皆さんあけましておめでとうございます。
今日も龍見の朝は早い。呉に来てからは一段と早起きになっていた。その理由は………………
ーーニャーニャー
「今日はまた随分と多いな。マロ、お前が誘ったのか?」
「………………」
「沈黙は肯定と見なすぞ。ったく、少し餌付けしたら調子に乗りやがって」
猫である。それも十数匹はいる。呉はどうやら野良猫が多いらしく、恋と一緒に動物の世話をしていたのを思い出して少し餌付けをしたら大量に集まってしまったのだ。
「チビ、食い過ぎ。他のにも譲ってやれ。タマ、周りを押し退けるんじゃない。ブチは遠慮せずに食え」
無論誰かから許可を得たわけではないが、この時代は別に餌付けを禁止する法律があるわけでもないので遠慮なく餌付けをしていた。何よりこうして動物と触れ合っていると意外と人との交流も多くなる。
「………………何故いつも馬淵様の周りだけお猫様が集まるのですか」
「体質だと何度も言ってるだろ。周泰ちゃんだって好かれてる方だぞ」
「むむむ」
「まーぶーちっ!!」
龍見の背後から孫尚香が飛び付いてきた。その程度では龍見はぐらつきもしない。
「こーら、突然抱きついてきたら危ないだろ」
「えへへ、ごめんね」
「しゃ、小蓮様!! 男に抱きつくなどはしたないですよ!!」
「明命は固いんだからぁ。別にこれくらいいいじゃん。それより馬淵、お姉ちゃんが探してたよ」
「孫権さんか? よし分かった。案内頼むよ。よいしょ」
「キャー、たかーい!」
「何をしているのですか!」
「肩車だよ。しゅっぱーつ」
「しゅっぱーつ!」
ーーーーーーーーー
城の敷地内にある広場に孫権はいた。甘寧と訓練をしていたようで、その手には剣が握られていた。
「お姉ちゃん! 馬淵連れてきたよ」
「ご苦労様、ってなんで乗っているのよ。降りなさい」
「はーい。馬淵、降ろして」
「あいよっと。孫権さん、今回は何の用ですか?」
「手合わせをしてもらうわ」
孫権は剣の才能はあるものの、実力は未だ発展途上。普段は甘寧に相手をしてもらっているものの、明らかに手加減をされている。孫権自身もその様子に無意識で遠慮してしまっているところがあった。だが龍見ならば実力も孫権と比較的近いとの話だ。ちょうど訓練の相手としてはいいと判断されたのだ。
「いいですよ。早速やりますか?」
「すぐでいいの?」
「もちろん」
愛用の短刀を抜いて構える龍見の目に飛び込んできたのは凄まじい速さで突きを繰り出す孫権の姿だった。何とか短刀を挟み込んで即死は免れたものの、短刀が弾かれて丸腰となる。
明らかに人を殺す一撃に何があったのかと驚きを隠せない龍見は孫権の考えを知るべく彼女の表情を見た。だがそこから分かったのは龍見以上の驚きと痛みからくる苦痛の表情だった。
「う、ぐっ………………なんで!? か、らだが、勝手に!?」
孫権自信の意識ははっきりとある。洗脳の類いではない。それに洗脳ならば恋並みの速度や力は引き出せない。
「肉体を無理矢理操ってやがるのか! 解呪(ディスペル)!!」
「避けて!!!」
「オレが、失敗!?」
様々な術に精通している龍見が解呪を失敗するなど初めての経験だった。その動揺は相当のもので孫権の警告すら聞こえておらず、反応が遅れた。
ーーザシュッ ゴキャッ
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!? つう、かく………切断!」
回避するために横に跳んだが、間に合わずに右足を切断された。凄まじい激痛に悲鳴を上げるものの、すぐに痛覚を停止させる事によって何とか気絶だけは逃れた。
足が切断される音と同時に聞こえてきたのは何かが折れる音。龍見の肉体から聞こえたものではない。無理矢理限界以上の動きをさせられた孫権の肉体が耐えられず、骨が折れたのだ。それでいてなお暴走が止められる事はない。足を失い倒れた龍見へ凶刃が降り下ろされる。
「く、そ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「きゃあっ!?」
動く左足を何とか使い、孫権へと飛び掛かり、そのまま押し倒す。暴れてとても近寄れなかった孫権の動きが僅かの時間だが止められたのだ。
「! よくやった馬淵! 明命、蓮華様を押さえ込むぞ!!」
「はい!!」
「来るな!!!!」
孫権の動きを完全に止めるべく甘寧と周泰が動こうとするが、何故か龍見によって制止される。どうにかして止める手段があるのかと思えば、容易に拘束から抜け出され、孫権の両手は龍見の首を掴み、そのままへし折った。
「い、や………いやいやいやーーーー!!」
自身の意思で操る事が不可能になった肉体だが、感覚はそのままだ。自身の骨が折れた苦痛も感じたし、龍見の足を斬り、首をへし折った感覚もしっかりと伝わってきた。そして今なお折れた首を引き千切ろうとしている感覚も。孫権は目の前の光景から目を背けるため瞼を閉じ、嫌な音から逃れるために叫んだ。すぐに手から感じる感覚はなくなった。きっと首を千切り終えたのだと思い、僅かに目を開けた孫権の見たものは想定外にも程がある光景だった。
「孫権さん、すぐに助けてやる。だから、少しの間我慢してくれ」
「な、なんで? 今確かに死、きゃあぁぁぁっ!!!?」
目の前に殺してしまった龍見が立っていた。何が起こったのか尋ねる前に再び肉体が暴走を始める。高速の斬撃が飛び交うが、龍見はそれを全ていなしたのだ。
「冷静になれば単純過ぎて避けやすいぜ。孫権さん、ほんの少しですが痛いですよ。エレキコントロール!!」
「いっ………………あ、う、動か………………」
龍見の右手が帯電し、暴れまわる孫権に少し触れると痺れる痛みが孫権の全身に走った。それと同時に暴走をしていた肉体が完全に止まったのだ。肉体が無理矢理動き出そうとする感覚はあるが、指先一つ動かない。そんな孫権の背後へ素早く回り込んだ龍見は孫権のうなじへと手を伸ばした。何かが抜き取られる感覚を孫権は覚えた。
「これが犯人か。解呪が効かないわけだ」
ーーパンッ
龍見の指先には小さな糸のようなものが摘ままれていた。動きがある事から生きているのが分かる。龍見が少し力を込めると軽い破裂音と共にその生き物は消失した。
「………………はっ! 蓮華様!! ご無事ですか!?」
「お姉ちゃん大丈夫!? もう暴れない!?」
「蓮華様! 腕は大丈夫なのですか!?」
現実離れした光景に唖然としていた甘寧達が孫権へと駆け寄ってくる。
「ありがとう、みんな。もう何かに操られていないみたい。折れた腕も痛みは………折れてない………? 馬淵が生き返った事といい、馬淵、何をした………………の………………? 馬淵、どうして倒れているの?」
先程まで立っていたはずの龍見が地面へと倒れ伏していた。全く動く様子がなく、孫権達が心配して近寄るとビクンと痙攣するように一度動き、口から大量の血と嘔吐物を吐き出した。
「ゴホッ!? オエェェェッ!!?」
「馬淵!?」
「しっかりとしろ!! 明命! 医学に詳しいものを呼べ!! すぐにだ!!」
「はい!!!」
龍見の意識は既になく、それでも内臓すらも吐き出さんというばかりの勢いで嘔吐をしている。すぐに周泰が医師を連れてきたものの原因は分からず、嘔吐が完全に止まってから寝かされる事となった。以後丸二日、龍見が目を覚ます事はなかった。
新年早々殺される主人公。復活後も死にかける主人公。なんだこれは………たまげたなぁ。