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過去の女と由梨佳で両手に花? 1
一連の質問に適当に応えてから多輝は細い肩を腕にしっかりと抱いた。それまで矢継ぎ早に多輝に質問を浴びせていた少女が驚いたように息を飲む。
「なんだよ。こんくらいでびびるような奴じゃなかっただろ、咲子は」
小さく嗤いながら多輝は咲子の肩を抱く手に力をこめた。多輝がまだ学校に通っていた頃、咲子は一学年上の高校生だった。今は卒業して短大に通っているという。もう、と拗ねてそっぽを向く咲子に笑みかけ、多輝は人通りの多い道をゆっくりと歩いた。
混雑するエレベーターに乗り込む。多輝は両腕にしっかりと咲子を抱きこんだ。久しぶりに会うからなのか、多輝の性質を知っている筈の咲子は真っ赤になって俯いている。多輝は咲子をより強く抱きしめながら耳に細長い息を吹きかけた。咲子が慌てたように口許を覆って声を殺す。
二階にまで下りたエレベーターから多輝はおりた。隣に立つ咲子の肩を抱く。人の多いデパートの中でも多輝は平然と咲子の肩を抱いていた。時折、咲子が赤い顔で周囲の人々の様子を伺う。どうやら人目が気になるらしい。
ベッドではあれだけ積極的なくせに。多輝は胸の中で呟いた。見た目には咲子はとても愛らしい姿をしており、下手をすると多輝より年下に見える。なのに性行為となると咲子は艶かしい女へと豹変するのだ。これまで多輝は遊びで手を出した女性とは二度以上、ベッドに入ることは殆どなかった。そんな中で咲子は珍しく多輝が数度ほど誘ったことのある女性なのだ。
大きな硝子の扉を出て広い歩道に出る。多輝は咲子を連れて歩きながらとあるベンチを見やった。黒いワンピースを着た由梨佳がぼんやりとした面持ちで座っている。多輝は明るく笑顔で話を続けていた咲子と共にベンチに近づいた。由梨佳の姿を見止めたのだろう。それまで元気に喋っていた咲子が尻すぼみに声をなくす。多輝は小さく笑って由梨佳の正面でぴたりと足をとめた。
「……何? この人がどうかしたの? 雨宮くん」
咲子がかたい声で言う。多輝は横目に咲子を見て笑って由梨佳に顎をしゃくった。
「こいつのこと?」
笑顔で多輝は咲子に問い掛けた。すると咲子が顔をしかめて他にだれがいるの、と呟く。多輝はそうだよな、と笑って咲子の肩を強く抱いた。耳に唇を寄せる。
「これ、おれの人形。咲子、激しいの好きじゃん。だからわざわざ持ってきたんだよ」
多輝は意図的に咲子の耳に吐息が入るようにそう囁いた。多輝の手の中で咲子が小さく身震いする。その目にはまだ訝りが浮かんでいる。多輝はやれやれと笑って右足を上げた。由梨佳の座るベンチに勢いよく足を振り下ろす。大きな音を立て、多輝は由梨佳に顎をしゃくった。
「おい。挨拶しろよ」
けたたましい音に驚いた周囲の人々が多輝に注目する。咲子も驚きに目を見張っている。多輝は口許に薄い笑みを浮かべていた。
「お初にお目にかかります。多輝様のガールフレンドの咲子様ですね。私は由梨佳と申します。よろしく御願い致します」
由梨佳が静かに立ち上がって咲子に深々と礼をする。咲子はしばらくじっと由梨佳を見てから機嫌悪そうに顔をしかめた。
「……美人だし雨宮くんの好みなんじゃないの? この人」
そう言って咲子がそっぽを向く。どうやら信じていないらしい。多輝は困ったな、と笑って咲子の肩を抱き寄せた。ほんとだってば、と耳に囁く。咲子は膨れ面で多輝を睨んでからまたそっぽを向いた。
「どうしたら信じる?」
多輝は横目に由梨佳を眺めながら咲子に囁いた。咲子がじろりと由梨佳を睨んでから多輝を見る。
「じゃあ、ここであたしにキスして」
どうだ出来ないだろう。そんな自信たっぷりの咲子の言葉に多輝は目をむいた。周囲の人々はこちらの騒ぎが相当面白いのか、無遠慮な視線を向けたままだ。多輝は咲子と由梨佳を見比べて冗談だよな、と笑ってみせた。
「ほら、やっぱり出来ないじゃない!」
勝ち誇ったように咲子が喚く。多輝はにやりと嗤って素早く咲子の腰に手を回した。顎を片手に捕まえて唇を寄せる。出来るに決まってんじゃん。そう囁いて多輝は咲子を抱きしめて口づけた。驚きに硬直する咲子の唇を唇で割り開く。小さな口に多輝が舌を滑らせると、それまで無反応だった咲子が舌を動かした。咲子が多輝の首に腕を回し、舌を絡めてくる。多輝はそのまましばらく咲子に深く口づけた。
しばしの後、頭を上げる。多輝は周辺から注がれていた視線を一瞥した。するとばつが悪そうに人々が目を背ける。多輝は最後に由梨佳を見た。由梨佳は目の前でキスシーンを見せられても動揺するどころか微笑みまで浮かべている。それが厭味ではなく本心のからのものだと知り、多輝は内心で舌打ちした。
「も、もうっ。雨宮くんってばっ」
さっきまで熱烈に口づけに応じていた咲子が慌てたように告げる。多輝ははいはい、と笑って咲子を促した。肩越しに振り返って由梨佳についてくるように命じる。由梨佳が静かに多輝と咲子の後ろを追う。多輝は咲子の肩を抱いたまま、歩道を歩き出した。
咲子って子もそういえばいたなぁ……(遠くを見る