「こんな事も出来んのか!? いつまで新入社員気分だ!!」
「はい、すみません」
「なんだその態度は! 反省しとるのか!?」
ある企業の支店で一人の新人社員が課長に怒号を浴びせられていた。
「何か言ったらどうだ!?」
「…………まだ教わっていない業務でしたので」
「なら自分から教えを請わんか!! これだからゆとりは」
「まあまあ課長。今回は教育係の私に責任がありました。馬淵君、もう席に戻ってていいよ」
「……はい」
先輩社員の助けによってなんとかその場を凌いだ新人社員、馬淵(まぶち)龍見(たつみ)は席に戻ると大きな溜め息をついた。課長の言う事が理解出来ない訳ではない。寧ろ正論だろう。だがそれは新人社員が可能な仕事ならばだ。課長が龍見に課した仕事は明らかに新人社員がこなせるものではなかった。前日に接待で上手くいかなかった課長の明らかな八つ当たりであった。
本来誰かが止めに入ってもおかしくないのだが、今回は誰も何も言わない。言えないからだ。この支店では課長が最も役職が高い上に、課長は社長の親族であった。彼の機嫌を損ねてはどこに左遷されるか分かったものではない。この支店で龍見を守ってくれるものは教育係の先輩社員のみであった。
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「馬淵君、今日も疲れただろう。夕食くらい奢るよ」
「ありがとうございます。でも、食欲ないんですよ」
「…………あまり無理するものでもないよ。最近の課長は明らかに君をターゲットにしている。我慢の限界に来たら辞めるのも」
「はは……就活200敗な自分を拾ってくれた会社ですよ。そうそう辞められません」
「……………………君に任せるよ。でもこれだけは言わせてくれ。独りで抱え込むのは馬鹿のやる事だよ」
「…………分かりました。さようなら」
先輩社員に見送られながら帰路に着いた龍見だが、夜遅くに疲れた顔をして歩いている社会人はその手の輩には格好の獲物に見えたようだ。龍見の前には明らかに柄の悪い三人の若者が立ち塞がった。
「ようおっさん。悪いんだけど金貸してくんね?」
「俺らパチンコで大負けしちゃってさぁ。金いるわけ」
「大人しくしてくれりゃ痛くはしねぇよ」
「…………おっさんに見える? まだ23なんだけど」
「えっ、マジ? 一個上じゃん」
「なら後輩を助けて下さいよぉ、先輩?」
「ちょっとだけですからよぉ」
「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハッ」」」
「…………はぁ」
下品に笑う若者達の姿に今日一番の溜め息をつく龍見だが、顔を上げると何かを呟き始めた。
「んん? 天にお祈りっすかせんぱぁい」
「君達、手品は好きか?」
「は? んなもんより金出せよ」
「金品でもいいんだぜ?」
「そうか……つまりは鉱物だな。五行・金。飛礫(つぶて)」
「「「へっ? ぎゃあぁぁあぁぁああああっ!?」」」
どこからか飛んできた無数の小石が若者達に直撃した。かなりの威力があったらしく若者達は血塗れになっていた。しかし不思議な事にぶつかったはずの小石はどこにも無く、近くには雨も降っていなかったのに水溜まりが出来ていた。
「記憶を消す必要は…………やっておくか。顔を覚えられても面倒だ」
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「ただいま」
誰も居ないアパートの一室に龍見の声が響く。電気が点くと、そこには山のように積み上げられた本や古びた道具が広がっていた。そのどれもが魔術、陰陽道などといった世界中の術に関係するものであった。
「随分と増えたな。今度処分しねぇと…………あームカつく。これも全部糞親父のせいだ。何が先祖代々伝わる神秘だ。こんなもん、現代社会で何の役に立つ」
ベッドに横たわり天井を見つめる龍見が少し空中を睨むと、そこには拳大の火の玉が現れた。
龍見の、馬淵の一族は所謂魔法使いの一族である。古来より様々な術に精通してきており、時には国外からやってきた術者の血も混ぜ、国内外のあらゆる術を修得しようとしてきた。だがどう足掻いても一人が一生のうちに完璧に修める事の出来る術など一つ。天才と呼ばれた者でも三つ程度であった。
しかし龍見は違った。幼稚園卒業時には四つもの術を修め、それからもスポンジが水を吸うかのように術を修めてきた。これに気を良くした龍見の父は世界中の術を修めた、まさに一族の悲願とも言える息子を作ろうとした。その結果、龍見は普通の勉学においてはワーストクラス。就職難に遭う羽目になってしまった。しかもやっと入社した会社では上司からはパワハラを受け、社会に嫌気がさすという結果になった。
龍見が独り暮らしをするようになった今でも龍見の父は術に関係する資料などを送り続けてくる。それが先程の本や古びた道具の山である。
ーーピンポーン
「宅配でーす」
「こんな時間にかよ。今行きます」
ーーガチャ
「こちらになります。サインか印鑑をお願いします」
「はいはい」
「確かに。重いですからお気をつけて」
「あー、また糞親父か。今度は何を送ってきやがった?」
大きめな段ボールに入った荷物が父からのものと分かると、玄関で段ボールは開封された。中からはかなり立派な銅鏡が出てきた。父から無駄に古い魔術道具を渡され続けた龍見はそれなりの鑑定眼があり、これが一部マニアに売れば相当な値段がするものなのは一目で分かった。
「また無駄遣いしやがって。これだから母さんに逃げられるんだ。しかし古いのは当然として、かなりの力だな。下手に放置すると変なものを呼ぶかもしれんし、封印しておくか」
龍見がぶつぶつと呪文を唱えると銅鏡を覆うように幾何学模様の魔方陣が作られた。だがそれが銅鏡を呼び覚ます鍵になってしまった。
「! ヤベッ!!」
銅鏡が直視できないほどに光輝き、魔方陣は砕け散った。光はどんどんと大きくなり、部屋の端まで逃げた龍見をも飲み込んだ。光が収まった部屋にはもう、龍見の姿は無かった。
とりあえず特急で書き上げた結果がこれだよ。これからどうしようかな。あっ、メインヒロインは確定しますんで。