「五斗米道オォォォォォッッ!!! げ・ん・き・に・なれえぇぇぇぇぇッッ!!!!!!」
名も無き小さな村に響き渡る轟音。否、声。とても信じられた事ではないが、そこでは医療行為が行われていた。
「治療完了だ」
「おお、足が動く。これで仕事にも戻れるぞ! ありがとうございます! 華佗様!」
「いや、医師として当然の事をしたまでさ」
「華佗様、宜しければこの村に滞在して下さらぬか? 見ての通り老人の多い村。今回のように若者が病気なればとてもとても生きてはいけませぬ」
「申し訳ない村長。世界のどこかにはまだ俺の五斗米道を必要としている人がいる。それに会わなくてはいけない人がいるんだ」
華佗と呼ばれた橙色の髪をした青年は治療した男性にしばらくは激しい動きはしないように忠告してから村を出た。少ない手荷物を持った彼は馬を走らせる。目的地は魏。そこに彼が求める人がいる。
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龍見が魏で過ごす日数も残り一週間を切った。それに伴い自然と近づくのが恋の出産予定日だ。
「貂蝉、恋の様子は?」
『龍見ちゃん…………昨日も聞いたばかりじゃない。変わらず元気よ』
「ならいいんだ。聞かないと心配でな。早く恋と直接話したいもんだがなぁ」
『今は同盟優先よ』
「ああ、分かっている」
テレパスを切った龍見は色々と考え込む。もしも以前蜀から魏へ直接向かうよう言われたように、今度は呉へ直接向かうようになってしまったらどうなってしまうのか。間違いなく同盟優先で呉へ向かわざるおえない。そうなると恋の出産に立ち会えない可能性が高い。
自分にとっても恋にとっても初めての子。しかも現在の董卓軍には出産経験者がいない。恋の不安を取り除くのも夫としての役割なのにそれが出来ないかもしれない。
「華琳に頼み込んで……いやそれこそ同盟を優先するという指示から外れるな」
ーーワーワー!ツカマエロー!
「ここは一刀君に頼んで華琳を説得してもらうか。他人を介せばなんとか…………」
ーーマテーシンニュウシャー!
「でも下手したらヤバイしなぁ。ぶっちゃけオレが恋に会いたいだけだし…………」
ーーレンコウシロー!
「うるせぇな!!」
外から聞こえてきた騒ぎ声。誰かが城へと侵入したのに間違いはないだろう。こんな所に勝手に入ればどうなるかは分かっているはず。軽いお仕置きではすまされない。まあ龍見にとってはどうでもいい事なのだが、数刻後龍見は呼び出しを食らう事となる。
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「秋蘭、何でオレ呼び出されたんだ?」
「侵入者がお前に会わせろと五月蝿いからだ。何故お前を指名したのかまでは知らん」
わざわざ自分に会うために侵入してきたのかと呆れる龍見。別に龍見に出会うのは難しい事ではない。毎朝街をランニングしているのだ。それに話し掛けられればちゃんと応える。侵入者がそれを知らないという事は余程急いでいたか、普段魏で生活していないという事になる。
「華琳様、龍見を連れてきました」
「お疲れ様。龍見、早くこの男の最後の言葉を聞いてやりなさい」
「随分苛立ってるな。何かあったか?」
普段は気持ちを態度に出す事の少ない華琳が珍しく苛立ちを表に出している。対して牢の中の男は龍見が来た事にとても満足げであった。
「ようやく会えたな! 貴方が馬淵龍見か! 牢屋にぶちこまれた時はどうしようかと」
「ここは結構な悪人が入れられる場所だぞ。何したんだあんた」
「曹操の体内に病魔があると伝えたら何故かここにな」
「侵入した上に人を病気扱いかよ。情状酌量の余地ねぇな」
「扱いではない! 事実だ!」
妄言と断言するには男の目はあまりに真剣だった。だが見た目に変化が現れる病気でもない限り、見ただけで人を病気と判断するのは不可能。しかもこの男は体内と言った。
「ん? 体内なんだよな。お前、透視か何かでも使えるのか?」
「そのような呪術は使えないが、病魔を視るくらいはできる」
「…………ちょっとこっちに顔近付けろ」
男は言われた通りに格子に顔を近付ける。龍見はその男の顔の前に手をかざした。約一分後、龍見は納得したように手を離す。
「華琳、こいつの言ってる事はたぶん本当だ」
「はぁ? まさかこの妄言を信じるというの?」
「信じるさ。こいつ魔眼持ちだ」
「「「魔眼?」」」
何故か持ち主であるはずの男ですら首をかしげる。
「なんであんたも不思議そうなのよ」
「まあまあ、魔眼の持ち主は自覚症状のない事が多いからな。華琳だってもし生まれてからずっと空が赤く見えていたら指摘されるまで疑問にだって感じないだろ。魔眼持ちは生まれてからずっとその光景が当たり前なんだ。こいつにとっては人の病気が見える光景がな」
魔眼持ちは常に眼から微弱な魔力を発している。大気中の魔力よりも薄いものだが、指向性があるために分かる人間が調べればすぐに分かるものだ。ただ龍見のように魔眼か調べただけで効果まで把握する人間は少ない。
「ではここから出られるのか」
「馬鹿を言うなよ。貴様はここに無断で侵入したのだ。それに華琳様の病気が事実として、貴様に何が出来る」
「俺は医者だ! 彼女の病魔程度一瞬で退散させてやろう!」
「確かにその魔眼なら医者としてやっていくのは難しくねぇかもしれねぇけど」
「いいわよ。やってみなさい」
「華琳様!?」
「秋蘭、私の決定よ。それと貴方、龍見に用があるのよね」
「その通りだ」
「もし失敗したら即座にこの国を出ていってもらうわ。そして龍見に会う事は許さない。いいわね」
男は余程の自信があるのか不敵な笑みを浮かべた。華琳の指示で魏の将の全員が集められた。出ていってもらうなどと言っておきながら、生かして帰すつもりがないのが見てとれる。
「ではそこにうつ伏せになってくれ」
男は懐から小さな針を取り出す。針治療だろうというのは分かったが、小さくても武器になるもの。何があってもいいように各々武器に手をかける。
「全力全快ッッ!!! 五斗米」
「五月蝿いわね!!」
ーーゲシッ
「あいたっ!? 何をする!!」
「それはこっちの言葉よ!! どうして治療で叫ぶのよ!!」
「? 気合いを入れなければ病魔退散など不可能だろ」
「…………真桜、何か耳塞ぐものを」
「はいはーい」
この男に叫ぶなと命ずるのは不可能だと判断した華琳は真桜から受け取った耳栓を付けてうつ伏せになる。
「では改めて…………五斗米道ォォォォォォォッッッッ!!!! げ・ん・き・に・なあぁれえぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
声のわりに丁寧に針さ刺される。先が少し刺さっている程度だ。しかし華琳は自身の変化にすぐに気が付いた。
「軽い? 気と魔力の流れが良くなった?」
「うむ、治療完了だ」
起き上がった華琳は調子を確認するように腕を回したり、軽い術を試していた。明らかに調子がいい。自身でも気が付かなかった病気が自身の動きを阻害していたらしい。
「これで馬淵龍見の弟子になれるのだな」
「…………いやおい。そんな話聞いてねぇぞ」
「まだ言っていなかったか? 俺は元々弟子になるために来たのだ。そういえば名も名乗っていなかったか。俺は華佗。師匠! これからよろしくお願いする!」