英語を縦で書いてる時は違和感がありましたが、こんな風に横にするとそーでもないですねw
Lavender's blue, diddle, diddle,
Lavender's green;
When I am king, diddle, diddle,
You shall be queen.
凪は膝を抱えて丸くなりながら唇を微かに動かして歌を歌っていた。殆ど音にならない凪の声が部屋の中に響く。
そっと右手を開く。凪は右手の中にある濃いピンク色をした宝石を見つめた。その宝石は栄子がオークションで競り落としたものだ。栄子はこの宝石を凪に見せて告げた。
どちらでもいいのよ。わたくしは貴女に道をただ示すだけ。行くか留まるかは貴女次第。
栄子の言葉に迷わなかった訳ではない。もしも宝石を手に取らなければ平穏に使い魔として留まれることも判っていた。だがそれでも凪は宝石を手に取った。
そして宝石を手にした瞬間、凪はかつての自分の記憶を全て取り戻した。封じられたものが解き放たれ、凪は呆然となった。そんな凪に栄子はただ笑ってみせるだけだった。
思い出さなければ良かったのかも知れない。そうも思った。それならきっと水輝は苦しまなくて済む。そしてまた、凪自身も水輝に拘ることもなかった。
He loves me,
He don't,
He'll have me,
He won't,
He would if he could,
But he can't
So he don't.
そう歌いながら凪は手の中の宝石にそっと唇を寄せた。水輝の力で出来た宝石はひんやりとしている。あたたかな唇でしばし触れ、凪は顔を歪めた。自然と涙が浮かび、嗚咽が零れてくる。
凪は宝石を受け取った後、栄子の目の前でそれを膣内に自らの手で埋め込んだ。一度は失われていた処女の血は、使い魔として作られた時点で戻っていた。だから凪は主である栄子にその血を提供したのだ。だが栄子は魅力的だと微笑んではいたが、凪の処女の血を口にすることはなかった。
空色の力を受けた凪の純潔の証は丸いルビーになった。今は栄子の所有する保管庫にそれは納められている。きっと恐らく、あのルビーは日の目を見ることはない。本来はあってはならないモノだからだ。
Pease porridge hot,
Pease porridge cold,
Pease porridge in the pot
Nine days old.
Some like it hot,
Some like it cold,
Some like it in the pot
Nine days old.
続けて歌いながら凪は小さく笑った。幼い頃、水輝がよく凪にこの歌を歌ってくれとせがんでいた。段々と歌うスピードを速くして、どちらかが間違うまでずっと歌い続けた。そんな時の水輝はとても真剣で、むきになっていた。
あの頃、三人で手を繋いでよく近所の公園に出かけた。泥だらけになって遊んで家に帰ると三人揃って母親に叱られた。特に水輝は男の子だったから、三人の中でも服の汚し方が激しくて念入りに怒られていたものだ。そんな水輝を凪は妹と二人で指差して笑っていた。
マザーグースの歌が好きだった水輝のために、父親が大きなレコードを買ってきた。はしゃぐ水輝を見ながら母親が困ったように笑っていた。こんな小さな子供に英語の歌がわかるのかしら。そう言った母親に父親は笑って言った。好きなんだからいいじゃないか。判るかどうかは関係ないよ。
毎日毎日、水輝は熱心にそのレコードを聴いた。その内に水輝は自分でその歌を歌うようになった。そんな水輝の横で凪もたどたどしく歌を歌った。妹はそんな二人の歌を楽しそうに聴いていた。きっと歌いたくても水輝ほど上手に発音が出来なかったからだろう。
やがて三人は小学校に通うようになった。新一年生になる水輝と妹のために両親がランドセルを買ってきた時は、ちょっとした騒動になった。水輝が自分一人だけ黒いランドセルは嫌だとごねたのだ。終いには地団駄を踏んで泣き喚く水輝に両親はほとほと困り果てていた。だが結局、水輝は渋々と黒いランドセルを背負って小学校に通うことになった。だから入学式の日に撮った写真の中では水輝はふてくされた顔をしていた。
凪は水輝と妹より一つ年上だった。だから最初は二人に学校の勉強を教えることが出来た。が、ある時を境に水輝には何も教えられなくなった。驚くほどに水輝は学校の勉強をよく吸収し、最後には凪の受けている授業の内容すら把握するようになってしまったからだ。そんな水輝を妹が恨めしそうに見ていたことをよく覚えている。
Solomon Grundy,
Born on a Monday,
Christened on Tuesday,
Married on Wednesday,
Took ill on thursday,
Worse on Friday,
Died on Saturday,
Buried on Sunday.
This is the end
Of Solomon Grundy
妹に文句を言われると水輝はそう歌ってからかっていた。その度に妹は顔を真っ赤にして怒り、拗ねる。だがそんな風に妹が拗ねると途端に水輝は困った顔で詫びるのだ。
マザーグースを調べまくった記憶が。