「はいそこ、その瓦礫はこっちへ持ってこい。そっちの穴埋めは注意しろよ」
決戦から十日ほど経って、今は各国が左慈によって滅ぼされた四州と南蛮の復興に務めていた。四州も南蛮も住んでいた民の殆どは魂を抜かれ生ける死人となってしまっていたが、ハデスの助力とマキナの巻き戻しもあり半分近い人は蘇生に成功した。
だが残り半分に関しては間に合わず死なせてしまった。その大量の死体はイシュタムが持っていった。本来そのような役目はないのだが、頑張った龍見へのご褒美らしい。
そんな龍見だが、現在は現場監督のような立場で指示を出し、土像(ゴーレム)を各地に配置して人員不足を解決しようとしている。ただ龍見本人は戦いで無理な服用をした薬の副作用によって脚が完全に動かなくなっていた。最低限動くまで半年、完治までは一年は掛かるようで今はもっぱら椅子に座っている。
「龍見! お水を持ってきたのじゃ!」
「ありがとう美羽。お前も疲れたろ。少し休むか?」
「うむ」
その言葉を待っていましたとばかりに龍見の膝の上に飛び乗る美羽。頭を胸元へ押し付けられたため龍見も思わず撫でてしまう。
「そっちの調子はどうだ?」
「それなりという感じじゃな。ただやはり人数は足りぬ」
「なら土像(ゴーレム)の数を増やそうか」
「あまり無理しては駄目じゃぞ? マキナに力を回しておると聞いたぞ」
「あんくらいは些細なもんだよ」
生まれたばかりのマキナに世界を見せてやりたいという龍見の考えで、マキナはずっと肉体の維持が行われている。その維持に掛かる魔力は龍見の魔力の半分とかなりのものだが、それでも龍見には数万の土像(ゴーレム)を維持するだけの余裕があった。
「では七乃にはそう伝えておこう」
「しかしなんだ、美羽が協力してくれるとは思わなかったな」
「仮にも我が姉である麗羽の土地じゃったからな……では妾はもう行くとしよう。あまり休むと怒られるのじゃ」
「ああ、気を付けてな……それと美羽、夜寂しかったらいつ来てもいいんだぞ」
「ば、馬鹿者!! このような場所で何を言うか!!」
「いいじゃねぇか。夫婦なんだから」
周りから見れば軽い冗談のようだが、本人としては至って真面目だ。龍見の脚が不自由になってからというもの、妻達は皆遠慮がちになってしまったのでなるべく龍見から誘うようにしている。脚は動かなくとも腰は動く、らしい。
『龍見、聞こえるわね? 増員を要求するわ』
『唐突だな華琳。まあいい、数は?』
『五千は欲しいわね』
『ったく、病人を労れよ。五千だな。すぐに用意する』
『自業自得だというのによく言えたものね。待っているわよ』
時折こうして増員の要求が入っては新たな土像(ゴーレム)を生み出して供給している。どの陣営にも術は指南したので土像(ゴーレム)程度なら生み出せるものの、精度や耐久性に関してはやはり龍見には届かず、結果として各陣営の術師が無理をするよりも龍見が各陣営に供給する方が効率が良くなっていた。
ものの数十分で大量の土像(ゴーレム)を生み出した龍見はそれを各地へと送り出す。龍見自身も移動のために土像(ゴーレム)に抱えあげられた。向かうは魏と呉が共同作業をしている地域だ。
「見えてきたな。なんか騒がしいけど、大丈夫か?」
「だーかーらー!! こっちの石材では加工に時間が掛かると言ってるじゃないの!! 陸遜、あんたのその無駄乳に詰まった栄養を少しは頭に回しなさい!!」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか荀彧さん! 私達の復興作業は民のためのものですよ! 彼らが安全に過ごせるようにするのは大切です!」
どうにも使う建材について争っているらしく、桂花は手早く建設を済ませる事のできる建材の使用を提案しており、穏は後々民が住んだ時に安全に過ごせるよう丈夫な建材の使用を提案しているらしい。
「あれ龍見、わざわざ来たのかい?」
「まあな。んで炎蓮、あれは放置するのか?」
「放置したら使うもんが決まらないだろ。ここはあんたに任せるよ」
「ったく、こういうのはお前や華琳の役目だろうに。華琳、お前はそれでいいのか?」
「下手に私達が口出しするよりも、中立の貴方が収めた方が二人とも納得するわ。頼んだわよ」
「へいへい。おーい、二人とも。そのくらいにしておけ」
「あっ、龍見。何しに来たのよ」
「龍見さーん! 荀彧さんが酷いんですよー!」
「はぁっ!? あんたが非効率な事言うからでしょ!!」
「それくらいにしておけって」
また言い争いを始めそうな二人を窘める。現状、どちらかの案を選ぶ事になりそうだが、龍見の考えは既に決まっていた。
「建材の話だったよな。今回は桂花の案で進めてくれ」
「ふん、当然ね。よく分かっているじゃない」
「えー、そんなぁ……」
「ただ桂花は全ての強度や安定性なんかを確認しろよ。分かっているとは思うが、お前の案だ。責任は最後まで取るんだぞ」
「言われるまでもないわ」
「穏、お前の考えも間違っちゃいないが、如何せん今は家を無くした人が多すぎる。まずは仮でもいいからその人達の家を用意してやるのが先だ。分かってくれるよな?」
「うぅ、龍見さんがそこまで言うなら」
「嫉妬しそうなくらい信頼されているわね、龍見」
「茶化すな冥琳。それより蓮華の姿が見当たらないんだが、どこだ? 稟と凪もいねぇし……」
普段龍見が来れば真っ先に近寄ってくる妻三人が不在という珍しい状況に龍見は首を傾げた。特に蓮華は呉の監督役といってもいい立場の人間だ。
「その三人なら一刀と一緒に蜀の担当場所へ向かっているわ」
「またなんで」
「あちらの現状確認よ。テレパスで通じ合えるとはいえ、人の目を通した方が分かる事があるもの。足りない事があれば手を貸す必要もあるのよ。蜀の子達って無理しがちでしょう?」
確かに蜀から増員の依頼が来る事はほぼない。担当場所は魏と呉が共同作業をしている此処よりも圧倒的に狭いが、それでも消耗品の土像(ゴーレム)は不足するはずだ。
「念のためオレも見てくるか」
「そうしてきな。あ、どうせならあっちの子達と盛ってくるってのも」
「炎蓮……明日の順番飛ばすぞ」
「ごめんよ。それは勘弁しておくれ」
「蓮華と親子だってのにどうしてこうも違うんだか……じゃあオレはもう行くからな。作業、気を付けるんだぞ」
再び土像(ゴーレム)に担がれて立ち去っていく龍見を炎蓮は手を振って見送る。
「……行ったね。じゃ、私も準備してくるとするかね。穏、荀彧、時間稼ぎご苦労様」
「はい、これくらい何でもないですよ」
「意外とあの男を騙せるというのが分かっただけ、いい収穫だったわ」
「曹操、ちょっとの間ここは頼んだよ」
「こちらこそ、一刀を頼むわよ」
炎蓮は馬に跨がると急いでその場を後にした。
ーーーーーーーーー
「えっ、もういない?」
「はい、もう戻られましたよ」
蜀の担当場所にやってきた龍見に告げられたのは蓮華達四人の不在という報告だった。いつ向かったのか知らない以上、すれ違いになってしまうのもの不思議ではないが、だとすると途中遭遇しているべきなのだ。まさか全員が寄り道しているとも考えづらい。
「ふーむ……」
ふと龍見はある事に気が付いた。雛里、紫苑、焔耶の姿がない。たまたま目に見える範囲にいなかったというわけでもなく、近辺に魔力や気の反応すらない。
「桃香さん、隠し事していますよね?」
「はい!」
「えぇ……いやそこは普通ははぐらかすものでは?」
「私が隠し事しようとしてもすぐにバレちゃうので。あっ、でも何を隠しているかは秘密ですよ。言っちゃ駄目って約束しているんです」
「はは、そうですか」
口の前で指でバッテンを作っている桃香に龍見は笑う事しかできなかった。隠し事が苦手でも口を閉ざされては何も聞き出せない。
「なら妻達がどこにいるかも秘密ですか?」
「それなら恋さんのところですよ」
「恋の? 成る程、ありがとうございます。何を企んでいるのやら」
「楽しそうですね」
「ええ、とても楽しみです。っとと、忘れるところだった。蜀の現場は何か足りないものはないですか? 人員不足なのに無理していたりしませんよね?」
「うーん、特にはないですかね。龍見さんが用意してくださったあの土像(ゴーレム)も龍見さんの人形さんが整備していますから」
「あれまだ活動していたんですか。仕事なんてもうないのに、我ながら律儀だな」
「ほぇ? 術の指南ならいつもしてくれていますよ」
「……ついでなんで自動(オート)人形(マタ)を作った本当の目的を教えましょうか」
龍見の自動(オート)人形(マタ)は極めて龍見に近い形で作られている。素材には龍見の血肉も加えられており、それ故に龍見と同じように術も使える。だがただ術の指南をするだけならそこまでの本当は機能は必要ないのだ。
「ならどうしてあんなにも龍見さんそっくりに作ったんですか?」
「簡単に言えば身代わりです」
龍見はマキナの力で時間を遡り生き返る事が出来た。しかしそれはマキナの力がある程度回復するまで期間が空かないと発動する事が出来なかった。もし短時間で二度死ねば本当に死ぬ。
それを防ぐのがあの自動(オート)人形(マタ)達だ。一体につき数分程度だが死後蘇生が可能だった。それだけの時間があれば致死状態から術で生き長らえるのも比較的容易だ。
「でもでも、あの道士の人との戦いだと使わなかったんですよね? 何でですか?」
「発動条件の問題ですね。オレの死後、すぐに復活してはまだ近くにいるであろう敵に殺されるのが落ち。だからある程度の時間を空けてから復活するようにしておいたんです。まあマキナのお陰で不要になりましたけど」
この事は完全に龍見だけの秘密だった。もしも誰かに知られてしまえばそこから左慈にまで伝わってしまう可能性がゼロではない。そうなれば間違いなく人形は破壊されただろう。
「さて、あの人形どもが整備をしているなら問題ないでしょう。でも何かあったら言って下さいよ。無理していると愛紗さんに怒られますよ」
「えへへ」
「……怒られてますね」
「怒られちゃった」
ーーーーーーーーー
十数分ほど桃香に説教をした龍見は董卓軍の担当場所へと戻ってきた。そこでは龍見の帰還を知っていたと言わんばかりに月が待ち構えていた。大方詠にでも教えてもらったのだろう。
「お帰りなさい。少しお話ししませんか?」
「ああ、いいとも」
まだまだ残る瓦礫を椅子代わりにする。思い返せばこうして龍見と月だけで話す事など相当久し振りとなる。
「色々、ありましたね」
「何言ってんだ。まだこれからだよ。この復興が終われば誰かが天下統一へ向かい出す。そうなればまた戦いの日々さ」
「そうですね。私も頑張って、少しでも平和な日々を続けられるようにしないと」
「ああ、みんなも協力してくれるさ。勿論、オレもな」
「頼もしいです。でも大丈夫ですか? 色々な国に奥さんがいるのに戦うなんて」
「そこはまあ、あれだ。傷付けずに勝つさ」
「ふふふ、頑張って下さい……龍見さん、一つ聞いてみたかった事があるんです」
「何かな?」
「こっちで奥さんが出来て、お子さんも生まれて、きっと龍見さんはこっちでずっと過ごす決意が出来ているんだと思います。でも、天に未練はないんですか?」
「そんな事か。ないよ。いつでも『帰れる』んだから当然だろ」
しばし時が止まる。月は頭の中でも龍見の言葉を何度も反芻し、数分してようやく口を開いた。
「か、帰れるって、天に、そんな簡単に!?」
「これでも苦労はしたんだぜ。最初から不思議だったんだ。何故こっちのものを手にしただけでこの世界へと来れたのか。あの銅鏡がこっちへ移動する鍵のようなものかと思っていた。一刀君もこっちに来る前に銅鏡が関係した事件に巻き込まれていたそうだからな」
「そういう言い方をするという事はそうではなかったんですね」
「ああ。銅鏡が原因とするなら八尺のような怪異やサキュバスやワイバーンのような魔物がこっちに来たのも銅鏡に触れた事が原因となるが、それはあまりにも考えづらい。だからオレは捕獲した八尺を徹底的に調査してみる事にした」
こいつの事だよ、と言って龍見が取り出したのは半透明の小瓶だ。かつて魏で流琉を襲った八尺が入った小瓶。龍見は流琉へ供養したなどと言ったが、それは真っ赤な嘘。本当はしっかりと保管していたのだ。
「うわぁ、ちっちゃな人が入ってる」
「狂暴な怪異だが、まあオレの敵じゃない。んでこれを調査したら面白い事が分かってな。ワームホールを通った痕跡があったんだ」
「わぁむほうる?」
「異世界へと繋がる穴だよ。後に狩ったワイバーンからも全く同様な反応があった。だから使い魔を使って色々と調べたら、こっちと天を繋ぐ穴があったんだよ」
「それじゃあ、それを使えば誰でも天に行けるんですか?」
「詳しい調査をして安全性が確認できたらな。何れは恋達を連れて両親に挨拶に行くつもりだよ」
もうすっかり縁が切れているものの、両親である事に変わりはない。龍見の出来る数少ない普通の恩返しとして結婚して立派な旦那として生きているのを証明するつもりだ。ただ結婚相手の数が一般的ではないので、そこに頭を悩ませていたりする。
「そうですかぁ。いつか、私も行ってもいいですか?」
「当然だろ。うちの姫を放っておけるかよ」
「えへへ……もういい時間ですね。龍見さん、行きましょう」
「何処へ?」
「恋さん達のところです」
月は瓦礫から飛び降りると少し駆け足で移動を始めた。龍見も土像(ゴーレム)に抱えられながら月を追い掛ける。着いたのは一つの大きなテント。食事をするための場所として用意されたものだったはずだ。月は中を覗くと龍見へと手を振った。
「準備出来ていますよ!」
「準備って、一体何の事なんだ……邪魔するぞ」
テントに入るとそこにはエプロン姿の妻達、既に着席して苦笑いしている一刀、そして食卓には溢れんばかりの肉料理が並んでいた。ただ何故か恋の姿は見当たらない。
「えっ、えぇっ?」
「ども龍見さん、招待されてます。これ龍見さんの要望なんですって? 少し多くないですかね?」
そういえば恋から帰ってきたら何を食べたいか聞かれていたな、と龍見は思い出す。
「いや一刀君、流石にこれはオレも予想外だ」
「何言ってんだい! 男二人、こんぐらい食えてなんぼだよ!」
「それに妾達も食べるのじゃ。きっと問題ないのじゃ」
「炎蓮、美羽、二人も時間稼ぎでオレの相手をしていたのか」
「時間をかけて美味しい料理を作りたかったの。色々と振り回してごめんなさい」
「いや蓮華が謝る事でもないさ」
「ささ、旦那様。こちらへお座り下さい」
「どうせなら私を椅子にして頂いてもいいんですよ?」
「凪、稟を少し叩いてやってくれ」
「はい!」
「待って!? ご主人様以外に叩かれても嬉しくないわ!!」
「だからこそ仕置きになるんだろうに。龍見、全員が一品以上作っているんだ。味わって食べろよ」
「ありがとよ、焔耶。なかなかその格好も似合うな」
「そ、そうか? そこの白の御使い……一刀が教えてくれたものなのだが、そうか、似合っているか」
「先生! 私はどうですか! 紫苑さんに協力してもらって自分で縫ったんです!」
「雛里ちゃんは呑み込みが早くて楽しかったわ。あなた、私の感想も聞かせてほしいわ」
「自分でか! 凄いじゃないか。よく出来ていて可愛いぞ。紫苑は、その……いいぞ」
「龍見ったら今更何を照れる事があるって言うのよ。ここにいる全員を抱いたくせに」
「それとこれとは話が違うんだよ。って地和もよく似合っているな。流石はアイドル」
「ふふーん、当然ね」
「龍見、お待たせ」
「おぉ、恋。何処に」
ーードンッッッ
「……こ、これは?」
「豚の丸焼き。裏で焼いてたら遅れた」
目の前の肉塊があまりにも巨大すぎて言葉を失ってしまう。恋のエプロン姿の感想すら出てこない。だが恋は驚く龍見の顔に満足したのか少し誇らしげだ。
「要望通り、肉料理」
「お、おお、完璧だよ……でも、食いきれるか不安」
「龍見、安心して。璃々とマキナと恋歌も応援してる」
「お父さん頑張って!!」
「パパ、ファイトだよ!!」
「あーぅっ!」
「あ、はは、はははは……」
大量の肉料理というかつてないほどの難敵を前に、龍見は乾いた笑いをこぼしながら肉に貪りついた。妻達と娘達の応援を背に無謀な戦いに挑んだものの、案の定轟沈するのは後の話。
一先ずこれにて龍見のお話はお仕舞い。今後はちょくちょくと番外編を更新していく事になります。エロい話からくだらない話、帰省した話なんかも書くとは思います。
さて、では最後に。これまでありがとうございました。