女ヶ島-1 アマゾン・リリーという国
「ん?みんなー、前に島が見えたよー」
「え?」
「島か」
フラウス王国での結婚式の後。
船底に海牢石を仕込んでいるとはいえ、気配を誤魔化すだけで目には映る。絶対の安全はないため周囲を警戒しながら進んでいるときに見張り台のノジコが前方に島を見つけた。
「どうする、ルフィ」
「凪の帯は偉大なる航路以上に開拓が進んでないので、もしかしたらまだ誰にも見つかってない未開の島の可能性もありますね」
「私、行ってみたいです!」
上陸の最終決定権は船長にある。
一応危険があるとたしぎが言えば未開の地の探検に目を光らせたカヤが上陸を希望した。
「急ぐ旅でもないし、夜の凪の帯に留まる方が危険かもな。そのまま沖で停泊するのもいいかもしれない」
「じゃあ私もいいかしら?そう言う島に遺跡とかが相場なのよ」
冒険に出たいカヤと、フィールドワークをしたいロビン、それと「最近はずっと船での鍛錬しかしてなかったので…」と運動がてら護衛役を名乗り出たたしぎの3人がミニメリー2号で砂浜へ上陸をした。
本当はビビも冒険がしたかったが「アンタは今日の寝ずの番でしょ」とナミにストップされた。
ちなみにルフィが同行しなかったのはリトルガーデンの時は明確にバロックワークスという敵がいたため安全確認で下船したが、今はそんな敵もいなかったのと――
「さてと、オト、アデル。ちゃんと宿題したか?」
「うん❤️ほら❤️」
「い、いひ❤️早くおれを使ってください❤️」
スカートを捲り上げるオトとアデル。
2人の股には入りきらなかったアナルビーズと今にも抜け出しそうなバイブが尻尾のように垂れ下がっていた。
まだ子供のオトとアデルは【体の成長に悪い】ため、夜は決まった時間に寝かせている。
そのために2人がルフィに【使って貰える】のは日中だけだった。
数分後、島の
「残念だけどお嬢さまが望んだような冒険は出来なさそうね」
「え?」
島の探索を始めて少し、まだ見ぬ冒険にワクワクするカヤだったがロビンはそう言って地面に触れた。
細長い溝のようなものがいくつも刻まれており、一定の方向へと向いていた。
「これはタイヤの跡ね。大きさ的には荷車みたい。古いものからまだ真新しいのもあるからこの数日で未知のウィルスで全員が死に絶えてないのなら住人がいるわね」
「恐ろしい事言わないでください!」
たまに素なのか天然なのか分からないことを言うロビンの言葉にたしぎがツッコミを入れた。
しかし、島に住人がいるのならロビンが求める古代の遺跡なんかも無さそうだ。
「少し見て回って人を探しましょう。村か何か見つけれたらこの島について話が聞けれます」
たしぎの提案に異論はなかった。
何も知らずに島をあるき回るよりかは島の住人から話を聞いたほうが正確で大量の情報を集めれるからだ。
見つけたタイヤの跡を辿っていくと煙が見えてきた。
「あそこに集落があるみたいですね」
「ええ、早く――」
冒険は出来なくとも自分の知らない話に興味があるカヤが足早に向かおうとした時だった。
ガサガサっと茂みの中から女性が数人出てきた。
「あっ、あの」
「止まれ!」
「カヤさん!」
声をかけてようとしたカヤに対して女性たちは弓を構えた。
それにカヤが怯んで立ち止まるとその間にたしぎが割って入った。
「何者だ?なぜここにいる」
「私達は旅の者よ。この島には偶然流れ着いたの」
「……貴様、まさか…
刺激しないようにロビンが落ち着いて対応したがその声を聴いてピリッとした空気が流れた。
おそらくこの集団のリーダーがルフィの能力で男性化したロビンを見て眉間にシワを寄せて聞いた。
「あっ…まさか、この島って…」
「総員、侵入者を捕らえよ!」
「ッ!!」
「きゃっ!?」
たしぎがこの場所に心当たりが浮かぶと同時にリーダーの号令により矢が放たれる。
刀を抜いて叩き落とすも数本がカヤの服を掠って、残りは背後の木を砕いた。
「大丈夫ですか、カヤさん!」
「ええ、でもどうしていきなり……」
なぜ襲われるのか心当たりがないが、ひとまずロビンが怪我しない程度にハナハナの能力で拘束する。
女戦士達は「なにっ!?」「男の力か!?」と驚いていた。
「ここはおそらく、女ヶ島です」
「女ヶ島…?」
「王下七武海、ボア・ハンコックが率いる九蛇海賊団の国【アマゾン・リリー】がある島です」
七武海と言うと先日アラバスタの乗っ取りをしたクロコダイルを思い浮かべる。
だからなのだろう、この島についてある程度知っていた。
「女ヶ島は男子禁制、踏み入れるだけで死刑になるんです」
「死刑!?」
「変装が仇になったわね…」
政府から追われてるロビンの外見を変えてもバレる可能性がある。
しかし性別を変えればいくらロビンだと言われても誤魔化しができるから屋外に行くときはルフィの能力で男性になっていたのだが今はむしろそれが裏目に出た。
「とにかく、今はサニー号に…!」
「止まれ!!」
島を出ようと引き返そうとしたが、増援が現れた。
ロビンの能力は多人数戦に優れてるとはいえ、多勢に無勢。
たしぎも応戦はするがさすがに七武海の縄張りで暴れるのはまずかった。
「くっ、ひとまず森に逃げて身を隠しましょう!!」
「待てッ!!」
「ミニメリー2号が?」
「ええ」
その頃、沖合のサウザンドサニー号ではルフィがオトとアデルを使い倒して、2人をトばしたぐらいにノジコが呼びに来た。
というのも3人が上陸に使ったミニメリー号を誰かが陸に引き上げて持って行ったそうだ。
「…3人を迎えに行く」
「けどどうやって上陸するの?サニー号だと入れないし…」
ミニメリーを出したのは大型船のサニー号では接岸する前に海底に乗り上げてしまうからだ。
そこから泳いで上陸することもできるが、能力者のルフィではそれもできない。
「空から行く」
「…空から?」
「ロビンさん、大丈夫かな…」
見通しが悪い森とは言え、その環境で生まれ育った彼女達からは逃げるのは容易ではなかった。
しかも非戦闘員のカヤを庇いながらの戦いは部が悪すぎる。
「ロビンさんならきっと問題はないです」
そのため、ロビンが囮となって2人は森の中を逃げていた。
本当はたしぎが囮役を名乗り出たが、向こうの最優先の狙いは男だ。
おまけに純粋な多人数相手の戦闘力ではロビンのほうが上。だからロビンが囮となった。
「とにかく今は、サニー号へ戻る方法を考えないと…」
「え?戻るって、ミニメリーで…」
「ここまでの騒ぎになったら海へでるルートは抑えられる可能性があります。ミニメリーは砂浜にそのままおいてきたので、見つかったと考えるべきです」
「そんな…」
ミニメリーを奪われたというのは戻る手段だけでなく、ミニメリーに対しては深い思い入れがある。
それが奪われたとなると自分だけでなく、特にオトとアデルも悲しむ。
「…今は安全な場所を探しましょう。もしかしたらルフィさんたちが助けに来てくれるかも」
「あ、森が…」
方角も大体しか分からず、森の中をなんとか進んでいくと視界がひらけていく。
見れば、切り立った丘の上で眼下には城と街が広がっていた。
「どうやら、この島、この国の中央みたいですね」
「蛇姫様の〜〜!!湯〜浴〜み〜〜!!!」
鐘の音と城下に聞こえるほどの大きな宣言。
それとともにワラワラと城から人が出てくる。
更には城の周りに陣を引くようにして見張りも立っていた。
「お風呂で、城の人が外に…?」
「なんでしょうか…人に裸を見られたくない…?」
この国のルールまでは知らない二人はなぜ湯浴みになると城から人が出てくるのか分からずにいた。
すると、街を見下ろしていると気づいたことがあった。
「たしぎさん、あそこの岩場から城の屋根に行けます。屋根の上に潜めば見つかりにくいんじゃないかな」
「なるほど…」
カヤが指さしたのは城と崖が近い場所、そこから屋根の上に行けば下からは見えにくいし上手く身を隠せば丘からもわからないだろう。
早速行動を起こした二人。しかし、不運が襲った。
「見つけたぞ!!」
「え」
「しまった…!!」
丘から屋根へと渡ったところを森の中から九蛇の戦士に見られた。
屋根の上は身を隠せばバレにくいが見つかってしまえば逃げる場所もない。
「放て!!」
「カヤさん!!」
「きゃあぁ!!!」
案の定、弓による一斉射撃を防ぐすべはない。
とっさに自分の身を立てにしようとたしぎがカヤに飛びつく形で覆いかぶさる。
だが――
「えっ――」
「屋根、がっ――」
「しまった!!」
木を割り、岩を砕くほどの矢が着弾した屋根は大砲が打ち込まれたかのように大きな穴を開けて吹き飛んだ。
その穴にバランスが取れない二人が落ちていく。その騒ぎは城下にも聞こえて何事かと見上げた。
「ぶわっ!?」
「お湯っ!?」
幸いなことに落下点は水――ではなく、お湯だった。
衝撃がある程度吸収され、なんとか周囲を確認した二人。
「っ、女…!?」
「え…」
「なっ…!?」
そこには、二人に背を向ける黒髪の美女がいた。
突然の出来事に3人共驚いていると騒ぎを聞いてか部屋の外から「姉様!?」「何事!?」と二人の美女が慌てて入ってきた。
「あ、あの、わたしたちその」
「私達に敵意はありません!」
「姉様、一体…」
「…背中を…見られた…!!」
敵意はないことをアピールする二人だが、黒髪の美女の言葉に他の二人も青い顔をして驚いた。
そして、この場から逃がすつもりはないという雰囲気をカヤとたしぎは感じた。
「そなた等が見た、これは…わらわ達がたとえ死んでも見られたくないモノじゃ…!」
「え、ええ…!?な、なんで…!?」
背中にあるものの意味を理解してないカヤは困惑するが、たしぎはその理由をすぐにわかった。
そして、目の前にいる女性が七武海の一人、ボア・ハンコックで、なぜそれほどまでに嫌悪してるのかもわかった。
「見たものを…墓場まで、持ってゆけ!!」
「ッ!」
手でハートマークを作るのを見たたしぎは刀を抜いた。
だが、それはハンコックを切るためではなかった。
「カヤさん、すいません!!」
「っ!!?」
「メロメロ
ピンクの光が二人を包み込んだ。
その光に目が眩んだカヤが手で顔を覆う。
「っ、一体何が…――!?」
光が途切れて目を開ければ、そこには石像があった。
ただの石像ではない。たしぎにそっくり――いや、たしぎそのものだった。
「たしぎ、さん…?」
「ほう、咄嗟に仲間を斬ることでわらわの邪念を断ち切らせたか」
冷たい目で見下ろすハンコック。
その目はたしぎが刀でつけたカヤの左の二の腕についた傷がある。
「自らの身を犠牲にしてまで庇ったのは見事…じゃが、そこまでじゃ」
ハンコックの左右を妹であるサンダーソニアとマリーゴールドが控えていた。
「アマゾン・リリーを逃げ惑う男に告げる!貴様の仲間はすで闘技場へと捕らえた!!二人の命が欲しくは姿を現せ!!」
「あら…」
囮として分かれて森の中に隠れていたロビンは島へと響き渡る宣言に困ったように言った。
本当にたしぎとカヤが捕まったのかは分からないが、明らかに自分を捕まえるための罠だとわかった。
「従うしか無いわね…」
もしも過去のロビンなら、捕まった相手を見捨てて逃げていただろう。
だが、その考えは頭の中に欠片も浮かばなかった。
命をかけて自分を助けてくれた大きな友人が「いつか仲間と出会える」と笑ってくれていた。
まさか、数段すっ飛ばして【妻】となるとは思わなかったが、もしも自分が捕まったら必ず助けに来てくれると信じていた。
だから自分がカヤを見捨てることなんてありえなかった。
ー闘技場ー
「ふん、戦う力を持たぬとは。なんとも哀れな女だ」
「っ…!」
円形闘技場。その真中のステージでは後ろ手に蛇で縛られたカヤ。
その横には風呂場から運ばれた石化したたしぎが並んでいた。
客席にいる九蛇の戦士たちもまるで抵抗できないカヤの弱さを嘲笑した。
初めてカヤは戦うことができない自分の弱さを呪った。
「あら、随分と酷いわね」
「っ、ロビンさん!!」
「来たわ、男よ!」
「あれが男」
「始めてみたわ」
ゆっくりと姿を表したロビン。
初めて見る【男性】に観客たちはざわめき始めた。
「ほう、仲間を見捨てずに現れたことは褒めてやろう。だが、死刑を恐れぬは愚かじゃな」
「そうね、前までなら逃げてたでしょう。だけど…私にとって一番怖いのは大切な人を失うことよ」
「ふん…男が、吠えよって。バキュラを出せ!」
ハンコックの命令で闘技場に大型の黒豹が投入された。
あまりの大きさ、獰猛さにカヤを縛っていた蛇たちも思わず逃げ出すほどだった。
「ロビンさん、ごめんなさい。私…」
「気にしないで。私は私、貴女は貴女でやれることをやりましょう」
そう言ってロビンは石化したままのたしぎを見た。
九蛇の姉妹が相手を石化させる呪いのような力を持つとは聞いていたが、実際に目にするのは初めてだった。
「もしかしたらルフィならタグを弄って治せるかもしれないわ。大事なのはそれまでの間、彼女を守ることよ。私がアレの相手をする。だから…」
「…わかりました」
カヤも逃げ回るだけではいけないとはわかっていた。しかし、戦いに関して何もできず、ロビンに任せるしかなかった。
その悔しさを噛み締め、なんとかたしぎの石像を壊さないように移動させはじめた。
「さあ、バキュラよ!罪人を喰らうが良い!!」
『ガルルルルル!!!!』
「
「1万キロ【ピアス】!!」
『ギャオォォォ!!!?』
突然、上空から隕石のようにバキュラ何かが突き刺さった。
衝撃で舞う砂煙に驚くと、バキュラの背中に深々と一人の美女が片足をめり込ませていた。
「これは…ミキータ…!?」
「キャハハハ、何してんのよ。こんな場所で見世物だなんてあんたらしくないわね」
肩に担いだ傘を揺らして嘲笑うミキータ。
その様子にロビンはホッとしていた。いくらバキュラを封じ込めたとしても無事に帰れる保証なんて無い。
それこそ石化したたしぎと非戦闘員のカヤを守りなからの撤退なんて無理だった。
しかし、ミキータが来たことで少しばかり余裕ができた。
「ん〜?あんたもしかして、ここに来たの私だけって思ってる?」
「え?」
たしかに、ミキータ一人でここに来るとは思えなかった。しかし、ミキータのキロキロの実は自分の体重を操作する能力だ。
いくら軽くしても、誰かと一緒に来るのは不可能に思え――
「…なるほど、そういうことね」
「ええ。あとはゆっくりしてなさい」
「ええい、貴様らは何じゃ!!なぜまた男が増えておる!!」
ハンコックガ苛立ったように叫ぶ。彼女にとって男は『忌み嫌う』存在だ。
ただでさえロビンという男性がいるのに、更にもう一人増えているのだ。
「ウチの
舞台の中央でまっすぐとハンコックを睨む人物――カヤたちの夫であり、ご主人さまであるモンキー・D・ルフィだった。
本来ならミキータのキロキロの実で誰かを運ぶことは不可能。
しかし、ルフィのタグタグの実で同行者の重さを弄ればともについてくることが可能だった。
そうやってミキータともに女ヶ島の上空をこうしてると、円形の闘技場らしき場所で石化したたしぎ、縛られたカヤ、そして現れたロビンを見つけたというわけだ。
一国の猶予もないとミキータがそのまま重さを増強させ、バキュラへと襲いかかった。というわけだ。
「安心して姉様」
「すぐに私達が殺すから」
ハンコックの苛立ちを宥めるかのように妹であるサンダーソニアとマリーゴールドがステージへと登るとその姿を変える。
その間に石化したたしぎはステージの下の段へと降ろされ、カヤ、ロビン、ミキータもそこへと待機した。
「出たわ、ゴルゴン三姉妹の呪いよ!」
「ああ、なんと恐ろしくも美しい…!」
「呪い…?ただの悪魔の実だろ?」
偶然にもルフィの船の能力者にいないが体の変化が起こる悪魔の実は多々ある。
それを知ってるルフィからしてみればこの二人の変化は呪いなんかではなかった。
「…治るの、これ」
ステージ下段に避難したロビンとミキータは運び込んだたしぎを心配そうに言った。
石化した場面を見ていたカヤも「わからない…」としか言えなかった。
「…たしぎさん、私を庇って…」
「……今は、ルフィがどうにかできることを信じましょう」
自分たちではどうしようもできず、今はただただ祈ることしかできなかった。
特に一緒に行動していたカヤはその無力さに歯痒い想いをしていた。
「(私だって……誰かを守れる力が…!)」
そう願っても、叶わないことはわかっている。
それでも、自分を助けてくれた友人のために何かをしたい。そう思う気持ちは本物だった。
「【ペースト】!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「!!!」」」
ルフィの能力発動にサンダーソニアの悲鳴が響いた。3人の頭上を飛び越え、下半身が蛇となった巨体が炎を纏って飛んで行った。
その様子に観客からは悲鳴と絶叫が響き、マリーゴールドが「姉さま!客席を掴んで!!下に堕ちるわ!!」と叫んだ。
「あぁぁっ…ぐぅぅ……!!」
なんとか両手で柵を掴んでステージと観客席を橋渡しするような形で落下を防いだサンダーソニア。
どうやらルフィがサンダーソニアの服に【炎】をペーストしたようで、燃えてた彼女の衣服が落ちていく。
「―――!!!」
「えっ?」
「ちょっと、カヤ!!」
「なに…?」
「カヤ?」
サンダーソニアの服が脱げていくことに気づいたカヤはステージを登った。
その声に気づいた対峙していたルフィとマリーゴールドも攻めの手を止めてカヤを見た。
彼女はステージから蛇となっているサンダーソニアの下半身を登り、綱渡りのようにしてその腰を渡ってまだ服が燃える背中へと飛びついた。
「熱ッ…!!」
「カヤ!?」
「な、何よあの女!!」
「戦いに割り込んでソニア様を落としに…!!」
「弱いくせに卑怯者!!」
カヤの行動に非難が飛ぶ。
だが、ルフィはカヤがそんな人間ではないことを知ってるし、何より今のサンダーソニアの身体は燃えていた。
それに飛びつくと自分の身体も焼けるのは聡明な彼女はすぐにわかるはずだった。
「ハァ…ハァ…キサマ、そんなことをしても私を…!」
「っ、動いたら…ダメ…!!私が…落ちて、【見え】ちゃう…!!」
「…!!」
行動の意図を、マリーゴールドが気付いた。カヤはサンダーソニアを殺そうとしたのではない、守ろうとしてるのだと。
その体でサンダーソニアを、殺そうとしていた自分たちを守っているのだと。
「ッ…マリー、何を見て…早く、落としなさい…!!」
「…ダメよ、姉さま。いま、その娘に…私たちは守られてる」
「…えっ…??」
「見て、ソニア様の服が!!」
マリーゴールドの言葉で気づいたのだろう。客席の九蛇が指摘したように今のサンダーソニアの身体は上半身が裸だ。
それはつまり、背中には『見た者を石にする』とされるゴルゴンの呪いがむき出しになっている状態なのだと。
「ッ…!!武々は終わりじゃ!ゴルゴンの目が晒される前に会場を出よ!!」
ハンコックの号令に「大変!」「闘技場の外へ!!」「石にされる!!」と大慌てで外に出ていく観客たち。
それを見てマリーは持っていた武器を降ろした。
「何だか知らねぇが…終わりか?」
「…ええ、私たちの負けよ」
「…なんで、助けようとしたの。私はあなたや仲間を…」
「殺されるのは怖いですし、たしぎさんのことも許したわけじゃないです。でも…だから助けたら駄目な理由にはなりません」
「…優しいのね、あなた」
「―――はっ…!?」
「お、目が覚めたか」
「ルフィ、さん?」
たしぎが意識を取り戻すと、そこは風呂場ではなくどこかの闘技場のような場所。
周囲が妙に荒れているが一体何があったのかと周りを見れば一緒に行動していたカヤと囮となって――女性に戻ったロビン、それとルフィとミキータが周りにいた。
さらには少し離れたところには、
「ッ、ハンコック…!!」
自分たちに危害を加えようとした張本人であるボア・ハンコックとその妹の二人。
反射的に警戒して刀に手を掛けようとするが「ストップ」とルフィに止められた。
「ひとまず向こうはこっちに危害を加えるつもりはないみたいだ」
「…本当ですか?」
「ああ。どういう心変わりかは知らんけどな」
たしかに、風呂場で見たハンコックは何があっても自分たちを亡き者にしようと殺気を飛ばしていたが今はそんな様子はない。
特に妹の二人に関しては申し訳ないという戸惑いさえ見えた。
「…本来なら不法入国、および男であることで死刑というべきなのじゃが、そこの小娘…いや、カヤと言ったか。その者に我らは救われた」
「カヤさんに…?」
ハンコックが嘘をついてるようには思えないし、カヤが誰かを助けるというのもわかるが、そこまで言わせるようなことをしたのかとたしぎはカヤを見た。
「…あの、たしぎさんも見ましたよね?ハンコックさんの背中の紋章?みたいなの?ソニアさんの背中のが見えそうになって、それで必死に隠して…」
「あのねぇ、隠してなんて簡単に言うけど燃えてた服に覆いかぶさったのよ?ルフィの能力で跡は残らなくても熱かったんでしょ?下手したら酷い火傷になっていたのにそんな能天気なこと言ってさぁ」
カヤの説明にミキータが呆れてネチネチと小言を言えば流石に無茶だったと反省したのかしょぼんりとした。
だが、その説明にたしぎは思い出したようにハッとした。
「…先ほど、そなたが海兵だという話は聞いたが、やはりお前にはこれが何かわかるか」
「…ええ。広言するつもりはないですけど」
「なによ、その紋章って」
それが二人が殺されそうになった理由だというのに黙っているつもりだというのをミキータが不満そうに言った。
ハンコックと妹は口をつぐんだが、たしぎは少し考えた。
「ボア・ハンコック。その秘密…この場にいる人間…ルフィさんだけにでもお話ししてもよろしいですか?」
「…なに?」
「彼なら、その秘密に力になってもらえます」
不機嫌そうに、誰にも明かされたくない、知られるのなら死を選ぶほどの秘密を寄りにもよって忌み嫌う男であるルフィに明かすとたしぎが言ったことにハンコックは嫌悪感を隠そうともしなかった。
今すぐにでもその口を塞ごうとするが「姉さま」とサンダーソニアが止めた。
「理由は私にもわかりません…けど、私を助けたあの娘に免じて、その言葉を信じてもいいでしょうか」
「ソニア…」
「姉さま…」
マリーゴールドも口にはしないがサンダーソニアの意思を汲むのを賛成しているようだ。
それにハンコックは折れ「わかった」と渋々了承をした。
「…この秘密を明かした場合、必ず貴様とその大切な人間をすべての命を奪う。よいな」
「ああ。何かは知らないが人の秘密を言いふらす趣味はない。カヤとたしぎに誓って口を閉じる」
説得した二人の名前に誓えば納得したように、ハンコックはその服を脱ぎ始めた。
やたらと脱ぎにくい構造になってるのか、少し手間取りながらも上半身が裸となった。
普通に黄金比のようにきれいな裸体にルフィの股間は少し反応するが、本題はそこではないため何とか抑え込んだ。
「背中になんかの紋章があるって話だったな。それが秘密か?」
「…そう、それがこの紋章じゃ」
背を向けて彼女の長い髪を上げればそこには何かの足跡のような焼印があった。
それを見てサンダーソニアとマリーゴールドは青い顔をしている。
「…あれは、まさか…?」
「ロビン、知ってるのか?」
その紋章が何なのかカヤも、ミキータもわからないがロビンは知ってるようだ。
幼いころから世界を渡り、裏の世界で生きていたロビンは様々なことにも精通している。
だからこそ、たしぎ以上に
「…正式名は【天駆ける竜の蹄】…一般的にはこう呼ばれる。【天竜人の所有物の証】」
「天竜人…!!」
この世界で天竜人の名前を知らない人間はあまりいない。
世界を作った20人の王の末裔たち、そう呼ばれるのが天竜人だ。
世界政府ですら逆らえず、人間を見下す文字通りの【世界貴族】のことだ。
人間すら奴隷として扱い、遊び半分で殺すこともあれば自殺や廃人にまで追い込まれるほどに虐待することもあるという。
そんな人間のクズたちが使うのがこの紋章だ。
「わらわたちは…かつて、天竜人の奴隷じゃった」
そこから、ハンコックの口からは思い出すのも苦痛な過去が語られた。
ある日、攫われ、そして虐げられた。余興として悪魔の実を食わされたこと。
毎日に絶望し、希望を持てずにいた。
そして、魚人のフィッシャー・タイガーと言う男に救われたということを。
「…これで、わかったじゃろう。わらわが…お前たちを殺そうとした
短くも長い、そして重苦しい話を語り終えたハンコック。
彼女たちは、その身に刻まれた傷を晒すことがどれほど恐ろしいことだったか。
それを隠し、生き続けることしかできない彼女が秘密を守ろうとしていたのを。
「【デタッチ】」
「え?」
ルフィが能力を発動したことに気づいた。
何をしたかとハンコックが振り返るが、なぜかカヤはとても嬉しそうな顔をしていた。
ハメられた?いや、そんな様子もない。
なにをした、一体何をされたとハンコックが警戒すると「姉さま…!?」とマリーゴールドが信じられないものを見るような声を出した。
「マリー、なんじゃ、何があったんじゃ」
「ね、姉さまの背中から…あの、焼印が、消えてる…!!」
「…な、に」
そんなことは信じられなかった。天竜人が紋章を入れる際に焼印を使うのは泣き叫ぶ奴隷を楽しむのと、万が一逃げたとしても消せない証として体に刻み込むためだった。
だから治療しようと思っても直せず、隠すことしかできなかったからだ。
それが、消えた?
「な、なぜ…」
それができるのは、それをしたのは間違いなく今さっき能力を発動したルフィだ。
どういう意図があったのか、どういうつもりなのかと問いかけた。
「生まれつきの傷だったり欠損とかなら無理だが、後でできた火傷程度なら取り除くことぐらいできる」
「そうじゃない!!わらわの焼印を消した理由じゃ!!わらわはお前たちを殺そうとした!!それにそんなことをしても、お主になんの利益も」
「単純な話、俺が天竜人が大嫌いだから」
「…は」
ハッキリと言い切ったルフィにハンコックはきょとんとした。
この世では天竜人が好きな人間を探すより
だが、それを表立って発言することはできない。ましてやつい先ほどまで殺そうとしていた人間に。
「それに、そんな焼印で好きなファッションができないのは嫌だろ?スタイルに自信があるなら着たい服もあるだろうし、ここの連中は軽装がトレンドみたいだしな」
たしかに産まれてから強さ=美しさであるアマゾンリリーでは身軽さを保つために軽装なのが一般的だ。
だが、背中の焼印を隠すために脱げにくい服しか着られなかった。
「…これから、わらわは…例えば…水着とか…ドレスとか…背中を見せる服を着てもよいのか?」
「ああ」
「…背中を見せることに、不安にならなくても…よいのか…?」
「取り外したタグは俺の意思がない限り戻らねぇけど、お前が天竜人の奴隷だったことなんて話は聞いたことないな。何とかって言う呪いがいつの間にか消えた。それだけだろ?」
「うっ……うぅ……」
ハンコックの過去について、ルフィは作り話の「その後」を適当に言った。
不安になることも、怯えることもない。今作られた「事実」に涙を流した。
それは今まで我慢してきたものが溢れ出したようにも見えたし、自分の未来を照らしてくれた光のようにも見えた。
「ありがとう……本当に、ありがとう……!」
「お姉様…!」
「ほら、お前達も背中見せろ。まあ、見せたところでそんな呪いも証もないだろうけどな」
「あ、ハンコック、さ、ま?」
闘技場の外で待っていた九蛇の戦士たちは言葉を失った。
現れた自分達の主人と姉妹達。その横に男と仲間がいるが全員の目が行くのはその格好だ。
ハンコック、ソニア、マリーゴールドの3人は上半身裸だった。
「う、美しい…!」
「目が、目が浄化されます…!」
「あなた達落ち着きなさい!まずはあのお姿をしっかりと焼き付けるのよ!」
特にハンコックの裸体に気圧される一同だがただハンコックが一言「静まれ」と言うだけで収まった。
「まずは……
髪をかき上げ背を向けるハンコック。
その行動の意味をこの島の住人たちはすぐに理解した。
「ハンコック様が背をお見せに!?」
「きゃー!呪いの目が…?」
「目が、ない?」
三姉妹は蛇の怪物ゴルゴーンを退治した呪いを背に受け、それを見た者は石にされると言われていた。
しかしハンコックも、同じように背中を見せるソニアとマリーゴールドにもそんな目は無かった。
「我が姉妹が背に受けた呪いはこのモンキー・D・ルフィが解いた!今もなお、我が姉妹には呪いの力は体にある、だが背を見る事で其方達が石にされることはなくなった!」
「なんと…!」
「ハンコック様達の呪いの目を…!」
三姉妹の呪いの目はこの国では周知の事実だ。
裸を見せる湯浴みの時間になると陣を張って誰一人近寄れないようにする徹底ぶりだ。
そのために彼女たちも密かにその呪いを恐れていた。
それはどうしても解けないモノだと言い伝えられていたが、今日突然現れた男がそれを取り除いた。
にわかに信じられない話だが、ハンコックたちの背が【(捻じ曲げられた)事実】を告げていた。
「我が国では男は足を踏み入れれば死刑。だが、この恩義を死で返すのは九蛇の名を汚すに等しい蛮行だとわらわは思う!故に異論がある者はその誇りをもって名乗り出よ!今ここで反論の弁を口にすのを認める!なければ喝采を持ってルフィの栄誉を讃えよ!!」
ハンコックの言葉が響きわたる。
反論を認めたのは彼女達【九蛇の戦士】は女性として男性に屈することのない誇りがあったからだ。
だがルフィを讃えれば男に屈したと同義だった。だから反論を認めた。
「ほ、本当にハンコック様を解放してくれたのかい?」
「すごい、すごいよ!あんた!」
「異論なんてないです!」
しかし、反論を上げるものは誰もいなかった。
むしろ時間が経つにつれ歓声が上がり、中には涙を流しているものもいた。
「皆の者、宴の用意だ!今宵は彼らを歓迎し、讃えるのだ!!」
女ヶ島に行く理由がなかなか思いつかなかった…
最初は九蛇の戦士もしくはアマゾン・リリーの子供が漂流してサニー号が拾ってそれを送り届ける、とか考えてたんですけど上陸までしないだろうし、どうしようかと思って悩みに悩んでこうなりました(いっそのことクード・バースト使えることにして誤って上陸しようかとも思った)
そして偶然島を発見して冒険ということに落ち着きました。
あと、先にバトルの展開を考えて、この作品のルフィが体を張ってサンダーソニアを守るわけないだろうし、じゃあやりそうなのがカヤかなと。
特に戦闘力がない彼女がやることに意味がある感じがしたので。
冒険するにあたって護衛も必要だからたしぎ、そして追いかけまわされるということでルフィと同行、とも考えたけど「能力で制圧できるのに逃げるかなぁ」と思って男性化したロビンにしました。
原作と同じように背中を見る流れを悩んで、屋根に上って覇気の矢で落ちることにしました。
…メロメロ甘風ってどうしよう。
作中の発言から下心とか邪念とかなかった発動しないっぽいし、純粋なオトとかなら効かないだろうけど…死の危機から不発ってのもなぁ…
色々と考え、とっさの判断でたしぎがカヤを守るようにしました。
ちなみにたしぎは本当に本能的にやったので能力についてはちゃんと理解してなかったです。(原作でもモモンガが同じようなことをしてたけど海兵は能力についてちゃんと把握してなかったので)
バキュラ戦は原作みたいに一瞬で吹き飛ばしたかったからこの作品で初めてのミキータの戦闘です(ウィスキーピーク?知らんな)
と言ってもルフィを送り届けるのが目的なので一撃だけです。
ちなみに技については【ギロチン】や【プレス】でもよかったんですけどオリジナリティ出したくて「上空から一気に重力を増やして足の一点集中で破壊力を増した一撃」という技を作ってみました。
そしてこの作品を作るにあたってある意味で一番やりたかった「三姉妹の天竜人の証を消す」というのをやりました。
タグタグの能力考えてる時に外見的編集ができるようにしたら「ロビンの外見を弄って政府を欺く」と「姉妹の証を消す」というのが浮かんでました。
ちなみにルフィが「天竜人が嫌い」と言ったのは方便でなく、本当に嫌いです。
というのも、ダダン達は隠してましたがサボの一件で天竜人のせいで死んだ(と思ってる)のを知ってるので。
あとは、原作だと多分サンダーソニアの一件で九蛇に受け入れられてたけどこっちでは「呪いを解いた」ということで原作以上に歓迎されてます。
それと今回からアンケートを取りたいと思います。
内容はエースについて…
実のところ、エースの救助は「実行する」「実行しない」「成功する」「成功しない」関係なくこの話は進みます。
というのも別にこの作品のルフィは「これ以上の航海は無理」と判断したらドロップアウトして、経緯はどうあれエレジアで平穏に国王となっても構わないのでエースの生死とそれに関する修行もあまり関わらないので…
作者としては救助ルートを考えてはいるんですけど、読者の皆様はどうかなって。
ゴードンの生死を変更したことで多少なりとも「どうなの?」という声があったので、あまり今後の展開に関係しないエースをどうするか決めかねてる状態です。
アンケートは次々話までとなり、その次にエース救出もしくは別のルートの話になるかと思います。
もしも何かしらのアイデアがあるのなら活動報告「募集箱」にて投稿していただければ幸いです。
さて次回は導入を経てのハンコックとの――と思ってましたが、ハンコック編の導入はまだ続いて長くなったため中編として来週29日に投稿します。
と言ってもR18要素はあるのでお楽しみに!
エースの扱い。救助を
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する
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しない
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どちらでも