※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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そういえばこれを書いていたのは……えーと、10年前? いや、もっと前かも?
なので時代背景が若干、今とズレてます。
あ、エロシーンはありません。


莢花と明音の2人旅のはじまり 2

 指定されたボタンを押して乗車券を二枚買う。それから莢花は明音について歩いた。改札周辺は酷くごった返している。仕方ないなあ、と苦笑して明音が手を差し伸べる。莢花は大人しく小さな手につかまって改札を抜けた。

 

 ちょうど間が悪かったのだろう。目いっぱいの人と共に莢花は電車に乗り込んだ。出来るだけ明音に負担がかからないよう、気をつけながら電車に揺られる。が、明音は意外と平然としている。やがて電車が駅で停まるたびにある程度の人を吐き出した。どうやら通勤ラッシュに引っかかったらしい。

 

 駅を出た電車がゆっくりと走り出す。漸く空いた席に莢花は腰を下ろした。隣に明音がちょこんと座る。

 

「この辺のラッシュはいいかげん改善した方がいいよね。電車の数を単純に増やしても賄えないと思うな」

 

 小声で明音が呟く。ふうん、と莢花は声を返した。どうやら明音は周囲の客に気遣っているらしい。確かにこんな小さな子供がそんなことを大声で言っていたら周囲の大人たちはぎょっとするかも知れない。

 

「あなた、やっぱり見た目どおりの年齢じゃないのね」

 

 莢花もつられて小声で言った。すると明音が苦笑する。横目に見られた莢花はどきりとした。明音が目で笑っている。

 

「賢しい子供なんて幾らでもいるし、逆に成長しない大人だって居る。中身の年齢と外側が一致しない例なんてこの世に腐るほどあるよ」

 

 そう言って明音が楽しそうに笑う。周囲の大人たちはきっと明音が何か面白いことをみつけてはしゃいでいると思ったのだろう。ちらりと明音を見ては微笑を浮かべている。

 

 電車の駅と駅との間隔が次第に広がっていく。その内に電車に乗る客の数も減ってきた。まばらに客の乗る車両をぼんやりと眺め、莢花は息を吐いた。どうやら明音が目指す駅は近いらしい。明音は時折、電光掲示板を見上げている。

 

「本当に、お兄ちゃんに会わせてくれるの?」

「ああ、そうか。さっきの質問にまだ答えてなかったね」

 

 そう言って明音がにっこりと笑って莢花を見る。

 

「墓参りに行くつもりはないからね。ちゃんと会えますよ。生きた水輝ちゃんに」

 

 笑顔で言われて莢花はぱっと明るい顔になった。答えを保留にされたままで実はかなり不安だったのだ。

 

「やっぱり、お兄ちゃん不死身だったんだ」

 

 小声で莢花は言った。すると明音が笑みを急に引っ込める。

 

「……限りなくそれに近いけど、そうじゃないね」

 

 それだけ答えて明音が座席を飛び降りる。莢花は慌てて腰を上げた。どうやら目的の駅に到着したらしい。明音が電車の降り口に向かう。莢花も黙ってそれを追った。

 

 明音に連れられて改札を抜ける。どうやらまた乗り換えるらしい。莢花は明音の差し出した紙幣をまた券売機に入れた。次は地下だから。そう言って明音が莢花の手を引いて歩き出す。歩幅の違う莢花にあわせているのか、明音は歩く時に小走りになっている。

 

「あなたって、今のあたしの何なの? お目付け役か何か?」

 

 異様に長いエスカレーターで地下に潜りながら莢花は訊ねた。明音がベルトをしっかりと手でつかんで振り返る。

 

「水輝ちゃんを探すついでに会わせてあげようと思ってね。別に嫌ならここで帰ってもいいよ」

 

 そう言って明音がくすくすと笑う。莢花は僅かに眉を寄せた。ここで放り出されたらどこに行っていいのか判らない。それにこの時代に莢花に帰るべき家はない。

 

「あなたが言った事、考えてたの。あたし、最初、夢だと思ってた」

「まあ、ね。普通はびっくりするよね」

 

 笑顔のままで明音が正面を向く。エスカレーターを降りた明音と並んで莢花は歩き出した。途中、小さな店で明音が二人分のお茶を買う。ありがたくそれを受け取って莢花は告げた。

 

「だけどそれは違うってわかったの。あかねちゃんの言うとおり、今のこの状況は現実なのね」

「うーん。莢花サンの場合はどっちも現実じゃないのかなぁ。こっちも」

 

 そしてあっちもね。明音が小声で付け足す。莢花は唇を引き結んで明音に言われた言葉を心の中で繰り返した。恐らく明音は知っているのだ。莢花がかつて命を散らしたことを。

 

 地下鉄のホームに電車が滑り込んでくる。明音に言われるままに莢花は電車に乗り込んだ。空いた席に腰を下ろす。明音は莢花の隣に腰掛けて手にしていた茶を飲み始めた。

 

「あたし、考えたの。死んだはずのあたしが何故ここにいるのか。これは予測だけど。この身体、作り物でしょ?」

 

 周囲の客に聞こえないように莢花は小声で言った。すると明音が苦笑をする。電車の床に届かない細い足をぶらつかせながら明音は答えた。

 

「そだねぇ」

 

 あっさりと肯定した明音の足元を莢花は何気なく見た。明音は真っ赤なエナメルの靴を履いている。それを左右交互に前後に振りながら明音がくすくすと笑う。明音が着ている服も赤いワンピースだ。幼いながらも明音の顔立ちは妙に整っており、姿だけを見ればまるでお伽噺の絵本から抜け出した主人公のようだ。




そもそも莢花が出てくる話を先に公開すべきなのですが、なくしてるのですみません!><
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