龍見が三国志的な世界にやってきて早一ヶ月が経とうとしていた。この間に龍見にはいくつかの仕事が課せられてきた。
詠や音々音の手伝いとしての内政。これは課長のパワハラという苦行があったために苦になる仕事ではなかった。
街の警備に兵の鍛練。警備といっても民の事を優先する月が治める土地だけあり、大きな犯罪は滅多に起こらないし、兵の鍛練もネクロマンシーによる死霊兵を使って龍見が何かをするという事はなかった。
一番の仕事は恐らくこれになるだろう。術者の発掘だ。龍見ほどでなくても何かしら術を使える人材が増えるのは龍見にとっても助かる。この新しい術者だが、意外と見つかる。時代がそういうものを受け入れていた時期だからかもしれない。しかし見つかった術者の殆どが僅かに火を起こしたり、水を出したり出来る程度と大した事は出来なかった。その中で唯一優秀と呼べたのは詠であった。
「まさか五行を全て使えるようになるとは。オレの10分の1程度だけど凄いぞ」
「誉められてるようには感じないわね」
「いやいや、一代目なのに大したもんだって。今後鍛え続ければ月を守るのだって出来るさ」
「そうかな」
「そうだって。そろそろ警備の時間だから行ってくる。反復練習忘れんなよ」
詠に自習を命じた龍見は自室でスーツに着替えて外に出た。この世界で天の御使いとして見られるためにも城の中以外ではスーツ姿で居るように言われているのだ。ちなみに先に曹操の元へやってきた御使いは白い服らしく、白の御使い。龍見は黒いスーツなので黒の御使いと呼ばれているようだ。
「待たせたか霞」
「全然。時間ぴったしや」
「社会人ならぴったしじゃ駄目なんだろうけどな。ま、いいか。さてどこから見て回る?」
「どこも変わらへんやろ。あっても食い逃げくらいやし」
「違いねぇ」
始める前から仕事が終わったような雰囲気を出している二人の元に、一人の若い兵が駆け寄ってきた。明らかに普通の様子ではない。
「ほ、報告致します! 西の村が山賊によって壊滅したとの事です!」
「何だって!?」
「その情報どっから仕入れたんや?」
「西の村の青年が。しかし逃げる際に毒矢を受けたようでして、最後の気力を振り絞り情報を…………」
「死んだのか?」
「い、いえ。しかし医師の判断ではもう間に合わないと」
「霞、月達に報告頼む。オレは青年を治してくる」
「いけるんか?」
「やれるだけやってみるさ。何処に居る?」
「こちらです!!」
兵に連れられてやってきた医院では傷だらけの青年が寝かされていた。顔色は青白く、呼吸も弱い。素人が見ても残り短い命だというのが分かるほどだ。しかし龍見は慌てない。静かに青年の胸元に手を当て、呪文を唱え始めた。
「浄化の光、彼の者を癒したまえ。アンチドート」
「おぉ…………なんと美しい光だ」
龍見の手が輝き、その光は青年の体を包み込む。すると青年の顔色はみるみるうちに回復していった。
「これで良し。傷とかはあんま深くなさそうだし、本職にまかせっか」
「流石天の御使い様です」
「よせやい。じゃあ城に戻るか。お前さんはこいつと暫く一緒に居てやってくれ。もし何かあってもすぐにオレを呼べるようにな」
「承知致しました!」
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龍見が城に戻るとすぐに会議が始められた。普段こういうものはサボるか寝ているかの恋も珍しく真面目に参加している。
「西の村の壊滅とはまた面倒な事になったわね」
「西の村と言えば林業が盛んなところなのです。この地域一帯がお世話になっていたはずなのです」
「あっちの山。恋の友達が住んでる」
「友達? ああ、動物か。そりゃ心配だな」
「山賊言うてたし、そこの山かもしれへんで」
「月、指示を」
「…………こんな事見過ごせません。恋さん、ねねちゃん、龍見さん。三人で部隊を組んで村の奪還を」
「あれ、うちは?」
「この街の戦力を空には出来ませんから、今回はお留守番をお願いします」
「うーん、しゃーないか」
「では出陣して下さい」
月の指示を受けた三人は早々に西の村へと出発した。距離としては馬を全力で走らせて半日ほど。青年がやってきた時間も考えると、山賊の襲撃から約一日後に村に着く事となる。今回が初の戦場となる龍見はかなり緊張していた。緊張しすぎて馬に乗れず落ちるくらいに緊張していた。
「…………レビテーション。このまま引っ張っていってくれ」
「浮けるのですか」
「少しだけだし、浮く以外は何も出来んけどな」
「行く」
「頼む」
まるで風船のように引っ張られていく龍見。恋が全く気にする事なく馬を走らせるので激しく揺れている。音々音はそれを見てクスクスと笑っていた。
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半日後、村に到着するとそこは惨状が広がっていた。むせかえるような血の臭い。逃げ遅れた村人達の死体の山。荒らされた家々。恋達はまだ慣れたものだが、このような現場は初めて見る龍見は胃の中のものを吐き出したくて仕方がなかった。
「ひでぇ…………ここまでやるかよ」
「目的は食糧でしょうか?」
「…………女の人、居ない」
「! 確かに、若い女性の死体はないな…………嫌な予感しかしねぇ」
「恐らくその予感は当たりなのです。山賊の根城を早く見付けなければ…………」
「手掛かりならある」
「えっ?」
龍見は近くにあった男の死体に近付いていった。その死体の手には鎌が握られており、最後まで抵抗したのが窺える。
「あんたの抵抗。無駄にはしねぇ」
鎌には山賊を切った時に付着したと思われる血が残っていた。すっかり乾いたそれを龍見は削り取り、水に溶かして紙に塗り付けた。そして呪文を唱えると、なんと紙は宙に浮き、何処かへ向かって飛び始めたのだ。
「帰還の術、成功。追うぞ。あの紙が向かう先が山賊のアジトだ」
「は、はい!」
紙はどんどんと進んでいき、恋の友である動物達が住む森へと入っていった。恋は動物達が心配で何度か離れて様子を見に行こうとしていたが、その度に音々音に止められていた。
約二時間後。辺りはすっかりと暗くなったが、山賊のアジトに到着した。龍見は死霊の兵団を召喚し、他は全員武器を構えている。
「見張りが居ないのです」
「罠があるんじゃないか?」
「たぶん無い。あっても恋が壊す」
「用心するに越した事はねぇ。行け」
一体の死霊兵を龍見がアジト前まで向かわせるが、罠どころか人が出てくる気配すらない。
「根城を変えたのでしょうか?」
「それは無いな。帰還の術は持ち主の元へ必ず帰る術だ。移動したなら新しいアジトに向かう。恐らく、村を壊滅させた宴会か。拐った女でお楽しみか」
「どっちでもいい。罠が無いなら突撃する」
「恋に賛成だ! やるぞ!」
『オォッ!!』
決して大きいとは言えない入り口に多くの部隊がなだれ込む。アジトの奥では山賊達が奪った食糧を貪り、女達を犯そうとしている最中であった。
「な、と、董卓軍!?」
「ラッキー! まだ誰も犯されてねぇな!」
「畜生! こんなのが来るなら大仕事したからって眠らずに、女で遊んでやれば良かった!!
「もう駄目だ、おしまいだぁ」
「馬鹿野郎! いくら相手が軍でも地の理はこっちにあるんだ!! 野郎共、返り討ちに」
「煩い」
ーーザンッ
恋の戟が山賊の頭を真っ二つに切り裂いた。そして山賊達はまさかの呂布の出現と頭を失った事により混乱していた。ここからはもう一方的な虐殺である。狭いアジト内は山賊の血で真っ赤に染まる。なんとか外に逃げ出した山賊も外に待機していた部隊によって完膚なきまでに殲滅された。
「ウップ、吐きそ…………」
「し、死ねぇい!!」
「結界」
「か…………から、だ…………が…………」
ーーザシュッ
「これで、終わり」
「目の前で内臓飛び散らせないでくれ。ウエッ」
「友達」
「見てこい見てこい。こっちはこっちで処理しとく」
「ありがと」
この後、助けられた女性達となんとか別方面に逃げていた村人の生き残りは洛陽にて保護を受ける事となった。恋の友も無事は確認された。
レビテーション
1mくらい浮く
帰還の術
物を持ち主の場所へ帰す術。物が持ち主にとって身近であればあるほどに効果は増す。