エロシーンは……えーと、事後シーンぽいのならあります。
深いため息を吐きながら目をあける。立城はぼんやりとした視線を彷徨わせた。しばし周囲を伺ってから正面を見る。ベッドの真上の天井に設えた鏡に映った自分の姿を見て立城は再度、深々とため息を吐いた。
どうやら優一郎は事後、慌ただしく部屋を出て行ってしまったらしい。ベッドはまだ乱れたままだ。立城は気持ちの悪い感触に顔をしかめてゆっくりと身体を起こした。性欲だけは妙にすっきりと落ち着いている。が、立城の身体は未だ、機械仕掛けのままだった。
とにかくシャワーを浴びないと。のろのろとベッドを降りて立城はバスルームに向かった。汚れた身体を温かい湯で洗い流すと少しは気分も落ち着く。立城はゆっくりとシャワーを浴びて身体の隅々までをきれいに洗った。
バスタオルを一枚身体に巻きつけてバスルームを出る。立城は部屋を出てからそうだ、と呟いて指を鳴らした。優一郎が出る際に壊したのだろう。破れかけた結界を解く。すると部屋の外の様子もよく判るようになった。
白銀はどうやら失神してしまったらしい。冥界の犬はいつの間にかいなくなっている。あと居るのは。そう呟きながら立城は意識の糸を飛ばした。工作室にはまだ四人の機体が横たえられている。そしてキッチンで忙しく働いているのは梨恵だろう。最後に優一郎の部屋を覗いてから立城は眉を寄せた。
凪が脱力して横たわっている。機体の状態を見た立城は更に顔をしかめた。どうやら凪は相当の無理をしたらしい。凪を突き動かすものが水輝だということは判ってはいるが、余りにも壊れ方が酷い。
しばし凪の様子を探ってから立城は深々と息を吐いた。そもそもヒューマノイドの機体に凪を納めようとすること自体、間違いなのだ。あれは作り物の機体に納まる輝きではない。栄子の配下である、という事実が辛うじて凪をつなぎ止めていたのだ。
立城は部屋の中に佇んで爪をぎり、と噛んだ。恐らく優一郎には凪の修復が可能だろう。だがこのままでは凪は常時自己崩壊の危険に晒される。かと言って凪がこちらの言うことを大人しく聞くとも思えない。
少しの間接して判ったことだが、凪はかつて立城が知っていた性格をしてはいない。あれは恐らく凪が必死で本来の性質を隠した故の性格だったのだ。きっと凪は元々は勝気な女性なのではないか。そう考えてから立城は疲れたため息を吐いた。
当然か。立城はぼんやりとした面持ちで呟いた。凪は宝珠を立城に託す際、強引に誓約の片方を選択させようとした。が、立城は凪の望まない選択肢を取った。そのこともあって凪は更に追い詰められてしまったのだ。
僕が原因かな。苦い気持ちで立城はそう呟いた。やれやれとため息を吐いて立城は肩に入れていた力を抜いた。とりあえず、器をすぐに戻すことは出来そうにない。まだ多分、ここから出る訳にはいかないのだ。
立城はふらりと歩いてクローゼットから服を取り出した。下着を着けて菫色のワンピースを着る。背中のファスナーを上げようとした立城は眉を寄せてため息を吐いた。何でこう、背中にあるファスナーというものは生地を噛んでくれるのだろう。もう、と不服を零しながら立城は仕方なく中途半端な格好のまま、部屋を出ようとした。
不意に空気が揺らぐ。立城はぴくりと眉を上げて立ち止まった。部屋の中央が揺らいで別の空間と繋がる。随分と不慣れな術の使い方だ。そのことから立城は現れる人物が優一郎であることを事前に悟った。
「おかえり」
現れた優一郎にそう声をかける。
「立城さん。既にお目覚めでしたか。緊急で申し訳有りませんが手伝っていただけますか? 相応の見返りはお支払いできると思います」
慌ただしい口調で優一郎が告げる。立城はだがすぐには返事をしなかった。じっと優一郎を見つめる。優一郎はいつもと同じように白衣に身を包んでいる。ぱっと見にはいつもと変わりない。だが立城はそこにいつもとは異なる匂いを嗅ぎつけていた。
腐臭。立城は心の底で呟いて僅かに目を細めた。
「どんな手伝い?」
そう言いながら立城は歩き出した。きっと優一郎は疲れてもいるだろう。ちょっと待ってね、と言い置いて立城は簡易キッチンに向かった。熱い紅茶を丁寧にいれて優一郎のところに戻る。優一郎は落ち着かない様子でソファに腰を下ろしていた。立城の出した紅茶を軽く会釈して受け取る。立城は静かに優一郎の正面に回り、ソファに腰掛けた。
「なぎささんを構成するものを分解して再構成します。その時に、ひきとってほしい、いえ、差し上げたいものがあるのです」
いつもより多少、口早に優一郎が言う。ふうん、と目を細めて立城は紅茶のカップを取り上げた。優一郎の思惟ははっきりとは見えない。が、纏った歪みだけは読める。立城はしばし考えてから目を上げた。
「まず、僕の意見を述べようか」
そう言って立城は熱い紅茶を啜った。この器だからなのか、少しは猫舌も緩和されているらしい。
「どういった経緯で君が彼女を射止めたのかは判らない。が、彼女にこめられているものは余りにも強すぎる。かと言って引き剥がしてしまえばそれは彼女ではなくなる」
静かに言ってから立城はカップを唇から離した。
「それでも、やらなければなりません。対症療法ではだめです。それに、立城さんは欲しいと確かにおっしゃいましたよね。彼女の持つ情報を」
にっこりと優一郎が笑う。立城はふうん、と口の中で呟いて目を細めた。優一郎がカップを取って紅茶を啜る。
「なるほど。君は彼女でなくとも別に構わないと、そういうことか。つまるところ、機械仕掛けの身体にさえ入っていれば中身はどうでもいいんだね」
恐らく凪は性質を失えばただの人形と化す。あれは凪の全てであり、また根幹なのだ。幾ら危険を孕んでいるとは言っても簡単に引き剥がすことは出来ない。情報は確かに欲しいとは思うが、凪から奪いたい訳ではないのだ。
「どうでもいいなら、こんな面倒で危険なことはしません。彼女にとって最も大切なものを残すために、他をひきとってほしいんです」
「ふうん。試しに引き取って欲しいものを言ってみて。どちらにしろ、僕の現マスターは君だ。その気があるなら命令すれば逆らえないよ」
そう答えて立城は深く息を吐き、ソファに背中を預けた。歪みが優一郎の周囲に漂っている。立城は出来るだけそれを食らわないよう、注意深く自分の周囲に薄い膜状の結界を張った。
立城の立ち位置は説明とか色々なので、けっこう大変なのですが。
わりと報われないw