あ、エロシーンはありません。
「この娘、梨恵さんのトラブルは、メカトラブルじゃなくてプログラムのほうだね。ボディ・コンプレックス・システムまわりかな?」
「はい。彼女の性格判断テストの結果から想定したレベルに若干のずれが生じています」
そう言って保美はエプロンのポケットから端末を取り出した。画面に梨恵のデータを表示させて優一郎に手渡す。
「なるほど。システムに対する適応度が想定よりも高すぎたと。そういうわけなんだね」
手にした端末画面を見ながら優一郎が告げる。保美ははい、と頷いた。しばらく画面を無言で眺めていた優一郎がふと口を開く。
「この娘、僕の玩具にしていいかな?」
日常会話と同等の気軽さで訊かれた保美は自然に微笑を浮かべた。
「もちろんです。部長のお気に召すままに」
そう言って保美は優雅に一礼した。本当にこの娘は幸運だ。ヒューマノイドの中でも優一郎の玩具にしてもらえる者はそう多くない。
「それじゃあ本来の要件に戻ろう。予算の都合で開発を諦めた秘書タイプあったよね?」
それまで浮かべていた笑みを消し、真面目な面持ちで優一郎が告げる。保美は差し出された携帯端末を受け取りながらはい、と頷いた。
秘書タイプの機体は基本的にはメイドタイプと同様に標準型ヒューマノイドを元にデザインされる。だが秘書タイプの機体は標準型やメイドタイプとは異なり、高級素材で構成される。人により近づけるというコンセプトを基に開発する必要があったからだ。
何ゆえ、人に近づける必要があるか。秘書タイプはその性質上、対外的な使者の役割を持つことも多い。そのため、誰が見ても人と信じて疑わない機体が必要なのだ。また、ヒューマノイドの特性を理解していない者の下に派遣される場合もあるので自律能力も高くなければならない。その上、情報処理とアシスタント業務に能力を特化する必要がある為、秘書タイプの体内コンピュータは標準型やメイドタイプのものとはまるで違う構造になる。
特殊コンピュータの製作、運用、機体に用いられる高級素材。それらのどれを取っても必要予算はこれまでのヒューマノイドの機体作成予算枠には留まらない。どう切り詰めても五倍、いや十倍は軽く上回るだろう。それ故、秘書タイプの製作はこれまで保留にされていたのだ。
「吉良瀬のHQの業務を引き継ぐことになった」
静かに優一郎が告げる。保美はさすがに驚きを隠しきることは出来なかった。思わず目を見張って息を飲む。つまり、吉良瀬の最高司令部の業務を引き受けることになったと優一郎は言っているのだ。
「概算してみたけど、秘書タイプのヒューマノイドが最低四体、できれば六体、早急に必要になる。予算はリンク用のメインコンピュータシステムを含めて三十億円。遅くとも今月中、できれば成人の日までに欲しい」
保美は目を細めて開発にかかる費用を素早く概算した。それと同時に製作にかかる時間もざっと割り出す。
「……ぎりぎりですが、何とか」
微かに眉を寄せて保美は答えた。それだけのものとなると圧倒的に人の手が足りない。保美は使える全ての手を記憶から引き出し、素早く頭の中で組み立てた。
「部長」
保美は目を細めて優一郎を小声で呼んだ。
「外注企業の件については心配しなくていい。如月の御大に話を付ける」
保美が言う前に優一郎が告げる。保美はほっと胸をなで下ろして頷いた。それから改めて優一郎に声をかける。優一郎は目で保美を促した。
「私に木村インテグレーションのメインコンピュータに対するアクセス権をください。期日までに必ずご注文の品、ご用意してご覧に入れます」
そう言って保美は深々と頭を下げた。木村財閥の抱える企業の中でも木村インテグレーションはコンピュータ系の中では一番の発展を遂げている企業だ。そして戸籍上は保美の両親である彼らはその企業に今でも勤めている。
保美は両親のいる企業そのものを内側から破壊すると言っているのだ。
「屋敷から持ち出したあの人のコンピュータ、君にも見せたんだったか」
そう告げて優一郎が苦笑する。保美は頭を上げてにっこりと笑った。
「まかせる。盛大にやってもらってかまわない」
ありがとうございます。そう告げて保美は再び頭を下げた。礼をした保美の口許には巨大な相手を破壊出来る悦びの笑みが浮かんでいた。
「素材の人選のほうは大丈夫なのかい? 清陵女子短大の秘書科で極秘に適合試験を行ったと聞いたけど。六体も確保可能かな?」
僅かの間の後に笑みを消し、保美は静かに顔を上げた。だが質問の割に優一郎の顔には変わらない笑みが浮かんでいる。優一郎は訊ねているのではない。確認しているのだ。
「お任せください。既に適任者は選出してあります。一両日中に全ての脳を揃えることが可能です」
優一郎の言葉に保美は一片のためらいもなく答えてみせた。優しい笑みを浮かべて優一郎が頷く。その表情にもやはり少しのためらいも存在しない。
「一段落ついたら秘書タイプの補助として高級メイドタイプの製作を行う必要がある。また護衛要員の増強も必要だから戦闘タイプも必要になる。それらの素材の人選を諜報部の初仕事とするのはどうかな?」
「それはいいですね。彼女たちも喜ぶと思います」
喜びに破顔して保美は頷いた。
「秘書タイプや高級メイドタイプのボディは僕の好みに合わせなくていいからね。多輝の好みにあわせれば丁度いいと思う」
小さく笑って優一郎が告げる。多輝の姿を思い描きながら保美ははい、と頷いた。これは多輝の好みの情報も収集しなければならない。まあ、調べなくても大体は予想できるけれど。そう内心で呟いて保美はにっこりと笑った。
色々と裏側で物事が動いている感じです。