「心配してくれてありがとう。でも、必要ないの」
凪は素直に心の底から礼を言った。
「あの、あなたがあれから一切、その……自慰行為を行っていないことは確認済みです。正直、今のあなたはとても危険な状態にあると思います」
戸惑った面持ちで優一郎が告げる。ええ、と凪は微笑んで頷いた。
「知っているわ」
空の果て、透明な道標。踏みつけられて壊れるもの。凪は心の底で呟いた。
どうせ壊されてしまうなら、その相手はあなたがいいわ。
胸の中に水輝を思い描きながら凪はそっと右手を胸にあてがった。握っていた宝石を静かに胸に当てると、そこから微かに水輝の気配を感じることが出来る。
「わかりました。早急に決着をつけましょう。直ぐに水輝さんとコンタクトをとります」
「今すぐに? それは……」
そこまで言って凪は口を噤んだ。どのみち止めても優一郎は迷わず自分の道を進んで行くし、時は止まらない。水輝も恐らく栄子の読みが正しければ、今ごろは金の娘の覚醒を促しているだろう。
「そうだ、あの、水輝さんとコンタクトするにあたって、あなたの現状を話してよろしいですね?」
「私、水輝の使い魔になる気はないわ」
凪はきっぱりと言った。どうやら優一郎は凪がそれを望んでいると思っていたらしい。意外そうに目を見張る。凪は大きくため息を吐いて身体の力を抜いた。膝から力が抜けてその場にへたり込む。
「凪さん。あなたを使い魔にするかどうかは水輝さんの意志できまります。あなたの側の選択権は水輝さんを愛しているかどうか、それで決まります」
静かに優一郎が告げる。凪は呼吸を整えて何とかその場に立ち上がった。優一郎に向き直り、凪は背筋を伸ばして深く息を吸った。
「私は」
凪は真っ直ぐに優一郎を見つめて告げた。
「私は水輝を愛してなどいないわ」
手の中で宝石が砕け散る。鋭く尖った宝石の欠片が凪の右手を貫き、空気の中に溶けて消える。手を傷つけられながらも凪は身動き一つしなかった。
「だから、偽りの言葉を紡ぐのはやめてください。このままではあなたは……」
優一郎が軽く右手を掲げ、手の中に空気に溶けようとしていた宝石の欠片を集める。だが全ては集められなかったのだろう。優一郎がまとめた水輝の力で出来た宝石はあちこちが欠けている。凪はそれを感慨のない目で見つめた。
赤い液体が指を伝って滴り落ちる。凪はちらりと自分の手を見つめた。
「今、あなたと傷つけたのはあなた自身の想いです。滲み出ている合成体液は血のように固まって傷口を塞ぎますから、本格的に修理するまでは、そのままお待ちください」
Lavender's blue, diddle, diddle,
Lavender's green;
When I am king, diddle, diddle,
You shall be queen.
凪は声にならない声で歌を紡いだ。心配そうに凪を見つめていた優一郎が僅かに眉を寄せる。凪は右手を少し持ち上げ、傷を見つめた。
ラベンダーあおい
ラベンダーはみどり
わたしが王さまなら
あなたは女王さま
幼いあの頃、歌いながらケーキを切り分けた。水輝が歌うのに合わせて凪も一緒に歌った。莢花はそんな二人を嬉しそうに見つめていた。ケーキの中にこっそりと仕込まれた小さなマジパンの人形を探し当てた水輝が明るい歓声を上げ、凪は拗ねて唇を尖らせた。莢花は手を叩いてはしゃいだ。
あの頃には二度と戻れない。凪は傷ついた手をじっと見つめながら呟くように言った。
「私が主と慕うのが誰かは、本当は最初から決まっていたのかも知れないわ」
そう言いながら凪は右手を胸に当てて優一郎に恭しく一礼した。その場に片方の膝をつき、凪はその姿勢のままで告げた。
「あなたがもし良かったら、私を使い魔として使ってください」
「えっ、あの、お気持ちは嬉しいですけど、その!」
慌てたように優一郎が告げる。凪は静かな眼差しをして頭を上げた。真っ直ぐに優一郎を見つめる。
「私は不要ですか?」
感情のこもらない声で凪は言った。戸惑うように優一郎の視線が揺れる。
「欲しいです。欲しいですけど、ここで僕がはいといったらその瞬間から、あなたは僕のものなんです。本当にかまわないんですか?」
動揺を隠し切れない上ずった声で優一郎が告げる。言われた凪の胸にちくりとした痛みが走る。だが凪は自分の気持ちにきれいに蓋をした。あの頃のように封じればいい。それで痛みはなくなる。
静かに凪は頭を垂れた。
「構いません」
私を踏みつけて進むのよ、水輝。あなたは絶対に立ち止まってはいけないの。振り返っては駄目。
優一郎の手の中に残っていた宝石が砕ける。砂になった宝石はふわりと空中に浮かんでしばし部屋の中を漂ってから静かに消えていった。
「なら、あなたの決意を試させてもらいます。ヒューマノイドとして、僕へ忠誠を誓うことを、行為で示してください」
そう言いながら優一郎が立ち上がる。凪は礼をしたまま僅かに目を細めた。大丈夫。出来るわ。そう自分に言い聞かせてはい、と答える。
「何なりとお申し付けください」
感情を殺して凪はそう言った。
「あの、その、えっと、標準M字開脚ポーズとそのポーズの持つ意味については、説明を受けてらっしゃいますか?」
それを耳にした凪はぴくりと眉を震わせた。だがすぐに感情を殺して判りました、と答える。凪は静かにその場に跪き、スカートを持ち上げた。
「この場で失礼します」
そう告げて凪は床に腰を下ろした。凪はスカートを腰までたくし上げて腿を両手で左右に開いた。膝を折り曲げて下着を着けていない股間を優一郎の目の前に晒す。
いつも貧乏くじな優一郎ですw