※この作品はR-18です。

海賊王に、俺は、ならない!   作:銀猫

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今回は残念ながらエロ要素がありません。


12.監督任務

聖地マリージョア

 

世界の中心とも呼ばれるこの場所にいる5人の老人。

彼らは『五老星』と呼ばれ、世界における情勢の会議や秩序の維持のための命令を下していた。

 

 

「…タグタグの実、モンキー・D・ルフィか」

 

「あの英雄、ガープの孫だそうだな」

 

 

そして彼らの今の議題。それは東の海で突如として名乗りを上げたある冒険者の名前だ。

そのファミリーネームに関しては彼らも聞き覚えがあり、一定の評価の材料となっていた。

 

 

「記録がない悪魔の実、か。報告によると物質の情報を書き換えるものとのことだが」

 

「問題はその範囲と危険度だ。場合によっては、世界の秩序(ルール)すらひっくり返しかねん」

 

 

世界を滅亡させることができるとされる四皇【白ひげ】ことエドワード・ニューゲートのグラグラの実。

 

とある【歌】の存在から、世界の破滅も覚悟する必要があるウタウタの実。

 

神の名前を持ち、その力を得るとされるヒトヒトの実モデル【ニカ】

 

使用者の命と引き換えに不老を与えるとされるオペオペの実

 

 

 

悪魔の実ひとつとっても世界のバランスを崩壊させる可能性がある物は多く存在する。

そのために世界政府はその可能性がある実を保管、または能力者を監視し続けていた。

 

 

だが、世界政府の情報をすべて知る五老星ですら全く未知の悪魔の実。

内容も【物質の情報の書き換え】となれば悪用したら世界をひっくり返すことも想像できる。

 

 

「…見過ごすわけには、いかんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

 

東の海ローグタウン。

偉大なる航路(グランドライン)の入り口として有名なこの町は、それに比例して海賊も最終準備として訪れることが多くある。

そのために海兵たちは日夜アウトローを捕らえるために訓練を欠かさない。

 

 

「ふぁっ!!」

 

 

その訓練所でただ一人、刀を振るのはこの海軍派出所ではNo2にあたる海軍本部曹長だ。

その太刀筋は綺麗なもので、刀を扱う人間から見れば努力の上で培ったものだとわかる。

 

 

「まーたやってるよ、曹長ちゃん」

 

「そーそー、どうせ全部大佐が片付けちまうのにな」

 

「そういえば昨日、イエスの残党捕まえたって話だっただろ?あれ一般人が制圧してたらしいぜ」

 

「まじで?ごっつぁんゴールじゃねぇか。もしかして今の地位もそれじゃねぇの?女だから色気で誘惑してとか」

 

 

 

「ッ…!」

 

 

ゲラゲラと陰口をたたく海兵たち。残念なことに彼らにはたしぎのような志もなく、単純に給料がいいからと言う理由ぐらいで海兵になった。

さらには叩き上げで海軍本部大佐という地位まで上り詰めたスモーカーが海賊を一度もローグタウンから逃がしたことがないため、戦闘の危機感や上司に対する敬意も持ち合わせてなかった。

 

また、海軍は実力主義の世界でもある。

そのために、性別的に男のほうが出世しやすく参謀長である知将のおつるや、スモーカーと同じく悪魔の実の能力者のヒナなどは別格として扱われ、士官であるたしぎが軽く見られるのもよくある話だった。

 

 

「…っ……うあぁぁぁっぁぁ!!!」

 

 

実力では届かない世界。スモーカーならあの時はおそらく一瞬で捕縛できただろう。

悪魔の実の能力者と否能力者は超えることができない壁もあると言い訳はできる。しかし、海軍の英雄と呼ばれるガープや、同じく海軍中将で女性のイスカも無能力者で上り詰めた人物だ。

 

それを妬むことはないが、羨んでしまう。一人の人間としては仕方のないこと、だが真面目なたしぎはそれを割り切れないでいた。

 

 

 

「…あっ…」

 

 

感情の高ぶりから思いっきり振った刀が、水を払ったことに、やっと今雨が降ってることに気づいた。

昨日は突然の嵐に対応に追われたが、今朝一度やんで、今また降り始めた雨は緊急性はなさそうだった。

 

いつの間にか陰口を言っていた海兵はいなくなっていた。

 

 

「っ…」

 

 

雨が降りしきる中、悔しさで流す涙すらも雨に否定されてるようで、たしぎは惨めな感情が渦巻いていた。

 

 

 

「どこ行ってた、たしぎ!!」

 

「ハッ!申し訳ありません、自主鍛錬中に雨に打たれてしまい、着替えをしていました!」

 

 

緊急招集を受けて派出所へと戻れば上司のスモーカーに怒鳴られた。

すでにたしぎ以外の海兵が集まっており、なかには遅れてきた彼女をバカにしたようにクスクス笑う二等兵もいる。

 

スモーカーはその報告に舌打ちだけを返すとマシカク軍曹が話を始めた。

 

 

偉大なる航路(グランドライン)入りをしていた海賊艦隊ドン・クリークが東の海へと戻ってきたことは諸君らも耳にしていたと思う、それが本日再び偉大なる航路(グランドライン)へと向かうのを目撃された!」

 

 

マシカクの言葉に一同に動揺が走る。ドン・クリークは数少ない東の海から偉大なる航路(グランドライン)へ挑戦を行う戦力がある海賊だ。

七武海のミホークが遭遇し、戦闘を行った結果ほぼ壊滅している。東の海で目撃情報があったが、まさか一度敗れたのに再び偉大なる航路(グランドライン)へと挑むということに驚きを隠せなかった。

 

 

「これより町は厳戒態勢へと入る!各隊は警戒を怠らぬように注意せよ!!」

 

 

かつてないほどの大物への警戒。これがたしぎのように向上心があり、正義感がある者なら奮起する場面なのかもしれないが、哀しいことにそうでないものが多い。

 

 

 

ローグタウンに上陸するには町から離れた岩場か正面の港の二つしかない。

そしてドン・クリークは海賊。おまけに『ダマし討ち』なんて二つ名を持つ卑怯者としても有名だ。

 

 

そのために3つに分けた分隊でスモーカーが岩場の警備、正面をたしぎが担当してマシカクが万が一のための町全体の警備を行うことになった。

 

 

「はぁ~、なんで俺ら雨ん中でこんなことしてるんだ?」

 

「かったり~…」

 

 

「そこ!警戒を緩めないで!」

 

 

しかし緊張感がない新兵たちは海賊が来ないと能天気に考えてるのだろう。上司のたしぎの前で無駄口をたたいていた。

だが注意されても「はいはーい、曹長ちゃん!」とまるで反省してない。

 

もしもこれがスモーカーやマシカクのような『男性』ならちゃんと統制が取れてたのだろうか。

考えても仕方ないことだが、それでも頭によぎってしまう。

 

 

「はぁ…、…?」

 

 

ふと、たしぎが港を見渡すと一艘の船が目についた。帆は畳んでるためマーク等が見えず、旗にも何も書かれてない。

その船は港の端に泊っている。たしかにほかに船が止まってるためそれ自体に違和感がないが、妙な危機感のようなものを感じた。

 

 

「あなたたち、あの船を改めてください」

 

「はぁ?見た感じただの個人船っすよ?」

 

「命令です」

 

 

やる気がなくてだらしない新兵は命令に嫌々と言う空気も隠さずに船へと向かう。

しかし、やはり危機感が収まらないどころか膨れ上がっていく。

 

 

「(なに…この感覚…あの船、何かが…)」

 

 

しかし、それが何かわからない。警戒をさせようとするが『女のカン』なんて理由で納得しそうにもない。

だから一人、警戒をしていた。

 

 

「ッ―――!!!」

 

 

気が付いたときは遅かった。船の甲板には大砲が用意されており、それがこっちに向いてると気づいたときはすでに点火孔へ火がつけられていた。

 

 

「総員退避行動!!」

 

「はぁ?」

 

 

たしぎの言葉を聞いた、またはこの日のローグタウンに襲い掛かる危険性を感じていた海兵は何人いたか。すぐ近くの海兵の手を掴んでその場を飛ぶのと同時に、海兵たちが警備していた一番厚い場所が砲撃されるのは同時だった。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

たしぎの悲鳴と、彼女が庇った海兵のうめき声が爆風の中でかき消される。

なんとか、悲鳴を上げる身体に鞭打って起き上がると警戒していた船からどこに隠れていたのか分からないほどの人数の男たちが向かっていた。

その先頭に立つ男、全身が金色のアーマーに身を包んでいる男性の顔は先ほど見た。

 

 

「…ドン・クリーク…!!」

 

「ハッ、運よく生き残ったか小娘。まあいい、野郎ども!この町のすべてを奪っちまえ!!」

 

「っ…ここで食い止めます!あなたは応援を…?」

 

 

町に入れてしまえば住人に危険が及ぶと防衛ラインを生み出そうとするたしぎ。しかし、その間の応援を先ほど庇った海兵に命じようとするがその姿がなかった。

 

 

「ハッハッハ!!さっきテメェが庇った野郎なら腰を抜かしてそこの船の中に乗ったぞ!!」

 

「なっ!?」

 

 

ゲラゲラと笑うドン・クリークが指をさすのは海軍の船でもない一般の羊船だ。

その船がどこの誰の船なのかわからないが、間違いなく敵前逃亡だった。

 

 

「くっ…!」

 

 

しかし、たしぎは逃げるわけにはいかない。愛刀の時雨を構えるが、その剣先が震えていた。

 

 

「ブッ、ハッハハ!おい、手が震えてるぞ!!女は女らしく男の言いなりになればいいんだよ!」

 

「ッ…!!私は、海兵です!!海賊の言いなりになんかなりません!!」

 

 

たしぎの鼓舞だが、それでもクリークや配下たちは笑っていた。が、クリークはどこからか銃を取り出すとたしぎへと向けた。

 

 

「なら死ね!」

 

「っ!」

 

「【チェンジ】」

 

 

銃声とともに発射された銃弾がたしぎの目の前に現れた壁に直撃した。

 

 

「なにっ!?」

 

「え…え?」

 

 

たしぎも、クリークも、周りにいた配下も何が起こったのか分からなかった。

すると先ほど海兵が逃げ込んだ帆船の甲板に一人の男がいるのに気づいたクリークが焦ったように銃を向ける。

 

 

「テメェ!!なにもんだ!!」

 

「通りすがりだよ。【オールコントロール チェンジ】」

 

 

「「「「うぎゃあああああぁぁぁぁ!!!!?」」」」

 

 

男が能力を発動させれば、クリークとその配下たちが血まみれになって倒れこんだ。

その時、たしぎは硬いものがぶつかり合うような音を聞いて、よく見れば降り注いでいた雨が固い石のようになっていた。

 

 

「はぁ…おい、大丈夫か?」

 

「え…あ、あなたは昨日の…」

 

 

そこにいたのは昨日も助けてくれた新人冒険者のルフィだった。

ルフィは甲板から港へと降り立つと「【チェンジ】」と言ってたしぎの前にあった壁を消した。

 

 

「ぐぅ…てめぇ…!!」

 

「見た目通りタフだな。【チェンジ】」

 

「ぐおっ!!?」

 

 

立ち上がろうとしたクリークだが、何かに押さえつけられたかのように倒れた。

起き上がろうともがいているが、まるで今まで着ていた鎧が突然重くなったかのように動けなかった。

 

一瞬で多人数を制圧した状況にたしぎは茫然としていた。

 

 

「…あはは……強い、ですね」

 

 

何もしてないどころか、殺されかけた事実にたしぎの時雨を握る手が震えていた。

しかし、ルフィは「お前もな」と言った。

 

 

「これだけの人数を相手に啖呵を切るのは強いやつだよ」

 

「…けど、何もできませんでした」

 

 

 

 

「たしぎっ!」

 

「あっ…スモーカーさん…」

 

 

砲撃の音を聞いてか、スモーカーが部隊を引き連れてきた。部下の無事と倒れ振れるクリークたちを見てスモーカーは目を丸くした。

すると、たしぎの横に立つルフィを見てどこか納得した様子だった。

 

 

「そうか…テメェが制圧したのか」

 

「ああ。悪かったか?」

 

「…いや、まさか東の海で今噂の奴を見るとはな」

 

 

スモーカーの言葉にたしぎが「噂?」とルフィを見た。そして思い出したように「あっ、ああぁ!!!」と声を出す。

そうだ、聞いた名前と思えば海軍で今一番ホットな話題だった。

 

 

「あの東の海で最高賞金首のノコギリのアーロンと3年前に処刑されたと偽装して潜伏していたキャプテン・クロを討伐した冒険者の!?」

 

「ああ」

 

 

何もなかったかのように肯定すればたしぎはあんぐりと口を開けた。

今回のクリーク含めたら有名な海賊を3つも潰して、下手な賞金稼ぎよりも稼いでることになる。

 

 

偉大なる航路(グランドライン)入りするとは聞いていたが、まさか会うことができるとはな」

 

「本当なら雨が止み次第で出航予定だったんだけどな、アレが乗り込んできたときは何かと思った」

 

 

そう言ってルフィが指さすアレとは海兵だった。その顔がパンパンに腫れあがっているが、たしぎはクリークを前にして逃げだした男だということに気づいた。

しかし、その事実を知らないスモーカーは「なんで顔が腫れてるんだ?」と不思議そうだった。

 

 

「急な爆発音がしたと思ったらアイツが乗り込んで『船を出せ!』なんて言ってな、賊かと思って断れば暴れだそうとしたからボコボコにした。……もしかして、不味いか?正当防衛なんだが」

 

 

ルフィがそういえばたしぎがハッとして庇うようにスモーカーに「彼は任務を放棄して民間の船を奪って逃亡を図ろうとしてたのです!ルフィさんたちに非はありません!!」と進言をした。

事情を聴いてこめかみを抑えたスモーカーは「もういい、わかった」と呆れた様子だった。

 

 

「マシカク、すぐにこいつらの捕縛と負傷者の治療を始めろ。それと連中の破壊活動の被害の調査だ」

 

「あっ、わ、わたしも」

 

 

「お前は傷の手当だ。自分の状態ぐらい把握しておけ」

 

 

スモーカーに指摘されて、頭部から血を流してることに気づいた。

そのうえで「治療が終わったらお前は待機だ。負傷者に任せる仕事はねぇ」と言って現場指揮へと入ってしまった。

 

 

「っ…了解、です」

 

「…………」

 

 

かの有名なドン・クリークが攻め入り、捕縛されたというニュースはすぐにローグタウンに広まった。

住人は身近に迫った危機に恐怖したが、それを抑えたという海軍に対しての評判を上げた―――スモーカーが「捕縛したのは俺たち海兵じゃねぇ」と宣言したことでその評価はすぐに立ち消えてしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁっ!!はぁっ!ふっ!!」

 

 

大捕り物で人が出払った海軍派出所の訓練場。昼過ぎから降り始めた雨が一層の強さを増す中で一心不乱に刀を振るのは頭に包帯を巻いたたしぎだった。

普段の彼女を知る人間ならいつもの訓練の一環だと思ったかもしれない。しかし、その表情は必至の形相で確実に無茶をしていた。

 

 

「あぁぁっ――ッ!!!」

 

 

そして無茶が過ぎたのか剣士として大事な刀を手から放してしまった。

音を立てて転がる愛刀の時雨を目で見たたしぎは肩で息をして握力を失い震える手を見た。

 

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ……あぁぁァァッッ!!!」

 

 

雨の中にたしぎの慟哭が消えていく。にじみ出る悔しさに握った拳を地面にたたきつける。

だが、そこに地面を抉るような威力がなくて溜まっていた雨水が跳ねるだけだった。

 

 

「悔しそうだな」

 

「!? ルフィ、さん…」

 

 

傘をさしてそこにいたのは、昨日と今日と助けてくれたルフィだ。

なぜ部外者の彼がいるのかと思ったが、クリークの捕縛の事情聴取のために派出所へ出向いていたのを思い出した。

しかし、本来なら守るべき市民であるはずの彼に守られたこともいまのたしぎにとっては屈辱だった。

 

 

「……情けない、ですよね。女で、民間人に守られて、努力しても、弱い海兵なんて…!」

 

「…海兵でも強い女はいる」

 

「わかってます!!けど、私は彼女たちのようになれない!!どんなに努力したって、誰かを助けることもできない!!」

 

「助けれるんじゃねぇか」

 

 

ルフィは呆れたようにそう言うと地面に転がる時雨を手に取った。そして傘を畳んで地面に差すと刀を振った――が、それはたしぎの目には全然なってない動きだった。

持ち方はめちゃくちゃだし技術もない。ただ単純に木の棒を振ってるような動きだ。

 

 

「俺は刀を使うこともできない。天候を見て嵐を予測することもできないし、料理だって下手くそだ。誰かに助けてもらうってのは自分ができないことをしてもらうことじゃねぇのか」

 

「…自分が、できないことを」

 

 

どこか、ストンと腑に落ちた気がする。自分ではスモーカーのように敵の捕縛をすることも、ルフィのように敵を制圧することもできない。

だが、何か自分ができることがあるのだとルフィは言うのだ。

 

 

「…ルフィさんは、私には何ができると…」

 

「さあな。それを探すのは自分だろ?」

 

 

そう言ってルフィは時雨をたしぎに渡すと派出所の中へと戻っていく。

残されたたしぎは渡された時雨を握りしめながら「ありがとうございます」と小さく呟いた。

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

ここ二日間とは打って変わって快晴となったローグタウン。

街は溜まっていた洗濯物を干す主婦たちややっと外で遊べて喜ぶ子どもたち、仕事に精を出す男や昨日の襲撃の後始末に慌ただしく動き回る海兵と活気溢れていた。

 

 

「スモーカー大佐、昨日は離脱をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

派出所へと出たたしぎは、早速上司のスモーカーのところにやってきた。

未だに派出所内はバタバタと動き回っているが、昨日はその比ではなかっただろう。

 

それなのに負傷者として仕事ができなかった分の負担が回っていると謝罪を述べるとデスクでクリーク襲撃の各方面への報告書や街の復旧に関する書類をまとめてるスモーカーはその手を止めて咥えている葉巻を灰皿へと押し付けた。

 

 

「傷はもういいのか」

 

「はい、かすり傷程度で脳震盪などもありません。今日から勤務へと戻れます」

 

「…いや、お前には別件の任務を与える」

 

「は?」

 

 

まだ街はクリークの襲撃の復興などで通常勤務すらままならないのだ。それなのに別件の任務とは一体何があるというのか。

すると、スモーカーは引き出しから一つの書類を取り出した。

 

 

「たしぎ、オメェは一般航海者の監督任務について覚えてるな?」

 

「えっ…は、はい。新規の冒険者や探検家が航海をする際に海上でのトラブルを避けるために発令される特殊指導のことですよね。基本的には操舵関係の勤務経験者がいない時に適用される場合と、前歴者や経歴から海賊などの犯罪者になる可能性を監視をする目的の場合の2つがあると聞きますが…」

 

 

たしぎ自身、制度自体を聞いたことがあるがここ数年で適用された事例については覚えがない。

 

もともとは海賊王ゴール・D・ロジャーの残した言葉で幕を開けた大海賊時代に冒険者や探検家を名乗って海賊であることを隠して略奪行為を行う船乗りが増えたためにその監視として発令されたのだ。

 

しかし、発令後22年が経過して制度自体も形骸化や風化しており、勤勉なたしぎは聞いたことはあるが制度があること自体知らない海兵すらいる。

 

 

「モンキー・D・ルフィはこの東の海でトータル4800万の賞金首を討ち取ったことになる。海賊として名乗りを上げれば3000万ベリーは固いってところだ。万が一のことを考え、あの船に監督兵を置くことが決定された」

 

「…それは、ルフィさんを疑うということですか…!?」

 

 

すでに3つの海賊団を壊滅させた船に監督兵を送り込むということは海賊になる可能性があると海軍が認識してるということだ。

理屈はわかるが、ルフィの人柄を見たたしぎは彼がそんな犯罪者になるような人間には見えなかった。

 

 

「上はそう考えてんだ。その任務を俺に任せるつってな」

 

 

確かにスモーカーの能力なら万が一の場合は船の制圧も容易いだろう。

彼がローグタウンに配属されてからローグタウンを通って偉大なる航路(グランドライン)へと入れた海賊は0だ。

 

それに本来なら東の海の派出所に本部大佐がいること自体おかしいのだが、それはスモーカーが上層部からの命令無視で独断で動いたりして懲戒処分のところを左遷で済まされているからだ。

 

そう考えれば監督任務につかせることもおかしな話ではない。

 

 

 

 

 

「では、スモーカーさんはルフィさんの船に…」

 

「いや、お前が乗れ」

 

「…え?」

 

 

つまりはスモーカーが街から離れるということになると思っていたのだが、予想外に言われたのは自分が乗れという命令。

この任務はスモーカーが上層部から命じられたもののはず。それなのになぜ自分へと回ってくるのかとたしぎが目を丸くした。

 

 

「連中が海賊にならねぇタマなんてハナから承知だ。だが俺が船に乗るより、お前が船に乗る方が都合がいい」

 

「…都合、ですか?」

 

「東の海は別名で『最弱の海』とも言われている。上を目指すヤツにとって鍛えるのに適した環境じゃねぇ。もっと力をつけるには偉大なる航路(グランドライン)の波に揉まれるほうが有意義だ」

 

「…!」

 

 

それはつまり、たしぎにルフィの船で修行をして力をつけろということだ。

まさかあの厳格な上司という言葉が形になったようなスモーカーが自分を送り出すと言ってくれたのだ。

 

 

「アイツは剣士じゃねぇ。だが学べることは多いだろう、その技術、戦い、考え方、全部吸収しろ。そして、強くなれ」

 

「――はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日付で本船の特別監督の任務を拝命した、たしぎと言います。えっと…監督と言っても皆さんと同じ一船員と扱ってください」

 

「ちょっと、ルフィ!」

 

 

ローグタウンで出航直前になるとルフィが「乗せるヤツがいる」と言った。

流石に滞在のわずかな時間で女の子に唾を付けたのかと思っていたが、来たのは特別監督という肩書をもっている女性。

 

何がどうなってるのか分からなかった。

 

 

「なんだ?」

 

「なんだ、じゃないわ!説明して!」

 

 

事情がさっぱり分からない一同はルフィへと詰め寄った。

彼女たちからしてもルフィのハーレムが増えて使ってもら事での『愛』を分かち合う仲間が増えることは賛成だ。

 

しかし、それが海兵となれば話が違う。最悪の場合、このルフィのハーレムが壊される可能性もあるのだ。

 

 

「さっきたしぎが言ってた通り、この船は特別監督が置かれることになった。理由はおれがアーロンやクロの討伐をしたことで海賊として名乗りを上げる疑いがあるからだ」

 

「はぁ!?ルフィはそんなことしないでしょ!」

 

 

ノジコが反論するようにたしぎの方を見るが、ここまで強い反発があると思わなかったたしぎも驚いて「お、落ち着いてください!」となだめることで精いっぱいだった。

 

 

「と、まあそれは建前だ」

 

「…建前です?」

 

「理由はお前たちと同じ、船に乗る目的があるから。目的は戦闘技術の向上、東の海の島に留まっての鍛錬より偉大なる航路(グランドライン)での旅先の戦闘のほうが経験になる」

 

 

自分たちと同じく、船に乗る理由があっての乗船。

そう言われたら反論もすることができない。

 

だが、相手は海軍の女兵士だと思ってるとマキノが一歩前に出た。

 

 

「はいはい、ルフィの決定よ、みんなも異論はないでしょ」

 

「それは…そうですね、ルフィさんの決定なら」

 

 

マキノの言葉にカヤも納得したようだ。ナミや反対していたノジコも「わかったよ」と受け入れた。

するとニコニコとマキノがたしぎの方に向いた。

 

 

「よろしくね、たしぎちゃん。改めて、わたしはマキノ。ここでコックをしているわ」

 

「ナミよ。この船の航海士」

 

「…ノジコ。ナミとは姉妹の関係さ」

 

「私はカヤです。よろしくお願いしますね!」

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

気合十分のたしぎはビシッと敬礼をするが、「もうちょっと肩の力を抜いて、ここは軍艦じゃないわよ」とマキノにクスクスと言われて少し顔を赤くして「はいっ」と手を下げた。

すると改めてたしぎは乗組員の4人を見て不思議そうにルフィの方へと向いた。

 

 

「あの、船員って…これだけですか?」

 

「ああ。俺を含めて5人…今日からは6人だけどな」

 

 

 

いくら小型の帆船とはいえ、あまりにも少ない。

おまけに男がルフィだけと言うことに男社会の海軍で過ごした、たしぎにとっては逆に不思議な感覚だった。

 

 

「忘れ物はないな。今から出港するぞ」

 

「あ、はい!ところでどうやって…」

 

「こうする。【チェンジ】」

 

 

ルフィが能力を発動させると船の帆がひとりでに張られた。その様子に驚いていると船は風を受けてゆっくりと動き出した。

 

 

「今のは…」

 

「俺の食ったタグタグの実の能力だ。物の情報をタグとしてコピー・貼り付け・取り外しができる」

 

「情報…あ、それならあの時ドン・クリークの一派が受けた攻撃は…!」

 

 

昨日見た制圧の光景。何もしてないはずなのに海賊たちはダメージを受けてその場に倒れていたのだ。それにクリークも立ち上がろうとしてたのに身動きが取れずにいた。

 

 

「雨の温度を弄って瞬間的に氷にした。それとあの金ぴか鎧の重さを2トンにしたからな、まともには動けねぇだろうな」

 

「なるほど…」

 

 

その間にもルフィが能力で帆を張り、船は離岸をしていく。離れていくローグタウンを見て、こみ上げてくるものを抑えながらたしぎは船の先を見据えた。

風に乗ってグングンスピードを上げるメリー号はほどなく予定航路へと入り偉大なる航路(グランドライン)の入り口を刺す『導きの灯』と並行して進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

天候も快晴、風もいいのが吹いているため特に問題もなく目的の場所まですぐにたどり着いた。

 

 

 

 

 

「アレが…赤い土の大陸(レッドライン)

 

 

海兵のたしぎでも、東の海のあちこちで泥棒稼業をしていたナミでも実際に見るのは初めてだった。

圧倒的な存在感と太刀打ちすることもできない自然の大きさに息を吞むと、山へと続く運河の入り口が見えた。

 

 

「あれよ!あれが偉大なる航路(グランドライン)の入り口!!」

 

「船がちょっと左にそれてる!!」

 

「任せろ、【チェンジ】!!」

 

 

ルフィが能力を発動させれば一人でに舵が動き、船の進行方向が変わった。小型帆船とはいえ、一人でそれをコントロールできることにたしぎが驚いていると吸い込まれるように船は入口へと入った。

そしてリヴァース・マウンテンの頂上で4つの海の海流が交わり、一つへと流れ込んでいた。

 

 

 

「入ったわ!!偉大なる航路(グランドライン)!!」

 

「はぁー、ここまで長いようで短かったわね」

 

「けどここからが本番ですね」

 

「そうね、この船の本当に目的のために」

 

「(必ず、強くなって…!)」

 

「行くぞ、偉大なる航路(グランドライン)!!!」

 

 

 

4つ分の海流が一つになって、メリー号は振り落とされるような勢いでリヴァース・マウンテンを下った。

無事に船が落ち着くときには二つの灯台の間を抜けて一面の海へと出た。

 

 

 

 




はい、というわけでたしぎの乗船となります。

実を言うと本当はウィスキーピークに行った後に合流する予定でした。
詳しいことはその時に説明をしますが、その展開での合流が難しくなるのでローグタウンに滞在するときに乗船する流れにしました。

理由を考えていたら『修行のため』というのが一番それっぽいなということで後半の流れが固まり、その前にたしぎに性別や実力についてコンプレックスがあるということにしたら前半からの、きっかけとなる襲撃事件という流れになりました。

……その際に襲撃を無名の海賊にしようとしたら「そういえばまだ出してない奴がいたな」と思ってクリークを出しました。
結果的にアーロンやクロ以上の噛ませ犬になった…


それでそこからたしぎを堕として――と思っていたんですけど、そこまで続く前に文字数がカツカツになっていました。
無理に入れたら内容が薄すぎるものになりそうだったので、いっそのこと最初の五老星の会話を入れてエロ要素なしの幕間的なものにさせてもらいました。


あと、本当はラブーンの自傷行為をカヤかノジコが言葉で説得して止めるというのも考えてました。
しかし、ラブーンに飲み込まれた後の展開とかが組みあがらずにいっそのこと【ラブーンが海中に潜ってる間に双子岬を通過した】ということにしました。
たぶんタイミング的に海中に潜ってる間に通過した海賊団も少なくはないんじゃないかなと。
そのために前話でMr9とウェンズデーがクロッカスに邪魔される話を入れました。
2人は今はウィスキーピークに戻って任務失敗を報告してる頃です。


さて、今回はエロ要素なしの話のため、前話からの投稿間隔を早め、次も来週4月5日に投稿します。
内容はウィスキーピークには到着せず、その前にたしぎを堕としにかかる展開となります。
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