※この作品はR-18です。

イシュメルガ=リィンでやりたい放題   作:それって

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《灰の起動者》

 

 トールズ旧校舎・第6階層。

 石造りの迷宮が曠然と広がっていた第4層までと、さして景色は変わらない。

 だが、扉を開けた瞬間から水の流れる音が聞こえている。

 

「これは――――また水路、か」

「第3層にもあったな」

「あ、第5階層にも水の仕掛けがあったんです」

 

 エマが先月居なかった俺に、親切にも補足してくれる。

 このダンジョンは帝都の地下水道のように、水が流れている変な階層がある。

 

「この前と一緒かぁ~」

 

 真っ先に「ととと」と歩みだし、きょろきょろと興味深げに周囲を見渡すミリアム。

 

「魚も泳いでるね」

「あ、ほんとだ!」

 

 ちびっこコンビのフィーの気づきにミリアムも水辺にしゃがみ込み、魚影を覗く。

 

「釣りでもするか?」

「俺は構わんぞ」

「やろやろーっ!」

「ええっ、皆さん……」

「ったく、釣りは帰りにでもできんだろ。まずは真面目に進もうぜ?」

 

 俺の冗談に、ユーシスは意外にも乗り気。

 なぜか一番不真面目なやつが襟を正した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 今更だが、特化クラスⅦ組は、次(・)世(・)代(・)戦術オーブメント《ARCUS(アークス)》の適性の高さを基準にして集められた実証実験クラスでもある。戦術リンクのために❝ペア❞を組むのが基本だ。

 

「先月同様、俺とミリアムで先行する。異存はないな?」

「ラジャ」「はい!」

「ああ」「背後は俺たちが警戒しておくぜ」

 

 隙あらばちょこまか忙しないミリアムに、ユーシスがウザそうにしながら編成を確認する。

 

 メインパーティはユーシス ⇔ ミリアムと、フィー ⇔ エマのペア。

 殿(しんがり)を俺 ⇔ クロウで迷宮を進んでいくということになった。

 

 《戦術リンク》は、リンクした相手の状況を瞬時に把握し、適切な相互サポートを実現する。その副次的な作用として―――リーシャが『相(・)手(・)の(・)こ(・)と(・)が(・)隅(・)々(・)ま(・)で(・)わ(・)か(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)』と称していたように、心理的な距離感が近くなる。俺としては女子と組みたいわけだが、そうなると俺(・)と(・)組(・)ま(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)女(・)子(・)は(・)他(・)の(・)男(・)子(・)と(・)組(・)む(・)わけで……「もやっ」としてしまう。

 

 緊急時(帝都のとき)はそんなことも言っていられなかったが、入学式のレクリエーションで女子が固まって行動したこともあり、そうした俺の個人的性癖による判断も水面下で影響して、今回のⅦ組はなんだかんだ、同性同士で組む傾向となっている。

 

(それで言えば、ミリアムも女子だが……)

 

 

――――ユーシスをからかって、陽気に笑っている少女を眺める。

 

 ……ミリアムは実は、閃の軌跡Ⅰ(今の)時点では、フォークダンスに誘ったり、特別な絆も結べるリィンのヒロイン候補でもあったんだよな……それもⅢ以降は、妹のアルティナにポジションを奪われ、元々懐いていたユーシスとくっつくのが正史化していたが。

 

 しかし同時に。リィンが誰と結ばれても……《黄昏》を引き起こす原因となり、最後の最期まで運命を共にした―――い(・)ち(・)ば(・)ん(・)重(・)要(・)な(・)役(・)割(・)はミリアムであり続けた。

 

 メタ的に言えば、これは《絆システム》の弊害だと俺は思っている。

 

 如何にこの世界の創造者といえど、そのリソースは有限である。選んだヒロインごとに物(・)語(・)の(・)筋(・)書(・)き(・)が(・)大(・)幅(・)に(・)書(・)き(・)換(・)わ(・)る(・)などというマルチ分岐は――彼らの《開発計画》では不可能だったのだろう。ゆえに軌跡シリーズでは、主人公と恋愛関係になりうる女性が複数いる場合、彼女たちは《その場にいるだけ》になりがちで、ストーリー上で大きな役割を果たすことが出来ない。

 

 

 物語としてはちぐはぐだったが……、現実の巡り合わせは、そんなものでもある。

 前回のリィンが歩んだのも、そんな世界線。

 

 本来、黒き剣となる予定だったアルティナが。

 ミリアムの安否に一喜一憂するユーシスが。

 最後の夜、レイクビーチで想いを伝えあった恋人が。

 その他大勢として見上げる中。

 

 リィンと黒いヴァリマールは、クロウの駆る蒼と、白き剣を従えて、大気圏外へ―――。

 

 

(………………)

 

 

 ある意味、《ミリアム&クロウルート》を辿ったのがこのリィンだが、ミリアムに親愛は感じても、性愛の対象(ロリコン)ではない。俺としてはロリ(リーヴ)もいけるが―――ミリアムはチンポに来ないタイプのボーイッシュ・ロリ。ユーシスとくっつくなら、それでいいと思っていた。

 

 だが、イシュメルガとしては意見を異にしている。ミリアム(Ozシリーズ)は、❝同質(女神)の力❞で滅ぼすことができない聖獣・至宝対策として、《黒の工房》に何百年も掛けて造らせてきた強力な武器。同時に自(・)身(・)を(・)滅(・)ぼ(・)す(・)可(・)能(・)性(・)を秘める❝危険物❞である。実際、イシュメルガ抹殺ルートでは、ミリアム剣でトドメを刺されているわけだ。

 

 俺(吾)の支配下に置くべきだという強い反対表明。剣にならなければ一緒だろう、と跳ね除けると今度は❝独占欲❞を絡めて訴えてくる。

 

 「自分の所有物を他人に与えるのは面白くない」「自分で使わないなら他者に使われないように殺処分すべきだ」「もしくはアルティナと合わせてロリ姉妹オナホとして隷属させろ」

 

 それはリィンとしてありえない選択だけれど、俺の中の独占厨には響き、「確かに……」と思えてしまう部分もある。特に最後の部分。最後は吾ではない。

 

 

 それでも……その一切合切の上で俺は―――ミリアムを選ばない(殺さない)。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 《黒の工房》の本拠地。

 ラマール州の不毛な山岳地帯。グレイボーン連峰地下1000アージュにそれはある。

 

 俺のためだけに存在する、第二の《楽園》。

 

 

「ちゅ……ちろ……カリカリ………くちゃぁ」

「じゅっぽ、ちゅぅぅ……んじゅぽ……ずちゅうううう♡

 

 ――――にしし、気持ちいい?」

 

 大きなベッドの上。

 全裸で寝そべる俺に銀髪の少女と、碧髪の少女が絡みついている。

 

 淡々と俺の左乳首を舐め、ときに甘噛みしてくれる《黒兎(クールロリ)》アルティナに、上目遣いで右乳首を激しくしゃぶり立てる《白兎(陽ロリ)》ミリアム。両者が与える、快感の波状攻撃に俺はチンポをプラプラさせてメスのようによがってしまいそうになる。

 

「はぁはぁ……ふたりとも、上手だぞ」

 

 《黒の工房》を統べる、名実ともに二人の所有者(マスター)たる俺はそう言いながら、ふたりの頭を平等に優しく撫でていく。ふたりとも撫でられるのが好きだ。

 

 

「えへへ、ありがと♡」「ありがとうございます、マスター」

 

 嬉しそうな二人のお礼を聞きながら、俺のチンポからはカウパーがだらだら先走っている。

 そろそろ頃合いかと思い、俺は《指ぱっちん》をした。

 

 すると二人は起き上がり……自らつま先立ちで股ぐらを開脚させて、手は頭の後ろに。舌を大きく出した。

 

 俺の合図一つで――、口内、わき、乳首、おまんこ。他の男に見せてはいけない部分すべてを、自らの主人に見極めてもらう、不埒な忠誠ポーズを取る二人。

 

「はーい。リィンってこれ好きだよねー」

「はい。どうしようもない変態かと」

 

 あっけらかんなミリアムをして少し恥ずかしそうだが、アルティナは冷静に無表情。

 いや、ちょっと嫌そうな顔。

 

 今日の二人のおパンツは、おまんことアナルの部分だけウサギのシルエット型に穴が空いており……下着の意味をなしていないものだ。上半身のブラに相当するものも、ぺったんこなまな板にぽちっと存在する乳首をアピールするような紐が引っかかっているだけ。色は、もちろんミリアムはスケスケの白。アルティナが大人なレースの黒。

 

 くり抜かれた部分から覗ける二人の秘処には、毛など生えておらず、どちらのまんすじからも透明な液が糸を引き、ひくひくと蠢いていた。違いを見出すならクリトリスの勃起度か。ミリアムのクリはお姉さんらしく硬く自己主張しているが、アルティナのお豆はしおらしくフードを被っている。

 

 俺は飼い主に媚びる二匹のウサギの痴態を無遠慮に見比べて、答えを出す。

 

 今日使うオナホは―――

 

「今日は、ミリアムの気分かな」

「ん、りょーかい。んしょ」

 

 呼ばれたミリアムは、寝そべった俺の下腹部に這い寄り、またがった。

 呼ばれなかったアルティナは、少し「むっ」としたが、彼女にも役目がある。

 

 アルティナがちっちゃな指で、ミリアムのロリまんこをくぱぁ♡と露わにさせる。次に、お手々に膣用ローションをたぷたぷ注ぎ、指でクリやマンビラ、アナルにまでなじませていく。

 

「はうぅ♡」

 

 もう何度も使用しているとはいえ、通常こんな小さな身体(オナホ)に俺のチンポは入らない。ローションは必須だ。

 

 そして―――アルティナは中指と薬指を曲げ、兎の手にしてミリアムに挿入。高速でガシマンしていく。

 

「ひゃ♡ ひゃあああ♡ ア、アーちゃん、そんなに激しくしないで!」

「うるさいですね……」

 

 事務的にズボズボ出し入れし、目を剥くミリアムの膣内の奥の方にまでローションを塗り込むアルティナ。やがて、もう十分と判断したのか指を抜き、今度は二つの指で淫口の入り口をパクパクさせてオスを誘っているように演出した。

 

「はい、おまんこオナホの準備完了しました」

「うぅ……あ、ありがとうございました……」

 

 某コピペのようなアルティナのプロの仕事に、すでにへなへなしているミリアム。

 

「はは、よくやってくれたな。じゃあ使うぞ」

 

 いちおう、がんばりました――と俺の胸元までトコトコやってきたアルティナの頭を撫でてあげつつも、満を持して俺はミリアムのそこに亀頭をあてがい、そのまま腰を突き出した。

 

 だが―――それはつるんっ♡と弾かれてしまいミリアムのクリトリスをなぞる。

 天然要塞、鉄壁のアルティウムバリア。黒兎のサポートがあっても一筋縄ではいかない。

 

「あん♡ あはは、今日もボクから挿れるね」

 

 ミリアムは両手で膣口を最大限開きながら、めりめりと俺の亀頭を沈めていく。

 

 ぬぷ……ずぷぷ♡

 俺のチンポはそれでようやくミリアムの膣に侵入できた。

 

「ん゛あぁぁ―――相変わらず、リィンのおチンポおっぎすぎるよぉ♡」

 

 ミリアムの喘ぎ声は、ちょっと汚い……というか濁音が混ざる。

 ミリアムは半泣きになりながらも、小さな体をふるふる震わせ、俺のチンポを受け入れようとする。俺もせませまロリ膣の感触を確かめるように、じんわりと挿入していく。

 

 にゅぷぷ♡ ずぷずぷ……ぬぽっ♡

 

 ロリコン犯罪者にしかわからないことだろうが、ロリおまんこは、実は凹凸があまりなく、きついだけで快楽的にはイマイチだ。けれど、義妹より小さい女児二人との交尾、この犯罪的な絵面は十分に俺の劣情を煽る。

 

 俺の巨いなる一物が根元までミリアムと一体化したのを確認すると俺はアルティナを呼ぶ。

 

「アルティナ」

「はい……ちゅる♥」

 

 大胆に俺の唇を攫う黒兎。

 

「っはぁ……《らぶらぶモード》、開始します。

 ふ……んんっ。好きです、リィンさん。ちゅっ」

 

「あっ、アーちゃんいいなぁ……。

 

―――ん゛っ!? わわっ、わかってるってば♡ ん゛んっ♡」

 

 恋人キスモードに入ったアルティナと舌を絡ませ合っていると、ミリアムが羨ましそうに指をくわえた。それで動きを止めたので、チンポの先でつついて、ミリアムの腰振りを強制再起動させる。

 

――――んちゅ、ずっちゅ、ちゅ♥

――――ぱんっぱんっ、ぱんっ♡

 

 ふたりとも子供体型で背が小さいので、ハメながらキスはしにくい。

 しかし3Pなら。こうして上下で役割分担が可能なわけだ。

 

「好き好き。んっ、ふう、好きです。れろれろれろぉ~」

 

 アルティナの好き好きコールは棒読みだが、彼女は感情表現が苦手なだけであって、ちゃんと俺のことが好きだ(多分)。チンポをミリアムに寝取られていることで嫉妬心が高まってきたのか、俺の頭に手を回し、強くしがみついてくるアルティナ。そして腰も自然と動いて俺の腕におまんこをこすりつけている。まったく、スケベすぎるぞ。

 

「もぉ。ボクに挿れてるのを忘れないでよっ♡」

 

 そのあいだにもミリアムが腰をへこへこと振って浮気チンポを締め付けてくるので、俺は我慢せず、尿道を緩めた。オナホにタイミング調整の必要はない。「ん゛っ、イ゛ク゛♡」同時に、躰を震わせ、膣穴をギュゥウっと収縮させる白兎。

 

 ミリアムの態度は俺の正体を知っても、処女を奪われても、専属オナホになってからも―――《Ⅶ組》の同級生だった頃とついぞ変わらなかったのであるが……、身体だけは淫らになって膣イキを覚えている。

 

「!? ち゛ゅううッ~~~~~♥」

「ああ゛っ――――!? お腹の中……熱いの出てる……♡」

 

 俺はアルティナの、独り占め嫉妬ディープキスを受けながら、イク宣言もなく、ミリアムの腰を片手で抑えてだらだらと膣内に濃いものを垂れ流す。それを静かに、お腹の上から両手で撫でて受け止めてくれるミリアム。『アーちゃんの分もボクに射精しちゃっていいからね♡』妹よりも先に主の遺伝子情報を受け取った姉は、眼だけでそう言うように妖艶なメスの笑みを浮かべた。

 

 

 工房に取り込んだ《戦争卿》の不老化技術により、彼女たちは使命を失っても、成長することはもはやない。終わった世界の真下で―――俺は永久に少女のままの二人を飽きもせず玩び続ける。

 

 

 

 …………選べば、そんな黒の工房(姉妹プレイ)ENDもあったかもしれないが。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 第6層のボスは、『エルヴァヴリア』。ビームを発射する中世の人形兵器。

 結社の大型人形兵器である『ゼフィランサス』に近いが、それよりずっと弱い。

 

 

「いくぞ―――一斉にかかれ!」

「Ja(ヤー)」「あいあいさー♪」

 

 ユーシスの号令(ノーブルオーダー)で、闘気を更に高めた《妖精》が、ミリアムよりも疾く、三次元機動で駆ける。

 

 

「シルフィード―――ダンスッッッ!!」

 

 

 銃剣による、アクロバティックな回転砲火。フィーの超戦技(Sクラフト)が、二体の《エルヴァヴリア》をまとめて殲滅した。

 

 

 

「いっちょあがり」

「フィーちゃん、すごいです!」

「ん、なんか絶好調。エマも、ナイスフォロー」

「ふふ、どういたしまして」

 

 姉妹のようにハイタッチする二人。ほほえましい光景だが……。

 

「ヘッ、やるじゃんか。フィー」

「ぶーぶー! ボクたちの出番も残してよう!」

 

 俺としては、噂のユーシスの剣術面での成長ぶりを確認したかったのだが……『フォース』装備のフィーが即座に超戦技(Sクラフト)を連射、たまにエマが撃ち漏らしをアーツで消し炭にするという黄金パターンで全戦闘が終わってしまった。

 

「―――リィン?」

「ん? ああ……今回はフィー回だったな。

 ユーシスの剣の上達は、また今度見せてもらうとしようか」

 

 撫でてもいいよ。撫でれば?という射程圏まで寄ってきて、俺を見るフィー。

 いや……流石にみんなのいる前では変な雰囲気になりそうだから撫でないぞ。

 

「くっ…………」

 

 ユーシスも「見ているが良い」とか言っていた手前、なんだか気まずそうだった。

 

 

「しかし……ここが最後の階層らしいが。なにやら拍子抜けだな」

「前回――第4層みたいな❝仕掛け❞が動いた気配もないな」

「そうみたいですね………」

 

 第4層ではボスを撃破後、エレベータールームに時(・)限(・)式(・)の赤い扉が出現していた。

 しかし、それ以外の層では基本的になにも起こらずに、探索を終えることになる。

 

 各人手分けして、最奥フロアの死角となっている柱の裏や壁面を調べるが、やはり何もない。

 前回の通りだ。

 

「つまんなーい!」

「なにもねーみたいだし、そろそろ戻るか?」

 

 飽きっぽいミリアムが音を上げたのを皮切りに、切り上げることとなった。そうして、部屋を出ようとした時、ふと視界に入ったもの――――。

 

 

 後方にいたエマの足下近く―――地(・)面(・)に(・)青(・)い(・)羽(・)が(・)落(・)ち(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 

「?…………これは………まさか……」

 

 エマもすぐにそれに気付き、驚愕の声色で呟く。

 

「どうした、エマ」

「ん?」

「いいんちょ、何か見つけたー?」

 

「…………」

 

 《観の眼》は、発(・)動(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。リィンの記憶にもない。が、俺には既視感があった。

 

 暴走した俺(リィン)が連れ去られた後、崩壊寸前の《黒キ星杯》において、ミュゼが起動した―――――転位具《グリアノスの羽》。

 

 ヴ(・)ィ(・)ー(・)タ(・)か(・)ら(・)持(・)た(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)というそれを使って、ミュゼはユウナたち《新Ⅶ組》から離れ、別(・)の(・)場(・)所(・)に(・)転(・)位(・)していったのではなかったか。

 

 もし、それと同じものだとすれば――――。

 

「エ(・)マ(・)、(・)そ(・)れ(・)に(・)触(・)る(・)な(・)――――!」

 

 青白い転位魔法陣が起動したのは―――咄嗟にエマの手を取ったのと同時だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ……………………。

 

 ………………。

 

 ……。

 

 

 むにゅ。もにゅ。高級枕のような、極上の感触につつまれている。

 

 

「リィンさん……リィンさん……そのぉ、そろそろ、起きてもらえると……あう」

 

 

 囁きかけられる清楚な声も、耳に心地よい。

 

 

「……ここは………天国か………?」

「ええと……どこか海の近くだと思います」

 

 

――――目を開けると、三つ編みメガネ女子が、困ったように俺を見下ろしていた。

 

 

 

 

 俺たちは、なだらかな小洞窟のような場所で倒れていた。

 離れがたい彼女の胸枕から一旦顔を離し、気配を探る……周辺にエマ以外の❝人❞の気配はない。

 

 海の近く――ざあざあ、というさざ波の音が聞こえているので、そう推測したのだろう。

 

 起き上がり、音と潮の匂いを辿っていくと、すぐ近くに砂浜があった。

 空と水平線の境をなくすような美しい青が広がっている。

 

「綺麗……」

「これはすごいな」

 

 二人して、しばし絶景に目を奪われた。

 

 

「……多分だが、ここは《ブリオニア島》だと思う」

「そ、それって、ラマール州のですか?」

「6月の特別実習で――俺たちはノルド高原だったけど、B班が行った実習先だな」

 

 

 帝国最西端。海都オルディスの近くにある、岩と精(・)霊(・)信(・)仰(・)の遺構の多い無人島。リィンとしては未来の教官時代、――クロウとの《第一相克》の舞台となり、ラウラとの――その前に、新Ⅶ組の教え子たちとともに失踪したミリアムを捜索した場所でもあったか。

 

 随分遠くまで飛ばしてくれたものだ。……聖獣の力を受け継ぐグリアノスの霊力といえど、騎神のバックアップもなくこんな長距離転位を……いや、そうか、オ(・)ル(・)デ(・)ィ(・)ー(・)ネ(・)も(・)使(・)え(・)る(・)の(・)か(・)。

 

 しかし、クロウも関わっていたのか? 直感だが、あまりそんな感じはしない。エレベーターでのやり取り。貸しを作って仇で返す男ではないと思う程度にはリィンはクロウを信用している。……50ミラ貸して裏切ってたヤツでもあるが。

 

 座るのによさそうな平らの岩石を見つけ、二人で海を見ながら話す。

 

「はは………………あー、さっきはすまなかった」

 

 してやられた意味と、あまりのご都合主義ラッキースケベ展開に自分で笑ってしまうが、エマのエアーバッグおっぱいに顔を埋める形で意識が飛んでいたわけだ。

 

「い、いえっ。不可抗力というものですし……こちらこそ巻き込んでしまったみたいで」

 

 胸元で両手の手のひらをみせて、照れるエマ。

 アリサならビンタが飛んでくるところだが、エマはそんなことはしない。

 

「お互い無事で良かった。俺はどれだけ気を失っていた?」

「私が目覚めてからですが、数分でしょうか……」

 

 敵の罠に掛かって気を失うなどあってはならないこと。

 ……だが、総合的に見ると、これは許容範囲か……? 極上のおっぱいに包まれていれば少しくらいスヤスヤしてしまうのは無理からぬことだろう。

 

 思い直した俺は、

 

「きゃっ。リィンさん?」

 

 再度、エマの母性あふれるおっぱいに顔を埋めた。

 

「よく考えたら、折角の役得を満喫しなかったのは勿体ないと思って」

「ええっ……って、流石に私も怒りますよ!?」

 

 などと言われて怯む俺じゃない。「どうしても」「10分だけ頼む」「5分」と拝み倒し、押しに弱いエマの至福の柔らかさと女の子の匂いに包まれさせてもらう。

 

 そして、最終的にはエマも、俺の決意が不退転であることを知り、

 

「はぁ……仕方のない人ですね」

 

 胸元の俺の頭を優しく撫でてくれたのであった。

 

 

 人の来ない秘境の多分に漏れず、この島には強力な魔獣が生息している。

 と言っても全くの未開ではない。特別実習でB班が過ごした、宿泊できる管理小屋と船着き場があるはずだった。サバイバル慣れしているラウラやフィーだったらともかく、エマを❝一般的な女子❞と見て女子の都合を考えると日没前にそれを見つけるべきだろう。

 

 この手の島遭難モノでは、毎回装備を全部失ったことにされるものだが、幸い、武器やARCUSは持ってこれていた。二人で戦術リンクを組み、好戦的な魔獣は片付けつつ、島の外周を探索していくということになった。

 

「……リィンさんって、もっと紳士で格好いい方だと思ってました……」

「え? 紳士だろう?」

 

 魔導杖(まどうじょう)を構えながらも、先ほどのことを引き摺っているエマ。紳士じゃなかったら、無人島であることをいいことに、あのまま襲っていたところだ。前日(リーシャと)ヤっていなければそうしなかった自信はない。やはり抜いておくのは大事だな。

 

「……はあ、そうですね。……入学式のときもアリサさんと一緒に庇(・)っ(・)て(・)もらいましたし」

 

 口ぶりとは対照的に呆れたような声のトーンと半目。『あの時もおっぱいを故意に揉まれたのでは』という疑惑が確信に変わってしまったか。エマの好感度がゴリゴリ削られている感覚。もちろん故意だったので、言い訳の余地はないが。

 

―――エマは、なにげにⅦ組女子の中で一番ガードが堅かった。

 

 彼女は基本、誰かと一緒に居る。入学当初からしばらくは、基礎学力が足りず授業についていけていないフィーのために勉強を教えていたし、他の女子との関係も良好で周囲に人が絶えない。一人に見える時は大抵、お目付け役の黒猫セリーヌとないしょ話をしている。

 

 なによりエマは……魔女の秘術・❝因果視❞によって、身内からプ(・)ラ(・)イ(・)バ(・)シ(・)ー(・)を(・)侵(・)害(・)さ(・)れ(・)ま(・)く(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。それは言い換えれば、どんな運命を歩むかが過去に確立しているということだ。それは《歩く不可能因果》である今の俺を遠ざける強固な守護(呪い)でもあった。

 

 よって今日までなかなか距離を縮められていなかったのだが、思わぬ好機が巡ってきたな。

 ピンチはチャンスというやつか。

 

「―――そういえば、転位時の、あの❞羽❞についてだけど」

「あ、はい…………もう。切り替え、早いですね……!」

 

 エマも、あれがヴィータの仕業であることを確信しているだろうが、今の彼女にとって自身の背景は、Ⅶ組のみんなにも秘密にしなくてはならないこと。転位した程度では怪我をしたわけでもなし、明かしてくれるかは微妙なところか。心当たりについて軽く質問してみると、案の定しどろもどろになり、めでたく話題転換に成功した。

 

 

 ヴィータの狙いは――――俺、で間違いないだろう。

 

 エマを突き放しているようでいて、ヴィータはなんだかんだ温(ぬる)い女だ。妹分をこんな場所に捨てる意味がない。エマをなんらかの理由で一時的に遠ざけたかったなら、わざわざ犯人がエマたちに伝わる手段を用いずとも、ガ(・)イ(・)ウ(・)ス(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)急(・)用(・)で(・)参(・)加(・)で(・)き(・)な(・)い(・)因(・)果(・)を与えれば済んだはず。この島の遺構や《陽霊窟》を見せたかった――? 可能性は低い。ならばセリーヌも一緒の時に転位させるだろうし、現在この島の霊脈が乱れた様子はない。

 

 だからあの羽は、俺(・)が(・)エ(・)マ(・)を(・)助(・)け(・)る(・)と(・)決(・)め(・)打(・)ち(・)し(・)た(・)罠(・)と考えざるを得ない。それは、帝都での、《C》の『デッドリークロス』と重なる。あれがこちらの《観の眼》の有効範囲を押し測り、今回でチェックするための布石だったというなら、流石に肝が冷えるが……、今回も他に有効な方法がないがゆえの苦し紛れのようにも思えた。

 

 俺が《精霊の道》を使えることが把握できていれば、その場しのぎにすらならないことが分かるはずだからだ。仮にオルディーネの力も借りた万全体制だったとて、蒼ごとき、霊力勝負になれば吾が圧勝してしまう。だが、それで逆にこちらも《精霊の道》で帰るという選択肢はなくなった。今後の暗躍のためにも、隠しておけるに越したことはない。

 

 しかしここで、安(・)易(・)な(・)直(・)接(・)手(・)を打ってくるとは……。

 

 この時点でのヴィータの目的は、《幻焔計画》―――すなわちク(・)ロ(・)ス(・)ベ(・)ル(・)を(・)呼(・)び(・)水(・)と(・)し(・)、(・)内(・)戦(・)と(・)い(・)う(・)闘(・)争(・)エ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)が(・)高(・)ま(・)っ(・)た(・)状(・)況(・)下(・)、(・)煌(・)魔(・)城(・)を(・)自(・)ら(・)顕(・)現(・)さ(・)せ(・)、(・)灰(・)と(・)蒼(・)の(・)騎(・)神(・)で(・)《疑似相克(・・・・)》を(・)行(・)い(・)、《黒の史書》の予言(ストーリー)をす(・)り(・)替(・)え(・)る(・)ことだったはずだ。

 

 ゆえにクロスベル情勢により、内戦が不可避になる10月下旬(学院祭)まで。警戒はあっても直接的な手出しはしてこないものと俺は踏んでいた。現時点で状況が大きく動くことは、お(・)互(・)い(・)に(・)望ましくない。他勢力やギリアスが介入してくる可能性もあるからだ。

 

 だから前回もギリギリまで《第七層》を封印していたんじゃないのか?

 

 

(いや、このタイミングで俺を学院から遠ざける意味―――――)

 

 

「もしや――――今(・)日(・)、解(・)く(・)つ(・)も(・)り(・)なのか」

「え?」

 

 《第七層》―――《灰の騎神》ヴァリマールの封印を。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 トールズ士官学院祭の準備でトリスタという街全体が活気づいている。

 そこに、突如として鐘の音が鳴り響く。

 

 

 ゴーン……ゴーン……。

 

 

「あら、何の鐘かしら?」

「これは……いつもと違うような」

 

 

 それは駅前の喫茶店でモニカとお茶をしていたラウラの耳にも届いた。

 

 街人も一様に動作を止めて学院の方をみやるが、多くの者は「学院の催し物のテストか何かだろう」と受け止め、すぐに日常に戻っていく。

 

 

 

 不穏な鐘は、夕方になっても鳴り続けた。

 

 その音の発生源は―――旧校舎。

 本来動かないはずの、錆びついた鐘塔の時計の針が今、高(・)速(・)で(・)回(・)転(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 

「ピュイ―――――――――」

 

 それを木の枝の上に立ち、眺める青い鳥。傍らに魔女の姿はなく。

 

 

 

 

「はぁ~~~~~~~~あ…………ラブコメ、クソかよ☆」

 

 帽子を目深に被った黒髪の女性が、クソデカため息を吐き……

 かと思えば、声だけは可愛こぶって悪態をついた。

 

 

 

「ずるいなあ。

 私には、超~ドSなのに。エマにはダダ甘なんだから」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 夜。海都・商業地区にある《ホテル・オルテンシア》。

 

 俺たちは、幸運にも宿泊小屋に残されていた予備の小型ボートを利用して、なんとか海都オルディスに渡った。島からの距離は150セルジュ(15km)もある。着いた頃には日が落ちていた。

 

 オルディスは帝国一、華やかな水の都だ。貴族や富豪の観光客が多い。

 街に入ってすぐ、深紅のⅦ組制服では目立ちすぎることに気付いた。帝国において赤は皇族を連想する色、貴族も避ける傾向にある。この街の領主であるカイエン公とヴィータが協力関係であることを考えると、領邦軍に目をつけられる恐れもあった。

 

 ミラの持ち合わせが少なかったので、まずは百貨店《リヴィエラ・コート》に入り、手持ちの全セピスと不要なクオーツを売却。その後ブティックで服を見繕った。背景を知らないエマには突然の贈り物になり、恐縮されたが、「先ほどのお詫びの意味も含めて」「制服でこの街のホテルを利用するのはドレスコード的な問題がある」と言って納得してもらった。

 

 今はホテルの《国際通信器》を借りて、トリスタのサラ教官と連絡を取っているところ。この時代、携帯導力器による通話は実験的に導入が始まった段階なので、帝国では帝都周辺とルーレぐらいでしか使えない。

 

 サラが言うには、旧校舎が大変なことになっているらしい。

 予感は的中した。

 

『―――とりあえず、無事が確認できてよかったわ。

 ……こっちは君たちを助けるために~って話になってたんだけど。

 ま、こっちのことは心配しないで明日戻ってきなさい』

 

 列車(ラマール本線)で戻ろうにも、オルディスから帝都まで8時間は掛かる距離だ。

 通信器も借りた手前、今日はここに泊まるしかないだろう。

 

『あぁ――二人きりだからって委員長(エマ)に変なことするんじゃないわよ?』

「はいはい、じゃあ切りますよ」

「…………」

 

 処女のくせに下世話なことを言うサラを受け流して通信を終わらせる。

 なぜかこちらを見るエマ。……? 今のところセーフだよな。

 

 

 

「――――そう、だったんですか……」

 

 ツインのベッドが置かれた、少々高めの部屋。『現状把握と学院側との連絡』という最低限のクエストをコンプリートした俺たちは、互いに自分用のベッドに座り、向かい合うように話している。

 

 学院の状況を知り、今回の件に、かの魔女が絡んでいる確信を強めただろうエマは、なおも思い悩んでいるようだった。あいにく、セリーヌと念話で相談もできないだろう距離だ。

 

 だから、俺から切り出すことにした。

 

 俺が、《地精(グノーム)》に所(・)縁(・)が(・)あ(・)る(・)者(・)であること。エレボニア帝国に伝わる《巨(おお)いなる騎士》の物語。旧校舎は騎士の《契約者》を選定する、《地精》が造った訓練施設であること。

 最(・)近(・)何(・)者(・)か(・)に(・)ス(・)ト(・)ー(・)カ(・)ー(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)こと。いにしえの時代、《魔女の眷属(ヘクセンブリード)》とは協力関係にあったと《地精》には伝わっている。そのため、エマの正体についても感づいていたこと。

 

「それはいつから……」

「バリアハートの実習で、何度か導力器(ARCUS)を用いない魔法を使ってくれていたが」

「う゛。その頃からですか……」

 

 ギリギリ嘘ではないというレベルの情報開示だが、これをエマに明かすだけでも、かなり危うい綱渡りだ。《地精》=《黒の工房》であることを知るものは少ない。魔女側のトップであるローゼリアすら現時点では把握していないはずだが、どこかのタイミングで結びついてしまうだろう。しかし、リィンとしてエマに嘘を吐きたくない気持ちが上回った。

 

 すべてを語り終わるとエマは俺をまじまじと見た。

 そして、思い切るように胸元で手を握った。その僅かな動きでふたつの膨らみも揺れた。

 

「……リィンさんのおっしゃるとおり、私は《魔女の眷属(ヘクセンブリード)》の末席に身を置く者です。

 今まで黙っていてごめんなさい。

 

―――そして見守ってくれていて、ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げた。

 

「え、いやお互い様だろ?」

「ふふっ、正直、私の方はリィンさんの背景について見当もついていませんでした。それを自分から―――こんな私を信じて明かしてくれたんですから。私もそうしたいと思いました」

 

 あっさり認められると、逆にどこか腹の据わりが悪かった。

 なにも知らないのに、こちらの気遣いだけは見透かしている。

 

 

(そうだ――エマは、そんなやつだった)

 

 

 

 そして、エマは打ち明けてくれた。

 

「私の事情について、聞いてもらえますか―――?」

 

 《魔女の眷属》について。

 自分がまだ半人前であることや、トールズに入学した経緯。魔女側に受け継がれてきた、地下の《巨いなる力》を見守り、導く使命。先月のレグラム実習で裏の知識を披露したことで、みんなに怪しまれてしまい、自分だけ秘密を抱えていることに悩んでいたこと。

 ストーカーの正体が青い羽の主――姉代わりの存在、ヴィータ・クロチルダであろうこと。

 

 こちら側にとってはすべてが既知ではあったが、エマの口から秘密を教えてくれたことが、俺にとっては価値があった。リスクを取っても話してよかったと思えるほどに。

 

「……私(・)た(・)ち(・)ははじめ、リィンさんを《候補者》と認識していました。

 しかし、今はどういうわけか……ユ(・)ー(・)シ(・)ス(・)さ(・)ん(・)が(・)候(・)補(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ように思います」

「…………」

 

 『私たち』と複数形なのであたかも《魔女(ヘクセン)》を代表するような見解にも聞こえるが、単にセリーヌと相談していただけだろう。別に背景を大きく見せようという意識はないのだろうが、この頃のエマの発言にはそういうところ(ミステリアス・ムーブ)がある。

 

「いえ、そうじゃない……? 旧校舎が《契約者》を選ぶ《訓練施設》……リィンさんがその認識なら……。6月までユーシスさんとずっと訓練されていたのは―――」

 

(前回の歴史で、卒業してから、久しく彼女の学力面に触れることがなかったが……)

 

 エマはトールズ主席の優秀な頭脳を持っている。しかも物理学的観点から弾道予測をしてしまえるぐらい理工系に強い。ミュゼという規格外後輩ほどではないにせよ、❝仕組み❞の理解という取っ掛かりさえあれば、1から10を知れる。本来であれば。

 

「ああ―――察しの通り、俺はユ(・)ー(・)シ(・)ス(・)を(・)契(・)約(・)者(・)に(・)し(・)よ(・)う(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 そして今日、おそらく、――ク(・)ロ(・)チ(・)ル(・)ダ(・)さ(・)ん(・)は(・)己(・)の(・)導(・)き(・)で(・)契(・)約(・)者(・)を(・)決(・)め(・)る(・)つ(・)も(・)り(・)な(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

 俺たちはその舞台から除外された」

 

「! それは、どうして――?」

「それは俺にもわからない。予想はある程度できるが」

「予想でも構いません! ……どうか、教えていただけませんか?」

「…………………………」

 

 珍しく語気の強いエマ。

 ずっと探してきた姉ヴィータの消息。その糸口をようやく掴めた、そんな必死さ。

 

 俺からすると、教えるメリットはない。エマも《魔女》であり、枷の外れた存在に対し、常人より高い耐性は持っている。しかし、同じ魔女に対して、情報セキュリティガバガバというのが不味い。言うなればファイアウォールがあっても上位権限から覗かれ放題の社内端末を使っているエマに、俺の知るところを話せば話すほど……それはヴィータを利することになってしまう。

 むしろ、現時点でお得999%+の出血大サービス状態だ。

 

 しかし、エマの情報弱者ぶりは、過去のリィンの写し鏡であり、不憫でもある。なんでも知ってるムーブでマウントを取って翻弄したり、理由も告げずに失踪することでマインドシェアを奪い、自分に執心させる。ヴィータのそれは虐待とか、ホストのやり口と同じなんだよな。純粋な子を弄ぶそんな邪悪な手口を使うのは、俺だけでよくないか?

 

「エマ、なら一つだけ教えよう。君には、二つの“呪い”がかかっている」

「の、呪いですか?」

「呪いは“君を守る”祝福……加護でもある。一つはクロチルダさん。もう一つは……君のお母さんが掛けたものだろう。それがある限り、君(・)は(・)当(・)分(・)、真(・)実(・)に(・)た(・)ど(・)り(・)着(・)け(・)な(・)い(・)」

「――――」

 

 ぽかんと口を開けるエマ。心当たりは、あるだろう。

 

 知ろうとするほど空回る、そんな呪い。帝都で超有名な《歌姫》をやっている彼女の情報を、ラジオをつければ毎週流れている彼女の声を、エマはトリスタに五ヶ月もいて知ることが出来なかった。そのレベルで運命を保全されている(操られている)。

 

「俺はそれを上書きすることもできるかもしれないが……。

 しかし、その呪い(加護)は、君にとっては大切な“繋がり”でもあるんじゃないか?」

 

 それが、俺がエマを、❝俺だけの魔女❞にしてしまうのをためらう理由。

 

 彼女の自由意志を尊重するリィンとしての善性を抜きにすれば、ラウラにそうしたように、暗示を掛けてその魅力的な肢体を好き放題することもできるだろう。しかしそれは間もなくヴィータやセリーヌ、ローゼリアに察知される。それを防ぐには彼女の呪いを解かなければならず、それは彼女にとって――。

 

「あ………」

 

 しばらくの静寂。

 

 目を閉じて「お母さんが……」と呟くエマに。

 俺はなにも言えない。

 

 魔女イソラ・ミルスティン。現時点でのエマは、母親の死因を何も聞かされていないようだが―――彼女を殺めたのは、《D∴G教団》司祭時代のアルベリヒ(我が下僕)。

 イソラは、フ(・)ラ(・)ン(・)ツ(・)に(・)憑(・)依(・)す(・)る(・)前(・)の(・)先(・)代(・)ア(・)ル(・)ベ(・)リ(・)ヒ(・)の(・)肉(・)体(・)と相討ちになっている。

 

 ただ……シャロンとは逆というか、ア(・)ル(・)ベ(・)リ(・)ヒ(・)か(・)ら(・)す(・)れ(・)ば(・)襲(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)相(・)手(・)を(・)撃(・)退(・)し(・)た(・)に(・)す(・)ぎ(・)な(・)い(・)。アルベリヒの側は死なないため、イソラは無駄死にではあったが、それによって、イ(・)シ(・)ュ(・)メ(・)ル(・)ガ(・)を(・)極(・)低(・)い(・)確(・)率(・)で(・)滅(・)ぼ(・)せ(・)る(・)世(・)界(・)線(・)に移行させるのがイソラの目論見であり、それは成功した。

 

 イソラの行動によって、《D∴G教団》由来の❝技術❞や❝異能者❞が《黒の陣営》に取り込まれ、イシュメルガが文字通りの無敵となる因果は絶たれた。代わりに記(・)憶(・)を(・)消(・)し(・)て(・)ラ(・)イ(・)ン(・)フ(・)ォ(・)ル(・)ト(・)家(・)に(・)取(・)り(・)入(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)フ(・)ラ(・)ン(・)ツ(・)を次(・)代(・)ア(・)ル(・)ベ(・)リ(・)ヒ(・)と(・)す(・)る(・)因(・)果(・)が作られた。同時に、それこそがラ(・)イ(・)ン(・)フ(・)ォ(・)ル(・)ト(・)家(・)が(・)メ(・)チ(・)ャ(・)ク(・)チ(・)ャ(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)原(・)因(・)で(・)も(・)あ(・)る(・)。

 

 イソラは、俺からすれば、大局的観点からアリサの家庭を犠牲にした共(・)犯(・)者(・)であり、だが、エマにとって《地精》と俺(イシュメルガ)は、母親の仇である。この複雑すぎる関係性を俺は他の――ギリアス・クロウ問題同様に消化できていない。

 

 

 

「ふう……」

 

 纏わりつく黒い気配をかき消し、深呼吸してエマを見る。

 

 プレタポルテ(高級既製服)のフリルブラウスに着替え、物思いに耽るその姿は―――艶めかしい。エマの魔的な魅力は、胸だけではない。眼鏡と認識を歪める魔法で隠しているが、実はその容姿も美しい。

 隠されているものが優美であれば、よりよく見えてしまうチラリズム効果。しかも、俺にはそういった魔法が通じない分、それがダイレクトに効いてしまう。

 

 色々考えたが、経緯や理屈がどうあれ、そんな彼女と二人でお泊りして、なにもしないのは、男じゃないだろう。この先、すべてを知ったエマが俺を憎悪する未来があるとしても。

 

 

「エマ」

 

 俺は、隙だらけのエマの肩に手を置き、いつものように顎クイを決めた。

 

「―――――えっ、リィンさ――――――」

 

 目を見開き、驚くエマ。

 

 甘美な感触。

 俺は、あっけなく、エマのファーストキスを奪った。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 満天の夜空の下、青白く発光しているトールズ旧校舎。

 

 その周囲は不可視の結界で覆われ、教官や先輩たちが立ち往生している中。

 ユーシスたち《Ⅶ組》だけが、すり抜けるように結界内に入ることができた。

 

 

 

――――マキアスを除いて。

 

 

 

「な、なんで僕だけ……」

 

 

 

 一人だけハブられることになり、情けない顔をするメガネ男子。

 

 

「ふむ……? ARCUSは我らと同じく光を放っているようだが」

「対してゼリカたちのARCUSは光ってもいないな。……おそらくっつーか、カンになるが……ひょっとするとこれは、ユ(・)ー(・)シ(・)ス(・)の(・)仲(・)間(・)意(・)識(・)みたいなモンと連動しているんじゃねーか?」

「俺の?」

『な、なんだと』

「ユーシス、そこまでマキアスのことを……」

「ふぇぇ……」

 

 

 結界の内側で、ラウラの疑問にクロウが考察を述べると、全員の視線がユーシスに集中する。最近はみんな仲良しになっていたⅦ組だが、ユーシスとマキアスだけは相変わらず仲が悪かった。

 

 

 

「チッ―――ええい、お前も来るがいい!」

 

 舌打ちしたユーシスは強引にマキアスの手を握り、結界内に引き入れた。

 それに乗じて、こっそり侵入を果たす黒猫。

 

 

 

「おおー」「歴史的、瞬間だな」「感動の場面」

「あはは、ユーシス照れてるー」

「ククッ、青春だねぇ」

「ふふっ、これで全員ね……いえ、」

「ああ、あの二人も居ないとな」

 

 

 

 最後のピースが嵌ったことで、好き勝手に感想を言っていく面々。

 ともかく、これで役者は揃った。

 

 

 鞘から剣を引き抜くユーシス。

 

『―――リィン君に万が一の時は、と頼まれていたんだ。多分、今だよね?』

 そう言って小太りな先輩から手渡された騎士剣《ホーリーオーダー》。

 ❝希少な金属❞を持ち込み、それで自分の太刀とユーシスの剣を作るよう依頼していたらしい。

 

 

「フッ―――味な真似を」

 

 つるぎは、伝承の聖剣のように輝いていた。

 

 

「トールズⅦ組、なんとしてもこの異変を解決し、リィンとエマを助け出すぞ!」

「「「おおっ!!」」」

 

 

 

 そして、契約は成った。

 

 リィンとエマを除いたⅦ組は《最後の試し》ロア・エレボニウスを乗り越え―――

 旧校舎に眠っていた騎神(デウス=エクセリオン)の全拘束は解かれた。

 

 此度の《灰の起動者(ライザー)》は―――――ユーシス・アルバレア。

 

 




エマとの絆が深まった!
好感度(絆ポイント)ランクアップ!

※※※※※


――――――――――――――――


次回「密会」





 すっごい間空いちゃったので、流石にもう許されんか?とビビってますが、一応ずっと文章修正したり書いてはいて、ようやくしっくりきたので投稿します。待っててくれた人(いれば)、ありがとうございます。

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