エロシーンはありませんが裸です!w
静かな部屋の壁際のベッドに奈月は横たわっていた。暖炉にはちゃんと火がくべられ、空気の入れ替えのためにドアは少し開けられている。薪が燃え尽きそうになるとどこからともなく新しい薪が現れ、暖炉の火に付け足される。暖かなその部屋の窓からは丸い月が覗いている。
胸の上で手を組み合わせた奈月の身体には毛布が一枚、かけられている。誰もいない部屋で奈月はただひたすらに眠り続けていた。屋敷の中全体がしんと静まり返り、時折、風に揺れる木の葉の音が聞こえてくる。
月がゆっくりと空を横切る。やがて東の空がほんのりと明るくなる頃、西の空に月は沈み、白んだ空には一つの星が輝いた。
ふと、奈月が微かに睫毛を揺らす。
「お姉……ちゃん?」
薄く小さな唇が掠れた声を紡ぎだす。
「どうしたのかな? あれ、涙?」
薄く目を開けて奈月は腕をそっと上げて目許に伝っていた涙を指先で拭った。不思議な気分で涙に濡れた指先をしばし見つめる。何故かとても長い夢を見ていた気がする。
「夢、あれ? あたし、お兄……ちゃん? あれ?」
ぼんやりとした目で奈月は周囲を見回した。見慣れない光景に奈月はベッドの中で首を傾げた。どうやら知らない場所に寝かされているらしい。そのことは判るのだが、どうして自分がそうなっているのかが判らない。奈月はベッドに納まったまましばし考えを巡らせた。
奈月の器にはこの時、別の人格が宿っていた。宿っているのは水輝の妹としてかつて生きていた莢花だ。莢花はしばし首を捻って考え続けた。
確かに水輝に刺された筈なのに。莢花はのろのろと手を上げて貫かれた筈の左の胸に触れた。だが服越しに触っても痛みも何もない。
「っていうか、こんなに胸、あったっけ?」
疑問を覚えながら莢花は右手で左の乳房をつかんでみた。だがどうも慣れ親しんだ手触りとは違う。莢花は眉を寄せてしばし指を動かして自分の乳房を揉んでみた。だがどんなに触ってもやはり違う。
なんだか作り物みたい。そう思いながら莢花は首を傾げた。試しに身体のあちこちを触ってみる。毛布に潜ってしばしもぞもぞと動いてから莢花はひょっこりと顔を出した。
改めて部屋の中を見回す。莢花が納まっているベッドはとても広く、二人で眠ってもまだまだ余裕がある。敷かれたシーツは洗い立ての匂いがするのに皺一つない。かかっている毛布の肌触りも、柔らかな枕の具合もとても良い。床に敷かれているのは毛足の長い高そうなじゅうたんだ。部屋の隅には暖炉も設えられている。れんがで組まれた壁には美しい風景画もかかっている。窓辺には花の活けられた花瓶と銀の燭台も置かれている。大きな窓にはレースのカーテンがかかっていて外の様子がよく見える。莢花はぐるりと部屋を見回してから身体に入っていた力を抜いた。
「なんだか凄い豪華な部屋……。こっちが夢なのかな?」
むこうが夢のほうがいいのに。そう呟いてから莢花は首を傾げた。向こうって何だろう。自分で言ったのに意味が判らない。莢花は眉を寄せてこめかみを指でかいた。
しばしベッドの中でまどろんでから莢花はゆっくりと身を起こした。何気なく自分の姿を見下ろしてぎょっとする。いつの間にか着た覚えのないネグリジェを身につけているのだ。薄い桃色のネグリジェの裾をつまみあげた莢花はそわそわと周辺を見回した。何となくこの格好でいる自分を見てみたくなったのだ。
「うわあ、これまた凄いドレッサー……」
鏡を探した莢花の目に、大きなドレッサーが留まる。どこの国のアンティークですか、といった雰囲気の仰々しいドレッサーが部屋の隅に据えられている。鏡をはめ込んだ部分は全て木で出来ており、美しい彫刻が施されている。引出しの取っ手や台の縁に打たれている部品はもしかしたら本物の金で出来ているのではないだろうか。莢花はおっかなびっくりでそのドレッサーに近付いた。少し開いていた鏡をよく見えるようにきっちりと開く。
そこで莢花は硬直した。まるで見覚えのない少女が鏡に映っている。値の張りそうなドレッサーだということも忘れ、莢花はびたん、と鏡に直接手をついた。顔を寄せてじっと鏡の中を覗く。
「こんな顔してたら、お兄ちゃんの実の妹だってことを疑う人間はいないわよね」
愛らしい少女の顔をじっと見ながら莢花はうんうん、と頷いた。実際のところ、水輝と莢花は血は繋がっていなかった。そのことを今の莢花ははっきりと自覚していた。まだ水輝と一緒に学校に通っていた頃はよく本当に兄妹なのかとからかわれたものだ。
「けっこう、コンプレックスあったのかなあ」
お兄ちゃんの顔から類推する妹! って言ったら確かにこんな感じだよね。鏡を覗きながら莢花は呟いた。色んな角度から顔を映してみる。だがどの角度から鏡に映しても、愛らしさに変わりはない。良くみれば体型もずっとこちらの少女の方が整っている。
しばし鏡を覗き込んでから莢花は屈めていた腰を伸ばした。
「で、夢だか、天国だか知らないけど、ここどこ?」
自分が死んだことを莢花は自覚していた。だからきっと身体の形も変わってしまったのだろう。そう納得して莢花は試しに大きなドアを開いて廊下を覗いてみた。そこで愕然とする。広い廊下に沿って幾つもの部屋のドアが並んでいるのが見える。どうも自分はかなり大きな屋敷らしいところにいるらしい。そのことを確認してから莢花は部屋に戻ってそっとドアを閉じた。
外側と中身が違います★
……あ、憑依系? 注意報が必要でしょうか……。