※この作品はR-18です。

海賊王に、俺は、ならない!   作:銀猫

25 / 44
今回はエロ要素なしです


24.生きる選択

今はエレジアでウタとオトの母娘をメリー号に迎え入れてしばらく。

最初は元赤髪海賊団音楽家だったとはいえ栄養失調気味なウタと、海に出るどころかエレジアを離れたことがないオトが船に慣れるか心配だったが杞憂に終わった。

 

 

「ん〜!いい天気…よーし」

 

 

偉大なる航路では比較的に安定した気候に、エレジアにいた時に比べて(肥満になったと言う意味ではなく、健康的な意味で)肉付きが良くなったウタは機嫌が良さそうに息を吸った。

 

 

「〜♩〜♪」

 

 

そして口から出てきたのは綺麗な歌声だ。

あまり大きな声ではない。しかし、その声は透き通っていて耳に心地よい。

 

 

「相変わらず、気持ちいい歌ね」

 

「ええ、私も思わず口ずさんでしまいます」

 

 

 

メリー号に響く歌にミカン畑の手入れをしていた

ナミとビビは顔を見合わせて微笑む。

ミカンの木で姿は見えないが前方甲板をステージに、観客として娘のオトが父親のルフィの上で楽しげに手拍子しているだろう。

 

もしかしたら他のクルーも聞いてるかもしれないと思った。

 

 

Ahh(アー)〜♪」

 

「あー♪」

 

 

気がつくとオトがウタに輪唱するように歌い出していた。

 

幼い頃から赤髪海賊団で歌い、エレジアではゴードンからレッスンを受けていたウタは文字通りプロだ。

技術もテンポも、音域も、そして何よりひきつける力がある。

 

一方のオトはそう言った練習は積んではなかった。しかし、やはり元気のいい幼子の歌声はそれだけで心に響く。

偶然かわからないがウタとオトの声がハーモニーとなってより一層の深みが増していた。

 

 

「Year!」

 

「ヤー!…ねえ、パパ!どうだった!」

 

 

いつの間にかウタとのデュエットになっていたのか、オトは歌の出来栄えをルフィに聞いた。

親からの色眼鏡を抜いても元気がもらえる歌声に「ああ、上手だったぞ」と頭を撫でれば「にしし~」と嬉しそうに笑った。

 

 

「ルフィ、ちょっと…」

 

「…さあ、オト。カヤと一緒に勉強の時間だぞ」

 

 

ノジコが少し、オトに聞かれたくない内容のようで目でついてきて欲しいと訴えかけてきたので部屋にいるカヤのところに行くように促した。

ちなみにオトの一般的な知識や教養はまるでないため船のクルーが持ち回りで勉強を見ていた。

 

 

ウタに連れられて船室へとオトを見送りルフィはノジコと後方甲板へと移った。

 

 

「同じ航路ってだけならいいんだけど、船が一隻追走してきてる。それに、見て」

 

 

望遠鏡を渡されて船を見れば、立派な龍の首を模した軍艦だった。

その船の中央部からは煙突があり、モクモクと黒い煙を上げているのが分かった。

 

 

蒸気船(パドルシップ)か。どうりで速度があるわけか」

 

「それだけじゃない。帆を見て」

 

「………なんだあれ」

 

 

ノジコに促されてみた帆には海軍の青いカモメのマークがあった。いや、それだけなら海軍の軍艦という話なのだが、問題はそのマークを塗りつぶすかのように大きなバツ印がされていた。

セルフオマージュや関係のない船がマークを真似をしたとしても悪質で、政府に目を付けられそうなものだ。

 

 

「気味が悪いでしょ?だから今たしぎを呼びに――あ、来た来た」

 

 

呼びに行ったマキノと、少し急いできたのか慌てた様子のたしぎが現れた。「海軍のマークにバツ印は本当なんですね?」と念入りに聞くため、ルフィが持っていた望遠鏡を渡せば自分の目で確認をして、心当たりがるのか珍しく悪態をついていた。

 

 

「その様子じゃ、あまりよくない連中みたいだな」

 

「ええ、間違いないです。アレは海軍の汚点…元海軍の海賊、ガスパーデです」

 

 

元海軍の海賊。それは確かに海軍としては汚点だろう。

しかしながら、海賊を名乗っているのに海軍のマークを用いているのは何故か。

 

 

「元々はあの船、サラマンダー号は海軍の軍艦でした。しかし、造船島での修理中にガスパーデが強奪したんです。その際に島の住人も…」

 

「相当なイケイケだな。…追走してるってことは、狙ってきてるな」

 

 

海賊なら船を追走する理由は一つ。おまけにガスパーデの来歴から考えても略奪しか考えられなかった。

船にある金目のモノか、あるいはクルーを奴隷にするつもりか、もしかしたらアラバスタの王女ビビを誘拐するつもりなのかもしれない。

 

 

「さて、どうするか…」

 

「あの様子じゃ逃げれないしね」

 

 

いくらナミの知識とルフィの能力でメリー号が優れた航海能力があったとしても大型の蒸気船(パドルシップ)ではスピード負けしてしまう。

となると戦うしかないわけだがメリー号で戦闘ができるメンバーより荒事に慣れてないメンバーの方が多い。

 

 

「ノジコ、ロビンを呼んでくれ。たしぎ、船の守りは任せる。マキノはカヤたちについて――」

 

「ねえ、私にも行かせて!」

 

 

乗り込むために指示を出しているとその襲撃メンバーに名乗りを上げたのはウタだった。

突然の立候補にノジコ達が驚いているがウタはどこか不満気だった。

 

 

「あのな、ウタ。遊びじゃないんだ」

 

「いいじゃんか、リハビリ代わりにあの船でコンサートしたいの」

 

「いや、コンサートって…」

 

 

どこか暢気なウタの言葉にノジコが呆れていると、ウタがビシッとルフィに指を指してきた。

 

 

「忘れたわけじゃないよね、私の能力!10年の間使ってなかったけどこの船に乗った以上きちんと使いこなしたの!」

 

「…はぁ、わかった」

 

 

 

メリー号に買い出し兼救命艇として搭載されている小舟にルフィ、ウタ、たしぎの3人が乗り込んだ。

その様子を呼び出されたロビンとノジコ、マキノが見送っていた。

ちなみにナミとビビは念のためにカヤとオトの守りについてもらっている。

 

 

「マキノさん、ウタは何かの能力なの?」

 

「うーん、聞いたことはあるけど詳しくはないの。確かあの子と同じ名前のウタウタ…っていう能力だったわ」

 

「えっ…ウタウタの実?」

 

 

その名前に聞いたことがあるようでロビンが少し驚いていた。彼女も「あくまで噂だけど」と前置きをしてウタウタの実について説明をした。

 

 

「ウタウタの実はその名の通り、食べた人間の歌で発動する能力と言われているわ。大きな作用としては眠り――その声を聴いた人間の意識を奪うそうよ」

 

「え、でも私たち…」

 

「あくまで任意発動だと思うわ。私のハナハナも勝手に発動するわけじゃないから」

 

 

先ほどもメリー号でウタが歌ってるのを聞いていたが、ルフィのタグもそうだが勝手に能力が発動したら大変なことになる。

食べて間もないころはコントロールもできないことも多いが、ウタはエレジアに残されるよりも前――それこそ赤髪海賊団にいたころから能力を扱っていた。

それなら能力を乗せずに歌うこともできるのだろう。

 

 

「あとは歌を『聞いた人間を操る』とか『幻覚を見せる』とか、どこまでが本当なのか分からないけど…」

 

 

そう言ってるうちに、戦闘が始まったのだろう。

サラマンダー号の甲板からわずかに銃声や大砲などの音が耳を澄ませば聞こえてきた。

 

 

「大丈夫かな…」

 

「船長さんもいるし、海兵さんもいるから心配はないと思うわ」

 

 

ルフィのタグは戦闘においては応用が利き、ウタの歌を聞けばそれだけで制圧ができる。万が一効かない相手がいたとしてもたしぎがその護衛をすれば隙が無くなる。

すると、戦闘が終わったのかサラマンダー号のパドルが止まり追走が終わった。

 

 

「大丈夫みたいね。ノジコちゃん、ナミちゃんにUターンをするって伝えて。ロビンさんは舵きりをお願い」

 

 

メリー号は元々は普通の帆船のためルフィなしでも操舵はできるが女手の操舵は力の関係でとても難しい。

しかし質より量というべきか、ロビンのハナハナの実は足りない腕力を数で補うことができる。

おまけにルフィと同じでロビンの意思のみで行うため多人数で作業するより効率がいい。

 

 

「終わったの?あっけなかったわね。そういえばそのガスパーデって賞金首なの?」

 

「たしぎさんが言うには9500万って」

 

「よーしすぐに海軍に連絡するわよ!!」

 

 

ナミ船の航路変更に甲板に戻ってくるとガスパーデの賞金に目がベリーになっていた。

とはいえ、この船は人数が増えて経費も掛かるようになったとはいえアーロンの懸賞金が残ってるしクリークを打ち取ったことによる懸賞には手を付けていなかった。

(なお、クロに関しては処刑された記録があるから懸賞金が解除されていたためナミが肩を落としていた)

 

 

ほどなく、停止したサラマンダー号の横にメリー号を付ければタラップが下ろされてメリー号に乗り込んだ3人戻って――

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんかったの…」

 

「……………」

 

 

メリー号の食堂のテーブルに着いたのは煤汚れた衣服を着た老人と少年。どこかホッとしたような表情の老人に比べ、少年は警戒心を隠そうとせずにじっとしていた。

あまり和やかなな空気ではないが、マキノが入れてくれたココアの甘い臭いでいくらか緊張感が和らいだ。

 

 

「えっと、ルフィ。どういう状況だったの?」

 

「…ガスパーデの連中の掃討はすぐに終わった」

 

 

乗り込んだルフィたちに応戦しようとする海賊だがウタの『コンサート』でほぼほぼ制圧できた。

ガスパーデも『アメアメの実』という自身の身体を水飴に変化させる能力者だったが、物理攻撃が効かないことが自慢だったのだがルフィの能力はタグを張り付けるだけで本体にダメージを与えることができる。

そして念のためにウタの護衛としてついてきたたしぎの出番はなかった。

 

 

「それでサラマンダー号の制圧に探索して…ボイラー室にいた」

 

 

「ワシはビエラ。こっちはアナグマというんじゃ」

 

「………………」

 

 

 

自己紹介をするもマキノが「よろしくね」と挨拶をすればアナグマはプイッと顔をそむけた。

おそらくだが、彼の態度から察するに何かしら虐待を受けていた可能性が高い。

 

 

 

「ワシらは、8年前からガスパーデの奴に無理やり機関士として船に乗せられておった」

 

「8年…もしや造船島の?」

 

 

ガスパーデが海賊として名乗りを上げ、サラマンダー号を強奪したときとタイミングが合う。たしぎがそう聞けばビエラは「そうじゃ」とうなずいた。

するとポンッとアナグマの頭を撫でて「その日にアナグマとあったんじゃ」と言った。

 

 

「この子はガスパーデの襲撃の時に、どうも襲われて川に流されたようでの。…海軍の船ならと思ってサラマンダー号でともに隠れていたんじゃが…」

 

 

その島の襲撃はもとからガスパーデがサラマンダー号を奪うために画策したものだ。そう考えれば運がなかった。

だが、海賊たちに蒸気船の構造などの知識もなく、力も弱いビエラはちょうどいい奴隷ということでそのまま連れ去られたというわけだ。

 

川から引き揚げられたアナグマは逃がす暇もなく、ビエラの弟子ということにして匿っていた。

 

 

「それじゃあ、アナグマ君のご家族は…」

 

「…ワシにも分からん。あとで風の噂では生き残りがいるとは聞いたが、その中にこの子の両親や兄がいるかは…」

 

 

マキノがたしぎの方を向くが首を横に振った。海軍も生存者の情報を把握してるわけではないし、今となってはその造船島も住人がおらず、無人島となっていた。

同じような境遇を過ごしたナミとノジコは自分と重ねてか暗い顔を浮かべていた。

 

 

「…それで、これからどうするつもりだ?俺たちは海軍にガスパーデを引き渡してから旅を続けるつもりだが…海軍が来たら保護してもらうか、あるいは治安の良い町まで乗せるか」

 

 

ガスパーデを無力化したとはいえ、ウタウタの実で眠らせた連中はウタの意識が無くなれば目を覚ます。そのために今はロビンが能力で縛り上げているところだ。

先にたしぎが海軍にガスパーデの捕縛をしたことを報告したため、すぐに近海にいる応援を寄越すということだ。

 

ここでビエラとアナグマにある選択肢はその海軍に身を寄せて保護をしてもらうか、あるいはメリー号に乗るか。

 

 

「いや、これい」

 

「パパ!勉強終わっ――!」

 

 

これからの身の振り方を話そうとすると、カヤに勉強という名目で部屋で面倒を見てもらっていたオトがやってきた。

しかし、部屋の中に知らない老人と少年がいるのに気づくと驚いたようにしてルフィの影に隠れた。

 

 

「オト、お客さんに失礼だろ」

 

 

「え、あ…えっと、オトです」

 

「ほっほっほ、可愛らしいお嬢さんじゃな。ワシはビエラ。ほれ、お前さんも挨拶せい」

 

 

先ほどと違い、アナグマに促すのは子供同士の交流としてだろう。

流石に自分よりも幼い子供相手に悪態をつくのは不格好だと思ったのか「アナグマ…」とだけ言った。

 

 

「オト、パパたちは大事なお話し中なの。甲板で遊びましょ、ね?」

 

「…うん」

 

 

流石に難しい話を聞かせるつもりはないウタがオトと部屋から出るように促すとオトは頷くもじっとアナグマを見ていた。

視線に気づいたアナグマは一度オトの方を向くが、目を放す。

 

 

「…………」

 

「…な、なんだよ」

 

「ねえ、一緒に遊ぼ!」

 

 

そう言うとオトがアナグマの手を取り甲板の方へと行ってしまった。

あまりにも急に、無理やりな行動だが年下の子供相手に乱暴ができないのかアナグマは「ちょ、まっ――」と言葉を残して連れていかれた。

それに微笑ましくウタが「走ったら転ぶよー!」と言い、ビビもそれについて行った。

 

 

「…悪い。オトは今までウタ…母親以外と遊んだこともなかったから、同年代の子供に興味があるみたいだ」

 

「なに、子供が元気なのが一番じゃ。それに…アナグマも似たようなもの。ガスパーデのせいで大人をあまり信じられないかもしれんが、子供ならあの子も気を許すじゃろう」

 

 

10年間エレジアでウタとゴードンとしか関わらなかったオトと、8年間サラマンダー号の中で過ごしてきたアナグマ。

お互いに同年代の子供に対しての関りが少ない。そう言う意味ではオトとアナグマにとっていい刺激になるかもしれない。

 

 

「…あの子は、お主の子供なのか?」

 

「ああ。…っていっても子供がいたことを知ったのはつい最近だ。ずっとウタが面倒を見て、任せっきりで、俺は父親らしいことは何も、な。でも今からでもオトの父親としてできることはあるはずなんだ」

 

 

そう言って、窓から外を見れば手遊びをビビから教わりながら遊んで「えへへ」とオトが笑い、アナグマも少し笑顔を浮かべていた。

その様子をビエラも見て「…そうじゃの」と言った。

 

 

「何かを始めるのに、遅すぎることはないはずじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワシは、海軍の船に乗る。そのまま平穏な街で余生を過ごすとしよう」

 

 

それからしばらくして、オトが眠くなったのかウトウトしたところでアナグマを呼び戻してこれからのことについて話し合った。

元々ビエラは家族もおらず、故郷も滅んでしまっていた。年齢も年齢でおとなしくガスパーデの連行にやってくる海軍の船に乗って安全な街へと行くと。

 

 

それはアナグマも連れて――

 

 

「お前さんはこのままこの船に乗ってほしいんじゃ」

 

「…えっ、じ、じっちゃん?何言ってんだよ!」

 

 

ずっとビエラと一緒だと思っていたアナグマは慌てたように驚いた。

だが、冗談でもなんでもなく、ビエラの表情は真剣そのものだった。

 

 

「アナグマよ、ワシは旅なんてできそうもない」

 

 

そう優しくビエラはそう語りかけた。たしかに、もとビエラは老人だ。

そのうえでサラマンダー号のボイラー室という健康的にも随分と問題がある環境に長年いた。

 

アナグマはまだ若い分身体は丈夫だったがビエラの身体では免疫も体力も落ちており、病気になりやすくなっていた。

 

 

「覚えておるじゃろう?ガスパーデからお前さんを守った、兄のこと」

 

「っ…」

 

 

幼いアナグマを庇った兄は生きてるのか死んでいるのかもわからなかった。

ガスパーデに囚われてから間もないころはよく、兄のことを想い、夢に見て泣いてしまうこともあった。

 

 

「けど、お兄ちゃんは、きっと死んで…!」

 

「アナグマ、8年前にお兄さんに会いたいと泣いていたお前さんに、ワシはなんて言ったか忘れたかの?」

 

「!!」

 

 

そう、子供で泣いて駄々をこねたら何とかしてもらえると思ってビエラを困らせることは一度や二度ではなかった。

しかしガスパーデから逃げることができずに困っていたビエラは優しく、アナグマにずっと言っていた。

 

 

「――自由になったら、きっと会える」

 

「そう。お前さんは自由になった。なら、お兄さんにも会うことができるはず」

 

最初は諦めれなかった。兄と再会することを。

次第に諦めていた。自由になることを。

 

だが、自由になった今ではアナグマは兄を探すことをだれにも止める権利はなかった。

 

 

「だから、お前さんはこの船に乗りなさい」

 

「でも……!オレだけ乗るのは……!なら、じっちゃんと……!」

 

「言ったじゃろう、ワシの身体は随分と弱っとる。一緒に探すこともできんのじゃ。じゃから、お前さんがお兄さんを連れてくるまで、待っておるわい」

 

 

そう言えば、アナグマは「絶対、絶対死ぬなよ、じっちゃん!!」と言って泣いてしまった。

その様子を見ていたマキノは「ああ、ほら、目元が腫れちゃうわ」と濡れたタオルを渡せばアナグマはそれを受け取ってむしろゴシゴシと擦り始めた。

 

 

「いいのか?」

 

「…ああ、いいんじゃ」

 

 

仮にアナグマの兄を探し出せたとしてもビエラが生きていられるかは分からない。

彼の本当の目的は自分の死後にアナグマがどうなるのかだ。今のアナグマは信用できる大人と目的が必要だった。

 

海軍が信用できないわけではないが、アナグマ自身が頼るような大人が必要だ。

そしてもう一つは自分の死後に生きる目的。もしも保護をされて、その後も自分に依存したまま死んだ場合、アナグマがダメになってしまう。

生死不明の兄を探すこと、それが今のアナグマの目的になれば、そしてそのために世界を見て回れば生きる活力になると考えたのだ。

 

 

「すまんの…この老いぼれの頼み、聞いてくれんか…」

 

「…まあ、いいさ。オトにも、あの子にも同年代の友人がいたほうがいいだろうしな」

 

 

 

 

 

その後、たしぎの要請で近海を航行中だった海軍がガスパーデの連行にやってきた。

既にウタウタの実で眠らせた連中もガスパーデも縛り上げていた。本来なら海賊を軍艦に乗せて連行するのだが、このままサラマンダー号で移送することになった。

 

 

 

「じっちゃ~ん!!またな~!!じっちゃ~ん!!」

 

 

海軍の軍艦に乗って遠ざかっていくビエラに手を振るアナグマ。その横でオトも手を振って見送っていた。

 

 

一方後方甲板で手を振るビエラ。その周囲にいる海兵も2人の事情を聞いてか、涙を流したり手を振っていたりする。

 

 

「さてと」

 

 

やがて軍艦が遠くなり、ビエラの姿が捉えられなくなるとまだ涙目のアナグマの頭をルフィは撫でた。

 

 

「この船に乗る以上、ルールには従ってもらうからな。タダ飯を食わせるつもりもない」

 

 

「…うん」

 

 

「早速だが、やることは多い。まず、風呂に入れ。それと服も着替えろ。今日からこの船がお前の家になるからな。汚れた格好でうろうろさせるわけにはいかねえんだ。マキノ、頼むぞ」

 

「はい。それじゃアナグマくん、行きましょう」

 

 

幼いルフィやエースの世話をしていたマキノなら子供の扱いも慣れているだろうと、彼女に任せた。

その間にルフィはアナグマの着替えとして自分の予備の衣服をタグタグの力で小さくした。

 

今のアナグマが着ているツナギは薄汚れていて洗濯する必要があるが、この船にある子供の用の服はオトの着替えぐらいしかない。

流石に体格が似ていたとしても異性の服を着せるのはかわいそうだと思っての配慮だった。

 

 

 

「ねえ、ルフィ。あの子はどうするつもりなの?」

 

「しばらくは船の雑用をさせながらオトと一緒に勉強だな。流石に寝ずの番は無理だろうがそのうち役割を決める」

 

 

この時ルフィは、質問したウタも、メリー号のクルーは誰一人気づいてなかった。

 

 

 

「…え?ア、アナグマくん、あなた…!」

 

 

それに最初に気づいたのは、アナグマを風呂に入れようとしたマキノだった。

 

 

ガスパーデの一件も片付き、海軍の引き渡しも終わってメリー号は再びの示す航路を進み始めた。

その頃には船員たちは空腹を感じて、本来なら料理の支度をするマキノが不在のためにノジコとたしぎ、ビビがその準備を終えていた。

 

 

「それにしても、遅いわね」

 

 

ナミの言う通り、マキノとアナグマが風呂に向かってだいぶ時間が経つ。

何かトラブルでもあったかと思うが、それならマキノが大きな声で助けを呼ぶだろう。

 

 

「好みのショタっ子だから食べちゃってたりして」

 

「まさか、マキノさんに限って」

 

「「「……………」」」

 

「なんで目を逸らしてるんですか」

 

 

 

ビビが冗談半分で言い、歳が近いロビンがそんなことはしないだろうと笑うもルフィとのなれそめを聞いたことがある3人があり得そうだと思っていた。

不審な動きをするのにジト目になっていたたしぎは、「一応、声かけてきます」と言って立ち上がった。

 

 

「ごめん、待たせたわ」

 

 

「―――え?」

 

 

それより先にマキノが戻ってきた。しかし、一緒に連れてきたのはアナグマではなく栗色の髪が長い少女だった。

アナグマはどこに行ったのか、そしてこの子は誰なのかと困惑していると「わぁ!」とオトが声を上げた。

 

 

「アナグマお姉ちゃん、綺麗!」

 

「っ…///」

 

 

嬉しそうに言えば少女は――アナグマはそう恥ずかしそうに顔を逸らした。

確かに言われてみれば少女の顔つきはアナグマにそっくりだった。

 

 

「え、女の子だったの?」

 

 

心の中で思っていたことを、代表したかのようにウタが言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、ビエラの爺さんに男のふりをしろって言われたのか」

 

 

食事をとり終えて改めて話を聞けば男装の理由をそう説明した。

スカートに慣れてないのか、オトの着替えを着ているアナグマは少し窮屈そうにしていた。

 

 

「でもどうして男の子になんて…」

 

「馬鹿。海賊の中で年端もいかない女の子が紛れ込むなんて危険すぎるわ。だからおじいさんが男だって言い張ってたんでしょ」

 

 

たしぎの疑問にアナグマと同じように身一つで海賊に投げ込まれたナミがそう理解した。

ナミの場合は人間にそう言った目を向けることはなかった魚人だったが、もしも人間だったらルフィと出会う前に慰みものにされていただろう。

 

それを理解してビエラが男装をして守っていたと言っても過言ではなかった。

 

 

「ねえ、アナグマが男のふりをするための名前なら、本名は別にあるんじゃないかしら?」

 

「あっ…えっと……本当の名前は…アデル。アデル・バスクード」

 

 

女の子に「アナグマ」という名前を付ける親はいないだろう。

自らもコードネームを名乗っていたロビンはその点に気づいて聞けば、本名を長年口にしてないのか思い出すようにしてその名前を言った。

 

 

 

「えっと、アナグマお姉ちゃんじゃなくて、アデルお姉ちゃん?」

 

「…うん」

 

 

「オト、お前アナグ、いやアデルが女の子って気づいてたのか?」

 

 

これから先に偽りの名前を言う必要がないため、呼び方を改めてルフィが聞けばオトは「うん!」と力強くうなずいた。

 

 

「だって、アデルお姉ちゃんの声ってママの歌声に似てたもん!」

 

「私?」

 

 

ウタ自身言われて分からなかったが、おそらくは子供の感性とウタの子守歌で育ったからか声質で見抜いていたようだ。

おそらくはビエラもアデルとオトならいい仲になれると思って預けたのかもしれない。

 

 

「…まあ、いいか。それじゃあウタ。しばらくはアデルの面倒も見てくれないか?流石に俺の部屋で寝かせるわけにもいかねぇだろうし…」

 

「うん、いいよ」

 

 

メリー号は船長室兼男部屋と2つの女性部屋、それとウタとオトの部屋がある。流石に子供とは言え異性と同じ部屋はということでルフィが自分の部屋に寝させるつもりだったのだが、こうなれば同じ子供同士でオトとアデルを同じ部屋したほうがよさそうだと判断した。

オトは「お姉ちゃんと寝れる!」と喜んでいたがアデルはどう反応していいのか分からず目を伏せていた。




はい、というわけで【デッドエンドの冒険】よりアナグマことアデル・バスクードの導入でした。

一応時間軸的にはエレジアでウタとオトを乗せて間もなくぐらいです。


最初はルフィ冒険隊もデットエンドレースに参加する、みたいな流れにしようかと思いましたがする理由もないし…そもそも、あの受付の島の治安も悪そうだから上陸もどうかな…と思って、海上でガスパーデと遭遇するって流れにしました。

ガスパーデとの戦闘もいろいろと考えましたが、あまり重要じゃないしウタが歌えば一気に終わりそうだったのでカットしました。



そしてウタの時と同様に悩んだのはビエラの扱い…
前回のゴードンが死亡したのもあまりよくない改変だったし、かといってメリー号に乗せたままのも…
そこでアナグマに「兄を探せ」と促して海軍に引き取られるようにしました。

ちなみに女性比率が高いのはビエラも気づいてますが、オトと言う娘がいることとたしぎが海兵ということでそんな間違いはないだろうと思ってます。


次回はアデルの話を明日投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。