汀はごく僅かに目を細めた。画面をぼんやりと見つめてため息を吐く。
「ひと言いいかしら」
感情の失せた声で汀は言った。
「なんでしょう?」
「まばたきくらいさせてくれない? ずっと画面を見続けるのは辛いわ」
疲れた息を吐きながら汀は言った。
「ごめんなさい。まばたきは自由にしていただいてかまいません。ただし、ずっと目を瞑ったりするのをまばたきだと主張するのは止めてくださいね」
にっこりと笑って優一郎が告げる。汀は深く息を吐きながら判っているわよ、と答えた。特にそんなことを意図したつもりもない。ただ、瞬きを封じられると見開いたままの目が自然と乾いて痛くなるのだ。
画面に映された小さな珠がクリトリスだというのは判る。実際に感覚もある。下腹部も熱いし、妙な感覚もある。が、それらの感覚は汀にとって取るに足らないものに思えた。
どうでもいいわ、もう。汀は胸中で呟いた。
「既にご存知だと思いますが、汀さんのクリトリスにはマイクロフォンが内蔵されています。僕の声、うるさくありませんか?」
「別に」
短く答えて汀は再び口を噤んだ。
「クリトリスは故障しやすいパーツです。しかし、ヒューマノイドにとってはとても重要なパーツです。故障時に備えて、必ず予備を持ち歩いてください。交換は簡単に行えます」
「さっきから気になるのだけど」
優一郎の説明の後、汀は声を挟んだ。優一郎が何でしょう、と返事する。汀はため息混じりに告げた。
「あなた、使い魔の私の主なのでしょう? 何故、命令にしないの」
淡々と汀は告げた。すると優一郎が肩を竦めて言う。
「わかりました、天邪鬼を起こされては敵いませんからね。予備のクリトリスを三本、必ず持ち歩くことを命じます」
そこで一息いれて優一郎が続ける。
「そして、故障したら必ず交換してください。これも命です」
「判ったわ。……あなたの喋り方、まるで私に選択の余地が残されているように聞こえて腹立たしいの」
だがそう言いつつも汀は優一郎の言葉に大した感慨を抱いてはいなかった。
「気をつけます」
それまでより僅かに小さな声で優一郎が言う。だがその声に汀は答えなかった。じっと画面を見つめ続ける。
「それでは、内陰部のカバーを装着します」
そう言いながら優一郎が肌色のカバーを汀の股間にはめ込む。小さなドライバーで優一郎がカバーの端にある留め具をはめ込んでいく。汀は画面に映るその様子を感慨のない目で見つめた。
「続いて大陰唇を装着します。これははめ込み式になっています」
優一郎が手に淡い桜色の部品を取り上げる。画面越しに見てもそれが女性器の部品とは思えない。無毛の光沢を持つ部品を優一郎が汀の股間にはめ込む。
「なお、汀さんの大陰唇にはレズプレイ用のバイブレーターが装備されています」
汀はもう答える気にもならなかった。優一郎の言っていることは判るのだが返事をする意欲がわかない。だが優一郎も特に汀の答えを期待している訳ではないらしい。黙っている汀を叱るでもなく淡々と作業を続けていく。
「後パーツはふたつです。先にクリトリスカバーを付けましょう。ここの隙間に爪をあわせて嵌めこみます」
小さな珠状のクリトリスの部品に優一郎がカバーを被せる。その後、優一郎は指でカバーを押し込んだ。
「汀さんのクリトリスカバーは勃起状態のクリトリスも保護するようになっています。開閉は手動で行ってください」
そう言いながら優一郎が指先でカバーを開いたり閉じたりする。汀はディスプレイに映し出されている自分の股間をぼんやりと眺めていた。
「最後のパーツ小陰唇です。大陰唇と、内陰カバーの隙間に差し込んでください。小陰唇の開閉はモーターで行います。内部で歯車がきちんとかみ合うように気をつけてください」
優一郎が手に小さな部品を取り上げる。まるで花びらのように淡い桜色のそれを優一郎が股間にはめ込む。やがて優一郎の手が汀の股間から離れる。そこで汀はため息混じりに告げた。
「終わったの?」
「ええ。終わりました。画面から目を離してかまいません」
その言葉を受けて汀は目を閉じて身体の力を抜いた。幾ら真上にあるからと言ってもずっと画面を見続けていたのだ。身体には不自然に力が入っていたらしい。汀は深々とため息をついて首を軽く回した。
「汀さんにはダイレクトで情報をインプットする機能が今の所無いので申し訳ないのですが、これが女性器ユニットの性交動作マニュアルです。内容を暗記し、記載に従い自慰動作テストを今からすぐに行ってください」
そう告げて優一郎が何枚かのプリントをまとめたものを汀に差し出す。汀は無言でそれを受け取った。文面を流し読みする。
「これは命です。午後までに、女性器ユニットの扱いに習熟してください。夕には水輝さんとセックスしていただくことになります」
ぴくりと汀は眉を上げた。だがすぐに紙面に目を落とす。
「拒否権はないわけね」
紙面に書かれた文章を読みながら汀は感情の失せた声で言った。
「申し訳ありませんが命ですから……。それでは僕は席を外します」
そう言って優一郎が席を立つ。汀は感情のこもらない声でわかったわ、とだけ返事した。
この時点で優一郎はなぎから超嫌われてると思ってるはず……です。