「水輝さんは、なぎささんの滅びを望みますか?」
静かに優一郎が問い掛ける。水輝は膣内に射精した後、女の下腹部にこぶしを入れた。奇声を上げて仰け反った女の口から血が噴き出す。そして女の狭い膣からも血が吹き出した。水輝に殴られて膣内が傷ついてしまったのだ。
脱力した女の腰を抱え上げる。ペニスを抜き、水輝は女の股間に顔を埋めた。
「本人がしたいようにすりゃいいだろ」
血と愛液と精液の混ざったものを舐めながら水輝は告げた。
「滅ぶなら、水輝さんの手ずから滅ぼされることを望んでらっしゃいます」
続く優一郎の言葉も嫌に静かだ。水輝は目を細めて顔を上げた腕に抱えていた女を放り捨てる。汚れた口許を拭って水輝は指を鳴らした。すると部屋に詰めていた女たちが一斉に消える。水輝は手の中に煙草を引き寄せて唇に一本咥えた。火を点けて深く息を吸う。
「……何でおれがそんな面倒なことをわざわざしなきゃならないんだ」
顔をしかめて水輝はそう吐き捨てた。
「したいようにすればいい、とおっしゃいましたよね? だから、なぎささんの望みを伝えたまでです」
優一郎はじっと同じ場所に立ったまま言葉を紡いでいる。水輝は横目にそれを眺めてふん、と鼻で嗤った。
「お前もおれに殺させたがる口か」
そう言いながら水輝は部屋の隅に控えていた女に手を振った。女が一礼してその場からかき消える。術を解かれた女たちを世話し、元の場所に戻すのだ。やれやれ、と呟いて水輝は自分の肩を揉み解した。
「僕はなぎささんの滅びを望みません。だから、彼女の滅びを避けるために必用な物を、頂きに参りました」
「必要な……もの?」
水輝は眉を寄せて優一郎を鋭く睨んだ。
「特殊な紅いサファイアです。ルビーやスピネルではありません」
それを聞いた水輝は微かに目を細めた。部屋を横切ってベッドに腰を下ろす。引き寄せた灰皿に灰を落としながら水輝は肩を竦めた。
「そんなもん、おれが知るか」
すっかり興ざめしたな。そうぼやいて水輝は頭をかいた。また女を集めるのも面倒だ。どうせなら女子寮にでも忍び込むか。そんなことをぼんやりと考えながら水輝は煙草をくゆらせた。
「自暴自棄になるのは自由ですが他者を巻き込むのはほどほどにしておいてください」
静かに優一郎が告げる。水輝はそれを受けて乾いた声で笑った。
「お前がおれに説教垂れるってか。随分と偉くなったもんだな」
そう言いながら水輝は腰を上げた。唇に煙草を咥えたまま、クローゼットに向かう。乱暴にクローゼットの扉を開き、水輝は適当に服を選んだ。身体に付着した汚れを力で吹き飛ばしてからシャツの袖に腕を通す。
「宝石が欲しけりゃ宝石屋に行け。そんな下らないことでおれの楽しみを邪魔するな」
優一郎に背を向けたまま水輝は告げた。
「宝石屋さんの裏も取ってあります。卸元はあなただと」
即座に返ってきた優一郎の言葉に水輝は手を止めた。が、すぐに腕を動かしてシャツのボタンをかけ始める。
「だから知らねえっつってるだろが。あんましつこいと暴力に訴えるぞ」
うんざりしながら水輝は言った。下着とジーンズを手早く身につけ、最後にコートを取り上げる。
「二択していただけますか? 僕の物となったなぎささんを直すために必要な紅いサファイアを提供してくださるか、なぎささんに止めを刺していただくか」
「お前にはおれに選択を強いる権利でもあんのか?」
嘲笑を浮かべて水輝は振り返った。コートを着込んで優一郎を見る。無意識のうちに水輝の視線には鋭いものがこもっていた。
奈月にあんなことさせた次は渚か。水輝は胸中でそう呟いた。よくよく自分は呪われているらしい。
「強制することはできませんね。これはお願いですから。紅いサファイアを頂けるなら、それに相応する代価を払いましょう」
そう言って優一郎が軽く肩を竦める。水輝は目を細めて優一郎を見つめて嗤った。
「それはおれが件の宝石を持ってるって前提の話か」
水輝は開きっぱなしのクローゼットの扉に寄りかかった。
「水輝さんの力がこもった石の流通ルートを追っていったら、水輝さんが故買屋に持ち込んだものだと判明したんです。他にどういう可能性がありますか?」
淡々と優一郎が語る。水輝はそれをせせら笑った。火の点いた煙草を優一郎に向ける。
「何でおれのだって断定出来るんだよ」
もしかしたら他の龍神のかも知れないだろ。そう続けて水輝は唇に煙草を挟んだ。どうやらあのピンクサファイアの足を辿られたということは理解出来た。が、それをもう一度渡せと言われても簡単には出来ない。
「故買屋の女性を責めるのは止めてくださいね。吉良瀬の当主代理として圧力をかけましたから」
「別にいちいち目くじら立てやしねえよ。そんなしょうもないことに」
呆れて言いながら水輝は煙を吐き出した。どのみち立城が以前の状態を取り戻していれば、同じことをしただろう。
「残念ながら、同じものは二度と作れないな」
仕方なく水輝は正直に吐いた。
「同じ物でなくて構いません。水輝さんの力の具象化した宝石であれば。これを見ていただけますか?」
そう言いながら優一郎が白衣のポケットから何かを取り出す。水輝は何となく嫌な予感を覚えて顔をしかめた。取り出したものを手に優一郎が寄って来ようとする。水輝は手を上げてそれを制した。
「別に見せなくていい」
眉を寄せてこれ以上はないというほど嫌そうな顔をして水輝は言った。優一郎がその場に足を止める。水輝がほっと息を吐いたつかの間、優一郎が手の中の機械を操作した。
広い部屋に透き通った歌声が響く。水輝は目を見張って息を飲んだ。吸い込まれるように優一郎の手元に目が行く。小さな画面の中には床に座って歌う凪の姿が映し出されていた。
ずるり、と水輝の身体が傾ぐ。床に沈みながら水輝は勘弁してくれ、と低い声で言った。呻きながら額を押さえる。
「画面小さいですけど、なぎささんが持ってらっしゃる紅い宝石、わかりますよね?」
ゆっくりと優一郎が近付いてくる。水輝は煙草を歯に挟み、俯いた。自然と食いしばった歯の間で煙草が不安定に揺れる。
「おれにどうしろって言うんだ。お前のものになったんなら、お前が力を埋め込めばいいだろうが」
呻き混じりに水輝は言った。優一郎は静かに水輝の前に立って手にした機械の画面をこちらに向けている。水輝は顔をしかめて手で機械を目の前から退けた。
水輝的にはいい感じに食事してたら邪魔された、という認識なのですが、実は優一郎はそれどころじゃありません。凪の命がかかってるので焦ってます。