※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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翠はちょっとズレた性格なので……。
エロシーンはありません。


真冬に冷たいお茶を出される悲しみ 2

「今度は何だ。幾ら立城がいないからってほいほい来れる身じゃねえだろが、お前は」

 

 苛々と頭をかきながら水輝は低い声で告げた。すると翠は表情を一切変えず、きっぱりと言った。

 

「暇だったのでな」

「だー!」

 

 水輝は叫んでテーブルを強く叩いた。要するに暇つぶしか! そう続けて水輝は立ち上がった。

 

「帰れ! 即刻、ここから去れ! おれは機嫌が悪いんだ!」

 

 そう怒鳴って水輝は翠に指を突きつけた。翠は水輝をじっと見つめ、思案するように眉を少しだけ寄せた。しばし沈黙する。水輝は苛々としつつも翠を指差したままじっと待った。翠の反応が人より遅いのはいつものことだ。

 

「無理だな。わたしはまだ、お前と茶を酌み交わしていない」

「酌み交わすのは酒だ! 茶じゃねえ! どうでもいいから帰れよ、お前は!」

 

 静かな翠の言葉に水輝は即座に言い返した。翠がやれやれとでも言いたそうに肩を竦める。水輝はこぶしを握って怒りに肩を震わせながら執務室のドアに向かって歩いた。

 

「茶さえ飲めば帰るんだな!?」

「そうだな。出来ればわたしは紅茶が」

「うるせえ!」

 

 淡々と注文を口にする翠を遮って水輝は喚いた。ドアを開けてキッチンに急いで向かう。冷蔵庫に入っていたペットボトル入りの茶でも出してやれば気がすむだろう。水輝は慌ただしくキッチンに駆け込み、怒りに震える手で二つのコップに烏龍茶を注いだ。グラスを両手に握って執務室に戻る。

 

「おら! 茶だ! ありがたく飲みやがれ!」

 

 ドアを蹴り開けて水輝は翠に早足で近付くと手に握ったグラスの片方を突き出した。グラスを大人しく受け取った翠が首を傾げる。水輝は翠の正面に回り、ソファに乱暴に腰掛けた。グラスに入っていた烏龍茶を一気飲みする。しばらく水輝をじっと見つめていた翠がぼそりと告げる。

 

「この寒いのに何故冷たい茶なのだ?」

「あーもー! いいから飲めよ! そして帰れ!」

 

 テーブルに叩きつけるように置いた拍子に水輝の持っていたグラスが砕ける。翠は静かな眼差しで壊れたグラスと水輝とを見比べ、グラスに口をつけた。水輝はソファに寄りかかりながら翠を睨んだ。

 

「大体なあっ。おれは忙しいんだよ! 事後処理放棄してるてめえにつきあってる暇は」

 

 そこまで言って水輝はぴたりと口を噤んだ。息を潜めて張り巡らせていた意識の先に引っかかった気配を読む。水輝は驚愕に目を見張った。

 

 翠は両手にコップを包み、静かに茶を飲んでいる。水輝はぎらりと翠をねめつけて立ち上がった。

 

「……最初から知ってやがったな?」

「それはお前も同罪だ」

 

 穏やかに翠が答える。水輝は舌打ちをして執務机に駆け寄った。慌ただしくキーボードを操作する。住所録を呼び出して苛々しながら画面をスクロールさせる。だが立城の所有する住所録は膨大で、とてもいちいち目で確認してはいられない。

 

 静かに翠が立ち上がる。翠は空になったグラスをテーブルに乗せて微かに微笑んだ。水輝は気配を感じて顔を上げ、翠を鋭く睨みつけた。

 

「いつだ」

「三日後」

 

 翠が短く答えて姿を消す。水輝は急いで携帯電話を取り出した。目的の番号を表示させる。通話ボタンを押して耳に携帯電話を当てる。しばらく待つと相手が出た。

 

「おれだ。すぐにそこから離れろ。……あ? いいから、離れろっつってんだ!」

 

 えー、と間延びした声で答えた相手に水輝は怒鳴りつけた。

 

「阿呆! 死にたいのか!」

 

 それだけ言って電話を切る。水輝は携帯電話をポケットに戻し、急いで執務室を出た。ここからなら直接、訪ねた方が早い。部屋に戻った水輝を奈月が笑顔で迎える。水輝は設えられたクローゼットからコートを引っ張り出した。

 

「ちょっと出かけてくる」

「あの水輝さん、わたしも!」

 

 コートを羽織りながら水輝は駄目だ、と答えた。途端に奈月が困惑した顔をする。電話、煙草、鍵と持ち物を確認してから水輝は奈月に言った。

 

「奈月には頼みがあるんだ」

 

 ジーンズのポケットから財布を抜く。中を確かめてから水輝は引きつった。立城から金をせしめるのをうっかり忘れていた。寂しい財布の中身に呆然となっていた水輝は慌てて首を振った。

 

「あの、お金ならここに」

 

 そう言いながら奈月が財布を出す。それを見た水輝は首を横に振った。

 

「駄目だ。それは奈月が持ってろ。どっちみち奈月にも金が要る」

 

 水輝はそう言って執務室に戻った。奈月が慌てたように後ろからついてくる。水輝は執務室に入って真っ直ぐにソファのある場所に向かった。硝子のコップの破片がテーブルに残っている。その中の大きなものを一つ取り上げ、水輝は自分の小指に当てた。

 

 ちっ、という音を立てて肌が裂ける。零れた血の数滴に水輝は力をかけた。水輝の両手の中で血の雫が輝きを帯びる。

 

「奈月は機械、得意か?」

 

 宙に浮いた血の雫に力をかけながら水輝は訊ねた。傍に立っていた奈月が困惑顔になる。

 

「えっと、あの、わたしは機械ですけど、その」

 

 困ったように手を振る奈月を見つめ、水輝は苦笑した。

 

「おれは多分、もっと苦手だと思うんだが……あの端末から目当ての住所、探してくれないか」

 

 そう言って水輝は執務机に乗った端末を顎でさした。

 

「あっ、はい。それくらいなら、なんとか」

 

 奈月がぱっと顔を輝かせる。水輝は無言で頷いて手の中に目を戻した。赤い幾つかの輝きが渦を巻いて一つになる。水輝は現れた直径三センチ程度の薄紅色の宝石をつかんだ。それを奈月に一旦、手渡す。次いで水輝は自分の胸に手を突きたてた。苦しさに呻きながら身体を折る。

 

「く、そー……あんま、回復してないんだよなー……」

 

 呻き混じりに呟きながら水輝は器の中から宝珠を一つつかみ取った。胸から引き抜いた水輝の右手に握られているのは銀色の宝珠だ。水輝は手を一振りしてそれを刀の形に変えた。

 

 奈月から受け取った宝石を宙に放る。水輝は素早く刀を鞘から抜いた。高速で幾重にも走った刃が宝石の表面をカットする。じゅうたんに落ちた宝石を拾い上げて水輝はよし、と頷いた。

 

「じゃ、頼んだから!」

 

 奈月に手を上げて水輝は執務室を駆け出した。だが廊下を駆けようとしたところで水輝は思い止まって執務室に戻った。ドアから顔を覗かせる。

 

「あのさ。なに探すか言ったっけ? おれ」

「あの、目当さんの住所って仰ってましたよね? もう検索終わりました」

「ち、ちがう……」

 

 水輝は脱力してドアに寄りかかった。執務机についていた奈月が慌てた声を上げる。水輝は気を取り直して奈月に告げた。

 

「探すのは総一郎先輩の関わってる研究施設の住所だ。幾つかあるだろうけど判った分からおれの携帯にメール入れてくれ」

 

 早口で言ってから水輝は今度こそ駆け出した。右手の中にしっかりと宝石を握りしめる。

 

 まずは質屋だ! そう叫んで水輝は屋敷を駆け出した。




暁の姉妹はけっこーバタバタした話です。
時系列がぐっちゃになるところがあるので……すみません。
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