熟睡する龍見の頭へと振り下ろされる凶器。それは一切の迷いなく龍見の頭を
ーーグシャッ
粉砕した。気持ちの悪い音と共に血肉が飛び散り、龍見の体は僅かに痙攣をしてから動かなくなった。
「ふんっ、当然の報いだ」
それを引き起こした犯人は魏延だ。彼女はそう言いながら龍見の頭を潰した金棒を持ち上げる。するとどうした事か。彼女は、龍見の部屋の前に立っていた。
「!?」
何が起こったのか分からなかった彼女の視界の端に自身の武器である金棒が映る。その金棒は毎日手入れしているようにピカピカで、先程殺したはずの龍見の体液一つ付いていなかった。
「…………」
明らかな異常。それの原因は間違いなくこの部屋の中にある。そう感じた彼女はゆっくりと部屋の扉を開けた。
「よう、夜遅くにごくろうさん…………」
部屋の中では寝具の上に座る龍見が居た。非常に気分の落ち込んだような彼に魏延は問い掛けた。
「何故生きている?」
「うん? うん、それは、何て言うか…………神様の力、かな…………」
「神?」
「そう…………この現象のあとはさ、なんか、気分が良くないんだ…………まあ、座ってくれ」
座るよう促されたものの、魏延は何か罠があるのではないかと警戒して座らなかった。死人が生きているという有り得ない事実を目撃したのだ。あらゆるものを信用できなくても仕方がない。龍見としてはどうでもいいのか話を続けた。
「それより、何でオレ殺したの? 敵だから?」
「そうだ。桃香様を傷付けたくせにへらへらと…………皆も安易に貴様を受け入れているのが信じられない」
「うん、普通に考えれば、そうだな。余所者だもんな…………」
「…………ワタシは貴様を殺したのだぞ。随分と悠長だな」
「今日はもう殺さないだろ。先に言っておくけど、罠を張ってるから…………流石にすぐ殺されたら、死ぬと思うし…………休まない? お互いに」
とても殺した相手と接する態度ではないのだが、龍見はそんな事はどうでもいいほどにテンションが低い。魏延はこれ以上話しても無駄と思ったのか無言で出ていった。その後龍見は朝になるまでボーッと外を眺め続けていた。
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翌日、結局また徹夜となり、更に気分も優れない龍見は適当に外をふらついていた。そんなところで偶然辿り着いたのは馬小屋だった。動物と戯れるのもいいかと馬小屋に入った龍見は適当に馬と触れ合っていった。
「おーよしよし、元気だなぁ」
「ブルルッ」
「はいはい、次はそっちな。っとと、順番があるんだからそうひっつくな」
「へぇ、そいつらがそんなになつくなんて珍しいな。結構警戒心強いんだけど」
「んお? 馬超さんか。おはようございます」
「呼び捨てでいいよ。どうだったお前ら。この人は優しかったか?」
手慣れた様子で馬の世話をする馬超と流れでそれを手伝う龍見。その途中で龍見が話を切り出した。
「なんか魏延さんにめっちゃくちゃ嫌われてるんだけど、仲良くなる方法ねぇかな?」
「ん~、馬淵って桃香様達を病気にしただろ。あいつ桃香様大好きだからさ。それがとにかく気に入らないんだと思う。こういった事は桔梗に相談するといいと思うぞ。焔耶の事を一番分かってるのは桔梗だろうしさ」
「厳顔さんか。いいかもしんねぇな。助かったぜ馬超。講義中の居眠りは不問にしてやる」
「んなっ!? あれ聞くの自由だって言ってたろ!?」
「自由だが、興味がないのは出ていっていいとも言ったはずだ。居眠りしていいとは言った覚えがないな」
「うぐ…………」
「まあ冗談だよ。別に怒っちゃいねぇさ。あ、またこいつらの世話手伝わせてくれよ。動物と触れ合うのは気分がいい」
「分かったよ。でも居眠りくらい許せよ。お前の話はつまんないんだから」
「…………やっぱつまんねぇのかぁ」
二度目のつまらない発言に落ち込みながらトボトボと厳顔を探す龍見。途中通りすがりの兵にも訊きながら探すと、黄忠と一緒に居る厳顔を見つけた。璃々も一緒だ。
「どうも黄忠さん、厳顔さん」
「おはようございます、馬淵さん」
「おはようおにいちゃん!」
「おう、朝早くからどうした若いの」
「厳顔さんに相談がありまして、お時間よろしいですか?」
「儂に? ふむ、焔耶の事じゃな」
「うえっ、分かりますか?」
「まださして交流のないお主が儂に相談しそうな事など限られるわい」
「参ったな」
頭をかきながら近くに座る龍見。璃々はそんな龍見の膝の上にちょこんと座る。
「早速なんですけど、魏延さんと仲良くなるにはどうしたらいいですかね?」
「そんな事知らぬ」
「さいですか…………」
「おにいちゃん、焔耶おねえちゃんとけんかしたの?」
「うん、ちょっとね」
「喧嘩ならばとことんやれば良かろう」
「ただの喧嘩ならいいんですけどね」
流石に一度殺されたなど言えるわけもなく、黙りこくってしまった。そんな龍見の姿に何かを察したのか、厳顔は少し考えてから突然『焔耶を連れてくる』と言って歩いていってしまった。止める間もなく行ってしまったため呆然と待つしかなかった龍見の元に魏延の耳を引っ張りながら厳顔が歩いてきた。
「桔梗様! 痛いですって!!」
「このたわけ者! しっかりと謝罪せんか!!」
「あー…………昨晩の事は気にしてないからいいですよ」
魏延が口を滑らせて自分を殺した事を話したんだと察した龍見はそんな事を言ったが、厳顔はそれで許しはしない。
「人の、それも同盟国の人間の命を奪っておいてのうのうと生きるような人間に育てた覚えはないぞ!」
「でもこいつは敵で」
「言い訳をするな!!」
「うぅっ」
「厳顔さん、そのくらいにして。璃々ちゃんも居ることですし」
「むむ、馬淵よ、お主少々甘いのではないか?」
「同盟国ですからね。今くらいは甘くないと。それでも気に入らないのでしたら…………魏延さん、勝負しねぇか?」
「勝負? 何のだ」
「模擬戦だ。勝ったら負けた方に命令するって形で。それなら合法的に魏延さんはオレを劉備さんから離す事が出来る。厳顔さんも勝負に勝った結果でしたら文句はないでしょう?」
「うむ、それならばな。だがお主の命を奪った事は別! さっさと謝罪せい!!」
「ひぃっ! わ、悪かった」
「いいぜ。気にしてねぇから。さて準備してこいよ。こんな機会滅多にないぜ」
「…………負けても恨むなよ。それともし事故で死んでもしないからな」
「ああ、事故じゃしょうがねぇ」
明らかに事故という事にはならないだろうが、そんな会話をしてから魏延は武器を取りに戻った。
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模擬戦は厳顔の監視の元で行われる事となった。誰が呼んだのか観客も多い。あわよくば命を奪うつもりだった魏延もこれでは作戦を実行出来ない。
「相手が参ったと言うか、気絶をすれば勝ち。いいな?」
「それでいい」
だがただの模擬戦でも魏延は負ける気はこれっぽっちもしなかった。相手は妖術使い。この距離なら一気に間合いを詰めて倒せる。そう、慢心していた。
「始め!!」
「!?」
厳顔の合図で動いたのは両方とも。それもどちらも相手に向かって走ったのだ。龍見が逃げて距離を離すと考えていた魏延にとってはあまりに予想外の出来事で頭の中が真っ白になる。
「ハァッ!!」
「っ! 効くか!!」
隠し持った短刀での攻撃になんとか対応した魏延。更なる追撃が飛んでくるものの、すぐに落ち着きを取り戻した魏延は反撃に移った。
「うおっ!? かすった!?」
「ちょこまかと!!」
「慣れてきた、っとぉ!?」
攻撃を避け続ける龍見に苛立ちを募らせる魏延。金棒という武器でありながら素早い攻撃を続ける魏延だが、苛立ちがその動きを僅かに雑にする。
「風よ、吹き荒れろ!!」
「くっ!?」
隙を突いて突風を巻き起こした龍見が魏延との距離を離す。二人の距離はおよそ10m。今度は魏延も慎重だ。
「どうした? 妖術使いに近付くのが怖いか?」
「それで挑発のつもりか? だとしたら随分と下手くそだな」
「そうか。まあどちらにせよお前は近寄らないと勝てねぇけどな」
龍見の言う通り魏延にこの距離から攻撃をする手段はない。ならば全力で詰め寄り攻め落とす他ない。魏延は脚に力を込めると一気に走り出した。その先にある罠に気付かずに。
「きゃんっ!?」
魏延が突然転んだのだ。その足下には魔法陣が描かれていた。龍見はそんな魏延に走って近づき、首に短刀を添えた。
「?」
しかし魏延はピクリとも動かない。今回龍見が設置したのは捕縛などではなく強化の魔法陣。触れたものを強化するものだ。全速力でこの上を通れば一気に上がった身体能力についていけず転ぶという作戦なのだが、動けなくなるのはおかしい。もしかしたら転んだ時に変なところを打ったのかもしれない。
「だ、大丈夫か?」
「ひぅん!? しゃ、しゃわるな…………」
「はっ?」
「焔耶、それ以上動かぬなら敗北とみなすが」
「ま、まだうごけ、りゅぅ…………」
「動けぬではないか。馬淵、何をしたのだ?」
龍見が魔法陣の効力を説明すると厳顔は納得したような顔をして説明を始めた。
「焔耶は肌が異常に敏感でのぉ。肌が性感帯と言っても過言ではないほどじゃ。それが強化されればどうなるか分かるな?」
「な、成る程。すぐに解くからな」
龍見が魔法陣を解くと息を荒くしながら魏延は立ち上がった。顔は赤く、まるで行為の最中だったようだ。
「さて馬淵、勝者の権利じゃ。何を命令する?」
「あー、そういうのありましたね」
「自分で提示したものじゃろう」
「なら今晩食事を奢ってくれ」
「謙虚じゃな。良いな、焔耶」
「分かっ、た…………」
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「うめぇうめぇ」
「少しは遠慮しろ」
「人の金で食う飯は旨いんだよ」
そう言いつつも多少は控えめに食べているようで、お代わりも安いもの中心だ。
「なあ魏延。オレの何がそんなに気に入らないんだ?」
「何を突然」
「答えてくれ」
突然真面目になった龍見に少し驚いたが、魏延は淡々と語り始めた。
「桃香様を傷付けた。そしてここに来てからどうにも馴れ馴れしい貴様が嫌だった。貴様が悪い人間ではないのは分かる。しかし…………」
「生理的に無理だったわけだ。まあそういうのもいるさ」
「そういうでは…………どういう気持ちか、ワタシ自身が分かっていないんだ」
「ふーむ、そうか。でもそれで殺される方としてはたまらねぇな」
「それは…………すまん」
「すまんで済めば楽だろうけど、オレ実は怒ってるから。厳顔さんの前じゃあんな事言ったけど、すっげぇ怒ってる」
それが真実か確かめる手段はないが、確かに人を殺しておいて謝罪では済まないだろう。
「何をしたい? ワタシの純潔でも散らす気か?」
「そんなつもりはねぇよ。ただ、そっちが詫びるつもりがあるなら命に等しいものを貰おうか」
「命に等しいもの?」
「真名だよ。命を奪ったんだ。そっちも大切なもんくれねぇとな」
「…………ふっ、そうだな。我が真名は焔耶。貴様に預けるぞ」
「確かに。よろしくな焔耶」
差し出される手。握手なのは分かったが、自身の体質を考えるとなかなか応じる気にはなれなかった。しかし真名を預けた相手にそれは流石に失礼だと勇気を持って握手に応じた。
「…………? あれ、普通に」
「ちょっとした贈り物だ。術で焔耶の肌にコーティング、まあ触られても大丈夫なようにしておいた」
「思っていた以上に、便利なのだな」
「見直したか? んじゃ飯の続きだ。お代わり持ってきてくれー!」
自分を殺した相手を攻略しようとする主人公がいるらしい。
どうやって龍見が生きていたのか、どんな神様が関わったのかはまだ秘密です。ヒントとしては、神様ではないけど神の名を持っているかな。
次は雛里か翠か…………星もありか。