彼女はいないけどリア充が楽しかったんです。
暗い夜道を流琉は一人で歩いていた。ついつい買い物に夢中になってしまい、時間を忘れていたのだ。夜道に少女が一人となれば暴漢などが定番だが、生憎と流琉は牛すらも投げ飛ばせる豪腕の持ち主。並の暴漢など相手にもならない。暴漢ならば…………
「明日の朝食は何を作ろうかな。兄様と龍見さんに洋食というのを教えてもらってもいいかも」
余程良い食材を買ったのかウキウキ気分で歩く流琉だったが、背後に感じた事もない悪寒を感じた。足音も気配もない。しかし確実に何かが存在するという悪寒。早歩きをしてもゆっくり歩いても一定の感覚を保って着いてくる悪寒に対し、流琉は意を決して振り返った。
「!!? キャアァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!?!?」
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朝から金属のぶつかる音が響く。龍見と一刀が軽く手合わせをしているのだ。どちらの武器も刃引きしてあるとはいえ、使用しているのは真剣だ。
「有段者の実力はその程度か?」
「ちょっ、速っ!?」
「伊達に呂布や張遼に鍛えられてねぇよ!」
一刀もたまに春蘭達と手合わせするものの、手加減をされている状態だ。対する龍見は術を多用する手合わせながら、かなり実戦に近い戦いをしている。
完全に押されていた一刀は勝負に出るため大振りの攻撃をしようとしたが、その隙が見逃されるはずもなく、頭にハイキックが直撃する羽目になった。
「おおっと、ごめんごめん。大丈夫か?」
「いって~…………龍見さん、強すぎません? 術で強化とかしてるでしょう」
「一刀君にそこまでしねぇよ」
「俺の評価しょぼ……………………」
「落ち込むなって。はい、水」
「すみません。そういえば最近幽霊が出るって話があるじゃないですか」
「おお、よく聞くな」
ここ数日、謎の幽霊の噂が広まっていた。流行りの怪談程度と考えられていたが、どうにも実害まで出ているらしい。
「昨日流琉が幽霊を見たって俺の部屋に駆け込んで来まして、その時は宥めたんですけど、まだ落ち着かないようなんです。だから流琉のために幽霊退治をしてくれませんか?」
「うーん、そっちは専門外なんだけどな。それに実害が出てるとか言われてるけど、どんな被害か分かってねぇんだろ。そっちも噂じゃねぇの?」
「残念ながら事実よ」
「よう桂花さん。わざわざオレ達に話し掛けるなんて珍しいな」
「華琳様があんたを探しているのよ。幽霊と流琉の事だから北郷も一応来なさい」
「分かったよ」
どうせ幽霊なんてたかが知れていると考えながら華琳のところへやってきた龍見一行だが、部屋の前で龍見がピタリと動きを止めて大きな溜め息をついた。
「何よ突然。華琳様の部屋に入るのがそんなに嫌? なら入らなくていいわよ」
「んなわけないだろ。ただ幽霊の正体が分かっちまっただけ。なんでこの世界に迷い混んだんだよチキショー」
「それってつまり、本来はこの世界にいるはずのない幽霊なんですか?」
「そもそも幽霊じゃねぇ。華琳さん、お待たせした」
「入りなさい」
入室を許可されてから龍見はすぐに部屋に入らず、軽く壁を撫でてから入った。中では華琳と何かに怯える流琉、そんな流琉に付き添う季衣がいた。龍見が入ると流琉は不思議そうに部屋をキョロキョロと見回していた。
「大丈夫か流琉ちゃん。たぶんもう聞こえないとは思うが」
「龍見さんがやってくれたんですか?」
「流琉、もしかしてさっきまで言っていた声が聞こえなくなったの?」
「はい、そうです」
「黒の兄ちゃん何したの?」
「軽く結界を張った」
「結界なら華琳様が張っていたはずよ」
「あれじゃ足りん」
一刀だけ何の事かちんぷんかんぷんだが、今だけでも流琉は大丈夫なのだろうと察する事はできた。そんな一刀を放置して話はどんどんと進んでいく。
「流琉ちゃんも厄介なものに狙われたな。華琳さん、今回出ている幽霊の被害は神隠しで間違いないか?」
「そうよ。幽霊を見た者が次々と消えていっているの。正体を知っているなら教えてくれないかしら」
「分かっている。まずそいつは幽霊じゃない。妖怪の類いだ。その巨体からこっちじゃ八尺様って呼ばれている」
「八尺様!? あの都市伝説の!?」
それなりに有名な都市伝説の名に思わず反応してしまう一刀。ただの怖い話程度にしか思っていなかった彼には衝撃的だったかもしれない。
八尺様。八尺はありそうな身長からその名が付いたと言われる都市伝説。一般的には大きな帽子に黒い長髪、白いワンピースを着た女性の姿をしているとされ、ポポポという特徴的な声を出す。
「流琉ちゃんが聞いたのはポポポって声だろ? いつから聞こえているんだ?」
「昨晩、その幽霊を見てからです」
「完全に見入られているな。こりゃ困った」
「私、どうなっちゃうんですか?」
「今のままだと」
ーードガァンッ
まるで爆発でも起こったかのような音を立てて扉が破られた。全員が身構える中、飛び込んできたのは酷く動揺した春蘭だった。
「か、か、華琳しゃま!!」
「はぁ、どうしたの春蘭。そんなに慌ててはみっともないわよ」
「そ、外に件の幽霊が!!」
「その幽霊ってのはお前の後ろに立っている奴か?」
「はっ? うわあぁぁぁぁっ!!?」
振り返った春蘭の後ろには大きな帽子を被り、白いワンピースを着た巨大な女性の姿があった。背丈はその名が示すように八尺ほど。そしてポポポと呟いていた。
後ずさる春蘭を追い掛けるように部屋に入ろうとした八尺様だが、部屋の前で立ち止まって動こうとしない。
「ど、どうしたというのだ?」
「結界が張ってあるから入るに入れないんだ。今はお帰り願おうか。流琉ちゃんも怯えちまってるからな」
龍見は目の前で両手を合わせると、合掌と言って軽く手を叩いた。それだけの行為だったのだが、八尺様はまるで最初から居なかったかのように消え去ってしまった。
「これで良し。結界を突破しようとしてやがったな。早すぎるが今晩辺りが山か」
「た、龍見さん…………」
「心配か? 大丈夫、オレは人間の相手をするより怪物の相手をするのが得意なんだ。それに八尺とは五戦して五勝だしな」
「八尺様って、そんなに数いるもんなんですか?」
「いるいる。片田舎に行ったらわんさかいるぞ。さあ準備するか」
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夜になり辺りが静まり返った頃、流琉は一人で部屋にいた。
たった一人で朝まで待て。それまで外に出てはいけないし、何が聞こえても扉を開けるのは許されない。開けるのは外から誰かが開ける。こう龍見に命じられてしまったのだ。
暗い室内で蝋燭の灯りだけが揺れている。一晩何があってもいいように日用品の準備されている。水を一口飲んで心を落ち着かせた流琉が横目で見たのは部屋の四隅に盛られた塩。龍見曰く、何かあればこれに変化が起こるらしいが、今のところは何ともない。
龍見達が外で自分を守るために何かしているという事以外は何をしているのかは分からない。待っている事しか出来ない流琉はもしものために武器の手入れを始めた。まだ塩に変化はない。
ーーカタッ
風でも起こったのか窓が少し揺れた。寒気を感じるものの、自分に大丈夫だと言い聞かせる流琉。だがそれで安心しようとしたのも束の間、凄まじい勢いで扉が叩かれた。
今にも誰かが壊さんとばかりにドンドンドンと叩かれる扉。思わず後退りする流琉の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「流琉! 開けて! 早くここから逃げて!!」
「季衣? どうしたの季衣!?」
「黒の兄ちゃんが八尺様ってのに負けて、みんなもう………あっ、こ、こっち来るなぁ!!」
「季衣っ!!」
外に飛び出そうとした流琉の視界の端に山盛りの塩が映る。先程まで真っ白だったそれは真逆の黒へと染まっていた。それを見て思い出す。何が聞こえても扉を開けるのは許されない。開けるのは誰かが外から開ける。
これは流琉のみに言われた事ではなく、みんながいる前で伝えられた事だ。もし季衣がそれを忘れていたとしても、彼女ならば緊急時に自らが扉を破ってでも流琉を連れ出すはず。この扉程度なら季衣の力で簡単に破れてしまうのだ。
「ほ、本当に季衣? ならそっちから開けて!! 一緒にここに隠れて!!」
「ま、間に合わないよ!」
「早く!」
何度入ってくるよう促しても季衣と思わしき声は流琉に外に出るよう言うばかり。そのうちその声も聞こえなくなってしまった。もし本物の季衣だったとしたら、そんな考えが流琉の頭をよぎる。
「よく我慢した」
そんな流琉の不安はこの一言で吹き飛ばされた。
「龍見さん! 無事なんですね!」
「当然。流琉もよく八尺の誘惑に耐えたな。偉いぞ」
「じゃあやっぱりさっきのは」
「何が聞こえていたのかは知らないが、八尺の仕業だ。今扉を開けるからな」
ゆっくりと開かれる扉。眩しい光が流琉の目に差し込む。気付かないうちに夜が明けてしまっていたらしい。扉の先には小瓶を持った龍見が立っており、流琉の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「怖かったろ。でももう安心だ」
「はい! あの、その瓶は?」
「ん? これか。よく見てみ」
少し震えている半透明な瓶をよく見ると、非常に小さくなった八尺様が暴れていた。流琉はヒエッと悲鳴をあげて飛び退く。
「ははは、安心していいぞ。封印したから害はない」
「ど、どうするんですかそれ」
「この後供養だな。悪鬼羅刹の類だからしっかりと処理はしねぇとな」
「そうして下さい。ふぁ~………」
夜が明けるまで寝ずに耐えていたのだ。一気に眠気が襲ってきた流琉は大きな欠伸をした。
「朝までご苦労様。華琳さんには言っておくからゆっくり寝とけ」
「ふぁい………」
フラフラとしながら布団に倒れこんだ流琉はすぐに深い眠りに入っていった。ほぼ二日ろくに眠れていなかった流琉が目を覚ますと翌朝になっていた。それもあってか八尺様に狙われた事を夢のように感じていた流琉であったが………………
「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!? 何で私の部屋にあの瓶があるんですかぁっ!!?」
「記念にいるかなって」
「いりませんよ龍見さんの馬鹿ぁっ!!」
ホラーしてないホラー。
龍見は対人戦よりも対怪物の方が得意です。もし戦闘描写を入れてもただの虐めになるくらいに得意です。
次はR-18かなぁ。