※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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キャラクターが増えました。
エロシーンはありません。


鹿威しの響く音とじじい登場 4

「やれ、慌ただしゅうて申し訳ないのう」

 

 そう言って泰蔵が再び人好きのする笑みを浮かべる。

 

「連絡係として仕立てる女性についてですが、あちらに控えている方などどうでしょう?」

 

 にこやかな笑みを浮かべて優一郎が左手の襖をさし示す。すると泰蔵はほっほっほ、と笑った。

 

「それは困ったのう。麗ちゃんはわしの大事なスイートハニーでのう」

 

 そう言いながら泰蔵が軽く手を叩く。襖が音もなく開き、一人の女性が現れる。和服に身を包んだ女性は畳に指をついて深々と頭を下げた。

 

「失礼!」

 

 不意に天井に刺さっていた苦無が次々に抜ける。それを手にした優一郎が素早く動いて机を一足飛びに越える。泰蔵は飛び掛ってきた優一郎が繰り出した苦無を隠し持っていた別の苦無で防いだ。

 

「なかなかやるのう。優一郎殿」

 

 にやりと笑って泰蔵が飛び離れる。宙に浮いたところで泰蔵は立て続けに優一郎に苦無を飛ばした。全ての苦無が優一郎を掠めて畳に突き刺さる。

 

「降参します。刺さないでいただけますか?」

 

 そう告げて優一郎は振り返った。いつの間に動いたのか、麗が優一郎の首筋に狙いを定め、身構えている。その手に握られているのは手裏剣だ。

 

「やれ、運動したら喉がかわいたわい。麗ちゃん、ジュースを持ってきてくれんかのう。彼らのも一緒にの」

 

 泰蔵が嬉しそうな笑みを浮かべて座布団に戻る。優一郎が静かに元の位置に座したところで麗ははい、と一礼して下がった。

 

「如月、ですから、まさかとは思っていたんですが」

 

 小さく笑って優一郎が告げる。要はほっと息をついて浮かせかけていた腰を戻した。だがまだ立城は要の袖を小さな手で握っている。その手は小刻みに震え、顔色は蒼白なままだ。一体、立城は何をそんなに気にしているのだろう。

 

「伝統の技と、最新の技術を融合させてみる気はありませんか? 如月さんにとっても彼女にとっても、損の無い取引であると思います」

 

 襖が静かに開く。現れた麗が静かに机にグラスを乗せていく。人数分のジュースを置いた麗が来た時と同様、静かに下がる。

 

「魅力的なんだがのぅ……。残念ながら、麗ちゃんもちと訳ありでの。時が来たら人にかえさにゃならんしのぅ……」

 

 難しい顔をして泰蔵が顎を撫でる。優一郎と泰蔵はどうやら取引を始めたようだ。要はそのことにほっとしながら立城を見た。どうしたんですの、と小声で問う。すると立城は膝立ちになり、小さな手を口許にあてがって要の耳に口を寄せた。

 

「あの、お手洗い、どこですか?」

 

 小声で立城が言う。それを聞いた要はああ、と納得した。どうやら立城は先ほどからトイレに行きたいのを我慢していたらしい。そう理解して要は二人の邪魔にならないよう、立城の手を引いて静かに部屋から出た。

 

 廊下を進んでトイレに向かう。トイレの位置を教えてから要は立城に手を振って部屋に戻った。元の位置に腰を下ろす。そこで要は訝りに眉を寄せた。いつの間にか二人が話をするのを止めてじっと要を見ている。残る二人も要に視線を注いでいる。

 

「どうなさったんですの?」

 

 要は不思議に思いながら訊ねた。

 

「要さん。もうしわけありません。お願いがあるんですが」

 

 心持ちかたい声で優一郎が告げる。要はあら、と微笑んで頷いた。

 

「優一郎さまのお願いなら幾らでもお引き受けいたしますわっ」

 

 そう声高に言って要はどん、と胸をこぶしで叩いてみせた。

 

「それでは、彼女と手合わせをお願いできますか?」

 

 静かに立ち上がって優一郎がそっと襖を引く。すると要の許に一気に何かが迫ってきた。要は反射的に攻撃をかわし、畳を強く蹴った。突き刺さっていた苦無が衝撃に僅かに浮き上がる。それを素早くさらって要は一気に敵と識別した相手に駆け寄った。

 

 それは見知らぬ少女だった。年は先ほどの麗より多少若いだろう。要は一気に間を詰めて逆手に握った苦無を気合と共に一閃した。だが刃が届く僅か前に少女が身を沈め、要に足払いをかける。だが要は畳を蹴って飛び上がり、足技を避けた。

 

 互いに飛び離れて間を取る。

 

「おお、しばらく見んうちに要ちゃんも腕をあげたのぅ」

 

 感心したように泰蔵が呟く。それを機に少女が構えていた小太刀を下ろす。要も無言で腕を下ろした。おほほ、と笑って元の位置に座る。泰蔵はうんうんと嬉しそうに頷いて少女に手を振ってみせた。少女が一礼して下がる。

 

「……どうでもいいですけど、おじい様。何故、彼女たちはいちいち見目麗しいんですの?」

 

 疑問に感じていたことを要はストレートに泰蔵にぶつけた。先ほどの少女といい、麗といい、容姿は驚くほど整っていた。最初のあの少年だか少女だか判らない者もそうだ。

 

「わしの好みだから」

 

 数瞬も迷うことなく泰蔵がすらっと答える。これだから、と呟いて要はため息をついた。一番隅に座っていた多輝がぼそりと遺伝だな、と漏らしたが要はそれは聞かなかったことにした。

 

「さて、これで一応は互いの手の内をみせたということかのう」

 

 笑顔で告げて泰蔵がジュースをすする。要はジュースに手を伸ばそうとしてふと手を止めた。センサーが反応を見せる。ぴくりと眉を上げて要は振り返った。静かに襖が開き、立城が姿を現す。立城は静かに歩いて要の横に座った。俯いていてその表情は判らない。




要の視点だと訳が判らないままでも話が進むというか。
脱線しやすいのが難ですが(汗)
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