やってはいるのですが、奈月視点なので判らなかったり。
でも何か見えたり。
二藍は意味ありげに笑いながら上目遣いで常磐を見ている。ようやく我に返ったらしいラスティが声を張り上げる。
「ばかとかがきとか言いたい放題言いやがって!」
「二藍。そのバカを頼む。少しは世間の常識というものを仕込んでやってくれ」
ラスティの叫びを遮るように常磐が告げる。えー、どうしよっかなー、と笑いながら二藍がラスティを見上げる。その途端、ラスティは真っ赤になって二藍を引き剥がした。
「どさくさに紛れてどこ触ってやがる!」
「んなこと言っても、勃ってたよん」
にやにやと笑って二藍が横目に常磐を見る。常磐はいつの間にか軽く俯いていた。二人からは見えないだろうが、奈月からは常磐の表情が読めた。常磐は何かを我慢するように目を閉じ、頬を引きつらせている。
「ラスティ。くれぐれも注意しておくがその娘に龍種を注ぐのを忘れるな。そして、人殺しになりたくなければ他の娘には決して注ぐなよ」
「……龍種ってなんだ?」
ラスティが一転して不思議そうな顔で告げる。ラスティの胸に再度抱きついた二藍も首を傾げている。そこで我慢の限界が訪れたらしい。常磐が勢いよく頭を上げてラスティを指差した。
「……お前、知らずに扱っていたのか?」
「だから何だよ」
眉を寄せてラスティが声を荒らげる。あ、判ったと二藍が嬉しそうに笑う。
「せーえきだよ、せーえき! ね?」
妖しく微笑みながら二藍がラスティに身をすり寄せる。だがラスティはまだ首を傾げている。
「せー……えき? なんだ、それ」
端で聞いていた奈月は思わず茶を吹き出しかけた。だがラスティが冗談を言っている風はない。
「精液とは、ペニスから射精して出る液体のことだ! 龍種はお前が張り型からその娘に注いだあれだ」
「おお!」
ラスティが得心いったという顔で指を鳴らす。それからラスティは笑顔で常磐を見た。嫌な予感を覚えたのだろう。常磐が顔をしかめる。
「あれか! あれな。お前のだ」
あっけらかんと笑ってラスティが言う。その瞬間、見た目にもはっきりと常磐が硬直した。
「俺のせいか、そうかそうなのか」
がっくりとうなだれて常磐がぼやく。それを余所にラスティは不思議そうに首を傾げて二藍に告げた。
「ところでそのせーえきってのは、どうやって出すんだ?」
「えっ、やだもう! ラスティ様のえっちー!」
嬉しそうに笑って二藍がばしばしとラスティの胸を叩く。いてえな、と顔をしかめてラスティが常磐を見る。が、常磐は床に手をついてうなだれたままだ。それを見て取ったのだろう。今度はラスティが奈月を見る。
「あの、ラスティさん! わたしはわかりませんから!!」
慌てて奈月は首を激しく横に振った。ラスティが眉を寄せて瞬きを繰り返す。
「でもあんた、青龍神の女だろ? それなら」
そこまで言ってからラスティはまたがばっと二藍を引き剥がした。だが二藍の手はまだラスティの股間に触れている。奈月は目のやり場に困ってそっぽを向いた。
「もう、知りませんっ!」
「え、けっこー楽しい反応じゃない? ねえねえ、奈月さん、見て見てー! ラスティ様のこんなに元気だよー!」
意地悪く笑いながら二藍が奈月を呼ぶ。
「もう……二藍さんってば」
ため息を吐きながら奈月は心の底でほっと息を吐いた。二藍の声には張りが戻っている。ラスティが喚いて引き剥がしても元気にまた抱きついていく。床にうなだれている常磐が多少気になるが、大した問題ではないだろう。
「こら! いいかげんにしろ! 何でそんなとこさわんだよ!」
「えー。だって、ラスティ様、せーえき出したいってゆったじゃん」
「言ってねえ!」
どうもラスティの知識は妙に偏っているらしい。何故、二藍が嬉しそうに股間を触っているのか今ひとつ理解出来ていないようだ。
「ラスティ。二藍を抱け。龍種を注いでやれ」
既に禁断症状が出ているはずだ。しばしの後、復活した常磐が淡々と告げる。それを聞いたのだろう。ラスティが二藍を唐突に抱き上げてベッドに放り投げる。悲鳴を上げて身を弾ませた二藍の身体を魔法で作られた縄が拘束する。それを見た奈月は訝りに眉を寄せた。何故、特に逃げようとしている訳でない二藍を縛る必要があるのだろう。
「主よ。我々は席を外すぞ」
言うが早いか常磐が部屋を出て行く。奈月は疑問を覚えつつも慌てて常磐の後を追った。ドアを閉じて目の前のラスティが借りていた部屋に入る。先に入っていた常磐に顎をしゃくられて奈月は大人しく部屋のドアを閉じた。
「この世界は、向こうの世界を映す鏡だ。鏡に写った自分に近しい者を目にする機会もあるだろう」
急に静かになった部屋の中に佇んでいた常磐が振り返る。奈月はそっとドアに目をやった。
「その生き様が参考になることもあるかもしれない。この旅で得たことを忘れないように」
この場合は反面教師かもしれないが。そう続けて常磐が微かに呻く。奈月は苦笑して常磐を見つめた。昨晩、初めて会った筈なのにそんな気がしない。
「これで歪みは祓った。俺を珠に戻せ、元に世界に戻ろう」
そう言って常磐が奈月に手を差し伸べる。奈月が頷いてその手を取ろうとした瞬間、背後でけたたましい音がしてドアが大きく開いた。
「おい! 常磐! 大変だぞ!」
奈月は目を丸くして飛び込んできたラスティをしばし唖然と見つめた。ラスティはシャツをはだけ、胸を露にし、しかも下半身に何も身につけていない。恥ずかしげもなくその格好をさらけ出したまま、ラスティは大声で喚いた。
「変な汁出てるんだ! これ、何だ!? 俺、病気かなんかなのか!?」
「それが普通の精液だ! そっちはいいから早く龍種も注いでやれ!」
ラスティに負けない声で喚いて常磐が強引に奈月の手を取る。あっという間に常磐は奈月の手の中で翠宝珠に戻った。どうやら状況に耐えられなくなっていち早く逃げたらしい。そのことに気付いた奈月ははっと目を見張った。ラスティがまじまじと自分の股間を見下ろしてから奈月をじいっと見つめる。
「きゃ、きゃあああああああああああぁー」
奈月は真っ赤になって悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込んだ。え、と間の抜けた声を上げてラスティが目をしばたたかせる。
ぶっちゃけ、ラスティは阿呆です。
この辺りから残念になってるというか……。