城の中を五歳ほどの少女が駆け回る。とてとてと走る少女に兵や侍女が挨拶する。
「おはようございます」
「おはよー!」
「今日は私塾はお休みですか?」
「うん! ととさまとあそぶんだ!」
元気な少女の姿に城内にも笑顔が溢れる。いつの時代であっても子供は宝なのだろう。少女はある部屋の前に立つと勢い良く扉を開けた。
「ととさまー!」
「おお、恋歌(れんか)。そうか、今日は遊ぶ日だったな」
「うん!」
父、龍見に抱き付く娘の呂玲綺。真名は恋歌だ。恋をそのまま小さくしたような見た目をしており、とても好奇心旺盛で、龍見のように術の才能と恋のように武術の才能に溢れる彼女だが、龍見にとってはそんな事は関係なく、目に入れても痛くないほど可愛く大切な子だ。
「一先ずかかさまに行ってきますを言おうな」
「うん!」
「よしよし、ほれ! 肩車だ!」
「キャー! たかーい!」
恋歌を肩車して歩く龍見は非常に目立つが、それが日常にもなっている。むしろ龍見以外も恋歌の相手をする 時は親のようになっており、董卓軍全体の娘とも言える。
龍見と恋歌は恋の居る部屋へとやってきた。恋は普段は龍見と同じ部屋で過ごしているのだが、今は特別だ。
「恋、入るぞ」
「うん」
「かかさま、しつれーしまーす」
元気一杯な恋歌も少しボリューム抑え目に部屋に入る。室内にはベッドに腰掛ける恋と医師の華佗が居た。恋は病気というわけではない。彼女のお腹は誰が見ても妊娠していると分かるほどに大きくなっていた。
「調子はどうだ?」
「いい感じ」
「そうかそうか。華佗、専門分野じゃないのに頼んで悪いな」
「気にするな。俺も龍見には恩がある。それに医師ならば病魔のみを相手にするのではなく、命の誕生も手伝って然るものだ」
「おいしゃさんってすごいね!」
「ああ。恋歌も生まれた時には華佗に世話になったんだぞ」
華佗は普段世界を回って病人を治しているのだが、恋の容態を診るために時折来てもらっているし、出産の担当医でもある。
「しかしあとニ、三ヶ月で恋歌もお姉さんか。出産に携わっただけだというのに感慨深いな」
「ここまで世話になったら他人じゃねぇよ。恋、これから恋歌と出掛けるから何かあったら貂蝉に伝えてくれ」
「分かってる」
「そりゃ失敬。んじゃ、行ってくる」
「いってきまーす!」
改めて恋歌を肩車して龍見は街へ出る。乱世は一時的かもしれないが収まった。昔に比べて安全性も高まり、商人も様々な国を回るので、多くの国が豊かになっていった。
「ととさま! あれなぁに?」
「仮面…………だな。あれは無視しよう」
「えー。じゃああれは?」
「あれは…………太平要術の書、ってなんでんなもん売ってんだ!」
「写本っすよ旦那」
「写本だろうと没収に決まってんだろ! どっからこんなもん見つけんだよ」
娘と遊びに来たというのについつい仕事もやってしまう龍見だが、恋歌は全く気にしていない。むしろニコニコしながら引っ付いている。
「ったく、すまんな恋歌。次はどこ行く?」
「えっとえっと」
「おっ、父娘で仲良くお出掛けとは羨ましいわぁ。うちは仕事で忙しいっちゅうに」
「しあちゃんだ! おしごと?」
「せやで。恋歌ちゃんのととさまがおやすみやから、代わりにうちがやっとるんや」
「おい、恩着せがましいぞ」
「そのつもりやもん」
「ととさまのかわりにがんばってー!」
「あー、恋歌ちゃんに応援されるだけで癒されるわぁ」
「はいはい、頑張れよ」
「龍見は冷たいわぁ」
別に霞の言うように龍見が休みを取ったから霞が働いているわけではなく、単純に龍見が休みなだけだ。恋歌に変な事を教えられると困るので龍見は霞をなるべく近付けたくはないようだが、恋歌が霞の事が好きなのでよく一緒にいる。
「しあちゃん、またあそんでね」
「ほなまたなぁ。龍見は酒に付き合ってな」
「あいよ。暇ならな」
霞と別れてから、また恋歌は好奇心旺盛に色々なものを見て回る。少し離れて見守っている龍見はある事に気が付いた。
「失敗した。陽射しが強いな。恋歌、帽子買おうか」
「おぼうし? ほしい!」
「よしよし、んじゃいこな」
熱中症にならないようにと龍見は恋歌に帽子を買う事にした。しかしあまり恋歌が気に入るような帽子がないようだ。
「これはどうだ?」
「んー、やっ」
「どうしたもんかな」
「お困りですか?」
「はは、この子の帽子を…………何してんだ月」
「えへへ、少しからかってみました」
「ゆえちゃんだ! ぎゅっ!」
「はーい、ぎゅっ」
最近では月も一人で自由に出回る事も多くなった。大抵はこうやって服屋に入り浸っている。
「龍見さんは柄物なんかを選びすぎです。恋歌ちゃんにはこういうつばの大きな真っ白な無地が似合ったりしますよ」
「わぁ、ととさま! これ! これにする!」
「成る程なぁ。難しいもんだ。ならこれ買うか」
「うん!」
「ありがとよ月」
「どういたしまして」
お気に入りの帽子も見つかりはしゃぐ恋歌。余程気に入ったのか昼食中でも取ろうとしない。龍見はそんな恋歌の姿を嬉しそうに眺めていた。そんな元気な恋歌だが、歳はまだ五歳。体力もそこまで多くはない。
「んみゅ…………」
「ん、眠いのか? ととさまの背中でねんねしようか」
「ふぁ~…………うん」
龍見におんぶされると揺れが心地好かったのか、恋歌はすぐに眠りについてしまった。今日はこんなところにして昼寝させようと城にある自室に戻ると、診察が終わった恋の姿があった。
「よ、どうだった?」
「順調って言われた」
「そりゃ良かった。よっと」
「寝てる?」
「ぐっすりとな」
恋歌を自分の布団に寝かせると、龍見は恋の隣に座った。
「恋、オレ幸せだ」
「恋も」
龍見は眠っている恋歌の姿を見てそう呟いた。恋は自分の大きくなったお腹と恋歌を交互に見て頷く。龍見は恋のお腹を撫でて、そのまま手を別の場所にずらそうとした時、その手を恋に叩かれた。
「それ以上はメッ」
「いや、たまにはいいじゃん」
「生まれるまで我慢。それに恋歌も目の前にいる」
「うう、恋は厳しいなぁ」
「また手か口でやってあげる。それ以上はこの子が生まれてから」
「分かったよ。恋に負担かけたくないからな」
恋のため性行を我慢する龍見。そんな龍見の頭を恋は子供を慰めるように撫でるのだった。
さてさて、どうだったでしょうか恋歌ちゃん。この子も将来的に出せるといいな。