そろそろハデス、ミシャグジ様、龍見を生き返らせた謎の神以外の神様も出していこうかな。
「ここが魏か。護衛ありがとよ。これお礼」
「そんな、受け取れません」
「いいから取っといてくれよ。オレの顔を立てると思って」
「わ、分かりました。それでは馬淵様、お気を付けて」
護衛に礼としてお金を渡した龍見は街へと脚を踏み入れる。蜀と比べると広いというのが第一印象であった。街の規模が全てではないが、やはり広いとそれだけ発展しているような印象を受けがちになる。
「さて、まずは…………腹減ったな。蜀の時もそうだったけど、やっぱ長距離移動は腹減るわ。なんかいい店は…………君、服を触るのやめてくれ」
「ええやん減るもんやないし」
いつの間にかいた女性が龍見の服を弄っていた。紫のツインテ、虎柄の水着のような上着が大きな胸を強調している。だが龍見の目についたのはドリルのような槍、否、それは完全にドリルだ。
「ハァハァ、真桜! やっと見つけた!」
「おっ、隊長。何しとるん?」
「お前が勝手にいなくなったんだろ!」
「まあまあ、ちょっとくらいええやん。なぁお兄さん?」
「オレに訊かれてもな。とりあえず久しぶり、一刀君」
「えっ、龍見さん!? 予定より早くないですか?」
「予定とか知らないなぁ。連絡は詠とかの仕事だからな」
特に今回など龍見の意思は関係なく、半ば強制だったのでどんな連絡が行っているかは龍見は知りもしない。そんなところに更に二人の女性がやってきた。
「隊長、真桜は見つかりましたか?」
「ああ、そこに」
「もう真桜ちゃん! 一言言ってからいなくなってほしいの!」
「いや沙和、そもそもいなくなるのが問題だからな」
サイドポニーに眼鏡の女性のどこかずれた発言に、銀髪で全身傷だらけの女性は呆れていた。
「一刀君、この子達は?」
「えっと俺の部下? でして。そこのドリルを持っているのが李典です」
「よろしゅう」
「こっちが于禁と楽進です」
「隊長、この人誰なの?」
「馬淵龍見さんだよ。俗に言う黒の御遣い」
「貴方が……楽進です。よろしくお願いいたします」
「ふーん、一刀君はいい部下持ってるじゃないか」
三人とも三国志では有名な将だ。どのような経緯かは不明だが、そんな三人を従えるとなると、一刀も魏ではそれなりの立場と考えてもいいだろう。
「このまま華琳のところに向かいますか?」
「いや飯が食いたい」
「それならいいお店を最近見つけました。近いですから案内しますよ」
「それは助かる。頼むよ楽進さん」
「えっ、あ、凪……そこは、大丈夫?」
「? いつも大丈夫ですよ」
「不安なの」
「これはあかんかもしれんなぁ」
何故そんな発言が出るのか龍見は気になったものの、楽進の親切を無下にも出来ない。正直マズイのを覚悟しながら楽進の案内した店へと向かう。
その店は外観は普通、内観も普通、メニューも普通だった。ただ空気を除けば。
「辛っ!? 空気辛っ!!」
「目が痛いのぉ!!」
「やっぱりあかんかったか」
「? 馬淵殿、何かおかしいでしょうか?」
「いんや、普通だが」
「「「!!?」」」
空気から既に辛い店。辛党の楽進以外は悶絶すると思われたそこで龍見は平然としていた。ちなみに李典はゴーグルをしているので何とか耐えている。一刀と于禁はギブアップして既に外だ。
「ここは拉麺がおすすめですよ」
「それならそうしよう。李典さんは」
「うちもう駄目。外行くわ」
「仕方ねぇなぁ。飯食ったら合流って一刀君に伝えておいてくれ」
「りょーかい…………うっ、喉が」
「すみません、拉麺二つ」
ゴーグルで目を守ってもそれ以外が守りきれなかった李典は店の外へ出ていった。その間に楽進は拉麺を頼んでいた。ちなみに出てきた拉麺は汁が唐辛子の赤が極限を越えて黒に。麺も汁を吸って真っ黒だったそうな。
ーーーーーーーーーーーー
「いい味だったな。少し辛味が強すぎるが」
「それがいいのですよ。隊長達は全く食べてくれないので、一緒に食べてくれる方がいると嬉しいです」
「まあ、好みが別れるから仕方ねぇよ」
平然と店を出る二人。悪魔のごとき拉麺もこの二人には通用しなかったようだ。
「あ、あの! 黒の御遣い様ですか?」
「? そうだが」
二人のところへ一人の女性が走ってくる。真っ白なローブを頭から被っているので表情は窺い知れない。多少怪しさを感じながらも敵意や殺意は感じなかったので、龍見は普通に対応する。
「わたし、御遣い様の事が好きなんです! あ、握手して下さい!」
「それくらい構わねぇさ。しかしこういうのは照れ臭いな」
「きゃっ、ありがとうございます! あと、もう一つだけお願いがあるんですけど」
「言ってみ。出来る事なら」
「シンデクダサイ」
ーードスッ
「馬淵殿!? 貴様!!」
ローブの下に隠し持っていたと思われる短剣が龍見の腹を貫いた。楽進は犯人を取り押さえるが、犯人は尋常ではない力で楽進を引き剥がそうとする。
対して龍見は落ち着いていた。こうも見事に刺されたのは初めてだったため、まるで夢でも見ているかのような、他人に起こった出来事のように感じていた。故に犯人の凶行の原因も即座に理解出来た。
「ぐっ! なんという力だ!」
取り押さえている時に楽進はローブの下の女性の顔を見てしまった。その目は虚ろでどこを見ているかも分からず、口からはただただ意味のない声、声にも感じない音を垂れ流し続けていた。
「スキデスシンデクダサイ、アイタカッタデスシンデクダサイ、シンデクダサイシンデクダサイシンデクダサイシンデク」
「少し落ち着け。解呪(ディスペル)」
犯人へ龍見が手をかざすと、気絶したかのようにガクンと崩れ落ちた。
「な、何をしたのですか?」
「どうにも暗示、いやこりゃ催眠だな。とにかく操られていたみたいだ。しかも肉体の限界とか無視してやがる。ほれ、限界以上の動きをしようとするから皮膚やら筋肉やらが裂けて血塗れだ」
「馬淵殿はその傷は平気なのですか?」
「…………お、思い出したらめっちゃいてぇ…………」
「傷口を見せて下さい」
楽進が傷口に手を当てると、暖かい何かが龍見の中へと流れ込んでくる。
「気功、か。いい特技持ってんな…………」
「痛みを和らげるだけです。すぐに処置しないと。城に急ぎましょう。隊長達を待っている時間がありません」
「この女も、連れてかねぇと」
「おーい! 二人ともお昼は済ませ…………」
「隊長、どうして固まってるの? ってどうしたのこの状況!?」
「いいところに来てくれた! 馬淵殿が襲われた! すぐにでも城に戻るから手伝ってくれ!」
「一刀君、肩貸して……大丈夫とは思うが、三人は念のため、あの女を、いつつ」
「む、無理しないで下さいよ龍見さん!」
傷を刺激しないようにゆっくりと城へ向かう。龍見は自分でヒーリングを施しているのでまだまだ余裕はある。
城に到着すると一刀が門番へ事情を話し、すぐに龍見は治療を受けた。麻酔がないので仕方がないのだが、短剣を抜かれる時が一番痛かったらしい。傷口に包帯を巻かれ、龍見は寝具に横になった。
「はぁ…………まだじんじんする」
ーーコンコンッ
「? 一刀君か? 入っていいぞ」
「お邪魔するわ」
「おっと曹操さんでしたか。この世界に扉を叩く習慣はなかったと思いますが、一刀君の影響ですか?」
「ええ。口調くらいもっと楽にしていいわよ」
「んじゃそうする。オレに何か用、ってか用がないと来ないか。どんな用だ?」
「謝罪しに来たのよ。誰の仕業か知らないけれど、私の国で客人に怪我をさせた。あってはならない事だわ。ごめんなさい」
「気にしちゃいない。オレが悪いからな」
「そう。でもこちらとしては同じ事を繰り返してはならないわ。この国にいる間は護衛を付けさせてもらうわよ」
「あいよ。それがあんたなりの謝罪なら受け取ろう」
ここで断るのは相手の顔に泥を塗るだけと考え、遠慮せずに提案を受け入れる。
「理解が早くて助かるわ。貴方の護衛をするのは凪よ。凪、入ってきなさい」
「失礼いたします」
「今回の問題は凪が近くにいながら起こった事という事で、責任を取らせて凪に護衛をさせるわ」
「とか言いながら、楽進さん本人の要望じゃないですか? 守れなかったのは自分の責任です。だからこそ自分に護衛をやらせて下さいとか」
「な、何故分かったのです!?」
「生真面目だから分かりやすいんだよ」
とはいえ当たりとは龍見も思ってはいなかった。想像以上に楽進は単純らしい。
「では凪。今から馬淵龍見の世話をしなさい」
「はっ! 馬淵殿、暫くお世話させて頂きます」
「よろしく。あ、龍見って呼んでくれ。暫く一緒なのにずっと馬淵殿じゃ堅苦しくて仕方ねぇ」
「では龍見殿と」
「殿はいらねぇんだけど、まあそのくらいはいいか。そうだ曹操さん、術の指南は聞きたい人だけ自由にオレのところに聞きに来るよう伝えておいてくれ」
「何故全員ではないのかしら?」
「オレの話はつまらんらしい」
「ふふ、分かったわ」
笑い話じゃないんだけどなぁ、と凹む龍見。曹操は楽進にしっかりやるよう伝えて部屋を出ていき、部屋には龍見と楽進の二人だけになった。
「とりあえず大人しく寝るかね」
「あっ、龍見殿、その、お願いがあります」
「ん、言ってみ」
「これから私の事は真名で呼んで下さい」
「唐突だな。君に認められるような事をした記憶はないが」
「私なりの謝罪の形の一つです。それに自身が怪我をしたというのにあの落ち着いた対応。これだけで真名を預けるには十分だと判断しました」
あれは混乱しすぎたがために逆に冷静になっていただけだが、訂正しても彼女は考えを曲げないだろう。
「ふーむ、まあ本人が許可しているのを断るのもおかしな話だしな。分かったよ。これから暫くよろしく、凪」
「はい!」
「早速で悪いけど、ちょっと飲み物取ってきてくれないか? 喉が渇いちまった」
「すぐにお持ちします」
「ゆっくりでいいよ」
飲み物を取りに凪が部屋を出てすぐ、龍見は貂蝉へとテレパスを送った。
『数日ぶりねぇ。もしかしてもう浮気しちゃった?』
「簡潔に用件を伝える。馬鹿道士二人が逃げ出した可能性がある」
『根拠は?』
「催眠に掛かった市民に襲われた。残留魔力は于吉のそれだ」
『分かったわぁん。すぐに調べてあげる』
「ああ」
贔屓ッッ!! 圧倒的凪贔屓ッッッ!!!!
龍見君刺されましたね。ロリコンに制裁を…………えっ? 俺も?
この小説は作者の欲望と妄想と我が儘で成り立っております。