「えっ、貴方が黒の御遣い…………!?」
青年は龍見の姿を見て非常に驚いた顔をしていた。少なくとも龍見は青年が最近共学になったという超有名元女子高、聖フランチェスカ学園の生徒であるという以外は分からないが、青年は龍見を知っているようだ。
「えと、馬淵龍見さんですよね」
「あら貴方と一刀は知り合いだったのかしら?」
「いいや、全く。会った事ないよな? あ、もしかして佑の知り合いか?」
「はい。北郷一刀っていいます。及川とはよく馬鹿やってます」
龍見が聖フランチェスカ学園の制服を知っていたのには訳がある。親戚である及川佑がそこに通っているからだ。青年が龍見を知っていたのも親戚の及川から聞いたというのならば不思議でもない。
「しかしなんだな。親戚の知り合いと敵対関係になるとは。今は味方だけど」
「俺だって驚きましたよ。妖術使いの黒の御遣いが及川の親戚なんて。じゃあ及川も妖術を?」
「チャッカマンくらいの火と扇風機くらいの風なら出せるぞ」
「うーん、微妙」
「おい! いつまで談笑しているつもりだ!」
「おっと、すまないな華雄。曹操さんも」
「そうね。天から来た者同士の会話だからもっと面白いものが聞けると思ったけど、拍子抜けだったわ」
言葉ではこう言っているが、曹操の眼にはまだ龍見への興味の光があった。龍見もそれに気が付いているようで、苦笑いしながら口を開いた。
「それは悪かった。お詫びになるかは分からないが、オレの術を少し見せるよ」
「なっ!? 敵に手の内を見せるのか!?」
「どうせ黄巾党討伐で見せる事になる。それに華雄も気になるだろ?
「むぅっ」
「それじゃあ何を見せてくれるのかしら?」
「見せるというよりは…………」
ーー聞いてもらおうかーー
「「「!!?」」」
一刀、曹操、華雄の三人の頭の中に龍見の声が響いた。
ーーこれはテレパス。自分の思念を相手に伝える術だ。とはいえ範囲はそんな広くないし、送れる相手も多くて五人だ。しかも一方通行ーー
「範囲にはよるけど、かなり便利じゃない。これを披露して良かったのかしら?」
ーーこのくらいならな。これを知って何か対策が建てられるならオレはあんたを尊敬するねーー
「これくらいにしておこうか」
「術といっても戦に使うものばかりではないという事ね」
「そういう事。さてオレ達は退散させてもらう。あそこにいる女性二人の視線がさっきから痛いんでな」
「春蘭に桂花(けいふぁ)ったら…………」
呆れている曹操に別れを告げ、龍見は華雄を連れてそそくさと帰っていた。そして自陣についてから龍見は華雄に先程の術について更なる説明を始めた。
「さっき曹操には教えなかった事を教える。今回の戦いでもテレパスは多用するだろうしな」
「なんだ?」
「まずは正確な距離だ。この術はオレが知っている人間に対してなら約四千里まで届く」
「…………は?」
「中華全土から見ればそんな広くないだろ?」
一里は五百メートル。なので二千キロメートルはテレパスが届く計算となる。日本の中心にいれば、日本全土に届くのだ。
「それとテレパスは言葉だけじゃなく、見たもの、感じたものも送れる。最前線の状況を直接軍師に見せる事も可能だ」
「なんだそれは。反則ではないか」
「そうかもな。んじゃそろそろ軍議が始まる時間だし行こうぜ」
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軍議には一部を除いて、今回の作戦に参加しているトップ全員が集まっていた。当然のように全員女性だ。しかも美人しかいない。
「目の保養に最高だ…………」
「貴様は何を言っているのだ」
「気にするな」
「全員揃ったようだね。私が今回この戦線を任されている孫堅だ。しっかりついてきな」
孫堅といえば呉のトップとして有名な将だ。この世界では桃色の長髪に露出の高い服となかなかに派手な姿をしているのだが、龍見は冷や汗をかくほどにある一点に釘付けになった。
「…………一体……何カップあるんだ…………!?」
これまで見た事のないような豊満な胸を見た龍見の耳には、軍議の内容が全く入ってこなかった。おっぱい星人である彼にはそれだけの衝撃だったのだ。
「馬淵、馬淵! 何を呆けている!」
「! すまない華雄。極楽浄土に旅立つところだった」
「訳のわからん奴だな」
華雄に呼び掛けられ、なんとか我に返った龍見であったものの、やはり目が行ってしまう。更に龍見は気が付いた。孫堅の側近も実に豊満な胸をしている。
「江東…………恐ろしい…………」
ちなみに軍議では龍見と華雄は最前線に立たされる事が決まった。これで終わりと全員が席から立とうとした時、孫堅が口を開いた。
「あー、忘れるところだった。みんなに見てもらいたいものがある」
そして孫堅が机にばらまいたのは、木や鉄で出来た数字の掛かれた札だった。よくよく見ると会員番号と書かれている。
「あの、これは何ですか?」
「それが分かんないからここで出すんだよ。これは以前捕まえた黄巾党が持っていたものだ。あいつらこれを奪ったら『三姉妹の歌を聴けない』とか『折角会員になったのに』とか訳のわからない事を言っててね」
「まさかアイドルの会員証?」
「ん? そこの白の御遣いは何か知っているのかい?」
「えっと、なんて言えばいいのかな」
「オレが説明するよ一刀君。オレ達の世界、ここじゃ天と呼ばれている場所ではアイドルという偶像崇拝があるんだ。歌や踊りが上手い男女がそれを披露し、民衆を魅了する。ある種の娯楽だな。大抵は誰でも見れるんだが、会員というものになれば様々な特典を得られる」
「面白い風習が天にはあるようだな。それで特典というのは?」
「握手出来たり、紙に名前を書いてもらうサインというのが貰えたり、あとは…………優先的に歌が聴けるのもそうだな」
「そんなもののために会員とやらになるの?」
「確かに曹操の言うようにオレ達からすればそんなもの、だ。だがアイドルを愛している者からすればそれは喉から手が出るくらいに欲しいみたいだ。もしかしたら黄巾党の長は噂のような妖術ではなく、歌や踊りで人々の心を掌握しているのかもな。オレが予想できるのはこの程度だ」
「十分だ。感謝するぞ」
それらも行き過ぎれば十分に術として成り立つが、と龍見は付け加えた。龍見自身も歌や踊りを使う術は心得ている。
しかし先程までが妖術使いと戦うと思い込んでの軍議だったため、この後すぐに新たに作戦を建てる羽目になってしまった。
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「かーっ、終わったぁ」
「貴様は孫家の胸を見ていただけだったがな」
「流石に今回は聞いてたって」
「失礼、馬淵龍見殿。我が主が貴方と話がしたいとの事で、少しお時間頂けないだろうか」
軍議が終わってテントから出てきた龍見と華雄に美しい黒髪の女性が話し掛けてきた。彼女も只者ではないのは一目瞭然だった。
「あんたは?」
「私は関羽。劉備様に遣える将だ」
「! あんたがあの…………いいぞ。劉備と話させてもらおう」
「またか。お前も敵と話すのが好きだな」
「情報共有さ」
「案内頼めるかな?」
「分かりました」
当たり前のように別陣営に着いていく龍見に華雄はもう何も言わなかった。関羽が案内した陣営に到着すると、大将である劉備自ら迎えがあった。
「初めまして馬淵さん。今回はありがとうございます」
非常に大人しそうで、雰囲気から平和主義というのが伝わってくる。この乱世には似合わない人格の持ち主だ。
「別に気にすんなよ。そんで劉備は何の用があってオレを呼んだんだ?」
「天の御遣い様である馬淵さんがどういう方か直接会って話してみたかったんです」
「そうか。まあオレも色んな人と話せるのは大歓迎だ。可愛い女性と話して嫌な男なんて居ないからな」
「そんな、可愛いだなんて」
「はは、十分に魅力的だ。さて何を話そうか」
「天の御遣い様は乱世を鎮めるためにこの地に降り立つ、そう予言があったのですが、馬淵さんはこの乱世をどうしたいと考えていますか?」
「安易だが、オレを拾ってくれた董卓、月の望む平和な世にしたいな。それがオレなりの恩返しだし」
そんな龍見の言葉を聞いた劉備の顔が明るくなる。おそらく彼女の理想通りの返答だったのだろう。
「なら私達と協力して」
「それはオレ達が決める事じゃない。あんたも上に立つ者なら分かるだろ」
「それでも伝えておいて」
「悪いな。あんたが人が良いのは分かるが、信用したわけじゃない。だからそういう事は正式に頼むぜ」
少なからず拒否する反応ではなかった事に劉備はホッとする。対して龍見はもし同盟を組んだ際の事を考えていた。同盟を組めば天下統一も楽になる。だが統一後、王が二人居る状況を民や兵が認めるだろうか。もしそこから内部分裂を起こし、国が二分してしまえば、同盟を組まずに一国が天下統一する時よりもより多くの被害が出るのではないか。これは月が望む事ではない。自分の仮定とはいえ、そうなってしまう可能性もあるかもしれないのならば、同盟を組まずにいた方がいいと龍見は結論付けた。あくまで決めるのは月と詠だが。
「まあ今回は協力関係だ。よろしく頼むぜ」
「はい!」
テレパス
大半は作中で語られた通りのものだが、本来は呪いとして開発された呪術。四六時中恨み辛みを送り続け、相手を呪い殺す術