「どんだけ運がねぇんだよ!!」
龍見達はまずは偵察がてら最前線に向かったのだが、黄巾党の本隊に見つかり戦闘となった。華雄が武器を振るって雑兵を払い除け、龍見は術を使って華雄の死角から迫る兵を吹き飛ばす。
「雑魚のくせに数ばかり多いな!」
「数の暴力は怖いからな。油断するなよ華雄!」
兵達も頑張ってはいたものの、偵察だったために如何せん数が少ない。このまま続けるとじり貧になる。テレパスで曹操に増援を頼もうかと考えたものの、この距離までテレパスが伝わるのを教えてしまうのはマズイ。
「華雄! 少しでいいから時間を稼いでくれ!」
「少しとは謙虚な事だ。何をするのか知らんが、その間に全て片付けても文句は受け付けんぞ!!」
心強い華雄の言葉に、龍見は口角を吊り上げながら呪文を唱え始めた。すると龍見の目の前の土が小さく盛り上がり、そこから土で出来た小鳥が生まれた。
「メッセージは至急応援求む、だ。行ってこい土像(ゴーレム)。ついでに土像(ゴーレム)で兵も作るか」
土塊の小鳥にメッセージを託すと、更に土塊の人形が生み出していく。ネクロマンシーでも似たような事は可能だが、こちらはネクロマンシーとは違い、一度作れば魔力を消費せず、プログラム通りに動くというメリットがある。だがネクロマンシーに比べてかなり脆いのはデメリットだろう。しかし烏合の衆である黄巾党にはこれで十分であった。
「な、なんだこの人形は!!?」
「うちの御遣い様の術だ!!」
「どうだすげぇだろ!!」
「そこ! 口より手を動かせ!! ウィンドカッター!!」
「オラ達より口を動かしてるのは馬淵殿でねぇっすか」
「術者が口を動かさずにどうする!! フレイムタワー!!」
無数の土像(ゴーレム)に黄巾党は動揺し、対して龍見達の部隊には余裕が生まれた。数では今だ劣っているが、心の余裕は戦いの余裕を生む。暫くは耐えられるはずだ。
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一方龍見の飛ばした土像(ゴーレム)は一番近くに陣取っていた劉備軍の元へ飛来した。
「おお、変わった鳥が居るのだ」
「あれは鳥さん何でしょうか」
土像(ゴーレム)を見つけたのは二人の少女。張飛と諸葛亮であった。人を認知した土像(ゴーレム)はその役目を果たすために嘴を開いた。
「至急応援求む、至急応援求む」
「!?!? はわわっ!!?」
「わ、わっ!? ど、どうすればいいのだ朱里!!」
「き、きっと妖だと思うんですけど、この言葉の意味は?」
「どうだっていいのだ! 妖なら倒せばいいのだ!!」
突然小鳥が成人男性の声で話せばこういう反応になって当然だ。明らかに龍見の配慮が足りていなかった。
張飛の蛇矛によって土像(ゴーレム)が叩き潰されそうになった時、近くを通りがかった関羽が二人に声をかけた。
「どうした二人共。騒がしいぞ」
「愛紗!! 妖が出たのだ!!」
「なんだと?」
「至急応援求む」
「この声は馬淵殿か! 鈴々、これは黒の御遣いの馬淵殿の術に違いない。姉者を呼べ!」
「は、はい!」
関羽に言われて諸葛亮が劉備を呼びに走った。そしてやってきた劉備の対応も早かった。即座に龍見からの救援要請と判断すると必要最低限を残し全てを応援に出した。当然自身も…………
「姉者は残っていて下さい!」
「あう、愛紗ちゃん酷い…………」
関羽と張飛が応援に駆け付け、その目で見たものは局地的天変地異とでも言うべき光景であった。地は裂け、雷雨は鳴り、炎が噴き出す。
「これが馬淵殿の力か…………!」
「すごいのだ!!」
「ハァハァ……! 来て、くれたか! もう体力が……持たん…………」
「遅くなってすまない。鈴々! 蹴散らすぞ!!
「了解なのだ! みんな、突撃!!」
『オォォオオオオオオオッ!!!!』
「ぞ、増援だと!?」
「おお、押し負ける!!?」
そこからは戦闘ではなく蹂躙であった。龍見達との戦いで疲弊しきっていた黄巾党は関羽達の前になすすべなく倒れていく。龍見含め殆どの兵は関羽達の後ろに回って、なるべく休むように弓などで援護をしたが、華雄だけは元気に最前線で敵を蹴散らしていた。
「全員集まれ。ヒーリングするぞ」
「あの気持ちいいのっすか」
「助かりますね」
怪我をしたり、疲弊した兵は龍見の術によって回復し、再び前線に復帰する。それに対して黄巾党はどんどんと戦死者と逃亡者を増やすのみだ。
「これで終わりなのだー!!」
ーードガァアアッ
張飛の蛇矛が大地を砕く。それが残っていた黄巾党の気持ちを完全に折った。
「ひえぇぇ!! こんなの勝てるわきゃねぇ!!」
「に、逃げろー!!」
「はっ、雑魚共が」
「華雄、お疲れさん。関羽と張飛も応援感謝する」
「この程度ならばいくらでも力になろう」
「そりゃ心強い。ん?」
少し遠い岩陰に小柄な人影が見えた。先程までの黄巾党のように成人男性とは違い、明らかに女性か子供のそれだ。
「…………動くな」
とても静かだが、何故か響くような声で龍見が呟いた。全員がそれを聞いてきょとんとしたが、龍見はある事に気が付いて猛ダッシュした。岩陰に居たのは一人の空色の髪の少女。彼女の動きは完全に止まっていた。その呼吸すらも。
「カ…………ア…………」
「息をしろ!」
「! ハァハァッ! な、何が起こったの!?」
「すまんな、お嬢ちゃん。こんな場所に居たから怪しくて術にかけちまった」
「あ、あんた…………何者!?」
「馬淵龍見。黒の御使いと言えば分かるか? そういう君こそ何者だ? 名前は? 住んでる場所は? 護衛を付けて家まで送り届けよう」
「えっ、そ、そこまでしてもらわなくても」
「いやいや、術にかけちまった詫びだよ。せめて名前くらいは教えてくれないか?」
龍見の問い掛けに少女はばつの悪そうな表情をし、何かを言おうとするが口をモゴモゴとさせるばかりで何も言わない。龍見は笑顔で再び問い掛けた。否、術を掛けた。
「名前は?」
「張宝…………!!?」
慌てて少女は口を押さえたがもう遅い。そう、彼女こそが今回の黄巾の乱の首謀者の一人なのだ。
「やはりな」
「ど、どうするつもり」
「そう怯えるな。命まで取りゃしねぇ」
「おい馬淵! 一人で何を、むっ、そこの娘は誰だ?」
「迷子だよ。うちの陣営で少しの間保護する。異論はないな?」
「戦いに支障が出ないのであれば問題ない」
「そういうわけだ。大人しく着いてくるんだぞ」
「…………どうなっちゃうの…………」
龍見が使った一部の術の説明
土像(ゴーレム)
文字通り土で作られた人形を生み出す術。多様性があり、非常に使いやすい。
言霊
最後に張宝に対して使った術。言葉に術を乗せて飛ばし、生物をコントロールする。単純な命令しかできず、術を掛ける相手が強い精神をしていると失敗する。