※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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酒場で追いかけっこ 6

「お前の行為によって、彼女は誓いの成就を信じた。あれだけの器量良しだ。彼女は両手の指の数では足らないほどの求婚を受けていた。それらの求婚を、お前との誓いが成就したために彼女は断った。そして、彼女とお前の関係は民に広く知れ渡ることになった」

「あー、そーかよ! 要するにお前、俺に説教するために戻ってきたってのか!」

 

 怒りを込めて言ってからラスティは常磐を鋭く睨んだ。

 

「違う。お前が彼女に対して行った事が、どのような影響をこの世界に与えるかを解説しているだけだ」

 

 あくまでも常磐は静かに語っている。ラスティは目を吊り上げて怒鳴ろうとして、諦めのため息を吐いた。肩を落として深々と息を吐く。

 

「二藍に謝りゃいいのか。そんなもんじゃすまねえんだろ、どうせ」

 

 静かに常磐が立ち上がる。ラスティは踵を返して歩き始めた。常磐が後ろからついてくる。

 

「謝罪して、誓約を解消させるのは簡単だろう。あの娘はお前の事を心から慕っている。お前が望めば、喜んで自ら刃を喉に突き立てるだろう」

 

 淡々と言う常磐をラスティは肩越しに鋭い目で見返った。それから静かに正面を向いて息を吐く。ラスティは片手を上げて小さく笑った。

 

「死ぬなら俺の方が早い。どのみち生きててもつまんねえし」

 

 遠くに町の明かりが見える。ラスティは真っ直ぐに元の酒場に向かって歩いていた。ふと立ち止まる。いつの間にか常磐が立ち止まっている。怪訝に思いながらラスティは振り返った。

 

「それで後追い自殺をさせるのか」

「その後、二藍がどうするかは二藍が決めればいいだろ。それに二藍はまだ十八だ。今からだって結婚したいと思うやつに会う可能性なんざ、幾らでもある」

 

 そこまで言ってからラスティは常磐に向き直った。

 

「あのな。割と鈍いようだから言ってやるが、俺はお前のいねえ世界なんざどうでもいいんだよ。でもな。お前はやっぱあの女のもんだから、こっちにいる訳にはいかねえだろ」

 

 お前も俺も結局のところは誰かの手の上にいるだけの話だ。ラスティはそう続けて常磐に背を向けた。再び歩き出したラスティをゆっくりと常磐が追う。

 

「そうか。俺の帰ってくる場所は無くなるんだな」

「はー? なに言ってやがる。あの女がそうそうくたばるかよ。青龍神の女だぞ?」

 

 乾いた声で笑ってラスティは肩越しに常磐を見た。常磐は何やら神妙な面持ちで考え込んでいる。

 

「俺の本来の主は死んでいる。お前には言っておくが、あの娘がいつまで金を纏っているのか判らない。予想よりも早いかもしれない」

「そうか? 青龍神がそうそうあの女を手放す筈はないと思うがな。あの女のことだ。やつに望まれれば嫌でも金色の扉の座に居座り続けるんじゃねえか?」

 

 さりげなく歩調を落としてラスティは常磐に並んだ。常磐が歩くのに合わせてゆっくりと歩を進める。時折、夜空を見上げながらラスティはしばし無言で歩いた。

 

「金の座も、かの娘にとっては仮の居場所でしかない。さらなる変革が迫っている」

「……ったく、なにやってんだ、あっちの連中は」

 

 呆れた気分でラスティは頭をかいた。それから深々とため息をついて肩を落とす。草原を踏み分けながらラスティは苦い思いで告げた。

 

「二藍は死なないだろ。あいつが帰るべき場所は今はないし、翠のところもいっぱいだ」

 

 そう言いながらラスティは横目に常磐を見た。常磐の表情にはさしたる変化はない。

 

「ああ。あれを受け入れてまだ生きているのだからな。既にただ人では無くなっている。お前が捨てなければ、滅ぶ事は無い」

 

 淡々と常磐が語る。うー、と低く呻いてラスティは横目に常磐を睨んだ。

 

「普通さあ。女の愛人っつったら旦那が持つもんなんじゃねえの?」

 

 何だったらあの女に持っていかせろ。ラスティは苛立ちをこめてそう吐き捨てた。その瞬間、常磐がぴくりと頬をひきつらせる。

 

「お前、俺に浮気して欲しいのか?」

「したけりゃすりゃいいだろが。別に止めやしないぞ」

 

 低い声で告げた常磐に負けず劣らずの声でラスティは言い返した。

 

「大体、こんな幼稚な身体の女よか、乳も出てて喘ぎまくる女のが抱いてて楽しいだろうがよ」

 

 頬を引きつらせて答えない常磐にラスティは畳み掛けるように言った。これまでの実験の結果、ある程度成長した女性は常磐がかつてラスティにしたように触ると大抵は喘ぎまくるということは判っている。そのことを思いながらラスティは苛々と頭をかいた。

 

「それでもお前が良いのだから仕方ないだろう?」

「お前の趣味、変わってんなあ」

 

 何故か常磐の物言いにむかついてラスティは険のある声で言い返した。次第に空の端が明るくなってくる。

 

「それに何時までもお前の体の成長が均衡を欠いたままで留まるわけでもない。変化があると言っただろう?」

「阿呆。あの青龍神がそうそう変わるかよ。そもそも……あれ?」

 

 ラスティは眉を寄せて思わず足を止めた。うろんな眼差しで常磐を見る。少し先まで行ってから常磐は足を止めて振り返った。




ラスティが負けましたw
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