ムラムラはしてるんですけどね!w
立城は黙って椅子を降りようとした。ふと、間近に気配を感じて目を上げる。いつの間にか優一郎が紅茶の入ったカップを持ってカウンターの前に立っている。
「とりあえず、お茶でも飲みながら世間話でもしましょう」
にっこりと笑って優一郎がカップを一つ、立城の前に置く。立城は言われるままに傾いていた身体を椅子の上に戻した。熱いカップに手を伸ばす。優一郎は静かに立城の背後を回ると隣の席に腰を下ろした。
両手にカップを持って慎重に中身を啜る。水輝が猫舌で熱いものをすぐに口に入れられない理由が立城にもようやく理解できた。力がほぼ剥き出しになった状態の器だから、なのだ。熱い紅茶に細い息を吹きかけ、少しずつ確かめるように紅茶をすする。
「僕はあれから寝てないんですよ」
唐突に優一郎が告げる。立城はえっ、と目を見開いて頭を上げた。呆然と優一郎を見る。あれから数日が過ぎているのだ。なのに優一郎は寝ていないという。それはもしかしたら事後処理に相当手間取っているということなのではないか。立城は不安に思いながらそう訊ねた。
「いえ違います。確かに事後処理はいろいろありますけれど、徹夜を続けなければならない程ではありませんし。眠れない、と言ったほうが正しいですね」
「そうなの? 何故?」
不思議に思いながら立城は訊ねた。今は以前のように優一郎の思惟は外には漏れていない。だが立城はあえて優一郎の思惟を読もうとも思わなかった。器を維持する以外のことには出来るだけ力は使いたくない。
「とにかくセックスがしたくてたまらなくて、眠りにつくことができないんです。セックスが終わると夜が明けてたりして、寝そこなっちゃうんですよね」
それを聞いた立城は思わず吹き出しかけた。優一郎の口調はこれまでと同じくとても穏やかだ。本当に世間話をしているかのような気軽さもある。
「ええと……あの」
立城は口ごもりながらカップをカウンターに戻した。テーブルを手で押してスツールの向きを変える。優一郎を正面から見ながら立城は揃えた自分の膝を手で強く握り締めた。
「最初は多輝が居たから問題なかったんですけど。一昨日、男に戻ってしまって。ちょうど斎姫の修理が完了してたから良かったんですけど」
そう言いながら優一郎が困ったように笑う。立城は上目遣いに優一郎を見ながら唇を噛んだ。もしかしたら優一郎なら頼みをきいてくれるかも知れない。だがそう思う一方で心のどこかで止せという声もする。
でも。立城は俯いて目をかたく閉じた。誰でもいいから助けてくれ、と言いそうになってしまう。だが深い欲求を晴らすために人と交わることは絶対に出来ない。いまそんな真似をすれば確実に相手の人間は壊れてしまう。以前はきちんと抑制出来ていた筈の力は、今の立城にはとても制御できないものに変わってしまっているのだ。
「それではそろそろ斎姫に会いにいきましょうか」
立城ははっとして顔を上げた。笑顔で言って優一郎が椅子を降りてしまう。優一郎は二人分のカップを流しに入れて立城の傍に歩み寄った。立城はうん、と弱々しく頷いて椅子を飛び降りた。
静かな廊下に二人分の足音が響く。立城が案内されたのは研究室の一つだった。並んだ実験台のうちの一つに斎姫が横たわっている。
「優くん、お客様は? ……えぇっ!」
斎姫が驚きの声を上げる。立城は笑顔で斎姫に挨拶した。
「こんにちは、斎姫さん」
まだ斎姫は立城が幼い姿になってしまったことを知らなかったのだろう。驚きの目で立城と優一郎とを見比べる。
「おじさま、なの?」
信じられないといった顔で斎姫が呟く。立城はうん、と笑顔で頷いた。
「こんな格好でごめんね。今の僕はこれが精一杯で」
そこまで言って立城ははたと気がついた。斎姫はまだ立城たちの正体を知らないのではないだろうか。言っても良かったのか、という意味をこめて立城は隣に立つ優一郎を見た。
「斎姫と、そして要さんには僕が知る限りの情報を既にインプット済みです」
立城の不安を読んだのか、優一郎がにっこりと笑って告げる。立城はそう、と笑みで応えた。次いで斎姫に目を戻す。斎姫はいつの間にか真っ赤になっていた。どうやら自分の格好が恥ずかしいらしい。それも当然だろう。斎姫は全裸で横たわり、足を大きく開いているのだ。
「もしかして見ない方がいいのかな」
立城は羞恥に頬を染めている斎姫にそっと問い掛けた。それならすぐに出て行くけどと告げる。
「優くんが、おじさまを連れてここにいらしゃったと言うことは、わたしを見せる意図があったんだと思います。どうぞご覧ください」
恥ずかしそうにしつつも斎姫が告げる。斎姫の視線を受けた優一郎が静かに頷く。立城は戸惑いをこめてでも、と呟いた。
「僕は修理は出来ないし……」
見ても何も出来ないよ。そう言ってから立城は優一郎を見た。
「斎姫の女性器ユニットはどれだけ酷使しても、三ヶ月は保つように設計されていました」
言いながら優一郎が斎姫の足元に回る。手招きされて立城は困惑しつつも優一郎の傍に寄った。指をさされた方をつられて見る。露にされた斎姫の股間を見た立城は絶句して息を飲んだ。
「一晩セックスしただけで、内部の電子回路まで完全に消耗し、使い物にならなくなってしまいました。昨日、急遽予備パーツに交換して、昨晩は抑えたつもりだったんですけど……」
困ったような顔で言って優一郎がため息をつく。立城は吸い込まれるように斎姫の女性器を見つめていた。その場所は、女性器であったことすら判らない状態にまで壊されていた。恐らく優一郎が無意識に注いだ力に焼けたのだろう。人工の皮膚と筋肉が焼け爛れている。
ごくん、と立城はつばを飲んだ。斎姫の機体は元々、立城の依頼で由梨佳が作成したものだ。ヒューマノイドを好いている優一郎の好みを考慮し、斎姫の機体の女性器は機械らしさを全面に押し出した形をしていた。そのことを思い出しながら立城はコートを強く握りしめた。
「中はもっと酷いですよ。昨日、交換したパーツです」
トレイに乗せたパーツを優一郎が立城の目の前に出す。立城はじっとそれを見下ろした。やはり力に晒されて劣化している。中には錆のついている部分もあった。立城はしばしそれを無言で見てから優一郎を見上げた。
「あの……」
「とりあえず、斎姫のストレス値はこれまでに無いくらい解消されているので、二・三日中に修理すればいいんですけど」
立城が言いかけたのを遮って優一郎が笑い混じりに言う。やっぱり僕じゃ駄目だよね。そう内心で呟いて立城はふうん、と返事した。
優一郎が好いているのはあくまでもヒューマノイドだ。そんな相手に欲求不満を解消してくださいとは頼めない。力を持つ優一郎であれば何も感じなくても性交可能に身体を反応させることが出来るだろうが、それでは余りにも申し訳なさ過ぎる。
立城の方もムラムラしてるんで、まあ、そんな感じになる流れではありますw