なお今回はがっっっっつりオリキャラが登場します。
ーーチュンチュン
北郷宅で一晩を過ごした龍見はむくりと起き上がった。昨晩は凄かった。一刀の嫁紹介を皮切りに父親は宴だと騒いで酒を浴びるように飲み、母親は娘が出来たとおそらくは自分のお古の洋服を華琳に着せていた。ついでに月も巻き込まれていた。その光景を龍見は笑って眺めながら酒の肴にしていた。
まだ誰も起きていないようで家の中は暗い。時計を見るとまだ午前五時だ。洗面所へ向かい、顔を洗って、使いなれた短刀で髭を剃った龍見はその短刀を天井へと投げ付けた。
「ぐあっ!!?」
「電撃よ、走れ。ライトニング」
人の唸り声が響いた。更に龍見は術で短刀から電撃を放つ。龍見にとっては軽い術でもその電流は凄まじい。天井が外れ、黒焦げになった人が落ちてきた。生きてはいるが重傷だ。
「朝っぱらからいい迷惑だ。てめぇ十四代目の式神だろ」
「…………」
無言で倒れていた人は溶けるように消えてなくなってしまった。それが何よりの返事と言えるだろう。家の外にはいくつか人の気配がある。龍見は壊してしまった天井を直しながらどう対処をするか考えていた。
「今日帰る予定だったのに、帰すつもりはないんだろうな……無駄とは思うが、話し合ってみるか」
玄関から表に出ると無数の黒ずくめの集団と長い黒髪をした和服の美女、十四代目安倍晴明が待っていた。
「えらい久し振りやね、たつ兄」
「失せろ。今は機嫌が悪い。いくら十四代目とはいえ容赦はしないぞ」
「昨日車と金と免許を用意したのに?」
「これまで十分な恩は売ったはずだ。お前にも、先代にも」
「うちはただたつ兄に一目会いたかっただけなのに、いけずやわ。このまま拐ってしまおうか」
「お前程度に出来るとでも?」
「この三年間、うちも随分成長したんよ。体も、実力も!! 行け!! たつ兄を引っ捕らえい!!」
周囲に控えていた黒ずくめの集団が一斉に龍見へと襲い掛かる。尋常ならざるその速度は明命にも匹敵するだろう。
「解呪(ディスペル)」
だがたったの一言で黒ずくめの集団は消失した。今のは十四代目の式神であり、通常の陰陽師の式神とは格が違う。彼女オリジナルの複雑怪奇な術式をしており、普通ならば式神達を解呪するなど不可能だ。しかし龍見は例外だ。元より彼女の術式の原型は龍見の考えたものだ。解呪など容易い事だった。
「確かに式神の動き、力、それを使役する技術、全てが向上しているが、術式くらい改造しろ。前までの形でオレに通用する訳ねぇだろ」
「せやかてこれが一番効率ええもん!!」
「怒るな怒るな。もう子供じゃないだから」
「ふえぇーん!! うっさい! たつ兄のばーか!! いじわる!! おとんに言いつけたる!!」
「お前が怒られるだけだと思うが……」
癇癪を起こした子供のように泣き喚く十四代目安倍晴明。とても女子大生とは思えない。龍見にとっては昔に彼女の世話をしていた頃を思い出して懐かしくなれるのだが、やはり人の家の前でこうも騒がれてはたまったものではない。龍見は彼女に近付くとそっと抱き寄せた。
「よーしよーし、兄ちゃんが悪かったな。ごめんな」
「うぅっ……ぐすんっ、こ、子供扱いせんといて」
「そうか? 俺からすれば十四代目、いや清音はいつまで経っても子供だぞ。だから兄ちゃんにいっぱい甘えていいんだからな」
「むぅ~」
不満そうな声は出すものの、しっかり頭を龍見の胸へと押し付けている。ふと龍見は気配を感じて振り返った。
「女の人を泣かせるなんて龍見さんも悪い人ですね」
「ニヤニヤしながら言うんじゃねぇよ。てか月、随分と早起きじゃねぇか」
「これが普段通りですよ。その方をちゃんと慰めてから帰ってきて下さいね?」
そそくさと家へと戻っていく月。いつの間にかしっかりと抱き付いている清音が落ち着くまで龍見は動く事もままならなかった。
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「おばさんおかわり下さい」
「こら清音。少しは遠慮というものを知りなさい」
「いいのよ、おかわりなら沢山あるもの。うふふ、こんなに食べてもらえると嬉しいわ」
八時、少し遅めの朝食である。というものの、一刀の母親が少し気合いを入れて量を作りすぎてしまったので、完成までに時間が掛かったのだ。父親は二日酔いで倒れており、そしてその代わりと言わんばかりに清音は帰らずに平然と食卓に混ざっている。
「一般家庭でこれほどの料理を……これが時代の差なのね」
「昨日お店で食べたものも美味しかったですけれど、こちらの方が好きかもしれません」
「あぁ、やっぱり白米はうめぇ……日本に生まれて良かった……」
「がっつり白米食うのも三年ぶりだからな。一刀君の気持ちも分かるぜ。どうせなら米を持って帰るか? 運ぶのならオレがやろう」
「マジですか!?」
「米くらいなら構わねぇよ」
龍見と一刀がそんな会話をしていると母親はある事に気が付いた。
「一刀、向こうに行ってしまうの?」
「うん。今は龍見さんのお陰で行き来するのは簡単だし、それに三年間居なかった人間が当たり前のように過ごしていたら世間を騒がせちゃうからさ。あともしこっちで過ごすとなると華琳と離ればなれになるか、戸籍も何もない華琳をこっちに連れてくる事になっちゃうし。だから龍見さんと相談して基本的に向こうで暮らす事にしたよ。月に一回は顔を出すから安心してよ」
「一刀がそう決めたなら母さんは何も言わないわ。強いて言うなら、孫の顔はしっかり見せに来るのよ? 華琳ちゃん、頼りない息子だけれども、よろしくね」
「任せて下さい」
「母さんありがとう。朝飯食ったらもう行くよ。向こうで仕事もあるから」
「あらそうなの? じゃあ父さんを起こしてこないとね」
「えー! たつ兄も行ってまうん?」
「ったりまえだろ。オレなんか子持ちだぞ。重婚だってしてるんだから帰りを待つ人は多いんだ」
さらっと言われた爆弾発言に清音は目を見開いた。清音にとって龍見は兄であり、師であり、そして初恋の相手であった。これまで何度もアプローチを重ねてきたが、全て断られてきた。それは清音に限った事ではなく、裏社会の多くの女性が龍見を求めてきたが、龍見はそれを断り続けていた。そんな龍見に子供が生まれ、更には重婚などという現代では考えづらい状態になっているなど、龍見を知る裏社会の人間が眩暈を起こしてもおかしくはない。清音も一瞬気が遠くなったが、龍見の発言を全て受け止め、それを自分の都合がいい方向へと向ける事で気を保つ事とした。
「つまり今更一人や二人増えても同じやな!! うちとアイと、それと楔さんも貰ってや!!」
「阿呆。これ以上結婚したらオレの体が持たんわ。好いてくれるのはいいが、妹に手を出すつもりはない」
「そうやっていっつも妹扱いしてー! うちはもう二十歳越えてるんやで!」
「妹に歳は関係ねぇよ。ほら、こっち来い」
当たり前のように妹扱いをして、清音の頭を撫で回す。最早妹というよりもペットだ。その様子を見た華琳が清音へと囁きかけた。
「そいつ、妹扱いしていた袁術って娘にも手を出したわよ」
「…………は? ちょいたつ兄、どゆこと?」
「く、くび、しまっ……ガクッ」
「そーいう演技はええから答えんかいど阿呆!!!」
「清音さん落ち着いて! マジで龍見さんの首が絞まってるから!! 死んじゃうって!!」
「もう遅いわよ。死んでるわ」
「一回ならセーフセーフ」
その後、当然のように復活したがグロッキーな龍見と、二日酔いでグロッキーな一刀の父親を交えたカオスな別れをし、一刀達は外史へと戻るために車を出した。
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高速を走る車。龍見は窓を開けて風を浴びて何とか体調を持ち直していた。
「一刀君、もう大丈夫だ。ハンドルを代わろう」
「なら次の次のサービスエリアで交代しましょう。俺も久しぶりのドライブを楽しみたいですしね」
「そうかい? なら存分にアクセルを踏め。追われている」
「へぇっ!?」
「月だけだと思ったのに、一刀まで気が付いていなかったの?」
「かずピーはニブチンやねぇ」
「わ、私も気が付いていましたよ!」
「なら敵はどこにいるか教えてもらえるかしら?」
「えっ、えーっと……」
「華琳、うちの姫で遊ぶのはやめてくれ。上だ」
一刀と月は窓からチラリと上空を見た。青空に二機のヘリコプターが飛んでいる。その進行方向はこの車と同じ方向だ。ヘリコプターの速度ならば容易に抜かせるはずなのに、明らかに速度を調節して自分達と付かず離れずの距離を維持している。
「しかし二日で襲撃に来るとは情報が早いな」
「やっぱり龍見さん関係ですか」
「おうよ。こう見えても結構殺し屋に狙われる立場なんだぜ」
「安心してええよ。流石にあいつらも民間人が多い高速では攻めてこんわ」
「何言ってるんだ清音。もう民間人なんていないぞ」
全員が龍見の発言を理解できずにきょとんとした。だが華琳は殺気で、清音は魔力で周囲の車全てが敵であると判断した。
「まさか囲まれているとはね」
「えっ、マジで?」
「マジマジ。さて一刀君、もう一度聞くが、ハンドルを代わろうか?」
「お願いします」
「よし来た」
龍見は器用に運転席の一刀を助手席に退かして、左手でハンドルを握る。右手は窓から外に出して掌を前方へと向けた。
「吹っ飛べ。エアーボム」
空気弾が前方を塞いでいた二台の車の間に着弾すると、まるでガス爆発でも起きたかのような爆発を起こす。当然前方の車は大破し、道路へと転がった。
「一気に行くぞ!!! 何かに掴まれ!!!」
アクセルを踏み込み速度を上げる。後続の車も爆発に驚いていたが、すぐに追走をしてくる。何よりも問題はヘリコプターだ。どれだけ速くしても道なりに進むしかない車に対し、空に道などない。常に最短距離で追い掛けてくるのだ。
「うるせぇ蝿だな。グラビティ「待ちなさい。私も少し運動がしたいわ」そうかい? なら頼むぜ華琳」
「少し戸を開けるわ。あまり揺さぶらないでよ?」
車のドアを開けて体を乗り出した華琳は大きく腕を振りかぶった。手には光が集中し、それを一気に振り下ろす。光は刃となり、ヘリコプターのプロペラを引き裂いた。墜落の際に隣のヘリコプターも巻き込み、二機は墜落し爆発した。その墜落に動揺したのは後方の車の速度が落ちた。
「まだ操作に難ありね」
「範囲もだ。無詠唱であの威力なのは評価するが、あの大振りならもう少し広い攻撃範囲でもないと避けられるぞ」
「ほぇー、曹操さんは大したもんやな。たつ兄に褒められとる」
「えっ、褒めてますか?」
「せやで董卓ちゃん。たつ兄は基本的に駄目な部分の指摘しかせんのや。それなのに今は評価するって言うたんよ。これは大変な事よ」
「更に速度を上げるぞ。あんまり無駄話して舌噛んでも知らねぇぞ!!」
車体、エンジン、タイヤ、様々な部分に強化の術を掛けて車を飛ばす。限界を越えた時速300㎞。刺客を全て置き去りにし、オービスに引っ掛かりながらもフランチェスカへは行きの半分程度の時間で到着した。
「清音、オービスはそっちで何とかしてくれ」
「お金」
「……オレの口座番号だ。ついでのここの金でプライベートジェットでも買っておいてくれ。車じゃ不便だ」
「ええで。いくらあるかは知らんけど、まあ足りんぶんは補填するわ」
「龍見さん、もう行きますか?」
「待ってくれ。清音に一つ聞いておきたい事がある」
「なんや?」
「曹操や董卓の性別って、学校でどういう風に習った?」
「なんや突然。決まっとるやん。『女』や」
「えっ!!?」
驚き動揺する一刀だが、龍見の方は案の定と言わんばかりの顔をしていた。清音は何かまずい事でも言ってしまったのかと少しおろおろしている。
「ありがとう清音。おかしな事を聞いて悪かったな。また近いうちにこっちに来る」
「待っとるよ。あっ、佑にはこっちから伝えておくで」
「頼むよ」
歩き出した龍見の隣へ一刀が駆け寄ってきて話し掛けた。当然聞きたい事は先程の質問と答えについてだ。
「さっきの、曹操が女として伝わっているってどういう事ですか?」
「私も気になるわね。一刀から聞いてはいたけれど、こちらでは私達は男として伝わっているはずでしょ?」
「そうだ。いやそうだった、というのが適切か。気になったのは昨日、一刀君が両親に華琳を紹介した時、あの人達は華琳が女である事について追及しなかった。清音も二人が女なのをごく自然に受け止めていた。おかしいと思わないか?」
もしも日本の三英傑、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性別が女としたらそれは日本の歴史が変わるほどの大問題と言えるだろう。三國志の英雄達もそれと同じだ。だというのに華琳達は性別について言及されなかった。
「つまりこの世界はオレ達の世界でありながら、外史が本来あった正史、三國志の英雄達が男たったという歴史と入れ替わったものと考えられる」
「どうしてそんな事が……」
「分からん。オレ達正史の人間が外史で影響が出るほどに活躍してしまった事。そしてワームホールによって外史と正史に繋がりが生まれてしまった事。色々と可能性はあるが、断定出来るものはない。でも問題はねぇよ。ただ歴史上の人物の性別が入れ違っている以外は何も変わってないんだ。むしろそこら辺の説明が省けて楽じゃないか。月、手を繋いで一緒に行くぞ」
「子供じゃないですから大丈夫です」
「安全のため、念のため、だ」
笑いながらワームホールへと入っていく龍見。一刀はそれを楽観的と捉えながらも、自分が考えても特に何か変わるわけでもないのでその考えを受け入れ、龍見に倣い華琳と手を繋いでワームホールへと入っていった。
何か新作書こうか考え中。使うなら龍見と別作主人公であり、設定上龍見の学生時代の先輩である一条要のダブル主人公かと思っていますが、オリジナルでやるか二次創作でやるか……