※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


どうしても水輝に会えないぽい? 1

 薄暗い家の中に入って莢花はしばし立ちすくんだ。あの頃と比べると随分と家の様子が変わっている。

 

 入って少し行くと右手にリビング。その次がキッチン。ダイニングなんてなくって、その分キッチンは広かった。だが思い起こしながら歩いて行くうちに莢花の胸に切ないものがこみ上げてきた。置かれている家具はあの時とはまるで違う。それにそれらの家具もあるものは倒れ、あるものは壊れている。埃の積もった部屋を莢花は靴を履いたまま歩いていった。

 

 二階への階段をゆっくりと昇る。五段目に足を乗せた莢花は思わず小さく笑ってしまった。下から五段目だけが妙に軋むのだ。莢花が体重を乗せるとその段はやはり軋んだ。

 

 静かに二階に上がって莢花は水輝の部屋の前で立ち止まった。深呼吸をして覚悟をきめ、襖の取っ手に手をかける。

 

「おじゃまします」

 

 小声で言って莢花はそっと襖を開けた。そして目を見張る。くたびれた畳の敷かれたその部屋の真ん中に水輝がぼんやりと佇んでいる。それを見止めた莢花は思わず駆け出した。

 

「お兄ちゃん!」

 

 呼びながら莢花は水輝に抱きついた。つい癖で水輝の胸に顔を押し付けようとして莢花は硬直した。

 

 水輝のシャツにはべったりと血がついている。よく見れば黒いコートも血だらけだ。硬直する莢花に水輝がゆっくりと腕を回す。壊れものを扱うように大切に胸に莢花を抱き、水輝は優しい笑みを浮かべた。

 

「どうした? 何かあったのか? 莢花」

 

 莢花は目を見張ったまま息を飲んだ。

 

「お兄ちゃん! この血は何?」

「血?」

 

 不思議そうな声を零して水輝が莢花の目を覗き込む。端正な水輝の面立ちに莢花はつい見とれてしまった。水輝は困ったように笑って首を傾げた。

 

「血がどうしたって? もしかして莢花、怪我でもしたのか?」

 

 そう言って急に水輝が悲しそうな顔になる。莢花は目を見開いて水輝の顔と血に汚れたシャツとを見比べた。

 

「お兄ちゃんのシャツ、血塗れよ!」

「え?」

 

 驚いたように声を上げて水輝は自身を見下ろした。瞬きを何度かして眉を寄せて頭をかく。

 

「あれ……? 変だな。おれ、どこかで転んだりしたのかな」

 

 ぼやきに似たものを零しながら水輝が顔を上げる。ごめん、すぐに着替える。そう言ってから水輝は部屋の隅に寄った。

 

「あれ? たんすがない」

 

 不思議そうに水輝が呟く。おかしいな、と言いながら水輝は和室を歩き回った。だが水輝が探そうとする場所には家具は一つもない。この部屋は恐らく、ずっと使われていないのだ。

 

 困ったな、と呟いて水輝が頭をかく。莢花はそんな水輝をぼんやりと見つめていた。水輝はあの頃と同じ、高校生くらいの姿をしている。髪の長さも全く変わっていない。

 

 莢花は窓際に佇む水輝に大股で近付き、右手を振った。いきなり平手を食らった水輝が驚いたように目を見張る。

 

「な、何だ? おれ、何かしたか?」

 

 莢花が張った左の頬を手で押さえ、水輝が目を丸くして問う。莢花は唇を噛んで水輝を正面から睨み、こぶしに握った手を震わせた。そんな莢花をしばし見つめてから水輝が少し腰を屈める。やっぱり何かあったのか? 優しく言いながら水輝が莢花の頭を撫でる。

 

「あたしなんて、まともに応対する価値ないってこと? それなら、そう言ってよ!」

 

 莢花はこみ上げてくるものを堪えきれず、泣きながらそう喚いた。すると水輝が息を飲んで慌て始める。

 

「な、え、あの、莢花? 一体、何だって言うんだ」

 

 目に見えてうろたえながら水輝が莢花の目を覗き込む。莢花は涙を拭いながら水輝を見上げた。

 

「お兄ちゃんにとって、あたしは何?」

 

 そう言った莢花を水輝が不思議そうに見つめる。やがて水輝は柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「決まってるだろ。大事な妹だ」

 

 笑みを浮かべたまま水輝が莢花の頭を撫でる。あの頃と同じ感触に莢花は余計に泣いた。泣き止まない莢花に焦ったのか、水輝がコートのポケットを慌ただしく探る。ハンカチを取り出した水輝はそれで莢花の濡れた頬を拭い始めた。

 

「もしかして頼まれたゲームソフトを買ってこなかったから怒ってるのか? それとも学校で変な奴に絡まれたとか」

 

 懸命な面持ちで言いながら水輝が莢花の前に腰を屈める。だが莢花は質問されるたびに泣きながら首を横に振った。困り果てたように水輝が眉を寄せる。だがそれでも水輝は優しい手つきで莢花の頬をハンカチで拭った。

 

「お兄ちゃん。どうして、会ってくれないの? 会う価値がないなら、なぜ追い返さないの?」

「え? なに言ってるんだ。おれは莢花に会ってるだろ? ……もしかしてまた変なおまじないでも覚えてきたのか?」

 

 困ったように笑って水輝が首を傾げる。お前ときたら学校で変な知識ばっかり仕入れてくるよな。そう続けて水輝がおかしそうに笑う。

 

「あはははははははははは、ははははははは」

 

 泣きながら莢花は掠れた声で笑った。水輝が笑顔でぽんぽん、と莢花の頭を軽く叩く。莢花は疲れた息を吐いて笑うのを止めた。




おかしいのは莢花じゃなく水輝の方です。
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