それはいつもと変わらない定例会議での事であった。大きな事件もなく、龍見が盗人を捕まえたというような話で盛り上がっていた時に息を切らした兵士が飛び込んできた。
「も、申し上げます!!」
「今は会議中よ。分かっているでしょう」
「もう殆ど終わってたからいいじゃない詠ちゃん。どうしたんですか?」
「た、た、他国が連合軍を組み、洛陽へ攻め込むと!!」
「な、なんやて!?」
「チッ」
いつかは来るだろうと思っていた事が想像以上に早くやってきて龍見は思わず舌打ちをした。ただ龍見の知る歴史では董卓が悪政を続けた上での自業自得であったが、月はそんな事はしていない。
「何故そんな事が起ころうとしているんです?」
「なんでも道士が」
「道士だぁ!?」
「ひっ、す、すみません!」
「………俺が悪かった。続けてくれ」
「は、はい。道士が袁紹軍に『董卓はやがて世界に災厄をもたらす。今こそ悪の芽を絶つべき』などという助言をしたと」
「ねぇ、龍見、道士って………………あの二人?」
「分からんが、大方あの二人だろう。面倒な事しやがって。狙うなら俺だけにしろってんだ。地和、思い出す必要はないぞ」
「もう大丈夫」
「肩震わせて何が大丈夫だ」
以前襲われた事がトラウマになっているのか地和の体は震えていた。そんな地和を優しく抱き寄せて龍見は頭を撫でた。そんな様子を見た恋は頬を膨らませていた。
「道士の言葉となると面倒ね。しかも一部はこれに便乗して洛陽を取りに来るでしょうし」
「失礼します!」
「なんだ! 今は忙しいんだ!」
「それが隊長、街中に変質者が現れまして、我々では対処出来ないほどの力を持っているのです! 応援を!」
「んなもん自分達で何とかしろ!」
「あんたが行って早く済ませてきなさいよ」
「なっ!? 将来とんでもない危機が迫ってるのに何を悠長な!」
「目の前の危機をどうにか出来ずに将来を守れるのかしら? それにあんたの兵が対処出来ないほどの相手よ。さっさとやる!」
「ぐぬぬ」
「龍見さん、頑張って下さい」
「月までかよぉ。わーたよ、やってくるよ」
不満を漏らしまくっているが、龍見としてもこの件はかなり気になるものだった。龍見直属の部下は全員術が使える。詠には劣るほどのものだが、武術と組み合わせたそれは董卓軍随一の強さを誇り、それにより街の平和は保たれていると言っても過言ではない。それが変質者ごときに遅れを取るなどあるはずがないのだ。
「あれです!」
「あれか」
部下に連れられて街を駆け抜けていくと、大きな人混みと宙を舞う兵達の姿があった。人を宙に舞わせるほどの力では確かに龍見の部下でも分が悪そうだ。しかし大人数でかかればどうにでもなりそうだと考えながら龍見は人混みを抜けた。
「く、来るな化け物!!」
「あんらぁ、ひどいわねぇ。そんな事言う子にはお仕置きよぉん」
「うわあぁぁああっ!!?」
「………………酷いな」
龍見が酷いと言ったのは兵が飛ばされる惨状ではなく、兵を飛ばしている変質者に対してだ。
筋骨隆々とした肉体を持ち、スキンヘッドのようにツルツルの頭。これだけなら世紀末からやってきた荒くれもので済まされただろうが、言葉遣いはどう聞いても女、否オカマのそれ。ツルツルの頭の左右からは小さな三つ編みのおさげ。極めつけはピンクのビキニ。
「これは酷いな」
思わず二回言ってしまうほどに酷かったようだ。そんな声が聞こえてきたのか変質者は龍見の方を向いた。
「そこにいるのは天の御使いさんじゃないかしらぁ。貴方を探していたのよ」
「俺は探してない帰れ消えろ目が腐る」
「うふふ~、そう言わないの」
「近寄るんじゃねぇ!!」
龍見は近寄ってくる変質者を思わず結界で縛り付けた。詠唱もない粗末なものだが、ただの人間を縛り付けるには鎖よりも頼りになるものだ。
「ぶるあぁぁぁぁあああああっっっ!!!」
それを変質者は咆哮のみで掻き消した。あまりの事に周りに居た兵や野次馬が後退りする中、龍見は彼ら以上に困惑していた。
(なんだこいつは!? 今のは力任せなもんじゃない。的確に術を解除しやがった。見た目だけじゃない。中身も普通じゃない!)
「名前はなんだ!?」
「うふふ、あたしに興味津々かしら?」
「ああ、興味ならあるさ。俺の術をあっさり解除しやがる奴なんてそうはいない」
「漢女道亜細亜方面継承者なのよぉん。これくらい簡単だわ」
「てめぇ、マジで何者だ。この時代に亜細亜なんて言葉はなかったはずだ。まさか、あの道士達の味方か?」
「惜しいわねぇ。確かにあたしと左慈ちゃん達は知り合いで目的は同じだけど手段が違うわ。だから敵よ。そしてあたしは貴方に協力するために来たの」
怪しすぎる協力依頼だ。こんなものに応えるのは誰もいないと話を聞いていた者は全員思った。
「いいぜ」
だが龍見のみあっさりと受け入れた。そんな信じられない言葉に全員が固まった。
「た、隊長。本気ですか?」
「本気だ。詠達には怒られるかもしれねぇけど、こいつはオレの術を破るほどの力量を持っている。下手に暴れられるよりはここでこいつの願い通りに進めた方がいい」
「嬉しいわぁん」
「仮とはいえ協力してくれるんだろ。名前くらい教えろよ」
「貂蝉よ」
「…………嘘だろおい…………」
変質者の名前を聞いた龍見は思わず崩れ落ちた。貂蝉と言えば絶世の美女として有名な登場人物だ。この世界の性別は完全に反転しているのかと事前に調査した龍見は大橋小橋の姉妹が女性と知っていたため、貂蝉もてっきり女性とばかり思い込んでいたのでそのショックは相当なものであった。
そして貂蝉を連れて戻ると案の定全員からお叱りを受け、ひとりひとりへの謝罪や説明等々で合計五時間以上動き回る羽目になる龍見であった。
さてこれだけ遅くなった言い訳ですが、ぶっちゃけ貂蝉を書こうとしたら筆が止まりました。この先の展開にこいつがいると楽なのは脳内で決まっていたのですが、どうにも手が動かず、こんなにも長くなってしまいました。
本来なら今回の話も一月の間には投稿し、文章も倍くらいになるはずでしたが、貂蝉によって完全ストップしました。
しかしそれもなんとかなり、貂蝉がいてもなんとか筆が進むようになったので、遅くとも月一ペースで投稿できそうです。改めて遅くなってしまい申し訳ありませんでした。