インペルダウン
世界で一番有名で、一番危険な監獄。
日夜増え続ける犯罪者を捕らえ、そして閉じ込める箱だ。
「…一体…なんだったんだよ…あの女…」
その最下層。
通称『無限地獄』と呼ばれる政府から存在を否定・抹消されるほどの最重要犯罪者が収監される区画。
他のエリアでは様々な苦痛を与え、そして生きていく気力を削って下手な考えや反抗心を抑えるのだがこの牢屋に入れられる囚人はそれらを苦痛と思わないほどの忍耐と思考を持つ人間ばかりだ。
「あの女は七武海の中でも外部と接触がまるでない故に突拍子もないことを行うことも多かったと聞くが…」
「はっ、人の顔を見るなり『それほどの価値なのか』とかよく分からねぇことを言うのもそれに含まれてるのか」
今現在インペルダウンで最も重要な囚人とも言えるのが白ひげ海賊団二番隊隊長『火拳』ことポートガス・D・エース。
その彼にインペルダウンで前代未聞の『面会』を申し出たのは世界の3大勢力の一つ『七武海』の一人ボア・ハンコックだった。
エースの処刑に対して白ひげ海賊団との戦争が勃発するのがほぼ決定的だった。
そのために七武海に対して政府は強制招集を課していた。
その中で白ひげに対して仁義を重んじる【海峡】のジンベエは戦争に反対し、むしろエースの解放を主張して暴れて捕らえられた。
もう一人、文字通り【女帝】として自由気ままなハンコックは戦争に興味がなく、場合によっては七武海の称号剥奪も辞さないという考えだった。
しかし、気が変わったのか「火拳のエースとの面会ができれば従おう」という返答が出た。
インペルダウンに、しかも七武海とはいえ海賊が囚人の面会に訪れるなんて前例がなかったが白ひげとの戦争が迫るため特例として認められた。
女なんて滅多に来ない、しかも傾国の美女とも言われるほどの美貌に湧いていたLEVEL6だったが、ハンコックがマリンフォードへと向かうためにいなくなれば静けさを取り戻していた。
「やほ、まだ生きてる?」
「「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」」
LEVEL6にいる囚人達は驚いた。
いつの間にかそこに1人の女性がいたのだ。
「だ、誰だ。お前…?」
しかし、呼ばれたであろうエースはその女性に見覚えが無かった。
暗く顔がよく見えないが声からして年齢は同い年ぐらい。
気になるのはその格好。
「むほーっ!あの女、とんだ痴女だぜ!」
「おい女ぁ!こっちこいよ!」
他の牢の囚人が騒ぐのも無理はない。
「えー、もしかして忘れた?」
「生憎、俺の知り合いにこんなところに全裸で来る奴はいない」
そう、女は全裸だった。
過去に全裸に近い服装の女は見たことはある。
しかし、目の前にいる女は服もズボンも下着も着けていない。
「仕方ないでしょー、隠れてくるにはこうするしかなかったんだから」
そう言って女は、どこから入手したのか牢の鍵を開けた。
中に入れば顔や体つきが良く見えた、が、やはり見覚えがない。
「…誰なんだ、お前」
「まあ、分からないのも無理はないか。んー…私はルツって呼んだらいいよ」
「偽名か」
「こんなところで本名を名乗るのはバカだよ、お兄さん」
偽名であることを隠そうともしないルツ。
敵か味方か判断を見極めようとするエースに対してルツは大きくため息をついた。
「全く、いろんな人に心配かけて。挙句に捕まるなんて」
「…テメェに説教される筋合いはネェよ」
「ある。【2人揃って】大切な兄弟分を置き去りにする兄になるつもり?」
「…っ!?」
エースは仲間を家族の様に扱う白ひげ海賊団の一員だ。
彼を兄弟の様に扱う仲間は多い。だが、ルツの言う「2人揃って」と言う部分に隠された意味に気づいてある心当たりが生まれた。
「まさか…!お前r」
「ストーップ!!せっかく偽名使って助けに来る意味を考えろって!」
危うく本名を口にしかけたエースを遮った。
しかし、それなら正体を隠すのは納得だがなぜインペルダウンにいるのか。
「なんでここに来たんだよ!?」
「言ったでしょ、助けに来たって。処刑される前に助けにこれるのは今しかなかったから仕方ないじゃない」
「そうじゃねぇ!!これは俺の冒険だ、俺が始末をつけることだ!!散々海賊になることを嫌ってたお前が出しゃばったことを」
「―――うっせぇ!!!!」
「ッ!?」
今度はエースの主張を真っ向から罵倒を被せて否定した。
ルツの顔は呆れとも、怒りとも、あるいは悲しみとも取れるような表情をしていた。
「…ル……ルツ?」
「…それで?大切な兄貴分が死んだことをまた後になって知らされろって?あの時お互いに乗り越えるって誓い合った。それなのに今度はその舐め合いすらできないのを我慢しろって?」
「ッ…!」
エースが冒険に出て、強さを求めていたのはある親友がきっかけだった。
その死を悼み、涙を流し、そして二度と失わないと誓った。
「死を受け入れようとするんじゃねぇよ。死んだあとに残された人の気持ちをよく知ってるくせに自分だけの問題だと思ってるんじゃねぇ」
「……………」
「少しは他の人間の気持ちも考えろ、バカエース」
「……悪い」
よほど言葉が重くのしかかったのか、エースはしおらしく謝った。
それに鼻を鳴らすとルツはエースの手錠の鍵を外した。
「さて、それじゃ」
「あっ、ちょっと待てルツ。こいつの手錠も頼む」
そう言ってエースは同じ独房に入れられていたジンベエを指した。
他の囚人が全裸のルツに厭らしい目や汚い言葉をかける中、一人だけルツとエースの成り行きを毅然とした態度で見守っていた。
「え、誰?」
「おれの馴染みだ。七武海なのにこんな真似になっても俺の処刑を反対してた」
「…迷惑をかける」
武人のような堂々とした立ち振舞にエースの説明で義を重んじる人なのだろうとルツは手錠の鍵を探すと外した。
それを見て周りから「俺も!俺も!」「おい出せよ!!」と囚人が騒いでいる。
「それで、どうやって外に出るんだ?」
「そもそもこんな騒ぎになると看守が来そうなものじゃが…」
ルツがLEVEL6にあらわれてから結構時間がかかったが、それでも看守が侵入者を捕らえに来る気配がない。
監視用の電伝虫が使えないLEVEL5ならともかく、より一層重要な罪人が収容されるここの監視を疎かにしてるとは思えない。
「今頃あちこちで問題が発生してるから、それの対応で忙しいんだ」
「え?」
「……お前、なにかやったな?」
インペルダウンは全部で6つのLEVELに分けられている。
無論LEVEL6は最重要だが、他の独房にも囚人がいる。
そのため同時多発的に問題が発生したら監視の目が届かなくなる。
「さて、それじゃ2人とも寄って」
「何する気だ?」
「お〜い女ァ!俺たちも出せよ!」
「ヒヒッ、可愛がってやるからよぉ〜!」
「そんなデカい胸晒して欲求不満な、んだ…ろ…?」
囚人達は異様な光景を目にする。
ルツが自身の胸を持ち上げると乳首をエースとジンベエに向けた。
するとまるで空気が送り込まれた風船のように胸が膨れた。
「なにをする気じゃ…?」
「お、おい、ル…ルツ!?」
「動いたらダメ、ちゃんと味わえよ?」
胸がスイカやメロンより大きくなると乳首から甘ったるい匂いが吹き出した。
「ちょ、ま」
「ミルキーコーティング!」
ブシャァアアアアアア!!!
「「ギャアアアアアアアアアアア!?!?」」
「「「「「はあぁぁぁぁぁぁ!??!?」」」」」
ルツの胸から放たれた大量のひどく粘液質な母乳を2人は顔面に浴びる。
その量は2リットルや3リットルなんてレベルではない。
「能力者かっ!?」
「母乳を吹き出す悪魔の実!?」
「聞いたことねぇよ!」
消火ホースの放水以上の水圧に驚くとあることに気づいた。
「おい!火拳とジンベエが消えたぞ!?」
「いつの間に…!?」
「おい!あの女もいねぇ!」
「なにぃ!?」
一瞬にして3人の人間が消えた。
まるで夢だったかの様だが、つい先ほどまで牢内にいたエースとジンベエがいないのと、Level6エリアに充満する甘い匂いが幻ではないことを証明していた。
「生まれて初めて魚人なのに溺れると思ったのが海ではなく母乳とは…」
「大丈夫、全人類で初めてだから」
「慰めになってねぇよ…」
LEVEL6と最上階――いや、地上までを移動するエレベーターでぐったりするジンベエとエース。
2人の衣服はどう言うわけか消えており、ルツを含めてエレベーターにしては広い空間に全裸の男女が3人いると言う不可思議な状態だった。
「おい、なんだのさっきの…」
「え?なにって…ミルキーデコレーションだろ」
「知らねぇし名前変わってるぞ」
明らかに適当な名前にツッコミつつ、エースはルツに聞いた。
「なんで俺たちに母乳をぶっかけたんだよ…」
「む?アレがコヤツの能力ではないのか?」
いくらなんでも人体では無理な現象と悪魔の実を結びつけるのは普通の考えだ。
だからジンベエもあれがルツの悪魔の実の能力か、それに関するものだと考えた。
「…あー、なるほどな。ジンベエ、さっきのアレはコイツの能力となんの関係もない」
「なんじゃと?ああする事で発動する力ではないのか?」
悪魔の実と一口に言っても様々だ。
ジンベエが知る能力で例えるなら同じ王下七武海のゲッコー・モリアが影を操り支配する能力だ。
そして他者の影を死体に入れるとゾンビとして従えることもできる。
つまりは【影】が発動条件の能力ともいえる。
ルツの能力もそう言った条件があるのではと思っていた。
「別に射程範囲内ならノーモーションで発動できる。アレはあの場にいた連中を騙すパフォーマンス」
「昔から手を向けたり技名を言って能力を使ってたのも、いざと言う時に相手に発動条件があると思わせるためとか言ってたな」
そう聞いてジンベエはインペルダウンに侵入する大胆さを持ちながら念入りな慎重さを持ち合わせているルツに感心する。
「なるほどの……今更ながら、改めて名乗らせてもらう。ワシはジンベエ。王下七武海…じゃが、まあ今回の一連の騒動で除名されるじゃろうな」
「あ、ご丁寧に。私は…本名は逃げ切れた時に教えるからルツと呼んで」
ひとまずの自己紹介を終えたところでエレベーターの終わりが見えてきた。
「間も無く到着します!」
突如としてインペルダウン全体で同時多発的に発生した異変。
LEVEL2の猛獣が凶暴化したと思えばLEVEL4の全域の温度が氷点下まで下がり、逆にLEVEL5の極寒地獄が真夏程の温度まで上昇した。
インペルダウン史上最大の異変に所長のマゼマン以下全職員が対応に追われた時、職員がLEVEL6のエレベーターが動いてるのに気づいた。
「総員、監獄弾構え!所長の能力発動と同時に射撃せよ!」
LEVEL6の監視カメラの映像をモニターしていた職員も異変の対応に追われてしまい、完全に意識が逸らされていた。
この異変は囚人を連れ出す陽動と判断したマゼランは自身のドクドクの実による無力化に監獄弾での制圧作戦を指示した。
そして集めれる戦力を並べて待ち構えていた。
「……!」
エレベーターが到着し、ゲートを開けた。
「
誰がいるか判断する前に先手必勝。
広いエレベーター内を洗い流すかの様に大量の毒が流れ込んだ。
「監獄弾、撃てぇ!」
更には海楼石が練り込まれた鉄網が放たれた。
マゼランの毒と鉄網完全に敵を封じ込めてる筈だった。
「――いない?」
しかし、エレベーター内には誰もいなかった。
「流石に初手毒は予想外だった…」
エレベーター前に戦力を集中させた分、警備が手薄となった警備室。
中に待機していた職員を倒して制圧したルツ達はそこで一息ついていた。
「まさか1日に2度も他人の体液を被るとは…」
「なんかごめん」
マゼランの作戦は途中まで上手くいっていた。エレベーター内にいたルツ達は彼の毒を確かに浴びた。
しかし、毒によるダメージは特にない様子だった。
「あー…コルボ山で毒キノコに当たったのを思い出す…」
「本当、お前の能力万能すぎだろ」
もしこれが普通の侵入者なら確実にやられていたが、その気になれば不老にもなれる悪魔の実の能力を持つルツが相手なのだ。
瞬時に毒の解除、離脱により逃げ仰たと言うわけだ。
「それにしても、人前で裸というのは慣れんな」
「我慢して。そこらの石ころが服着てるわけないでしょ」
ちなみに彼らは別に隠れていたわけでなく姿がそこら辺の石ころと同じに見えていたため気づかなかったのだ。
「で、ここからどうするんだ?外の軍艦でも奪うのか?」
「じゃが最低限の警備がおるし、仮に奪えたとして、正義の門は越えられん」
今は相手の裏をかけたがむしろ問題はここから。
周囲を海王類が生息する海に囲まれ、更には唯一の出入り口が巨大な門に阻まれている島。
時間をかければかわした戦力が異変に気付いて反転して挟み撃ちになる可能性もある。
「あ、脱出は空から行くよ」
「「…空?」」
――海軍本部
世界で大きく3つに分けられる戦力の一つ【海軍】の総本山。
その最上階で海軍トップ【元帥】の執務室。
「――――っ〜〜〜!」
「ぶわっはっは!!まさか脱獄するとはな!」
インペルダウンから入ってきた『火拳のエースと海峡のジンベエの脱獄のおそれあり』という報告に海軍元帥、仏のセンゴクは頭を抱えてガープは煎餅を頬張って笑い声を上げた。
「笑いごとじゃ済まされんぞガープ…インペルダウンの脱獄の上にそれがあの2人だ…責任で何人首を落とすことになると思っている…!」
流石にコトの重大さからか、いつもなら他人事のガープを怒鳴り散らしているセンゴクも呪詛の様な唸り声をあげていた。
その雰囲気にさすがにガープも笑みが引っ込んだ。
「しかし、問題はその裸の女、か」
「ルツと名乗っていたが、偽名だと本人が認めていた。あとの手がかりは目撃者の容姿と、人体を変質させる系の能力らしい力だが…」
「おそらく海軍のデータベースにも政府のデータベースにも存在せんじゃろうな」
ガープの言う通り、海軍の資料にすら載ってない知識を持つ参謀のつるに調べてもらったが一つも情報が出てこなかった。
政府の方へと問い合わせたが偽名・外見・類似する能力等でヒットはしなかった。
かのインペルダウンから囚人を脱獄させた手腕ともなれば裏世界で相当なアピールポイントとなるのだが、それを隠すということは裏の住人ではない。
「だが、どうやってインペルダウンに入ったのか…周囲に不審な船影はなくLEVEL6で2人を出して能力を使った後の行動が全くわからん…今もインペルダウンにいるのかも…」
「(しかし…ルツ、か…偽名を使ってまでエースを助けようとする…まさか…な。ルフィは面倒事を嫌ってたし、仮に潜入できたとしてもフワフワの実じゃあるまいし、タグタグの実では脱獄はできんじゃろう)」
「はぁー、ここまで来れば大丈夫だ」
そこに降り立ったルツとエース、ジンベエ。そして彼らと同じく全裸のミキータ。
「一番今までで大変な任務だった…」
なぜミキータまで一緒で、しかも全裸なのか。
簡単な話、彼女もこの脱獄劇に関与しているからだ。
「ごめん、ミキータ。タグでも細かい調整ができたら良かったけど…」
「いいわよ。私にしかできないことなんだし、妻は夫を助けてなんぼでしょ」
ルツの能力で体重を軽くして浮かび上がることができるが、あくまで「1グラム」「50キログラム」とあらかじめ用意している重さでしかコントロールできない。
となれば、空中浮遊に慣れてキロキロの実で重さを自由にコントロールできるミキータがいたほうが脱出の成功率が格段に上がる。
「いやはや、まさか本当に空から逃げるとは…」
「空から逃げるのもそうだけど、全員全裸ってのも前代未聞だろ…」
ちなみに空中にいるのを見られないようにミキータ含め、タグで姿を隠していたため衣服をまとってない。
とはいえ、普段から裸に近い恰好のエースに人間との感性が違う魚人のジンベエ、生きるために羞恥心なんて捨てたミキータ。
そしてこの状況を作り出したルツと全裸に対しての羞恥心が薄いメンバーでもあった。
「さてと、おい。ルフィ。いい加減能力解除しろよ」
「ああ」
「…ルフィ?」
逃げ切れたため、もう偽名も変装も必要ない。
初めて聞いた本名にジンベエが首をかしげると目の前でルツの姿が年頃の女性からエースと同い年ぐらいの青年へと変わった。
「なんと…姿を変える悪魔の実か?」
「ちょっと違うな。端的に言えば情報を操る能力だ。それで俺の性別を変えてた」
「情報…なるほど、姿を隠すのも空へと逃げるのもその能力のおかげ、というわけか」
流石七武海の一角を務めていただけでもあるジンベエは能力の有用性と脱獄までの不可思議な現象についてすぐに納得した。
「改めて、モンキー・D・ルフィ。エースとは義兄弟の関係だ。一応普通の冒険者をしてるからな…脱獄については口外しないでほしい」
「安心せい。恩人を売り飛ばすようなマネはせん。しかし大丈夫か?あれほどの立ち回りをして政府に感づかれるのでは…」
「まあ、いろいろと手を打ってるから大丈夫だ」
「火拳のエースを…脱獄させる…?」
「ああ、止めるなら今止めろ。たしぎ」
女ヶ島での覇気の訓練をしていたたしぎは真剣な様子のルフィに呼び出された。
近くにハンコックとミキータもいて、2人のやり取りを見守っていた。
「…アラバスタで貴方たちが義兄弟ということは報告してません。このまま知らぬ存ぜぬを通せば政府から目を付けられずに済みます。いくら義兄弟だからといってルフィさんがインペルダウンから彼を助け出すのは無茶が過ぎます」
「無茶だろうな。タグであれこれできたとしても捕まる可能性もある。だけど俺はインペルダウンに向かう。死角ができる監獄の中だとやりようがあるが四六時中人の目があるマリンフォードに連行されたらそれこそ手が出せなくなる」
「だからなぜ!?これは卑怯だとわかります、ですがあなたはオトさんの父親なんですよ!!万が一何かがあった時あの子も!ウタさんも!皆さんも!悲しみます!!」
正義ではなく、親としての視点で説得するたしぎ。
もしも以前の彼女なら海兵として止めにかかっていた。だが、今はルフィの妻の一人だ。
海兵よりも妻として、止めることを選んでいた。
「…俺が兄弟の盃を交わしたとき、エースと、もう一人兄がいたんだ」
「もう一人…?」
「【サボ】って言って…俺は表立って海賊とか犯罪をする気がなかったけどエースと、2人してしつこく勧誘してきたんだ」
偶然か、革命軍のNo2の名前と似ていた気がしたが今はそんなことはどうでもいいとたしぎはそのもう一人の義兄について話を聞いていた。
しかし、逆にその革命軍のNo2以外にサボと言う犯罪者について聞いたことがない。
「親との確執とか色々あって、サボはこっそり一人で海に出ようとしてたんだ。偶然ゴア王国…俺の故郷に天竜人がやってくる日にな」
「天竜人…ま、まさか…!?」
「ああ、天竜人に殺された」
天竜人が【気まぐれ】や【前を遮った】というだけの理由で人を殺すことは多々あった。
しかし、その中にルフィの義兄がいたというのは驚きだった。
「俺とエースはそのこと、死んだ後に聞いた。初めてだよ、身近な人が死んだの」
そう哀しそうに笑うルフィ。おそらく過去のことになったとはいえ、相当悲しんだだろう。
だからこそ、今度はエースが殺されそうになってると聞いて行こうとしてるのだ。
「悪いけど、ウタやオトを引き合いに出されても、俺が殺されることになっても、後悔だけはしたくない」
「ルフィさん…」
「…止めたかったら力づくで来ればいい。逃げたかったらハンコックに送ってもらえばいい。政府には俺に無理やり報告をさせられたと言えばいい」
そう告げるとルフィは両腕を広げた。おそらく、このまま斬られる覚悟だろう。
今までハーレムに入れた女に対してルフィは暴力を振るったことはない。
身体を重ねることも同意を求めていたことから、それが彼の【所持者】としてのポリシーなのだろう。
「ルっ!」
「!!」
愛刀の柄に手を掛けるたしぎに、ハンコックが止めに入ろうとするがミキータに止められた。
そのまま刀を抜かず、まっすぐとたしぎはルフィを見た。
「………火拳のエースを助けに行く。それがルフィさんの…【後悔しない】選択肢なのですね」
「そうだ」
一切の迷いもないハッキリとした答え。
それを聞いてたしぎは大きなため息をつくと刀から手を離した。
「―――すぅー……あぁぁぁぁァァァァァァァッ!!!!!」
「た、たしぎ?」
「もう!私ったら、火拳のエースを見逃して、二人の賞金首と同じ妻になって、挙句の果てには脱獄計画を知っていた!?もう海兵失格ですよね!!」
どこか吹っ切れたように叫ぶたしぎにミキータも目を丸くしていた。
そのままルフィに向き直ると「こんな夫を持つ妻って大変ですね!!」と逆切れ気味に言った。
「あー…たしぎ?少し落ち着こう?」
「はぁーっ、はぁーっ…ルフィさん。2つ約束してください」
叫んですっきりしたのか、指を伸ばしてたしぎはそう言った。
「一つは絶対にオトさんを悲しませないでください!捕まるのもそうですが、死んだら今度は貴方がそのお兄さんたちと同じ立場になるんですから!」
「お、おう…わかってる」
「もう一つ!帰ってきたら私をトばしてください!」
まさかの発言に今度はルフィとハンコックも目を丸くした。
ルフィと体を重ねるようになって、結婚して妻になってからも幾度となくセックスはしてきていた。
しかし、それはあくまで順番が来たからとやや受身的で積極的な発言するなんて最初の一度しかなかった。
「たしぎ……」
「私だって!不安で一杯なんですよ!!私の雑魚マンコはルフィさんのおちんぽ専用なんです!!他の男なんて絶対に嫌です!!」
明確な宣言。明確な拒絶。
彼女自身自分の体質に不安があるのだろう。そんな簡単に絶頂してしまう体を誰かにいい様にされてしまうかもしれない。
だから今一度、自分がルフィのモノだと言う証明を欲した。
「帰ってきたら……私を滅茶苦茶にして貴方の専用オナホ妻だって、刻み込んでください」
「わかった」
そう微笑んでルフィはたしぎの顎に手を当てるとそのまま口づけをした。
「んっ…❤️…んちゅ、ふぅっ……❤️」
軽い、それでも舌も絡めるディープな口づけ。
僅かな間だったが、唇を離せば2人の混ざり合った唾液が別れを惜しむようだった。
「……帰ったら、次の日起きれなくなるほどトばしてやるからな」
ルフィの宣告にたしぎは口の中に残るルフィの唾液を噛み締めながら「はい❤」と蕩けた目で答えた。
四皇
海賊にとって一つの頂であり、最強とも言える代名詞。
その中で一番の「仁義派」とも言え、今現在最大に危険とも言える白ひげ海賊団。
幹部の1人「火拳」ことエースが海軍に囚われ、公開死刑が決定されたことに彼らら大事な仲間を、家族を取り戻すために動いていた。
プルプルプルプル
プルプルプルプル
「もしもし?」
白ひげ海賊団本隊だけでなく、その傘下もエースを助けるために戦力を集めて決戦の地マリンフォードへと目指していた。
そんな時、電伝虫から鳴ったひとつの着信。
偶然それを傘下の戦力確認のためにあちこちに連絡をしていた一番隊隊長のマルコがとった。
《…マルコか?》
「ああ。…誰だ?」
傘下は50船団にも及ぶため取る時に気づかなかったがかかってきたのは緊急時用の電伝虫だった。
しかしこの番号を知る船員は全員船におり、普通なら鳴らないはずだった。
《エースだ》
「…は?」
思わず握っていた羽ペンを握りつぶし、マルコは目を見開いて固まった。
電話の相手が今から救出に向おうとしている張本人?
何かのイタズラか、或いは海軍の偽装か?
周りで同じように情報を整理していた船員達もマルコと同じように固まった。
「……お前さんが本当にエースなのか証明できるのかよい?」
《証明つっても…》
「あっ、マルコさん。貸してください」
急に船員の1人がそう言って受話器を奪うようにしてマルコから取った。
「エース、元気か?」
《その声…デュースか!》
ハッとマルコは思い出した。自分の部下でパピヨンマスクのような仮面をつけたこの男はエースが作ったスペード海賊団の元副船長だった。
今でこそ海賊団は白ひげに吸収されて船医としてマルコの配下になったがエースとの付き合いなら誰よりも長い。
「君が本当にエースなら僕と初めて会った場所、覚えてるよね?」
《そりゃシクシスだろ。あん時お前のおかげでストライカーを作って島を出れたんだからな》
さも当たり前の様に答えた。それにデュースはマルコの方を向いて嬉しそうに、泣きそうに、首を縦に振った。
2人の出会いを正確に知ってるのは白ひげ海賊団でも少ない。
電話の相手がエース本人だと断定し、すぐに周りにいる船員に「隊長を集めろ!緊急会議だよい!」と指示を出すと慌ただしくなった。
「エース、どうやって連絡を?捕まったニュースはデマか?」
《あー…お節介なおとゴヘェっ!?》
「エース!?」
「どうした!敵か!?」
電伝虫が血反吐を吐く様に悲鳴をあげた。まさか攻撃を受けたのかと慌てると電伝虫の表情が変わった。
《あー、もしもし?》
「…誰だ」
明らかにエースではない声に警戒したら「なにすんだ!」と電話の向こうからエースの声が聞こえた。
《適当にルツとでも呼んで。あまり政府に目をつけられたくないのにエースが余計なことを言いそうになったからつい》
「…何者だ?」
《今回エースとジンベエの脱獄に手を貸した者、って言っとくよ》
「ジンベエ?」
魚人島をナワバリにして守る白ひげに対してジンベエは恩義を感じていた。
そのためよく船に出入りしており、白ひげ海賊団のクルーとも顔見知りだった。
だが、今回七武海は政府からの強制招集を受けて海軍と共に白ひげを迎え撃つことになっていた。
敵戦力は少ないに越したことがないため、ジンベエはどうするのかと連絡を取ろうとしても繋がらなかった。
「捕まってたのかよい」
《エース処刑に反対して。本人は多分もう七武海は除名されただろなって。代ろうか?》
「いや、今はいい」
確かにジンベエの性格なら立場や命が関わろうとも筋を通す。
そうなればインペルダウンに投獄されても不思議ではない。
《まあ、話を戻すとエースの引き渡しをしたい。助けてあれだけど私の所じゃ戦えない子供や非戦闘員が大多数だから面倒を見切れない》
「それは構わないが、手筈はどうする?こっちから迎えに行こうか?」
《いや、盗聴も考えると今いる場所は知らせたくない。だから提案なんだけどそっちとの連絡役をジンベエに頼みたい》
ルツの出した案は、まずは合流地点を決めてそこに本来の受け渡し場所を聞いたジンベエが向かう。白ひげ海賊団と合流したら目的地へ向かい、そこでエースを渡す、と言うことだった。
「念入りに警戒するんだな?」
《言ったはずよ。非戦闘員や子供がいるって。「正義」なんて自分勝手なモノに巻き込みたくないの》
「…分かった。俺たちは今ピーク・オード島にいる。ジンベエなら場所は分かるはずだ」
白ひげへの加入を拒んだエースが100回目の決闘を行った島。
その場所はジンベエも知っているため魚人の彼なら問題なく来れるはずだ。
《わかった。ほら、エース。何かあるなら伝えなさいよ》
《…覇気で殴ることねぇだろ……その…マルコ。…迷惑かけて悪かった》
「…ったく、仕方ねぇ弟だよい。叱るのは俺じゃなくて親父の仕事だ、帰ってから存分に怒られろ」
《っ、ああ!》
インペルダウンで何か思うことがあったのか、珍しく謝るエースにマルコが笑いながら答えると嬉しそうに返事をして通信が途切れた。
「よかった…エース…!」
「安心するのはまだ早いよい。とりあえずジンベエが来るまで傘下連中にマリンフォードから離れて待機。間違っても攻め入るなって通達だ」
そろそろ集まるであろう隊長たちに事情の説明をするため、デュース達に指示を出して通信室を後にするマルコ。
その口角は笑みを浮かべていた。
―おまけ―
「ンン~~まさか本当に脱獄するなんて、革命軍にスカウトしたかったナブルね」
インペルダウンの人知れず存在する空間。通称LEVEL5.5『ニューカマーランド』
消えていく囚人が作り上げた
獄中の映像電伝虫の電波を映し出してるスクリーンでは前代未聞のインペルダウンへの侵入を試みた謎の女性を見ていた。
獄中で一番ホットな存在の『火拳』のエースと『海峡』のジンベエを連れ、大多数が待ち受けるマゼランとその配下の迎撃をかわして逃げおおせたのだ。
「……………」
「あらぁ~?もしかしてヴァナータも行きたかった?」
「……今更、外の世界に未練なんてないわよ」
最近インペルダウンに入った新入りに声をかけるとそっけない返事が返ってきた。
その身の上を聞いて同情はしたものの、過ぎた過去を引きずるより新しい明日を楽しみに生きるのがこのニューカマーランドだ。
「今日のステージも楽しみにしてるわ、
「私はシュラールよ」
「そうだったわね、ヒーハー!!」
悪魔の実の力で体の構造を作り変えられ、女性として生まれ変わったシュラールこと
復讐を遂げることができず、投獄された
はい、というわけでエースの救出でした。
前回でも話しましたが、頂上決戦での大立ち回りとか真正面からの戦闘とかはないです。
裏でロビンやミキータを囲って嫁にしたり七武海と関係を持ったりなどはしますが、表立っての犯罪行為は目を付けられるためやりません。
そう言う話を求めてる方は他の作品でお願いします。
作中の補足をするなら原作と同じように「エースへの面会」をハンコックが条件として、ルフィとミキータがタグを弄って(全裸で)乗船してインペルダウンへと向かいました。
到着して、そこでミキータと別れてルフィは猛獣やら施設やらにタグを張り付けて滅茶苦茶にしながらLEVEL6へ向かいます。
「モモンガやほかのキャラは気づかないのか?」と思われますが、原作でもハンコックのボディチェックまでとはいえルフィがついてきてたのに気づいてないので。
まさか「全裸で一緒に誰かがついてきている」なんて思わないだろうから見聞色を使って探ったりとかもしないだろうし。
そしてミキータと合流して自分たちの体重を限りなくなくしてからキロキロで浮遊して脱獄、という形です。
「ルフィがいるならミキータ必要ないんじゃない?」と思われますが、さすがに空中浮遊は慣れてないだろうし確実性を求めてミキータを連れて、ということにしてます(本当はこの設定は前々々回で女ヶ島にルフィが乗り込んだ際にも考えてましたが出すのを忘れてました)
「たしぎはどう思うのだろうか」というようなコメントもありましたが、今のたしぎの中では「愛>正義感」となってるのでルフィが犯罪行為をしようとしても止めれません。
あとはロビンの身の上とか聞いて正義について揺らいでるかも?
エースは一時的に乗船して合流地点で白ひげへと渡される予定です。
先に行っておくと竿役にもなります。それこそルフィの妻ともやるつもりです…やる?やられる?まあ、そうなります。
ちなみにバギーやクロコダイルたちですが、脱獄はできてないです。
あれはルフィがニューカマーランドの囚人と合流したことで達成できたので…
それと黒ひげも多分インペルダウンに乗り込んで捕まってるんじゃないかな。
原作だとマゼランの毒でやられたのをルフィの暴動にバギーたちの脱獄と手が回らないために解放されたシリュウが裏切って解毒剤を持ってきたから無事だっただけで、その直前には毒を喰らってヤバい状態だったからそのままかなと。
まあ、そこらへんはあまり今後に関わってくることもないハズですし…関わるときに改めて説明するかな…
あとはおまけでシュライヤの現在。
実を言うとシュライヤのその後については2パターン考えてました。
一つはガスパーデへの復讐でインペルダウンに入る、もしくはそれができずに荒れて捕まるという流れで投獄されるという今回の流れです。
その結果、ニューカマーランドで性転換、もしくはニューカマーとなってるというオチです。
こっちではアデルの生存を知らず、それでもニューカマーランドで(ほぼヤケクソのように)新しい未来に歩んでいます。
もう一つのパターンはエレジアに流れ着いたシュライヤは成長したアデルを見てもしや、と思いますが「生きてるわけがない」と他人の空似と思います。
だけど風俗嬢になったアデルを指名し、妹と似た子を犯すというアブノーマルに身を落とし――という近親相姦ルートでした。
ただ、九蛇の娼婦がいるしアデルが風俗嬢にならなさそうだたので没にしました。
さて、次回はサニー号に乗船し、白ひげとの合流地点へと向かう冒険隊の話――ですが、少しお知らせがあります。
まず、リアルの仕事でやらかして、少しメンタルクラッシュしました。
それに、あまり催促してるみたいなので言いたくはないのですが感想が…
以前も申したように自分は「感想やコメントでの反応を楽しみに作品を作ってる」という部分が強いです。
感想を書かない人が悪い、というつもりはないです。自分も他の方の作品を読んで面白いと思っても感想を書かないことは多々あります。
しかし、続行を表明した直後が多かった感想も前話までで二人ほどまでに減りました。
その方々からコメントをいただいて何とか続けていた状態でのリアルの事情で完全に、というわけではないですが執筆意欲が無くなりました。
本来ならR18要素が無ければ1週間、要素があれば2週間前後の間隔を目指して投稿をしていましたがしばらくは無期限の延期もしくは不定期とさせてください。
作者の都合で申し訳ないです。