※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。
エロぽいですけど、ないです。


凪のややこしい事情 2

「や、だ! 離して!」

 

 弱々しく頭を振って凪が声を上げる。だがその声にはほんの僅か、甘い響きがこもっていた。

 

「そういえば、責めるばかりで、凪さんは快楽を味わってませんでしたよね? どうしたんですか? 乳首がまだ勃ってますよ」

 

 優一郎は凪の耳元に囁きながら乳房にするりと手を這わせた。真っ赤になった凪が肩越しに優一郎を見返る。

 

「いっ、いいかげんにして!」

 

 不意に腕の中から凪の姿がかき消える。驚きに瞬きをした優一郎は、次の瞬間、頬に鋭い痛みを覚えた。ほんの一メートル弱ほど転移した凪が、優一郎の頬を平手で打ったのだ。赤くなった頬を押さえた優一郎は深い微笑を浮かべ、凪を見つめた。

 

「気が強い人ですね。僕も力は使えるんですよ」

 

 そう告げて優一郎は凪の股間を目に見えない力でそっと撫でた。すると凪が息を飲んで優一郎を睨む。凪は自身を庇うように抱きしめ、鋭い声を上げた。

 

「最低ね、あなた。私はあなたの情婦じゃないわ」

 

 だがそう言いながらも凪の足元が怪しくなる。強く打たれた頬をしばし撫でさすってから優一郎は一歩、凪に近付いた。だがふらつくだけで凪が逃げる様子はない。

 

「あなたが普通の使い魔だとしたら、僕の城とでも言うべきこの場所に、一人で入れという命の意味を理解しているはずです」

 

 静かに語りながら優一郎は腰を屈めた。手を伸ばして凪のスカートの裾を指につまむ。

 

「……迂闊だったわ。何故、水輝はあなたのような人に立城さんを預けているのかしら」

 

 憎々しそうに言いながら凪が優一郎の手を払おうとする。だが優一郎はそれに構わず凪のスカートを持ち上げた。

 

「僕としては最大限の便宜を諮ったつもりです。誠に対しては誠を、偽りに対しては偽りを」

「私は偽ってなどいないわ!」

 

 声を荒らげて凪が半分ほどめくれたスカートを両手で押さえ、優一郎から飛び離れる。凪は解放されたスカートを軽く払ってから優一郎を睨みつけた。

 

「欲情しているなら、他の女性をどうぞ。使い魔の私に興味があるのなら、別の使い魔をどうぞ」

 

 怒りの滲んだ声で言って凪が踵を返す。

 

「僕は水輝さんに頼まれて立城さんを保護したわけではありませんよ。立城さんは自分の意志でここにいらっしゃったんです」

 

 あなたはどうしてそんなふうに水輝さんを中心に物事を見られるのですか? まるで、水輝さんの使い魔のように。凪の背中に優一郎はそう声を投げた。すると凪が振り返ってにっこりと笑う。

 

「私が水輝を好きだからよ」

 

 それだけ言って凪はドアに向かって歩き出した。

 

「ドアは開きませんよ。ここは僕の領域です。凪という言葉は風が止んでいるという状態以外に、水面に波がほとんど無い状態も指す事をご存知ですか?」

 

 ぴたりと凪が足を止める。優一郎を振り返った凪が静かに笑う。

 

「わざわざ私の名前について講釈いただいてどうも。でも」

 

 そこまで言って凪が鋭い目で優一郎を睨む。

 

「大きなお世話よ」

 

 優一郎はしばし黙って凪を見つめた。今の凪は先ほどまでの穏やかな表情はしていない。だが怒りを確かに発しているのに凪の思惟はまるで見えてこない。どうやら凪は力の殆どを心の防壁を築くことに費やしているらしい。

 

「あなたは何者ですか? 少なくともただの使い魔で無いのは確かです」

 

 じっと凪を見据えたまま、優一郎は静かな声で訊ねた。凪が小さく笑う。だがその笑いには別の意味がこめられているような気がした。

 

「それを知ってどうするの? あなたにはたくさんの女性が傅いているのだから、使い魔などに興味を覚える必要、ないでしょ?」

 

 優一郎と凪との間は三メートルほど開いている。少し先に立つ凪から優一郎は目を離さなかった。凪も鋭い視線を優一郎に向けたままだ。

 

「凪さん。偽りを聞いたまま、済ますわけにはいかないんです」

 

 苦い気分で告げて優一郎はため息をついた。すると凪が困ったように笑う。が、目がまるで笑っていない。ずっと鋭い光をたたえたままだ。

 

「何が嘘なの? 私は嘘は吐いていないわよ」

 

 さらりと凪が返す。

 

「あなたは、本当に風龍神のみに仕える通常の使い魔なのですか?」

 

 優一郎の問いに凪が黙る。しばしの後、凪はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「主は風の貴婦人。使い魔として通常かどうかは、私には判別出来ないわ。逆にお聞きするけど、通常の使い魔とはじゃあどういう者を指すの?」

 

 確かめるように言葉を吐き出してから凪が唇を引き結ぶ。

 

「少なくとも通常の使い魔なら、この結界の中で言霊の拘束を無視してそこまで僕に反抗的な態度を取ることは不可能です」

 

 静かな優一郎の言葉に凪がまあ、と微笑む。だがやはり目が少しも笑っていない。それどころか凪の視線には鋭さが増した。

 

「それは知らなかったわ。ごめんなさい。私には私が普通なの」

 

 失礼しました、と凪が恭しく一礼する。優一郎はそんな凪を見つめ、僅かに目を細めた。

 

「とりあえず、あなたを欲情のはけ口にするつもりは全く無かったんですが、欲情しているのは確かなので、使い魔の女性を紹介願えますか? そうすればこの部屋を出られますから」

 

 そう言って優一郎は首を傾げた。すると凪がくすくすと笑う。

 

「あら、ごめんなさい。私、使い魔に知り合いはいないの。でも、あなたに身体を提供するつもりは毛頭ないから、自慰にでも耽っていただける?」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら凪がさらりと答える。優一郎は深々とため息をついて告げた。

 

「凪さん、嫌味とかで言っているんではないんです。この場の結界の特性をあなたは無視しすぎている。僕が赦すと言って解けるものでは無いんです」

 

 この居城の主である優一郎に対し、あくまでも凪が反抗的な態度を取っているために結界が変化し、この部屋に凪を言わば監禁状態にしているのだ。凪は優一郎に言われ、しばし沈黙した。




凪はホントに短気なんですよね……。
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