産特上肉』を焼いて貰った。

 

「うーん、舌の上でとろけるようだわ……♪」

「おいしい~!」「ほう……」

「もぐもぐ……いけるね」「……(パクパク)」

 

 要請通り買ってきた地酒も含めて、ほっぺに手を当ててご満悦のサラ。トリスタも畜産をやっているケルディックの隣なので、良い肉が手に入らないことはない。そこまでのごちそうではないと思うが、シャロン・クオリティも合わさり、みんなにもおおむね好評だった。

 

 

■第三学生寮MAP■ 9/1 Update

3F 女子フロア

304(エマ)305(フィー)休憩所306(ミリアム)
 
303(ラウラ)  302(アリサ)  2F階降301(サラ)

2F 男子フロア

204(ガイウス)205(マキアス) 1F階降206(クロウ)
 
203(ユーシス) 202(エリオット)3F階登201(リィン) 

1F 共用スペース

キッチン     シャワー/ランドリー2F階登WC
食堂ロビー
物置
管理人室   

 

 

 夜。シャロンが夜伽に来る時間帯。

 

「ミリアム様もここを通るとなると……」

「いや、安全を取ってくれ。残念だが、しばらくはお預けだな」

「そうですか……仕方ありませんわね」

 

 クロウが206号室に越してきたことで、いよいよ寮でのシャロンとの逢瀬が困難になってしまった。クロウの索敵能力は侮れない。いかな《死線》と言えど、気づかれずに出入りするのは厳しいと考えられる。密約を結んだとはいえ、シャロンとの関係を知られるのは好ましくない。

 

 さらにミリアム(情報局の白兎)。彼女は《C》の被疑者の監視が任務の一つである。

 ミリアムの性格上バレバレなのだが、2階に遊びに来るたびにこちら側(201号室と206号室のある西側)を意識しているらしい。ガレリア要塞でミリアムは《C》を直接見ていない。まだ警戒は解かないだろう。

 

 

「それでは、おやすみなさいませリィン様」

「シ(・)ャ(・)ロ(・)ン(・)、少し待ってくれ」

 

 とはいえ……シャロンとも久しぶりなのだ。

 スカートを抓んで礼をし、退出しようとするシャロンを、俺は抱きとめた。

 

「……会いたかったよ」

「ご主人様……わたくしもですわ」

 

 身も心も重ね合ったソーププレイから数週間。

 まあ、その間、俺は別の女を抱きまくっているわけだが、シャロンは別腹だ。

 

「少しだけ、シャロンを感じさせて欲しい」

「あん……大人のキスはダメですわ♥」

 

 少しだけ、いちゃいちゃタイムを味あわさせてもらった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 翌日。

 今度は俺が、フィーから呼び出されていた。

 

 

 放課後、本校舎の屋上。学校の屋上はなにかと問題が起こって施錠されることが多いものだが、トールズの場合、休憩所として堂々開放されている。フィーのお気に入りの暇潰し場所だ。

 

 

「や。」

「どうしたんだ? 呼び出すなんて―――っと」

 

 片手を挙げた赤い(Ⅶ組)制服のフィーに近づくと、急に接近してきたので受け止め、抱きつかれる格好になる。相変わらず、猫みたいなやつ……。

 

 微かな花の匂いがした。彼女は園芸部に所属している。来る前に水をあげてきたのかな。

 

(それにしても、もう冬服か。残念なような、ほっとしたような)

 

 夏服期間は大体の生徒がジャケットを脱いでおり、上着は半袖シャツ一枚になっている。フ(・)ィ(・)ー(・)と(・)ミ(・)リ(・)ア(・)ム(・)以(・)外(・)の(・)女(・)子(・)は(・)胸(・)が(・)大(・)き(・)い(・)。(・)ブ(・)ラ(・)が(・)透(・)け(・)て(・)い(・)て(・)目(・)に(・)毒(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)。同時に学院を離れる上で最大の心残りでもあった。

 

 

 フィーは顔を上げて、ひそひそ声で囁いてきた。

 

(ねえ。リィンが疑ってたのってア(・)ン(・)ゼ(・)リ(・)カ(・)先(・)輩(・)だ(・)よ(・)ね(・)?)

 

 脳内に直接。ではなく、小声。ゼムリア世界には思いっきり目の前に人が居てもその人に聞えないようにする話法がある。しかし今、屋上には俺たち以外誰も居ない。

 

「うん?……盗聴でも気にしているのか?」

 

(ん。このまま、話していい?)

 

「待て。それなら少し移動しよう」

 

 屋上とはいえ人は来る。俺たちは出入り口でもある鐘塔脇の物陰に寄りかかるように座って、俺はフィーの腰に手を回し、フィーが俺の耳元に顔を寄せる構図に。「カ(・)ッ(・)プ(・)ル(・)の(・)内(・)緒(・)話(・)」という感じで話が始まった。

 

(なんか…………まあいっか。……昨日も言(・)っ(・)た(・)と思うけど、リィンが居ない間にあの二人がⅦ組に入(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)――)

 

 フィーの声質は透明感があり、それをウィスパーボイスされるとゾクリとくる。

 

 ……彼女の個性との一致(シナジー)としか言いようがないのだが……俺の中では、フィーの言う「行(言)った/行く」のような言葉は「イった♥/イく♥」というニュアンスに脳内変換されており、だんだんと《淫語プレイ》のように思えてきた。フィーが双剣を振う際にやる掛け声「せい! 疾っ!」が「精、子っ」に聞こえてくるアレだ。

 

 いかん、勃起してきた。彼女にバレないよう、スラックスのポケットからチンポジを調整しつつ、耳元でこしょこしょと囁かれ続ける。妖精(シルフィード)のささやき。

 

(それで、わたしたちは最終日、ガレリア要塞に行(・)っ(・)た(・)んだけど―――)

 

 これもうASMRだろ……。

 

 

 話の内容は、無情にも真面目だった。

 

 要約すると、フィーは、あれ(帝都実習)からも少女探偵(・・・・)を継続してたらしい。

 そして、考察の結果、《C》の正体をアンゼリカかクロウかまで絞り込み、俺がルーレにあるアンゼリカの実家(ログナー侯爵邸)を調査しに行ったと推理していた。

 

 それはズレた推理だったけど、そこまで考えが及ぶのか。

 ……とはいえ学院関係者なんて言ったら時間の問題だったか?

 

 8月の中頃、クロウの方が情報局のミリアムと一緒に編入してきたことから、フィーはクロウが当たりだと思って観察していた。なのに《ガレリア要塞》で、別の《C》が出てきたのでびっくりしたという。ただし、アンゼリカ共犯説ならアリバイは崩れる。

 

(どう思う?)

 

「んー、そうだな……」

 

 手(・)コ(・)キ(・)も(・)し(・)て(・)ほ(・)し(・)い(・)。

 

 

『ん……いいよ?』

 

 料理を頼まれたような感覚で快諾してくれるフィーが幻視される。

 

 今のフィーは俺に雇われた性(・)猟(・)兵(・)だ。報酬は俺の精子。

 なにをすべきか、わ(・)か(・)る(・)な(・)?

 

『ん。わかってる。報酬は自分の手でつかみ取るのが猟兵の流儀』

 

 俺の耳元で囁きながら器用にジッパーをおろし、指で俺の巨イナル一物を取り出すフィー。

 

『ん……わたしの手づかみしこしこで沢山ぴゅっぴゅしてね、リィン』

 

 そして 下品な淫語を吐息まじりに囁かせる。

 

『また、大きくなったね。言わせて、興奮した?』

 

 悪戯心も滲むその言葉に先走りを分泌してしまう。それを彼女は手で全体に馴染ませていく。

 

『いい子』

 

 頷くと、亀頭を優しく撫でてくれるフィー。

 ぬめりけが十分浸透すると裏筋を中心に刺激してくる。

 

『リィン、気持ちいい? じゃ、そろそろイ(・)こ(・)っ(・)か(・)♥』

 

 アクセル。手コキの速度を上げていく。

 SPDとDEXに秀でた少女はフェイントを含めて緩急を付けチンポを翻弄する。

 すぐにでもイキそうだッ、フィーッッ。

 

『もう出るの?』

 

 視られながら情けなく喘ぐ俺に、少女猟兵は冷静に最終確認をする。

 雇い主(クライアント)に最高の射精を遂げてもらうために。

 

『イグよ。せーの、ぴゅっ♥ ぴゅう~~~』

 

 少女が囁く擬声語に合わせてのシンクロ射精は、きっと至高の射精法の一つであった。

 

『せいし。いっぱい出たね♥』

 

 みたいな感じで。

 

 勿論俺の妄想であり、特別な絆を結んでおらず、エッチな暗示も掛かっていない彼女は、こんなことはしてくれない。

 

 ……正直な気持ち、かなり揺らぐ。トールズで(Ⅶ組のみんなに)力を使わない事は、今後の青春プランの上でも、リスクマネジメントとしても当然の選択だ。リィン・シュバルツァーとしての譲れない一線でもある。だが《女版クロウ》と言えるかも知れない暗殺者リーシャだけではなく、リーヴという基本的には善玉?な少女にも暗示を掛けてしまい、俺の中でアウトとセーフの境界が曖昧になってきていると感じている。そもそもフィーは俺(リィン)のヒロイン候補だ。これはもう据え膳なのでは。中出ししちゃ駄目なほどしたくなるのと同じだ。

 

―――いや、ダメだ。視(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)ぞ(・)。

 

 はっ。俺は咄嗟にマルガリータを思い浮かべて心頭滅却した。これはブス専性癖が開花したり、最悪EDになってしまうかもしれない禁呪。多用は出来ない。

 

 

 ……なんの話だっけ。……アンゼリカが《C》かどうかか。

 

 俺は少し腰を屈めて、少女の耳元に囁き返す。

 

(まあ、結論だけいえば――アンゼリカ先輩は白だった。だが、ログナー侯は《C》ではないものの、テロリストに絡んでいるようだ。それで俺は、帝都時点ではクロウを疑っていた。よくそこまで気づいたな、フィー)

 

 そうしてアホ毛つきの銀髪を撫でると、身体をビクっとさせて、少し照れるフィー。

 

 昨日、さっさと取引を片付けておいてよかった。

 流石に、今は俺がクロウとグルという超展開は読めないだろう。

 フィーにはどうか学院祭までこのまま迷走していてもらいたい。

 

 

 その後も《少女探偵とこしょこしょ囁き情報交換プレイ》は続き……俺は寮に帰るとカウパーでカピカピになったパンツを真っ先に取り替えるハメになった。

 

 

 【PR】買っててよかった、RF製導力洗濯機。

 

 

「そいえば、交換した『フォース(マスタークオーツ)』すごく役に立った。まだ交換したままでいい?」

「あー、まあ構わないが」

「ん。サンクス」

 

 クク、あ(・)の(・)味(・)を知ってしまったようだな……。

 

 『フォース』はこの時期のフィーと非常に相性が良い。5体以上の敵を倒せばCPが100に到達するため、広範囲の敵を掃射するフィーの戦技(Sクラフト)『シルフィードダンス』が雑魚戦においては永久機関で使い放題になるのだ。

 

 もはやフィーは俺の『フォース(STR・CP特化型)』の虜。『レイヴン(SPD特化型)』では物(・)足(・)り(・)な(・)い(・)はずだ。

 とはいえ、俺にとっても『レイヴン』が必要になる戦闘は今後なさそうだ。そろそろ『メ(・)ガ(・)リ(・)ス(・)』を育てるとしようか。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 9月5日、日曜日。

 

 一ヶ月も離れていると、違う世界にも感じられるのが学校という存在。それでも、劇的なことはそうそう起こらないし、変わらない日常がふたたび肌に馴染んでくる。

 

―――トールズ士官学院に戻ってから数日が経過していた。

 

 来週には実力考査もあるが、未来のリィンは既に一度トールズの全カリキュラムを終えて、卒業している。更に教官になる上で、生徒に教えられるよう一通り学び直してもいた。現状、座学はその貯金だけで済んでおり、予習復習等の必要性は全く感じていなかった。

 

 俺の《計画》も第一段階が形になり、順調と言える。シナリオの変更は大小含めてあったが、《西ゼムリア通商会議》での必須事項は、『オルキスタワーが襲撃される』『トワが傷つかない』『列車砲が発射・破壊されない』の三点。

 

 条(・)件(・)は(・)全(・)て(・)ク(・)リ(・)ア(・)さ(・)れ(・)た(・)。しばらくは平和な学生生活ができる。

 

 したがって、今の俺の悩みは……相変わらず、《性欲異常現象(・・・・・・)》だった。

 

 この前のフィーみたいな不意打ちエロは困る。

 っていうかあれ、あのままレイプされても文句は言えない距離感だったよな?

 

 身近で人狼やってるプロが二人も増えて、更にフィー、遠視でこちらを窺って(ピーピングして)いるであろうヴィータの関心も向いているとあっては、流石に寮内でシャロンと不埒行為をするのは不可能だ。そこだけが想定外だった。

 

 《夏休み》中、散々"ヤリだめ"したお陰で、辛うじて我慢できているものの……金玉には2日で精子がフルチャージされてしまうとも聞く。早いところ対策を考えなければ。

 

 確実に監視の目を欺けるのは深夜に《精霊の道》で抜け出すぐらいだが――。

 

(深夜に呼び出してもいつでも問題なさそうな女……誰か居たか?) 

 

 ……今抱ける女は、みんな社会人。明日に差し支えるような求めは気が引ける。《黒月(ヘイユエ)》の仕事帰りのリーシャの時間が合えば……というところだが、リーシャだけでは到底受け止めきれないだろう。やはり別の催眠肉便器を作らなければなさそうだな……。

 

 

 それはそれとして。

 

 今日は帝都に出かける。トールズは日曜にも授業や自主練カリキュラムがあるが、女学院は普通に休養日。あわよくば制服姿のエリゼとエッチできるかもしれない。

 

 待っていてくれ、エリゼ―――。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 聖アストライア女学院の貴族寮。

 

 

「――はぁ、リザイン(投了)だ」

「フフ、これで私の3連勝ですね」

 

 テーブルを挟んで向かい合う俺とミント髪の少女。

 

 

 品よく片付いた、おませな女の子といった感じの部屋。

 俺は、一ヶ月ぶりにミュゼと会い、ブリッツ(早指し)チェスをしているのだった。

 

 日頃から不法侵入しまくってるので、ミュゼの部屋に立ち入るのは初めてではないものの、どちらかといえば、フロア全体がミュゼ個人のエントランスホールみたいなところで話すことが多かった。この前のデートで完全に壁が取り除かれたようで、今日はミュゼの方から招いてくれた。

 

 

――――エリゼは?

 

 ……俺はエリゼに『早く帰ってきてくださいね』とお願いされていたわけだが、結局、俺が帰ったのは夏休みの終わり頃。しかも人を大勢連れてきたため、エッチできそうなタイミングもなく……突っ慳貪な塩対応に戻ってしまった。

 

 流石にそろそろ機嫌も直っているだろうと思っていたが、エリゼはまだ根に持っていた。

 

「約束を破る兄様なんて知りませんっ!」

 

 破ってはいないぞ。『早く』の解釈違いだ。という弁解が妹に通じるわけもなく。

 結ばれてからあまりに従順だったので、そういう部分も鳴りを潜めるかとも思ったのだが、人間そう簡単には変わることはないらしい。

 

 やれやれ。この前喜ばない妹は居ないとか言ってたくせに。

 

「……来て下さるのは嬉しいですが、それとこれとは別の話です!」

 

 まあ、正直この程度のツンなら可愛く思えてはいるのだが……。

 

 まだ15歳。一つ下のリーヴやミュゼが大分ませてるので子供っぽく思えるが、普通この年代の娘はもっと子供だ。だが、この態度を許しているとまた尻に敷かれてしまうなと思った俺は、「わかった。また来るよ」と頭を撫でて、その場を後にした。

 

 後ろから「……ぁ…………」などというエリゼのやっちゃった感のある声が聞えたが、我慢。リィンとしては滅茶苦茶後ろ髪引かれているが、そうやって顔色を窺うから増長するのである。これも妹の躾。とはいえ、隙あらば誘拐されるのがエリゼだ。冷却期間中も兄として見守り続けるのは変わらないが。

 

 ふう。エリゼに拗ねられると、それはもう気分が落ち込む。だが、それはそれで、こうしてミュゼに浮気しに行けるというものだ。切り替えていこう。

 

 

 さて、チェスの通算成績はというと俺の2勝-5敗-8分け。

 俺がダブルスコアで負け越していた。

 

 ミュゼに勝てたパターンは俺が白(先行)を持ち、様子見をしていたであろう初戦で、ビショップ・オープニングからの得意形になったのが一つ。もう一つは俺が黒(後攻)、ミュゼがキングズ・ギャンビット(正確に対応されると不利になる急戦)を採用、ゼムリア世界では定着していないトラップ(ハメ手)に掛かってくれたのみだった。

 

 俺は元日本人なので、将棋の方が得意だった(日本ではチェス人口が少ない)が、チェスも多少は指せる。だからこそわかるミュゼの異(・)常(・)さ(・)、(・)い(・)や(・)、(・)あ(・)べ(・)こ(・)べ(・)さ(・)。理由は諸説あるが、将棋やチェスにおける《上澄み》は身体を動かす競技のように、男女で隔絶した実力差がある。この世界でもそれは変わらず、基本的には男性優位のゲームであり、女性の指し手は少ないようだ。

 

 そしてチェスは強(・)い(・)相(・)手(・)と(・)指(・)さ(・)な(・)い(・)と(・)上(・)達(・)し(・)な(・)い(・)。6歳の頃から女学院生活でろくに相手に恵まれているわけでもないのにここまで指せるミュゼは間違いなく天才であり、――おそらくはGM(グランドマスター)クラスに届きうるプレイヤー。

 

 この国(エレボニア)では、貴族以外にもチェス愛好者は多く、国民的な地位がある。Ⅶ組ではマキアスがチェス部。前回のリィンも付き合わされ、嗜み程度にはできるという自負があったのだが……、プ(・)ロ(・)の(・)チ(・)ェ(・)ス(・)プ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)が(・)何(・)万(・)手(・)『(・)先(・)』(・)を(・)読(・)む(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)程(・)度(・)であるため、ミュゼの真の実力は計り知れないところがあった。チェスの平均手数は40手であり、合計何万通りのパターンを検討すると言うことと、数手先を読むことは異なる。

 

「相変わらず凄いな、ミュゼは。ここまで強いと相手もいないんじゃないか?」

「ええ、私にここまで着いてこれた方は先輩がはじめてです」

「はは、それは光栄というか」

「…………」

 

 勝ったにも関わらず、ミュゼに得意げな表情はない。

 今のゲームは本(・)気(・)を(・)出(・)し(・)た(・)のだろうな……。

 

 ミュゼの棋風は、オープニング(序盤の定跡)にあまり関心がないようで、ポジショナルプレーを好み、圧倒的なエンドゲーム力(終盤力)でねじ伏せるという感じだ。

 

 勝てないまでも引き分けていたのは、彼女のあ(・)の(・)思(・)考(・)法(・)は常時発動型(パッシブ)ではないのが最も大きいだろう。本人の性格(本気にならない)もあり、他のゲームでもミュゼは劇的な強さを、常に発揮し続けるということはない。VM(ヴァンテージマスターズ)においてかつて勝ちを拾えたように。

 

 俺としてもミュゼとゲームして楽しみたいだけであって、勝つのが目的ではない。だが、弱(・)す(・)ぎ(・)て(・)も(・)い(・)け(・)な(・)い(・)。時々ミュゼの意表を突く逆小悪魔プレイを俺は心がけていた。天才系の女の子を攻略するのは――ある意味で普通の女の子より簡単である。自らに匹敵しうる才覚を示せば興味を持ってくれるのだから。

 

 チェスに限れば騎神(イシュメルガ)の計算リソースを使えばそれ(ミュゼの異能)に張り合うこともできるが……流石にチートが過ぎる(ソフト指しに等しい)だろう。なので、チェスAIで定跡を"そこそこ"覚えていた俺と、未来リィンの経験二人分、さらに膨大な棋譜を《ケルンが損傷しない限り、忘れることがない》記憶領域(イシュメルガ)からいつでも思い出せるという素のスペックだけで勝負していた。……十分チートだった。

 

 定跡とは『こう来たらこう指すべき』というのが完全に決まっている一連の変化のこと。特に持ち時間が少ない早指しルールではいちいち考えていられないので、定跡とタクティクス(手筋)をどれだけ丸(・)暗(・)記(・)しているかが強さに直結する。

 

 運要素のない完全情報型のゲームは、創作においては劣勢から思いも寄らない神手で大逆転みたいなドラマが描かれるが、現実にはその物量で絶対的な差が生まれ、一直線に決着しがちだ。

 

 現代においてはAIがほぼ最適解を持ち、人間を凌駕――既にシ(・)ン(・)ギ(・)ュ(・)ラ(・)リ(・)テ(・)ィ(・)が起こっている。プロでもAIで学習するのが当たり前。そしてAIにとってチェスは将棋よりも易しい。駒を取れば復活してこないので読むべき変化が圧倒的に少ないためだ。

 

 ミュゼの異能は、不完全な現実をあたかも完全情報型ゲームのように盤面に見立て、仮想実験と修正を掛けて、確度を上げるもののようだ。だが、チェスは元より完全情報であり、その面の強みは関係なく、未知の局面は自力で読まなければならない。ただしその探索力が数十秒集中すれば数千通りという馬力。持ち時間5分以上のルールだと俺に勝機は無い。

 

 逆にオープニングの知識があり、定跡にもならないようなパターンも記憶領域照合により、最善手を読まずにノータイムで指せる俺は、早指し限定ならかなりのアドバンテージを持つ。ミュゼはそれを見極め、あえて定跡から外れに外れた局面に誘導して上回ったのがここ数局。素直に称賛できるというものだった。

 

 俺は拍手した。

 にもかかわらず、ミュゼはジト目になった。釈然としないような感じ。

 

「―――記(・)憶(・)力(・)、ですか……。

 それも単純な棋譜暗記ではなく、映像としての盤面記憶。だから変化から外れても応用が効く」

 

 大正解。

 

「流石にこれだけやったらわかるか。

 ミュゼとはもう迂闊に指さない方が良いかもな。どんどん手を覚えられてしまう」

 

 ハイレベルの指し手に奇襲は二度と通じない。時間を掛けて研究されれば容易に対策されてしまう。伝家の宝刀はここぞというときに切るべきだった。

 

「むぅ、やっぱりまだ奥の手があるみたいですね……。

 私としてはもっと"手取り足取り"教えてほしいです、先輩♥」

 

 頬に手を寄せ、くねくねと蠱惑しようとするミュゼ。今暫くは初心なミュゼが見られるかと思っていたのだが、もうヴィータの薫陶の片鱗が見え隠れしている。

 

 

 しかし、ヴィータを目指しているようでは……ハニトラ対策済みの俺にはカモだ。

 

「"手取り足取り"……か。―――君の勝ちだが、ど(・)う(・)し(・)よ(・)う(・)か(・)?」

「ぁ。そ、そうですね……」

 

 当然、俺たちはこの手の勝負事で恒例の『負(・)け(・)た(・)方(・)は(・)一(・)つ(・)言(・)う(・)こ(・)と(・)を(・)聞(・)く(・)』をしていた。

 俺はさりげなくミュゼに近づき、距離を詰めた。自ら蠱惑しておいて少し焦っているミュゼ。

 捕食者はこちらだ。

 

「その……」

「ミュゼ」

「あ……」

 

 察して目をつぶる少女に、俺は、優しく顎クイ(女のアゴを指で掴み、クイッと引く)をした。

 

 そして―――俺たちは今(・)回(・)初(・)め(・)て(・)の(・)キ(・)ス(・)を交わした。

 

「……ん……」

 

 言いよどんだ、ということはミュゼの選択肢は二通り、いや三通りぐらいだったはず。

 「では、熱いベーゼを♥」か「先輩のことを知りたい」、「来たるべき時に協力して欲しい」あたりか。

 

 だが、ミュゼは―――、俺という悪い男に引っかかり、弄ばれるために生まれてきた普通の女の子である。世(・)界(・)の(・)終(・)わ(・)り(・)を(・)云(・)々(・)す(・)る(・)《(・)指(・)し(・)手(・)》(・)に(・)は(・)さ(・)せ(・)な(・)い(・)。

 

 ゆえに、俺が方向性をリード(誘導)してやらなければ。童貞にはできない、剣聖(ヤリチン)にのみ許される羞恥心をサクリファイスする神察しムーブで。

 

 初エッチは、正直今すぐにでもしたいが、まだお預けだ。

 既にエリゼが俺にガチ恋しているのは見抜いているはず。ミュゼの処女は浮(・)気(・)の(・)自(・)覚(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)自ら捧げてもらう。

 

 

 そのために必要な《次の一手》は――――。

 

 




ミュゼとの絆が深まった!
好感度(絆ポイント)ランクアップ!
★★★☆☆






今まで「・」を全部手動で打ってたんですが、「《」2個で済むのを知って少し書きやすくなりました。大量に誤字報告くれた方、ありがとうございます。
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