※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


莢花と明音の2人旅のはじまり 3

「あたし、ロボットになったの?」

 

 出来るだけ潜めた声で莢花は告げた。すると明音が横目に莢花を見る。

 

「なったんじゃないよ。間借りしてるだけ。家主は今は不在らしいよ」

 

 莢花を見ながら明音がまた楽しそうに笑う。

 

「どういうことよ? このロボットの身体の持ち主が別に居るってこと?」

「うーん。それについては保留にしとこっかなー。全部、ばらされてもつまんないしょ?」

 

 にこにこと笑いながら明音が言う。莢花は途端に渋面になった。確かにここまで明音は嫌に気前よく質問に答えてくれていた。そのことを思うと答えろと強要するのは図々しい気がする。莢花は仕方なく質問を引っ込めた。

 

 電車が揺れる。二人はまた一緒にとある駅で降りた。それからまた電車を乗り継ぐ。そうしているうちにある駅に辿り着く。そこで明音は駅の外に出ようと言い出した。訝りつつも莢花はそれに従った。

 

 見知らぬ街が広がっている。売店で買った地図を広げていた明音が小さく呻く。

 

「うー、やっぱここからは電車は無理だなぁ。原始的にヒッチハイクするっきゃないかなー」

 

 地図越しに明音がぼやく。莢花は申し訳ない気分でいっぱいになった。

 

「ごめんね。あたし、お金持ってないから……」

「いんにゃ。金の問題じゃないんだよ。この先の路線は運休になっててね」

 

 そう言いながら明音が持っていた地図を少し下げる。すると明音の顔が半分ほど覗いた。その目がやけに険しい。

 

「タクシーの運ちゃんは多分、行ってくれない。物好きなヤツとっ捕まえた方が早い」

 

 ぼそぼそと言ってから明音が地図を畳む。大きな地図が小さな手に余るらしく、明音はもたついている。見かねて莢花は明音の手にしていた地図を代わりに畳んだ。そうしている間も明音が口の中で呟く。

 

「高速はあそこで分断されてるから、在来か……。レンタカー借りてもいいけどこの身体だしな」

 

 険しい顔で呟きながら明音はふらりと歩き出した。地図を畳み終えて莢花は慌てて小さな背を追いかけた。明音は何を思ったのか駅の売店に近付いていく。

 

「あかねちゃん?」

 

 不安を覚えて莢花は控え目に声をかけた。が、明音はそれを無視して売店の前に立つ。そこで明音はくるりと表情を変えた。

 

「せぶんすたーください!」

 

 唐突に明音が売店の女性に声をかける。莢花はぎょっとして明音を凝視した。売店の女性が怪訝そうに莢花と明音とを見比べる。明音はにこにこと子供らしい笑みを浮かべて小銭を握って女性に手を突き出した。喋り方までものの見事に舌足らずになっている。

 

「おとうさんにたのまれたの!」

 

 そう明音が言うと売店の女性が急に納得した顔になる。偉いねえ、おつかい? そう言って明音の小さな手に煙草の箱を乗せる。満面の笑みを浮かべて明音は売店の女性に頷いた。まんまと煙草を手に入れた明音が笑顔で売店の女性に手を振る。莢花は頬が引きつるのを懸命に我慢しながら明音の後ろに続いた。

 

 ビルとビルの間に入ったところで明音が顔から笑みを消す。誰もいない暗がりで当然の顔をして煙草の封を切る明音を見ながら莢花は呆れた声を上げた。

 

「あなた、本当の歳はいくつなの? もしかして、その身体ってあたしが借りてるのと同じようなもの?」

「ま、似たようなもんだね……っと、しまった。ライター買うの忘れた」

 

 渋い顔で言って明音が煙草を小さな唇に挟む。煙草の箱を持っていたショルダーバッグに納めながら明音は莢花に笑いかけた。

 

「ちなみに年は内緒。こう見えてもシャイなんだ」

 

 くすくすと笑いながら明音が言う。火のついていない煙草が唇の先で揺れる。それを見ながら莢花は少しだけ眉を寄せた。

 

「あかねちゃんって本名?」

 

 慎重に莢花は訊ねた。すると明音がぷっと吹き出す。一体、何が可笑しいのだろう。少し苛立ちにも似た感情を覚えつつも莢花は無言で明音の答えを待った。

 

「それ言ったら水輝ちゃんだって君だってホントの名前じゃないっしょ?」

 

 そう言った後、明音は仕方ないなあ、と呟いて右手の指を鳴らした。すると明音の指の先に小さな赤い炎が灯る。明音は煙草に炎から火を移して深く息を吸った。あどけない表情に煙草がまるで似合っていない。

 

「あたしが訊きたいのは、あの、あなた、女? 男?」

 

 そう言いながら莢花はじろりと明音を見た。明音が美味そうに煙草をふかしながら肩を竦める。

 

「んな、気にすることじゃないっしょ?」

 

 にこにこと笑いながら明音が首を傾げる。莢花は歯を食いしばって右手をこぶしの形に固めた。

 

「歯を食いしばってね」

 

 そう忠告してから莢花は明音の頭をこぶしで殴った。

 

「いてー!」

 

 盛大な悲鳴を上げて明音がその場にしゃがみ込む。本来の地が出たのか、しゃがんだ明音の足は大きく開いている。やはり明音の中身は男らしい。

 

「もー。何で殴るんだよお。血が出たらどうすんのさ」

 

 ぶつぶつ言いながら明音が立ち上がる。

 

「乙女の裸を見た罰よ! それくらいで済んで感謝しなさい!」

 

 鼻息も荒く言ってから莢花はふん、と横を向いた。もー、とぼやきながら明音が煙草をふかす。

 

「別に見るくらいいいじゃんー。触ったりしてないんだしさぁ」

 

 唇を尖らせて明音が訴える。だが莢花はふん、と鼻で言ってその意見を却下した。触ろうが触るまいが、見た時点で重罪だ。




今は無理ですよー、というシーンですね(汗)
煙草を買うハードルが高くなってるので、今は子供には売ってくれません。
まさかこんな風になるとは当時は思ってなくて……ごめんなさい!><
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