※この作品はR-18です。

海賊王に、俺は、ならない!   作:銀猫

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今回はR18要素はないです。


深海航路

「忘れ物はないようだな」

 

「うん、いろいろありがとう。レイリー」

 

 

数日のシャボンディ諸島の滞在。

レイリーのコーティングを終えたサニー号。

 

義理の孫と曾孫の見送りにレイリーと、事情を知ったのか初めてあった時よりも柔らかい表情を浮かべるシャクヤクが来てくれた。

 

すでにシャボンは膨らんでおり、ナミがルフィに海中の操舵について説明をしていた。

海中では海流を風代わりにして進むが、この船の操舵は基本的にルフィの能力が主だ。

 

だから海上よりもナミの航海術とルフィの操舵術が大事となる。

 

 

「……………なあ」

 

 

ウタとの挨拶をしているレイリーに、少し離れたところからエースが声をかけた。

いまだに警戒とも敵対とも、それか嫌悪ともいえるような様子を見てオトが少し怯えたようにウタの影に隠れた。

 

 

「一つ、教えろ。…海賊王は、もし、自分が【子供】を作ったらどうなるか、何が起こるのか…知っていたのか?」

 

「……政府が、ロジャーと関りを持った人間を排除し始めたのはその死後だ。仮に自分の血を引くものが現れても無関係の人間が巻き込まれるか予見してたかは、私にも分からん」

 

「っ…」

 

 

エースがレイリーに問いかけたのは自分が生まれることで多くの――無関係な妊婦とその子供が殺されることをロジャーは承知していたのかということだった。

生まれることで流れた無関係な血。政府が行ったことでも、責任は、怨嗟は、罪は、全部そのロジャーの子供へと向けられた。

幼少の頃から、それを耳に、目に、身に感じていたエースは海賊王は何を思ってそんなことをしたのか、もしかしたらそうなるとは思わなかったのかと聞きたかった。

 

だが、レイリーはその答えを持ち合わせなかった。当たり前だ。

他人の、それもその人間が死後になにが起こるのか察知したのかと確信を持て答えれるわけはない。

 

 

「だが、君が欲する本当の答えは…そうなると予見をしたとしても、できなかったとしても、同じことだろう」

 

「…どういう意味だ?」

 

「ロジャーが求めたのは妊婦狩りが起こるという惨劇でも、自分の行動で誰かが巻き込まれる未来でもない。一人の女と愛し合った証――死しても、自分がこの人に恋をしたという存在だ。ウタは、分かるのではないかね?」

 

「…うん、そうだね。会ったことはないけど、その気持ち、わかるかな」

 

 

エレジアで、ゴードンに説得されても、たとえ自分が命を落とすこととなっても諦めたくなかった子供。

オトを産むという選択を後悔したことは今までで一度もない。

幼い体で産むときの激痛の中も、赤子を育てるために身を削る思いがする生活の中も、2人きりになって僅かな食糧を分け与えて空腹すら感じなくなっても、後悔はなかった。

 

 

「何があっても、オトだけは諦めたくなかった。だって…ルフィとの子供だもん」

 

「…………」

 

「確かに、君が生まれることで多くの血が流れた。しかし、ロジャーや君の母親が求めたのはそれではない。生まれて欲しいという願い、それだけだ」

 

 

それを聞いて、少しは腑に落ちたのか「そうかよ」とぶっきらぼうにいうと、戻って行ってしまった。

やがて出航準備が整い、サニー号が離岸を始めた。

 

 

「ばいばーい!」

 

「ありがとー!」

 

 

「ああ、元気でな!」

 

 

オトとアデルにレイリーが返事をして、シャクヤクも小さく手を振り返した。

 

シャボンにより浮力を失い、徐々に沈んでいくサニー号を二人は最後まで見送った。

 

 

「…いい子たちだったわね」

 

「ああ、バカ息子にはもったいないぐらいにな」

 

 

シャンクスに対しての不信感を持っていたが、それでもウタはオトを連れて顔を出してくれていた。

そこでレイリーとシャクヤクとの関係を知ると「じゃあ、私の祖母…祖母???」と見た目と実年齢の関係から首をかしげていた。

 

子宝に恵まれなかったシャクヤクは、そんなウタの様子に笑って「無理に言わなくていいわ、好きな呼び方で」と言ったら「うーん、おばあちゃんだけどシャクヤクは凄い若いから…」と本気で悩んでいた。

ここまで慕ってくれる、愛する人の実質的な孫ともなれば彼女も気に入ってしまった。

 

 

「ほんと、あんないい子を放り投げるなんて…どうかしてるわね」

 

「ふふっ…シャンクスが来た時に拳骨をするという約束をしたんだ。君も、どうだ?」

 

「あら、いいわ。その時は店に連れてきて。子供でも女を泣かせるのはどれだけの罪か、教えてあげるわ」

 

 

その時が来るのをシャクヤクが楽しみにしているようで、シャンクスに対して怒りを持つレイリーも思わず同情するほどに綺麗な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「きれー!」

「すご…!」

 

 

一方、サニー号は順調にシャボンディ諸島近海を潜り始めていた。

頭上から降り注ぐ日光にヤルキマンマングローブの木、そして遊泳する魚たち。

 

天然の水族館に子供たち――いや、大人でも思わず見とれるほどだった。

 

 

「ねえ、ケイミー。魚人島へのルートは案内できる?」

 

「え?そのまままっすぐ行けばいいのでは?」

 

 

魚人島までの案内というが、そのまま記録指針(ログポース)を頼りに進めばいいのではないかとカヤが聞いた。

今までならそうなのだが、ここは障害物が多い海底。しかもその深度は1万を超える。

 

 

「表層海流と深層海流って言うのがあってね、それをうまく乗っていくのよ」

 

「表層海流と深海海流…?」

 

「簡単に言えば浅い位置の海流と深い位置の海流で流れが違って、それを使って一気に深海に潜るの。でも海流自体は迷路のようになって、目的の魚人島に向かうのもあれば離れるのもある。レイリーさんが言うにはそれを見極めてたどり着くんだけど…」

 

「うん、道ならわかるよ!」

 

 

魚人島に向かう7割の船が沈没するとされる理由。

そのうち海獣などによって大破する以外に、ルートを見極めそこなって行方不明になり沈没扱いとなる船も決して少なくはない。

だが、人魚であるケイミーの案内があれば安全なルートを進めれるはずだ。

 

 

「深度1万って言っても人魚や魚人が使うルートなら半日でたどり着くがすぐに暗くなる。この景色を見られるのも今のうちだぜ」

 

「あっ、そうだ!今日のお昼は甲板で取りましょ」

「いいね、こんな光景見ながらの食事なんてめったにできないわ」

 

「…あのぉ~…少しでもいいから耳を傾けて、ね?」

 

 

パッパグが何か言っているが、マキノの提案に乗ったノジコ達はテーブルや椅子などを甲板に出すために動き始める。

それにしょんぼりと落ち込むが、誰も気づかなかった。

 

 

 

「とうとう、魚人島…か」

 

「この船に残りたくなったか?」

 

 

「ほざけ、俺が帰るのはオヤジんところだ」

 

 

ワイワイと昼食の準備をしながら、時折近くを通る魚を見ては盛り上がる彼女たちを見てどこか物思いにふけるエース。

それにルフィが軽口を叩けばエースがそう笑う。

 

その表情はどこか、肩の荷が下りたようで出航前のレイリーとの会話で何かしらの答えを得たのだろう。

 

 

「お前だって、厄介な爆弾をやっと返せるんだ、ほっとしてるんじゃねぇか?」

 

 

 

「まさか。むしろありがたいと思ってるよ。()()()()()とはいえカヤ達の相手をしてもらってたからな」

 

 

 

「…俺としてはあれだけ絞られるのはもうゴメンだ」

 

エースを白ひげに引き渡す予定の島、それは魚人島だった。

 

引き渡しをする場所としての条件は『できる限り海軍の目が届かない場所』だ。

普通の島ではどれだけ警戒しても人の目があるし、尾行される危険性もある。

 

しかし魚人島では人間は目立つ。

おまけに白ひげのナワバリでもあるため海軍の目が届かないという意味ではうってつけだった。

 

もちろん、政府も白ひげのナワバリを把握して警戒もするだろう。

だが、その中では魚人島が一番安全だった。

 

 

 

 

 

「あら、そうだ。忘れるところだった」

 

「「??」」

 

 

何かを思い出したようにロビン――流石に、シャボンディ諸島から離れ始めたため女性の姿になってる彼女は甲板に並べられていたテーブルの上にある新聞を能力で生やした腕でバケツリレーのようにしてエースに渡した。

 

 

「今朝の新聞よ」

 

「あ?なになに…『政府の大失態、火拳のエース脱獄』」

 

 

今までは情報操作や隠ぺいなどで誤魔化していたのだが、実はエース処刑の執行日が今日だ。

散々喧伝していたため、隠し通せなくなったのかエースがインペルダウンから脱獄したことを発表したのだ。

 

 

「『インペルダウンに収監されていた火拳のエースおよび海峡のジンベエが謎の侵入者の手により失踪。インペルダウンからの逃亡が確認できなかったため、捜索をするも発見に至らず署長マゼランは脱獄を正式に断定。これにより空を飛ぶ海賊金獅子のシキから20年ぶり、2度目の脱獄者となった。マゼラン及び海軍元帥センゴクはこの責任から――』」

 

「そこじゃないわ、その下のところよ」

 

「『――なお、火拳のエース失踪後に七武海マーシャル・D・ティーチがインペルダウンを強襲』はぁ!!?」

 

 

ティーチは追っていた通称黒ひげと呼ばれる海賊だ。

元2番隊の隊員で、4番隊の隊長を殺害して逃げたのだ。

 

エースはその落とし前のために追いかけていたのだが、返り討ちに逢い、収監された。

 

 

「ティーチの野郎が…インペルダウンに…!?」

 

「お前を助けるため、ってわけでもないな」

 

「ああ、ぜっていあり得ない…『マゼラン署長により制圧。ティーチ以下、その部下はすべて捕らえられた。エース脱獄との関連を調べるが無関係と断定。これらの事件によりジンベエ及びティーチの七武海剝奪を正式に発表』…捕まったのか」

 

 

まさか、自分が狙い、そして返り討ちにしたティーチが捕まってるとは思わなかったエース。

ざまあみろと思う一方、自分の手で落とし前を付けれずどこか納得できないようで複雑な表情だった。

 

 

「…………言っておくが首を獲るためにわざと捕まっても次はないからな」

 

「んなことしねぇよッ!?」

 

「いーや、昔から無茶ばっかりするからなぁ…どうせ今回のも止められたのに無理行って追いかけてたんだろ?」

 

「ぐっ」

 

「ふふっ、図星ね」

 

 

言い返せないエースにロビンが笑う。

とはいえ、愚直に進むエースでも線引きはちゃんとする。

 

もうルフィや白ひげに迷惑を掛けないためにも、割り切るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁー、食った食った」

 

「いい?これがお行儀が悪い大人よ」

 

「うん!ごちそーさまー!」

「ごちそうさまでした」

 

「…ごちそうさんでした」

 

 

昼食をとり、だらしなく腹を叩くエースにビビがそう教えればオトとアデルは両手を合わせてちゃんとと挨拶をした。

それにエースはどこかバツが悪そうに手を合わせて、みんながクスクスと笑った。

 

 

「――あれ?」

 

「どうした…ん?」

 

「なに、この気配…」

 

 

既に周囲が薄暗く、視界も悪くなり始めていた。

覇気を使って周囲を警戒してていたのだが、それに何かを感知した。

 

 

「どうしたの」

 

「…高速で、何かがこっちに来る」

 

「何かって…?」

 

「敵か…!」

 

 

明らかに意思を持ってサニー号へ向かうそれにルフィとエースは構え、たしぎは甲板に立てかけていた刀を手にした。

ミキータは戦えないマキノ達を背に、ロビンも船へ被害が及ばないように能力がすぐ発動できるよう集中した。

 

 

「来るぞ!」

 

 

 

 

「――そう構えずともよいわい」

 

 

サニー号のシャボンを突き抜け、甲板へと降り立ったそれは敵意を向けずにそう言った。

その声に聞き覚えがあるルフィとエースはハッとした。

 

 

「お前…!」

「ジンベエ!」

 

「ようここまでたどり着いたの」

 

 

それは白ひげとの連絡役として先行したジンベエだった。

インペルダウンからの運搬で顔を見ていたミキータも「驚かせないでよ」と言い、全員が警戒態勢を解いた。

 

初めてジンベエを見たケイミーとパッパグが「「うえぇぇぇぇジンベエ親分!!?」」と驚いていた。

 

 

「なるほど、ワシが案内役をするまでもなかったようじゃな」

 

「ああ、けど行き違いにならずに済んでよかった」

 

 

人魚のケイミーを見て最初の予定と違い、サニー号がここまで来れた理由を察する。

 

ふと、ナミとノジコの方に視線を向けた。

たしぎやロビンも構えを解いたのに二人はまだ、どこか警戒したような様子を見せていた。

 

 

「…オト、アデル。お皿洗いの手伝いしてほしいかな?終わったらデザートの時間だよ」

 

「デザート!」

「やる!」

 

 

 

「?」

 

「なんだ?」

 

デザートという単語に二人は食事に使った皿を持って食堂へと向かった。

マキノも二人の後に続いて――戻る前に少しルフィに向かって頷いた。

 

おそらくはマキノなりの気遣いだろう、これからの話を子供たちに聞かせないようにするために。

雰囲気が変わったことにジンベエと、エースは首を傾げた。

 

 

「アンタが、ジンベエ?」

 

「いかにもそうじゃが…お前さんは?」

 

「ココヤシ村のナミ」

「姉のノジコだよ」

 

「!!」

 

 

その地名にジンベエの動きが固まった。

事情を知らないエースも、それに何か因縁があると察した。

 

 

「――言い訳はせん。アーロンの暴走を止めれなかったのは、わしの責任じゃ」

 

「ええ、私たちが求めるのは言い訳じゃない。ただ知りたいのよ」

 

「シャボンディ諸島で、人魚と魚人の迫害の話は聞いた。けど…そしたら余計に分からない。なんでアーロンパークがシャボンディパークと似てたのか」

 

 

今まで二人は、アーロンが人間を憎んでいる理由は種族による差別意識だと思っていた。

 

しかし、その忌み嫌うはずの『人間が作った遊園地によく似た建物を拠点のモデル』とする。

それがどこかちぐはぐだった。もしかしたら何か他の理由があるのではないかと。

 

 

「――昔の、少し長い、話じゃ」

 

 

 

 

そこからジンベエは古い時代からある人間との種族の壁を語り始めた。

 

 

本物の太陽を恋焦がれ、地上への憧れを危険として押し込める。

 

それを変えようとしたオトヒメ王妃の存在。

 

ハンコックの口からも聞いた、奴隷解放の大事件。

アーロンの一味や魚人海賊団の前身となるタイヨウの海賊団の結成。

出会った一人の少女との触れ合いと船長であるフィッシャー・タイガーの別れ。

 

タイガーの抱えていた真実と、未来へと託した想い。

 

そしてその意思を拒んだアーロンは復讐に走り、投獄された。

 

一方の自分はタイガーの意思を引き継ぎ七武海となったが、アーロンは魚人海賊団の一員だったため、その恩赦で釈放されるのが不安点だった。

 

 

「――アーロンは、わしの弟分。何かがあればすぐに飛んでやつを止めるつもりだった…だが、近くの海軍を金で買収し、その情報は本部まで届かなかった」

 

「ネズミとか言う支部大佐のことか」

 

「すべてを知ったのはアーロンが冒険家モンキー・D・ルフィによって倒された後じゃった」

 

 

短くも、長い、昔の話。

そしてジンベエはその場に腰を落とすと両手を握りしめて甲板に置き、頭を下げた。

 

 

「責任はわしにある。処分なら甘んじて受ける」

「やめて」

 

 

この場で処刑されることも厭わなかった。

しかし、それをナミが遮った。ノジコも――どこか、肩の荷が下りたような表情だった。

 

 

「私たちが嫌いなのはアーロンの一味。アンタじゃない」

 

「確かに9年…辛かったけど、今は幸せなの」

 

 

そう言ってナミとノジコは黙って話を聞いていたルフィの横に並んで手を回した。

ルフィも二人を抱きしめるように腰に手を伸ばした。

 

 

「ルフィと結婚して、みんなと楽しく暮らせて…」

 

「今の人生も、悪いことだけじゃない」

 

「「だから私たちの人生に謝らないで」」

 

 

「…なんちゅう…勿体ない言葉……!…かたじけない…!」

 

 

ジンベエも、アーロンの一件に負い目があったのだろう。

その被害者であるナミとノジコの赦す言葉に、男泣きをした。

 

それにエースも思わず涙ぐみ、人魚という当事者の種族であるケイミーも「よ゛がったね゛ぇ…!」と泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと…シルバーズ・レイリーと…!?」

 

「俺達にしたら気のいい爺さんだったけどな」

 

 

それからは、茶を飲みながらジンベエと別れてからのことを雑談していた。

モリアのテリトリーに迷い込んだこと驚いていたが、なによりかの有名な海賊王の右腕にコーティングをしてもらったと聞いて開いた口が塞がらないようだった。

 

一方の白ひげの方は、多少ピリピリした空気だが普段と変わらずに魚人島へと向かったそうだ。

 

 

「――それにしても、真っ暗だな。こんなに暗かったら魚人島を見逃さないか?」

 

「ん?ああ、そいつは心配ねぇ。魚人島の近海はすげぇ明るいんだ」

 

「え、深海1万キロなのに?」

 

 

数千メートル時点で光が全く届かなくなったのになぜ明るいのかとビビが疑問を口にした。

それに対してジンベエが「それは……」と説明を始めようとしたところで、子供たちと深海魚を見ていたケイミーが「みんな~!」と声をかけた。

 

 

「もう少しで最後の下降流だよ~!」

 

「ん?…おお、もうそんなに来とったのか」

 

 

ジンベエも周りを見ていつの間にかここまで来たのかと驚いていた。

今までで数回下降流のプルームを落ちてきたが、衝撃がすさまじくて三半規管をやられたカヤやビビが少しダウンするほどだ。

すぐに船から放り出されないように子供たちは船室へ、ほかの船員は衝撃に備えた。

 

 

「下流まで…あと10秒ほどじゃな」

 

「全員しっかり捕まれ!」

 

 

そしてサニー号は最後の下降流へと飛び込んだ。

落ちていく船体――しかし、その周囲が徐々に明るくなっていった。

 

 

「こんな海底で光…!?」

 

「ああ、着いたんだよ」

 

 

海底1万メートル、通称【海淵】

浮力がないサニー号はそのまま海底の地面へと落ちて着地した。

 

幸いなことに全員に怪我もなく上を見上げ、揺れがなくなったことで船室にいた子供たちも出てきてその光景に目を奪われた。

 

 

「ここの真上に陽樹イブと呼ばれる木の根がある。地上より伸びたその木は、光を取り込み深い海底でも根を光らせることができる。残念じゃがその詳しい原理やメカニズムは解明されておらんが、その木のおかげでこの島は光に照らされておる」

 

「おっ、おぉぉ~!」

 

 

光の中にある2つの球体。その周りを悠々と泳ぐ海獣や海王類。

とても神秘的なそこは文字通り、海の底の楽園だった。

 

 

「着いたよ、私たちの故郷――魚人島!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ~ねぇ~!また今度~!」

「ハマグリおいしかったぜ~!」

 

 

魚人島の入り口へと入り、船を港に接岸させた。

案内も終わり、ここからは冒険隊の用事も関わるため部外者のケイミーとパッパグは手を振って去っていった。

 

 

「それで、例の引き渡しはどこでするの?」

 

 

エースの外見とロビンの性別を変えて全員が船を降りた。

オトは人魚と魚人の町に目を輝かせて今にも走り出しそうだがウタに「逸れちゃだめだから」と抱えられた。

 

 

「そろそろ迎えが来るはずだが…」

 

「迎え?」

 

 

 

「――ジンベエ殿」

 

 

すると、そこに数人の武装した人魚が現れた。

たしぎが思わず刀に手を伸ばすがジンベエは「来たか」と目をやった。

 

 

「誰だ?」

 

「安心せい。ネプチューン軍…ここの常備軍、迎えじゃ」

 

「国王ネプチューンより、丁重に案内せよとの勅命を受け、参りました」

 

 

先頭にいる隊長らしき人魚がそう言って敬礼をする。

すると数人の人魚がサニー号を警備するかのように周囲へ移動した。

 

 

「船の方は私どもの方で。こちらにどうぞ」

 

 

ネプチューン軍の案内で巨大なリュウグウノツカイが引っ張る船へと乗り込む。

全員が乗っても十分な広さに、オトがはしゃいで窓から外を覗いていた。

 

 

「ジンベエ。魚人島で人の目がつかない場所を用意してほしいとは言ったが、どこに向かうんだ?」

 

 

人間がいたら目立つ魚人島の、さらに人目がつかない場所で引き渡しをする予定だった。

だが、魚人島はルフィより白ひげの方が詳しいためその用意を任せる形になったため、その場所は知らなかった。

 

 

「竜宮城じゃ」

 

「はっ?」

「竜宮城!?」

「それっておとぎ話とかでよく出てくるあの!?」

 

 

海の物語なんかでよく出てくる、いうなれば魚人島の王宮だ。

人魚なんかの種族が噂として届く東の海でもいろんな空想として語り継がれる場所でもある。

 

 

「竜宮城の中でも、兵士も近づかない部屋がある。迎えに来た連中は古株の兵士で信頼も厚いが城の中には新参者の口が軽いやつもおるが、その部屋の中は一部の兵士と王族しか入ることができん」

 

「もしかして、宝物庫!?」

 

 

目がベリーになったナミが金銀財宝を想像したのだろう。

それにノジコが「やめなさい、はしたない」と珍しく突っ込むやり取りにジンベエは少しおかしく笑うも、気まずそうな顔をした。

 

 

「宝と言えば、宝じゃろうな。その部屋は甲殻塔と呼ばれる大砲を打ち込まれてもびくともしない部屋じゃ。昔の宝物庫として使われていたりもしたのじゃが、今は王女しらほし姫の部屋として使われておる」

 

「宝物庫を王女の部屋に…?」

 

 

過保護と言えばそこまでだが、宝物庫として使われていたような部屋をわざわざそのようなことにするのは不思議な話だ。

だが、確かに王族の自室へ聞き耳を立てる兵士や侍女もいないだろう。

 

 

「ママ!パパ!見て!すごいお城!」

 

「わぁ…すご…」

 

 

外を見ていたオトに促されて窓から覗けば、圧巻の佇まいを見せる宮殿が見えた。

過去にアルバーナ宮殿に入ったこともあるが、アラバスタは砂の国故に砂嵐から守ったり雨水を溜める構造のため無骨だったがここはとても繊細できれいな作りだった。

 

 

やがて門を潜り、船を降りると兵士たちが整列して敬礼していた。

その中央、一人の人魚が前に出た。

 

 

「ルフィ冒険隊一行の皆様。お待ちしてました。私はリュウグウ王国の王子フカボシです」

 

「代表として挨拶を申し上げる。冒険隊の隊長モンキー・D・ルフィだ。今回我が隊をお招きいただき感謝を述べる」

 

「話は我が父、ネプチューンより聞いております。こちらへ」

 

 

 

ルフィたちはフカボシの案内で竜宮城の中を進む。

城の奥の奥、人気があまりなくなると同時に妙なものが見えてきた。

 

 

「なんだ、これ」

 

「斧に…槍?あれはナイフよね」

 

「剣なんかもあるわ」

 

 

様々な武器が突き刺さった塔が見えてきた。

 

 

「これが甲殻塔です」

 

「え、ちょっと待って!甲殻塔って王女の部屋なんでしょ!?」

 

 

ナミが言う通り、甲殻塔はしらほし王女の部屋のはず。

それなのに物々しいそこは防空壕や要塞といったほうがいいような風貌だ。

 

それにルフィは、先ほどジンベエが説明したときに沈んだ顔をしてるのを思い出した。

 

 

「その姫様、誰かに狙われてるのか?」

 

「…ああ。マトマトの実と呼ばれる、触れた相手に投げた物が追尾するという悪魔の実がある。その能力者である海賊バンダー・デッケン九世がどこかで姫様に触れていたらしく、8年前から手紙なんかが投げられてたのじゃが、それが次第にナイフや槍、剣、斧へと変わっていったのじゃ」

 

「質の悪いストーカーじゃねぇか」

 

 

確かにこれでは元宝物庫を姫の部屋として使うのも仕方がないことだ。

だが、それは今も不届き者を野放しになっているためかフカボシはが槍を握る手が少し強くなっていた。

 

 

 

「父上!お連れしました!」

 

「うむ、入るがよいじゃもん!」

 

 

重々しく扉が開く。

一同がその中へと入っていくと大柄なジンベエよりもデカい人魚、それと同じぐらいの人間。

そして多数の男と、2人の人魚、とても大きい人魚姫がいた。

 

 

「オヤジ…!」

 

「…グラララ、少し見ねぇうちに、ずいぶんとイメチェンしたな」

 

「あ、【リターン】」

 

 

つけっぱなしだったタグを外せば、周りからはエースの見た目がルフィによく似た男から自分たちのよく知る容姿になった。

それに男たちは息を呑んで「エース…!」「無事だったか!」とその姿を見て喜んだ。

 

 

「エース」

 

「オヤ」

 

「歯ぁ、食いしばれ」

 

「ごぼぉっ!!?」

 

 

白ひげは、歩み寄ってくるエースを、思いっきり殴った。

覇気を纏ってないはずの拳は正確にエースを捉え、そのまま甲殻塔の内壁に激突した。

 

人魚姫や子供たちは「ひぃっ!!」と怯えるが、大人たちはその様子を黙ってみていた。

 

 

「っ…ってぇ…覇気纏ってねぇのに…」

 

「グラララ、覇気なんて使わずとも悪ガキに拳骨なんてできるんだ、アホンダラ」

 

「っ!」

 

 

ダメージに驚いているエースを見下すように、白ひげが立っていた。

エースは座り込むとすこし、バツが悪そうに目を逸らした。

 

 

その頭を白ひげは大きな手で撫でた。

 

 

「よく戻った。バカ息子」

 

 




はい、というわけで魚人島にてエースの引き渡しまでの話となります。

ほんと、ルフィの結婚後は数話の短編を投稿する予定でしたけどエースを救出したら一つの章になるとは思わなかった…


出航直前のレイリーの指摘は本当はマキノと体を重ねたときに言われる予定でしたけど、話の流れ的にカットしたらここに流れ着きました。
本当のところ、ガープに頼んだところからエースの身の危険は予知しても妊婦狩りについてはどこまで予測してたのかはわかりませんね。


あとはチラッと出たティーチの投獄。
前にも話しましたが、ティーチの目的はLevel6の罪人たちでルフィの暴動で手が回らなくてシリュウが解放されなかったらマゼランにやられていたのでそのまま捕まりました。


あとはジンベエとの合流。
これに関してはシャボンディ諸島への案内を約束してたのに魚人島出待機してるのはおかしいかなと、危うく入れ違いになるところでした。
そこからは作中であった過去の回想をチラッと。
流石にジンベエとナミ(それとノジコ)が遭遇したらやらないわけにはいかないなと。


魚人島での引き渡しは作中で説明したように「海兵には気づかれにくい場所」としてここが最適だと思ったからです。
万が一、白ひげ海賊団とルフィ探検隊が居合わせたと知られてもエースがそこで引き渡されたという証拠はないですし、気づくのが遅れれば遅れるほどその可能性を指摘できなくなります。


本当は海の森とかでやってもいいかなと思ったんですけど、今後しらほしとの話とかを作るのなら接点が必要だったので…内容は未定ですが。



さて、ここで今後についてお話しします。
以前も似たような説明・展開を述べましたがちょっと事情が変わりまして、本編は次回で最終回とします。

理由としてはまず、この面子の戦力が圧倒的にないことです。
戦闘員の少なさもさることながら、その練度も二年後の麦わら海賊団から大きく劣ってます。
そのため、次回の話を持って「魚人島で旅をやめ、エレジアへと渡った」という流れでエンディングとして投稿した【END.救済の風俗国】へと順番を入れ替えます。


ただ、個人的には新世界での話や劇場版の話も作りたいと思います。


そのため、時間軸や展開、前後の繋がりを丸ごと無視した番外編を投稿してく予定です。
例えば、戦闘描写を全部カットして前書きで「ワノ国を開国に成功した翌日」みたいに、本来なら百獣海賊団には絶対に勝てないですが万が一勝ったのなら、「ホールケーキアイランドに上陸して」と道中の流れをバッサリカットなどで展開していくと思います。
また、もしかしたら「ドン・キホーテファミリーと同盟を組んだ展開」と「ドレスローザを解放した展開」とかみたいに全く違う流れで話が展開するかもしれないです。

まあ、劇場版のようにパラレルの設定だと思ってくれたらいいです。


今後はそのように短編の話を投稿すると思います。


次回は本編最終回、R18要素ありで17日に投稿予定です。
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