※この作品はR-18です。

あなたに捧ぐ恋の夢   作:雨期

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最終決戦始まります。


第五十七話

 まだ日も昇らない早朝。龍見はオフロードバイクのエンジンをふかしていた。そんな龍見の元へ貂蝉と卑弥呼が歩いてくる。

 

「龍見ちゃん、準備はいいのね?」

 

「万全だ。今なら何だってやれる気がするぜ」

 

「良き事た。今世界の命運はお主の手に掛かっておる。もしお主が敗れ、左慈が既に独立したこの世界を破滅させれば、正史にも影響が出かねぬ」

 

「任せろって。左慈をぶっ殺して必ず家族の元に戻る。だから、飛ばしてくれ」

 

 無言で頷く貂蝉と卑弥呼。二人が両手を地面へと叩き付けると魔法陣が龍見を中心に展開された。次の瞬間には龍見は空中に投げ出された。特に動揺する事なく着地するとバイクを発進させる。目の前には結界に包まれた四州の地が広がっている。バイクが龍見を乗せたまま結界を突破すると同時に無数の弾丸が襲い掛かってきた。

 

「障壁展開!!」

 

 しかし龍見が一歩早い。容易に弾丸の雨を防いだ龍見は一直線にバイクを走らせる。左慈の異質な魔力は前方から感じる。あまりに膨大なそれは遠くにありながらまるで真横に存在しているかのように錯覚を受けるほどだ。

 障壁を展開し、動く要塞となったバイクは元々四州の人々だったはずの白装束の人間を引き殺しながら突き進む。暗く、更に仲間が死んでいく状況でも確実に龍見を狙ってくる射撃は彼等が傀儡となっている何よりの証拠だ。

 

「少し五月蝿いぞ。解呪(ディスペル)!!」

 

 術式が解除かれた人々は次々と倒れていく。肉体的には生きていても魂のない彼等に待つのは死のみだ。そんな中、空を切る轟音が響いた。暗闇の中をいくつもの閃光が飛び交い、龍見へと向かってくる。

 

「ロケットランチャー、でいいよな? 戦車やヘリコプターは使えなくてもこういうのは使えるのか。だが甘いな。エアロランス!!」

 

ーードゴォォオオオッ

 

 空気の槍が弾頭を貫き、大爆発を起こす。銃弾もロケットランチャーも通じない。それでも彼等は同じ事を繰り返す。それしか出来ない。それしかプログラムされていないのだから。傀儡となった人々が障害にもならないと判断した龍見はどんどんと突き進んでいく。進むごとに左慈の魔力は大きくなっていく。

 左慈の正確な距離は分からないが、確実に近付いている。そう実感させる出来事は突然起こった。地響きが辺り一面に木霊する。

 

「成る程、そう来たか」

 

 目の前に聳え立つのは巨大なゴーレム。大きさが100mを越えているのも問題だが、更なる問題はゴーレムを構成する材質だ。貂蝉達の尽力によって使用不可能へと陥った戦車やヘリコプター。それらをくっつけてゴーレムとしていた。破壊は容易いが、そこにかかる労力は大きなものだし、戦車やヘリコプターに燃料や火薬が詰まっていた場合はロケットランチャーを迎撃した時とは比べ物にならない爆発が起こるだろう。

 

「やっべぇ!!」

 

 ゴーレムがその巨腕を振るう。巨体に似合わず素早い一撃はとてもバイクに乗ったままでは回避不可能だ。即座に龍見はバイクを乗り捨て、巨腕に飛び乗る。ゴーレムは龍見ごと腕を地面に叩き付けるが、既に龍見はそこにはいない。腕を駆け上がり、ゴーレム胸元辺りに手をかざした。

 

「潰れろ。グラビティ・プレス」

 

 鉄の兵器で造られたゴーレムは自身へと掛かる重力が増大したのに耐えきれず崩れ落ちていく。そんな鉄塊には案の定火薬が積まれていたらしく、落下したときに発生した火花に引火して巨大な爆発を起こす。

 

「チッ、やっちまったか。こんなところで使いたくはなかったが……呪文(スペル)刻印(スティグマ)解放!! 召喚・ケルベロス!!!」

 

 一瞬腕の刻印が輝くと、何処からともなく現れた三つ首の魔犬が龍見を咥えて爆発範囲から一瞬で離脱した。

 

「ケルちゃんよくやった! 偉いぞー!!」

 

「クゥーン♪」

 

「グルル♪」

 

「ハッハッハッ♪」

 

 龍見に撫でられてどの首もご満悦といったところか。地獄の番犬が主人以外になつくのも有り得ないのだが、龍見は例外らしい。龍見はケルベロスの背中に乗ると左慈の元へ走るように指示をした。ケルベロスはオフロードバイクとは比べ物にならない速度で荒れた道を駆けていく。

 

「あれか……」

 

 何もない荒れ地にポツンと城のような建物が建っている。防衛策として用意されていたらしい今では使い物にならない兵器の数々が転がっている。ケルベロスから降り城へと近付く龍見。罠のようなものは見当たらない。

 

「ワンッ!!!」

 

 ケルベロスが上空に向かって吼えた。それとほぼ同時に身震いするような殺気を感じた龍見は転がるようにその場を離れた。直後に流星のような何かが降ってきた。その衝撃波に龍見もケルベロスも吹き飛ばされる。

 

「マブ、チ……タツミィイイイイイイッッッッ!!!!!!!」

 

「くっ……左、慈か?」

 

 とても声とは思えない叫び。そして人の形をしているが、その左半身には人の顔が幾つも浮かび上がった異常な容姿。そして死に身近なケルベロスさえ後退りするほどの濃厚な死の匂い。喰った魂に呑まれ掛けている。だがそれでなお龍見を殺すという意思に変わりはない。

 

「グオォォォオオオオオッ!!!」

 

「グァッ!? イヌ、ガ、ウセロオォオオオオオッッ!!!!」

 

ーーボンッ

 

 飛び掛かったケルベロスは左慈の左腕を食い千切ったが、カウンター気味に入れられた左慈の右アッパーを腹部に食らい、大きな穴が空く。一瞬で生命の危機に陥ったケルベロスは冥府へと強制的に帰還した。ケルベロスはサキュバスやワイバーンといった龍見がこの世界で会った生物とは格の違う魔獣だ。それを人に近い存在が一撃など有り得てはならない。

 

「……ふぅ~、こいつはとんでもないな」

 

 だが龍見は慌てない。この程度ならばまだ想定の範囲内だ。大きく息を吐いて敵を見据える。左慈も隙を探しているのかジリジリと近寄ってくる。無くしたはずの左腕は再生を始めており、既に腕の形になっている。龍見はチラリと自身の腕を確認する。残っている呪文(スペル)刻印(スティグマ)は五つ。その全てが一撃必殺級の威力があるが、発動前に殺されては意味がない。

 

「行けっ!!!」

 

 龍見の号令と共に服の中から無数の毒虫が黒い波となって左慈へと襲い掛かる。それと同時に龍見が注射器を数本首筋に突き刺した。前日に飲んだ劇薬以上に強力な瞬間的なドーピング剤だ。

 左慈は蹴りの風圧だけで毒虫を全て消し去り、龍見へと肉薄すると頭、腹、脚の三ヶ所へほぼ同時に蹴りを叩き込む。

 

「ナ、ニ?」

 

 しかしそれは全て空振り。先程より数m後方で龍見は腕の刻印を輝かせていた。

 

「呪文(スペル)刻印(スティグマ)解放。サンシャインレイ、ファイア!!!」

 

 龍見の頭上に大きな光の球体が浮かぶ。何かまずいと本能で察した左慈だかもう遅い。そこから放たれたのは膨大な熱量を持った光。いくら左慈が速くとも秒速約三十万kmの光に叶うはずもなく、全身を呑まれ蒸発した。

 

「……勝った?」

 

 あまりに呆気ない結末。少し気の抜けた龍見の全身に痛みが走る。無理な薬品使用が今になって襲ってきたらしい。そちらに気をやった瞬間、龍見の右腕は消し飛んだ。

 

「ぐぎゃあぁぁあああっっっ!!?!?!?」

 

 噴き出す血液と右腕のあった部分から走る大きすぎる痛みに思わず叫んでしまう。だがその状態でも殺気を感じる事は出来た。逃げるように左手へと跳んだが、右脚も一部が削られてしまう。

 

「あ……はぁ、はぁ、ファイア、ハンド!!」

 

ーージュオォォォォォォッッ

 

 痛覚を切断し、血が滝のように流れ落ちる右の傷口を焼いて止血する。それが終わるとほぼ同時に龍見の頭は潰された。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 いつものような復活。だが今回は即座に動かなくては即死する。何とか顔を反らし死の踏みつけを避けた龍見は障壁で頭部を守る。やはりというべきか頭部に蹴りが入るが、何とか無事のようで転がりながら距離を取る。そして自身を蹴り飛ばしは存在が何者かを目視した。

 

「タ、ツ、ミイィィィ」

 

 それは、おそらくは左慈だろう。全身が焼け焦げ、皮膚はなく、骨と筋肉が剥き出しになっている。その上で先程のパワーとスピードだ。異常という他ない。

 

「て、めぇ……なんで生きて……」

 

「アァアアアァアァアアァアアアアッッッ!!!!!!」

 

 再び動き出す左慈。その速度は目にも映らないほど。龍見はそれでも左慈の心臓への一撃を回避した。半ば直感にも近かったが、人を殺すなら脳か心臓の二択が一番単純だ。だがおそらく次は避けれない。右腕はなく、右脚も削られている。機動力のない今、完璧に左慈の攻撃を避けるなど不可能だ。更に右腕の消滅と同時に右腕の刻印も失った。最も刻印があっても左慈復活の秘密が分からないうちは何をしても無駄だろう。

 

「最悪、のパターン……」

 

「シ、ネェェエエエエエエエッッッ!!!!!!」

 

「しょう、へき!!」

 

ーーゴキャッ

 

 避けられなくとも防御は出来る。障壁を展開し、左腕で防御を固める。頭部へ飛んできた蹴りは障壁で弱まったものの、左腕をへし折って龍見を吹き飛ばした。

 

「ゴハッ!! ウェッ、オエッ!!」

 

 復活と薬品によるドーピングが重なり血を吐き出す龍見。右腕の出血と合わせて既に致死量近い。それでも何とか立ち上がる。龍見の脳内に勝利という言葉は既に無くなっていた。だがただ一つ、生きて帰るという約束。それだけで、気力で立ち上がって逃走を始めた。ろくに動かない右脚を引き摺り、弱々しく亀のような速度で逃げる。出血多量で目は霞む。対する左慈は全身の再生が終わり、逃げる龍見に怒りを爆発させた。

 

「マブチィィ、タツミィィイイイイイイッッッッ!!!!!!」

 

 背後から感じる濃密な死。逃れる術なく受け入れるしかない。もう復活も不可能。それでも、それでも龍見は死にたくはなかった。

 

ーーザシュッ

 

 聞こえるはずもない斬撃の音が背後からした。

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