「はぁ…………やっちまった…………」
「元気ないなぁ。どないしたん?」
「この似非関西人めぇ!!」
前日の温泉での出来事を思い出しては自己嫌悪に陥るというループを朝からしていた龍見の前に、恋にとんでもない事を教えた元凶の霞がなに食わぬ顔でやってきた。
何かを言葉にするよりも早くハイキックが飛んだが、張遼こと霞に当たるはずもない。
「何するん突然」
「恋に余計な事吹き込みやがって」
「あー、あれホンマにやったんか。どやった?」
「最高、って何言わせるんだこの馬鹿野郎!!」
「ええやん役得やん。それより大切な知らせやで。なんや黄巾党とかいうのの討伐隊を組むから参加せぇやて」
「黄巾党?」
その名を聞いた途端、龍見の当たらない攻撃がピタリと止まった。
黄巾党。黄巾の乱と呼ばれる三国志の始まりとも言える戦いを起こした農民集団。教祖張角の元に集い、反乱を起こした人々の総称だ。
「始まるのか」
「何がなん?」
「こっちの話だ」
遂に物語として有名な三国志の時代が始まるのだ。登場人物に差異はあれど、歴史的瞬間に立ち会っているのだと思うと、龍見も感慨深かったようだ。
「それでうちも参加するのか?」
「賈詡っちが決めるって。まず間違いなく参加するやろけどな」
「それは何故?」
「ここで不参加やったら、後で目の敵にされるかもしれんからやね」
「そうだな」
しかしこの黄巾の乱が終われば結局目の敵にされるのだ。ただしそれは龍見の知る一般的な三国志の話で、董卓が悪行をしたために目の敵にされたのだ。この世界の董卓、月が何か悪行をするとは考えられない。黄巾の乱の後に月が狙われる事は領地争いや天下争いを除いてないだろう。
「黄巾党の討伐にはもう一人の天の御使いは来るんだろうか」
「どうなんやろ。あっちはあんたと違って弱いって聞くし、来ないんとちゃう」
「折角だから会いたかったのになぁ…………」
同じように違う場所からやってきた人間に会えると思っていた龍見はかなり落ち込んだ。苦労を分かち合うことは出来ないらしい。
「いや、まだ来ないと決まったわけでもないしな。期待しておこう」
「前向きやね」
「まあな。って霞。てめぇに仕置きしなきゃなぁ」
「あ、忘れとらんかった。ほなまた」
「待てこの似非関西人めぇ!!!」
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龍見と霞の鬼ごっこは会議が始まるという兵士からの報告で中断された。黄巾党討伐についての方針が決まったとの事だ。
「あんた達、さっきから何してたのよ」
「この馬鹿女がとんでもない事しやがってな。仕置きしようとしてたんだ」
「仕置きという名の破廉恥な事されそうに」
ーーガツンッ
「あいたっ!?」
「黙れよ霞」
「はいはい、仲良しで結構。早く座って頂戴」
「「了解」」
全員が集まったのを確認すると月が口を開いた。
「ええと、今回の黄巾党討伐ですが…………龍見さんに参加してもらいます」
「上の命令に逆らう理由はないが、質問がある。参加するのはオレだけか?」
「違うわ。入ってきて」
「漸くか。待ちくたびれたぞ」
会議室へずかずか入ってきたのは短い銀髪が眩しい女性だ。恋や霞には劣るが、なかなかの実力者なのは龍見でも理解出来た。
「誰なん?」
「彼女は華雄よ。うちに仕官してきたのを雇ったの」
「華雄、ねぇ…………よろしく。天の御使いにされている馬淵龍見だ。この場じゃあんたより先輩だ。ある程度の指示には従ってもらう」
「まあいいだろう。だがお前が私より下と判断した時にはその限りではないぞ」
「はいはい」
華雄の言葉を軽く受け流し、龍見はこの後の戦いに向けて頭を切り替える。黄巾党には大して強力な将は居ないし、兵も大抵が農民だ。だがその数には注意が必要と言える。
そして黄巾党を束ねる張角は強力な妖術の使い手と記されている。龍見は現代日本では自分に勝る術者は居ないという自信はあるが、この時代では分からない。
とはいえこれらは全て登場人物が男ばかりな三国志の知識である。この世界でその知識がどれだけ通用するかが一番の悩みどころかもしれない。
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数日後、龍見と華雄は黄巾党討伐隊に加わった。かなりの実力を持つ武人が何人も居るが、例外なく女性だ。
「なんかさっきからこっち見られてないか?」
「貴様が天の御遣いだからだろう」
「それもそうか」
「貴方が黒の御遣い?」
「ん? 誰だあんたは」
これまで見ているだけだった人々の中から一人の少女が話しかけてきた。漫画でしか見たことのない金髪縦ロールに思わず目がいってしまった龍見だが、少女は思わぬところを指摘してきた。
「そう警戒しなくてもいいじゃない」
「警戒…………? あっ、すまん」
龍見は無意識のうちに護身用の短刀に手が行っていたことを謝罪した。少女はそれが意外だったのかクスリと笑った。
「ふふ、一刀に比べて戦士としての素質はかなりあるようね。貴方、名前は?」
「馬淵龍見だ。カズトってのは白の御遣いか? ならあんたは曹操軍の人間か」
「その通りよ。そちらにだけ自己紹介させるのも不公平ね。私は曹孟徳」
「! まさか本人とは。そっちの御遣いはこっちに居るのか?」
「居るわよ。会いたいかしら?」
「是非」
「おい馬淵。敵についていくのか?」
「華雄、敵なんて言うんじゃねぇ。今は同盟関係だ。割り切れ」
不満そうな華雄を抑え、曹操に着いていく龍見。同郷かもしれない人間に会える楽しみが龍見の気持ちを昂らせていた。
曹操軍の陣営に着いた時、パッと目についたのが、この世界では見ない光沢のある白い服を着た青年の姿だった。
「一刀、貴方に客人よ」
「俺に?」
「どうも白の御遣い君。まさか聖フランチェスカの学生とは思わなかったよ」
「えっ、貴方が黒の御遣い…………!?」
中途半端ですが、これ以上期間を空けるのも申し訳ないのでここまでです。