※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


Lavender's blue 3

 それでも良かった。その頃の凪は学校ではとても大人しい生徒になっていた。それ故に人に興味を持たれることもなく、言わば平穏な日々を過ごしていたのだ。可もなく不可もなく、凡庸な生徒として日々を送り続ける。それはだが、凪にとってかなりの労力を要した。元々、凪は勝気な性格だ。そして何より明るいのが好きだった。そんな自分の性格を凪は毎日殺し続けたのだ。

 

 やがて明るくはきはきとしたお嬢さんですね、という周囲の凪に対する評価が変わる。大人しい、不思議なお嬢さんですね。そう近隣の人々に言われるたび、両親はどう思ったのだろう。時折、凪は両親にさりげなく質問された。なにか、悩みを抱えているのではないの? そう訊かれるたびに凪は捉えどころのない笑みを浮かべて首を横に振る。いいえ。そんなことはないわ。

 

 家にいる時も凪はその態度を崩さなかった。そのうちに水輝と妹は凪を交えて大騒ぎをすることはなくなった。賑やかな明るい話をする時は自然と凪を避けるようになってしまったのだ。

 

 The rose is red,the violet blue,

 The gillyflower sweet, and so are you.

 These are the words you bade me say

 For a pair of new gloves on Easter day.

 

 凪は透き通った声で歌を歌った。広々とした優一郎の部屋に歌声が響く。それまでと異なり、この歌を歌う凪の声ははっきりとした声になっていた。

 

 ばらはあかい すみれはあおい

 あらせいとうはあまい、そしてあなたも

 これはあなたが言わせたことば

 イースターにてぶくろをくださるかわりに

 

 幼い頃、水輝は何もわからない凪に根気良く教えた。これは恋の歌だよ。なぎも大きくなって好きな男の子が出来たら歌ってあげるといいよ。その頃の凪は何も考えず、水輝の言葉ににっこりと笑って頷いた。

 

 やがて妹が初潮を迎えたのを機に、三人の部屋は別々に分かれることになった。そのことを最後まで嫌がっていたのは妹だった。いや! さやか、おにいちゃんといっしょがいいの! そう言ってごねる妹を水輝は懸命になだめていた。妹は凪とは異なり、年の割にとても子供っぽかった。だから少しずつ男になっていく水輝と共に部屋にいるという意味が判らなかったのだろう。

 

 二階の一番奥の部屋が妹の莢花。その隣が水輝。そして凪はこれまで通りにその隣の部屋に振り分けられた。元々、三人の子供部屋として使っていた莢花の部屋は水輝の私物がなくなると妙に広く感じられた。水輝の荷物を動かすのを手伝いながら、凪はしばし感慨に耽った。この部屋で三人で一緒に仲良く遊んだのよね。

 

 だがその日は二度と戻らない。凪は最後の水輝の本を真ん中の和室に運びこんだ。その時、水輝がぽつりと言った。ちょっと寂しいな。そう言って俯く水輝に凪は笑いかけた。部屋が別々になってもずっと莢花とは一緒でしょう? そう訊ねた凪を水輝が静かに見つめる。

 

 凪は水輝が答える前にその部屋を出た。襖を後ろ手に静かに閉じ、自分の部屋に入る。部屋に戻ったところで凪は力なくその場にしゃがみ込んだ。手で顔を覆って声を殺して泣く。ごめんなさい。凪は声にならない声で莢花に詫びた。水輝と莢花の部屋が分かれてしまったことを、凪は心の中でとても喜んでいたのだ。きっと莢花は寂しいと泣いている。

 

 日々、三人は成長していく。そして莢花は中学生に上がる頃になってようやく少しは恥ずかしいと思うようになったらしい。それまで水輝と一緒に入っていた風呂にも一人で入るようになった。水輝は最初、戸惑っていたようだが莢花に言われてほどなく納得したらしい。判ったと言って莢花の頭を撫でていた。

 

 傍目にも水輝がはっきりと莢花に拘っていることは判った。凪はそんな二人を横目に食事が終わるといつも早々に部屋に引き上げた。二人を見ているのが苦痛で、でも同じ家に暮らしているから避けることも出来ない。凪に出来たのはせめて自分の部屋にこもることだけだった。

 

 そんなに残念がるなんて、お風呂で一体なにしてたのよ。莢花も莢花よ。今まで恥ずかしいと思わなかったのに、なんで急にそんなこと思うのよ。

 

 八つ当たりにも似たことを考えてから、いつも凪は後悔していた。私、なんて汚いんだろう。どうして弟や妹にそんなことを思わなければならないの。ずるいのは私。汚れているのは私。水輝や莢花は何も悪くない。

 

 後悔が日々、深くなる。その頃の凪は家を出ることを本気で考えていた。寮のある学校なんて幾らでもある。外部受験をすれば正当な理由で家を出ることが出来るではないか。

 

 凪は中学二年。水輝と莢花が中学一年。あと一年、我慢出来ればいいのだ。それでこんな苦しい思いをしなくて済む。そう考えた凪はとり憑かれたように勉強に励むようになった。急に熱心に机にかじりつくようになった凪を両親は共に心配した。そんなに勉強ばかりしなくてもいいのよ。母親はいつも心配顔で凪に夜食を運んでくれた。父親は気晴らしに行こうと無理に仕事を休んで凪を外に連れ出してくれた。それでも凪は勉強を止めなかった。心の中で両親に詫びながら、凪は必死で勉強に打ち込んでいった。




凪の視点だとこうなる、みたいな感じの話です。
水輝視点とか莢花視点があればいいんですけども(汗)
莢花の話はちょっとあったはずなのですが、吹っ飛んでしまったので今はありませんw
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