なおこの現代編、恋姫キャラよりも圧倒的にオリキャラが多数出演する事となっておりますので、苦手な方はご遠慮下さい。
ある山中にて龍見は巨大な穴、現代へと繋がっているワームホールを調査していた。地面にぽっかりと開いたそれは直径20mはあり、まるで生きているかのように小さく拡大と縮小を繰り返している。
龍見はそれに手を突っ込んだり、紐を付けた水入りの瓶を落としてみたりと、まるで小学生の実験のような事を何度も行い、時折飛び出してくる怪物を片手間で処理している。まだ脚は回復しておらず、杖がなくては歩けない状態だというのにそれを簡単に行うのだから、自称現代最高の術師は伊達ではない。
「不安定だな。オレらの時代の地球に繋がっているのに間違いはないが、出口がバラバラだ…………しかしこうして入り口は固定されている。ふーむ……なら出口も固定出来るよな。まずは座標を日本に固定しないとな。これは直接見るのが早いか」
さも当然のようにワームホールへと首を突っ込んだ龍見の目の前には目まぐるしく変化する風景が広がっていた。時折海中や砂漠に出るものの、あまりの早さに顔に水や砂が付くような事はない。だが何百回に一度、数秒ほど景色が固定される瞬間がある。この瞬間こそがワームホールが安定する時だ。これが日本と重なるのを龍見はただただ待つ。
「! 空間掌握! 固定開始!!」
丸半日顔を突っ込み続けてその時がやってきた。変化しようとするワームホールを無理矢理固定し、魔力を使って安定するまで押し付ける。しかしながら別世界を繋ぐほど強力な力を持つワームホールには流石の龍見といえども力不足だ。
「しゃーねぇ。マキナ、力を貸してくれ」
「うん!」
何処からかひょっこりと顔を出したマキナがワームホールに手を触れると、完全にワームホールの動きが停止した。時間を巻き戻す事が可能な彼女にとって時間を止めるなど朝飯前という事だ。
「よくやったなマキナ。今日は恋に頼んで餃子三昧だ」
「わーい!! 恋ママの餃子好きー!!」
「……あれ? 抜けない」
なお時間を止めるという事はワームホールのすり抜けも不可能になるわけで、龍見はワームホールと共に空中に固定される事となった。この後龍見は泣く泣く一人で時間の止まったワームホールが活動しても座標が変わらないよう固定化作業を続けた。
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「という事でオレらの国に行けるようになりました。はい拍手!」
ーーパチパチパチパチッ
「えっ、あの、本当ですか?」
「どうした一刀君。もっと喜んでもいいんだぞ」
「いえ、突然でしたから、何というか、感情が追い付いてなくて」
困ったような嬉しいような顔をした一刀の隣では華琳が微笑んでいた。
「良かったわね、一刀。それで私と一刀をわざわざ洛陽にまで呼び出してそんな話をするという事は、私達をそこへ連れていくという意味でいいのかしら?」
「そうだ。約三年はこっちで過ごしていたんだ。たまには帰郷しないとな。一刀君も家族に華琳を紹介した方がいいかと思ったんだ。軽いお節介だよ。そしてオレも誰か連れていこうと思っているんだが、月はどうだ?」
「ええっ!? ど、どうして私なんですか?」
「前に行きたいって言っていたのは月だろ」
誘われるのは龍見の妻達だと思っていた月にとっては突然の誘いだった。確かに行きたいと言った事はあるが、まさか一番手とは思ってもみなかった。思わず恋や地和を見てしまうが、二人は全く構わないという顔をしている。
「詠、今は仕事もないんだ。いいだろ?」
「そんな長期間という訳じゃないでしょ。構わないわ」
「えっと、えっと……お、お願いします」
こうして最初の現代日本へと渡航者は決まった。
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「この穴? 本当に大丈夫なの?」
「オレが何度も往復している。安全は保証するさ」
数日して準備を済ませた四人はワームホールの元へとやってきた。見送りなどはいない。ここまでの道は龍見が居ないと来れないように色々と細工をしてあるのだ。
理由は単純に事故によって現代へと放り込まれない為。そして変な考えを持って勝手に現代へと行かない為だ。主に後者は真桜のような人物が該当する。
「全員手を繋いで。せーのっ、で入るからな。いくぞー……せーのっ!!」
手を繋いだ四人はジャンプをしてワームホールへと飛び込んだ。そして次の瞬間にはワームホールから吐き出され、地面へと着地する。緑の芝が生い茂り、少し遠くには立派な校舎が見える。
「ここって、フランチェスカの中庭じゃないですか!? こんなとこにこんなものがあって大丈夫なんですか!?」
「おう、問題ねぇよ。誰も近寄れず、誰も感知出来ないようにオレがやれる限り最強の結界を張ってある」
「地面にある穴に飛び込んだのに地面にある穴から飛び出すなんて不思議なものね。それにしてもここが一刀の故郷……何というか、空気が違うわね」
「まだここは綺麗な方だが、現代の空気は汚れているからな。月、何ともないか?」
「はい。それよりあの大きな建物は? お城か何かですか?」
「いや私塾みたいな施設だ」
「「あれで!?」」
小さな領主の城よりもずっと立派なものが私塾などというのは二人にとって衝撃的だった。天、現代日本が自分達の時代よりもよっぽど進んでいるとは聞かされていたが、ここまでとは思っていなかったらしい。
「龍見さん、こんなところに立っていたら誰かに見つかって警備呼ばれますよ。部外者なんですから」
「その辺りも対処済みだ。一般人にオレらの姿は見えていないよ。さてと、早速だが一刀君の実家に行こうか」
「行くって、方法はどうします?」
「知り合いから車を借りよう。裏の知り合いならすぐに応じてくれるはずさ。少しテレパスするから待っててくれ。この周辺だと……あいつのところの支社から借りるのが早そうだ」
龍見はとある人物の魔力を探す。日本においては比較的大きな力の持ち主の為、探すのに苦労する事もなかった。
『よう、十四代目。久し振りだな』
『…………嘘やん』
テレパスの相手は日本国内の裏社会において龍見が信頼しているうちの一人、十四代目安倍晴明だ。女性かつまだ大学生と若い彼女だが、アベノ製薬という日本有数の製薬企業の跡取りであり、裏組織の陰陽連盟の会長でもある。その実力は裏社会の中でも上位に位置する。
『何が嘘かは知らんが、龍見だ。声と魔力で分かるだろ』
『せやかて、たつ兄は三年前から行方不明で』
『この業界で行方不明なんぞ日常茶飯事だろ。それより頼みがある。フランチェスカ学園まで車を一台寄越してくれ。まだ学生身分だろうが、それくらいはやれるな?』
『ちょい待って。フランチェスカやな。うちも向かう!』
『お前は今本社付近だろ。待っていたら日が暮れちまう。さっさと車だけ寄越してくれればいい。出来ないなら他に頼む』
『…分かった。フランチェスカに車を一台やな』
『ああ。突然済まなかったな』
龍見は用件をさっさと伝えるとテレパスをあっさり切った。あくまで必要なのは移動手段であり、裏と必要以上に関わるつもりはなかった。
「正門に行こう。すぐに迎えが来るはずだ」
四人は車が来るまでの時間、正門で話し合っていた。主に月と華琳が質問をし、龍見と一刀がそれに答える形だ。正門ではたくさんの学生が行き交い、道路では無数の車やバイクが通行する。人の数や見た事のない物体は彼女らにとっては驚きでしかなかった。
そうやって話をしていると二台の車が正門前で停車した。降りてきたスーツ姿の男達はキョロキョロと辺りを見回している。
「ったく、このくらいにも気付けないのか」
龍見が術によるステルスを薄くすると一人が漸く気が付いた。
「馬淵様、お久しぶりです」
「ああ。用件は伝わっているな? 暫くこの車を借りるぞ」
「はっ! それと先代と十四代目より伝言です。事が終わり次第顔を見せてほしい、との事です」
「考えておこう。三人とも、乗ってくれ」
「うわぁ、椅子がふかふかです」
「こんな鉄塊があんな速さで動き回るなんて、どういう仕組みをしているのかしら」
「一刀君、家をナビに入力してくれ。使い方は覚えているよな?」
「大丈夫、だと思います。龍見さんこそその足で車の運転が出来ますか?」
「心配無用。普通に運転するぶんには支障はないさ。じゃあお使いご苦労さん……あいや、そういえば金がなかったな」
「馬淵様、先代から資金と偽造免許証は頂いております」
「おっ、流石。分かってらっしゃる」
百万の札束と偽造免許証を平然と受け取る龍見の姿に、一刀は改めて龍見が別世界の人間なのだと感じた。
龍見は車を走らせた。ナビを見る限り一刀の実家へは高速を利用しても五、六時間は掛かりそうだ。月と華琳には慣れない車旅。途中の休憩を何度か挟む必要を考えると予定時刻に一時間追加した方がいいだろう。
「わぁ~、速いですね!!」
「複数人をこんな速度で運べて、しかも揺れが少ないなんて……」
「揺れはこの国の道が整備が行き届いているから少ないのさ。他の国だとこうはいかない」
「二人とも、疲れてない?」
「はい!」
「月は普段より元気そうね。ああ、私も疲れてはいないわ。馬に比べたらずっと快適よ」
「おうおう、二人とも元気なこって。だが慣れない乗り物に乗っているんだ。無意識に疲れは溜まるだろうさ。休みは定期的に取るぞ」
宣言通り何度かサービスエリアや道の駅での休憩を挟んだが、見た事のない施設や光景、食事などに興奮を隠しきれない二人は休む必要のないくらいの体力を見せた。逆に案内していた一刀の方が疲れて最後は車内で熟睡していた。龍見は久方ぶりに購入した煙草をふかし、楽しくドライブを続けた。
想定されていた時間よりも少し遅く、一刀の実家付近へと着いた。日はすっかりと落ち、街灯と家々から漏れる光が道を照らしていた。
「夜なのに、明るい……」
「火とは違う灯りね。まるで術による灯りだわ」
「こう明るい夜道も久し振りだな。文明ってのはやっぱすげぇわ」
「あっ、龍見さん。そこがオレの家です」
立派な門構えをした屋敷。隣には道場も併設されている。まだ灯りが灯っているので誰か起きているのだろう。車を門のすぐ傍に停め、四人は下車した。
「よし、行ってこい一刀君。何かあってもオレが助け船を出してやる」
「はは、心強いです……ふぅ、行きます」
約三年ぶりの実家に緊張しながらもインターホンを押す一刀。中からドタドタと足音が聞こえてきて、戸が開かれる。
「こんな時間にどちら様…………えっ……?」
「た、ただいま。母さん」
「かず、と?」
「うん……」
ーーパシンッ
「この馬鹿息子!! 親をこんなに心配させて……!!」
「ごめん、母さん」
平手打ちをされ、抱き締められ、一刀はただただ母の気持ちを受け止めていた。
「おーい母さん、何があった…………一刀? 一刀か!?」
「父さん、ただいま」
「そうか帰ってきたのか! ああ、良かった。無事で何よりだ! これまで連絡も寄越さず何があったんだ?」
「怒らないの?」
「もう母さんに怒られたんだろ。父さんはお前が無事なだけで満足だよ。それでこれまでどこに居たんだ?」
「失礼。それについては自分が説明しましょう」
親子の再会を邪魔しないよう門の外から様子を見ていた龍見だったが、あの非常識な出来事の説明は自分がする必要があると表に出てきた。その姿を見た一刀の父も母も酷く驚いていた。それは見知らぬ人が出てきた事による驚きというよりも、一刀を見た時の驚きに近かった。
「君は、馬淵君か?」
ーーーーーーーーー
「いやー、まさか佑の奴がお二人のお世話になっていたとは。いつもありがとうございます」
「一刀と同時に行方不明となりましたから及川君も心配していましたよ」
何があったのか説明するのに立ち話というのもなんだという事で、一刀の実家に上げてもらった龍見達はお茶を貰っていた。
「では今回の事件について説明しましょう。はっきり言って一般常識からすれば有り得ない事ですが、よろしいてますか?」
「ええ、お願いします」
「タイムスリップという言葉をご存知ですか? オレも一刀君も今回それに巻き込まれ、過去へと飛ばされました」
「「……へっ?」」
拉致、誘拐監禁、はては事故によって何処かに閉じ込められていた等という事を想像していた一刀の両親は共に変な声が漏れてしまった。
「世の中色々と隠されているものでして、俗に裏と呼ばれている社会には魔法等という一般的には物語の中でしか存在しえないものが「ま、待って下さい」何でしょう?」
「あの、もしかしておかしな薬を使われて」
「母さん!! 龍見さんに失礼だよ!!」
「いやいや一刀君、これが普通の反応だよ。では少しだけ魔法をお見せしましょう」
龍見がそう言った直後、一刀の両親の頭の中に突然自分達の座っている姿が映し出された。自分達の目はしっかりと龍見の姿を捉えているのに、脳内には龍見の見ている光景が映っている。
『テレパスという魔法です。オレの見ているもの、思考を相手に伝える事が可能です。信じてもらえましたか?』
更には喋ってもいない龍見の言葉が脳内に響く。二人は黙って頷くしかなかった。
「ありがとうございます。では話を戻しますが、タイムスリップに巻き込まれたオレ達は俗に三国時代と呼ばれる時代に飛ばされました」
「ちゅ、中国の、あの?」
「その三国時代です。原因ですが、事故ですね。交通事故に巻き込まれたのと変わりません。こうして帰ってこられたのは幸運と言ってもいい」
「龍見さんが居なかったら帰ってくるなんて不可能でしたけれどね」
「そこについては一刀君の運が良かったよ。自慢じゃないが、オレ以外の裏の人間だと帰ってくるのは無理だったな。さて、何処で過ごしていたのかはこれで理解してもらえましたか?」
「ええ……まあ……では、そちらの女性二人は三国時代の?」
「そうです。観光ってとこですかね。あっちとこっち、もう自由に行き来可能ですから」
「はぁ……」
「ここからは一刀君、しっかり話すんだぞ」
「そ、そうですね。父さん、母さん……こちら、俺と結婚する事になっている華琳です!」
「お義父様、お義母様、初めまして。姓は曹、名は操、字は孟徳、真名は華琳と申します。一刀の妻とならせて頂く者です」
「「…………」」
先程、あまりにも非現実的な説明を受け、非現実的な体験をした一刀の両親。だがそんなものが全て吹き飛ぶような衝撃。思考が追い付かずに完全に固まってしまった。行方不明の息子が帰ってきたら曹孟徳を名乗る嫁を連れてきました。
その光景に龍見は口を押さえながらクスクスと笑っていた。
「龍見さん龍見さん」
「くくっ、なんだ、月?」
「楽しいですか?」
「とても愉しいよ」
そういえば一刀が嫁を両親に紹介するシーンって他だと見た記憶がないな、と書きながら思っていたのです。