※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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ここにはエロシーンはないです★


凪と立城の淫らな時間 1

 闇の中に沈んでいた意識がゆっくりと上昇する。立城は薄く目を開けて深く息を吐いた。頭が酷く重い。

 

「お目覚めですか?」

 

 静かな声に問われて立城は何気なく頷いた。どうやら誰かが身体を拭いてくれているらしい。その感触をぼんやりとした意識の隅で捉えながら立城はゆっくりと意識して呼吸してみた。どうやら生きてはいるらしい。そのことに安堵の息を吐いてから立城は苦笑した。

 

 やがてぼやけていた視界がクリアになる。立城は目を閉じて瞼を擦ってから改めて目を開けて傍らに立つ女性を見上げた。その瞬間、息を飲む。見覚えのあるその女性の姿に立城は絶句して瞬きを繰り返した。

 

「な……ぎさ、さん?」

 

 髪や瞳の色は変わっているが、その容姿はあの頃のままだ。傍らに立つ女性が立城の言葉を受けてにっこりと笑う。

 

「今の名は凪と申します」

 

 立城は額を押さえて低く呻いた。一体、何がどうなっているのだろう。優一郎に言われて斎姫と交わったところまでは覚えているのだが、その後の記憶が一切ない。目覚めたらこの借りた部屋のベッドに納まっていたのだ。

 

 凪が傍に寄せたテーブルの上に乗せた洗面器に静かにタオルを浸す。湯に浸したタオルを固く絞り、凪は再び立城の身体を静かに拭き始めた。立城は特に文句を口にするでもなく、大人しく凪に身体を拭いてもらった。

 

 頭は重いが、不思議と心は妙に落ち着いている。相変わらず性的な欲求は感じるが我慢できないほどではない。立城は黙ったまま傍らの凪を見た。凪は視線に気付いたのか、目を上げてにっこりと笑う。

 

「どうしてあなたが? 今のあなたはどなたかの使い魔なのでしょう?」

 

 静かな声で立城は問い掛けた。すると凪が困ったように笑う。

 

「それをたびたび口にするとここには居られないのですって。今の私は水輝の言う通りに立城さんのお世話をしているだけ」

 

 急に凪の口調が砕ける。その喋り方は昔の渚と少しも変わりない。立城は口許に淡い笑みを浮かべてそうですか、と答えた。

 

 あれからどのくらい時間が過ぎたのだろう。そんな立城の問いに凪は笑って一日だと答えた。つまり、その一日の間に何かが起こったということだ。そう、と呟いて立城は考えを巡らせた。周囲に張られた結界が二重に強化されているのは、恐らく凪の仕業だろう。この部屋の内側に展開された結界は優一郎のそれより立城の力が色濃く出ている。

 

 身体を拭き終えた凪が立ち上がる。立城ははだけたパジャマのボタンを自分で留めながらありがとう、と礼を言った。凪がいいえと首を振る。

 

「そういえば水輝は元気でしたか?」

 

 言うまでもなく元気でしょうけれど。そう付け足しながら立城は微かに笑った。すると凪が少しの間、黙る。それを見た立城は目を細めた。何かあったな。胸中でそう呟く。

 

「今は元気だと思うわよ」

 

 いまは、ね。凪の言い回しを胸の奥で繰り返して立城はにっこりと笑ってそうですか、と答えた。凪がテーブルから洗面器を取り上げて静かにベッドを離れる。洗面器を片付け終え、二人分の茶をトレイに乗せて凪が戻ってくる頃には立城は何とかベッドに身を起こすことに成功していた。

 

「起きても平気?」

「特に問題はありません。どうやら僕は怪我をしていたようですね。傷を癒してくださってありがとうございます」

 

 ベッドの縁に腰掛けて立城は凪に頭を下げた。長い紫の髪が肩から滑り落ちる。今の立城は女性の姿になっていた。確かに力を回復するという意味ではこちらの器の方が都合がいい。恐らく優一郎か他の誰かが性の別を外側から変えてくれたのだろう。

 

「私は力の仲介をしただけ。あなたを癒したのはあなた自身と別の誰か、よ」

 

 椅子を引き寄せてベッドの傍に腰を下ろした凪が微かな笑みを浮かべて注意深く告げる。なるほど、と立城は凪に頷いてみせた。

 

 程よくいれられた日本茶を飲みながら立城は凪に幾つかの質問をした。この地下にいる彼らは今は何をしているのか。この結界内に増えたあの冥界の闇色の者たちの正体。そして自分の置かれている状況は。

 

 それらの質問に凪は一つずつ丁寧に応えていった。今、優一郎たちは新しいヒューマノイドの作製をしていること。白銀という名の銀龍神の調整。同時に吉良瀬財閥の建て直しに全力を注いでいる。凪の答えに立城は一つずつ頷いた。

 

 冥界の闇色の者は立城の予想通り、黒妖牙の元配下らしい。黒妖牙の配下ということは冥界の犬か。立城は内心で呟いた。が、どうやら冥界の犬は黒妖牙の命を受けて現界に現れたのではないらしい。どういう訳かは凪もはっきりと理解していないらしいが、黒妖牙が優一郎に譲り渡したのだという。

 

「今の立城さんの置かれている状況?」

 

 最後の質問をすると凪はしばし黙して考え込んだ。それから判る範囲でいいかしら、と前置きされる。立城ははい、と頷いた。どのみち、自分より凪の方が詳しい筈だ。

 

「ここは優一郎さんの言ってみれば居城なの。ここでは私は彼の言うことに最低限は従わなくてはならないわ。そしてここでの行動は全て彼に筒抜けになっていると見るのが自然ね」

 

 凪が慎重に言葉を選びながら告げる。確かにそうだろう。そこまで優一郎がこちらを疑っているとは考えにくいが、そう思っておいた方が間違いがない。




前振りがけっこー長いです。
エロシーンはちょっとお待ちください。
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