※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


父上、よろしくお願いします。 2

「汀さんには、水輝さんから歪みを吸い取る、吸引装置の役割を果たしていただきます」

「判ったわ」

 

 答える汀の声はとても静かだ。その思惟は恐ろしいほどに静まり返っている。通常、そんな風に心が静かである状態を保つことは出来ない。しかも汀はヒューマノイドなのだ。当然、欲情もしやすく出来ている。なのに汀の思惟は不気味なくらいに静かなのだ。

 

「そういえば、きちんとした状況の説明がまだでしたね。焦っていたのですいません」

 

 そう言ってから優一郎は汀に今の状況をかいつまんで説明した。水輝が歪みを溜め込んでいること。その原因と経緯、そして水輝の現状。最後に優一郎は水輝の歪みを減らそうとし、だが力が及ばなかったことを汀に話して聞かせた。

 

「水輝さんが体内に溜め込んだ歪みを除去すれば、裁きを回避することができるはずです」

「そう」

 

 汀が小さな声で言う。だがやはり、汀の思惟は異様なほどに静かだ。水輝の話をしているというのに、まるで感情が動いていない。

 

「汀さん。僕の前ではかまいませんけど、水輝さんの前では普通にふるまってくださいね」

 

 水輝さんをこれ以上追い詰めるわけにはいきませんから。優一郎は汀の様子を注意深く見ながらそう言った。すると汀が小さく息を吐く。

 

「あなたは何を私の普通と言うの? あなたがどれほど私を知っているというの?」

 

 淡々と汀がそう返す。だがそうしていても汀の思惟は静かなままだ。

 

「僕は汀さんのことはほとんど知りません。でも今の状態が普通でない……いや、それがあなたの普通だったんですね?」

 

 汀が横目にちらりと優一郎を見る。だがそれ以上の反応を汀は見せない。表面的にはぼんやりとしたままだ。

 

「命は実行するわ。それで文句はないでしょう?」

 

 感情のこもらない声で汀が言う。思惟は静かなまま、動かない。だが恐らくそれがかつて生きていた頃の汀だったのだろう。

 

「わかりました。命じましょう。我が僕、汀よ、青龍王への想いを感情に現すことを命ず」

「嫌よ」

 

 汀が即答する。その瞬間、僅かに汀の思惟が揺れた。だがまたすぐに汀の思惟は静まり返ってしまう。それはまるで澄んだ湖面のようだ。恐らく人の思惟を敏感に読み取ってしまう水輝に心の中を読ませないためにはそうするしかなかったのだろう。

 

「あなたはジョーカーとして僕に仕えていますから、拒否の言葉を口にすることはできますけど、それには力はないんですよ」

 

 そう言って優一郎はにっこりと笑った。汀がそんな優一郎をちらりと見て僅かに眉を寄せる。だがすぐに汀の顔は無表情に戻った。

 

「そうらしいわね」

 

 感情のない声で汀が言う。だが汀は特にそのことに興味を覚えなかったらしい。また唇を引き結んでしまう。少し俯いた汀の思惟は静かなままだ。これでは水輝の許に連れて行ったとしても、水輝が汀を認識できるかどうか判らない。だが命は間違いなく生きている筈だ。

 

「汀さん。あなたが吸い込んだ歪みの転送には誓約を用います。誓約は、命として強制することはできません。誓約を結んでいただけますか?」

「どうせ拒否権などないのでしょう?」

 

 優一郎の言葉に汀がそう返す。

 

「おねがいします。水輝さんを裁きの光に灼かせるわけにはいかないんです」

 

 そう言って優一郎は汀に頭を下げた。汀が横目に優一郎を見てぽつりと言う。

 

「何故?」

 

 その言葉に優一郎は目を見張った。慌てて顔を上げる。だが汀は先ほどまでと同じようにぼんやりとした面持ちでどことも判別できないところを眺めているだけだ。

 

「水輝さんには借りがありますし、それに、死んでもらったら困るからです」

 

 はっきりいって僕のエゴですけどね。優一郎はそう続けた。すると汀がまたちらりと優一郎を見る。それから汀は目を戻して小さく笑った。だが思惟の揺れが一切ないため、その笑いは優一郎には酷く不気味に見えた。

 

「そうね。彼の命が潰えたら困るものね、あなたは」

 

 汀がそう言ってくすくすと笑い出す。だがそれでも汀の思惟はまるで揺れていない。ひとしきり笑ってから汀は横目に優一郎を見た。長い髪が汀の顔を半分ほど隠している。

 

「汀さんそれでは、水輝さんから吸い出し、あなたの元に集まった歪みを、僕に即時に転送することを誓ってください」

 

「……私のエゴは否定するのに、自身のそれは大事なのね」

 

 そう返して汀が小さく笑う。

 

「いいわ、マスター。約束するわ。どうせ私はあなたの人形に過ぎないもの。拒否権などないのだから」

 

 淡々と言って汀が少し俯けていた顔を上げる。長い髪を背中に追い払って汀は小さく息をついた。何故、汀の思惟は全く揺らがないのだろう。笑ったり皮肉を言ったりしているのに、それでもなお、汀の感情は動いていない。

 

「汀さん、命じます。水輝さんの居場所を示してください」

 

 優一郎が告げると汀は小さく笑いを漏らした。次の瞬間、汀の姿がかき消える。優一郎は目を見張って辺りを見回した。今の一瞬で汀は研究施設に張り巡らされた結界を越えてしまった。

 

「先に跳ぶとは」

 

 苦笑して優一郎は汀の後を追ってその場から姿を消した。




なぎはひねくれ者なのでw
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