通し番号にするにしても長い気がして……。
そろそろリアルでも新年ですねー。
あ、エロシーンはありません。
かずのこ、黒豆、田作り、百合根、栗きんとん。
ずらりと並んだおせち料理に水輝は絶句した。一体、どこにこんなものを作る暇があったのだろう。お重の隅には紅白のなますも入っている。水輝はベッドに上半身を起こした格好のままテーブルに置かれた料理をしばし凝視した。
「あー……」
力なく声を漏らしながら頭をかく。部屋はいつの間にか程よく暖められている。どうやら料理を並べる前に火を入れたらしい。部屋の隅では暖炉が赤い火を灯している。
あれから水輝は奈月と立城と共に吉良瀬の屋敷に戻った。すっかりへそを曲げた立城は仕事があるとかで執務室にこもってしまった。使い魔のいなくなった屋敷は妙に静かだ。
立城はしばらくは新しく使い魔を作ることもないだろう。器を維持するのがやっとのようだ。だがそれも当然だ。これまで立城が使っていた器とは異なり、今度のそれは力のみで構成されている。慣れるまでにはしばらく時間がかかるだろう。
順はあれからずっと眠ったままだ。体力も完全に回復しきっていないし、何よりまだ新しい力についていくことも難しいだろう。今は眠って過ごすのが一番だ。水輝は白いカーテンのかかる窓の外に目をやってから大きな欠伸をした。
隣にいたはずの奈月の姿がない。水輝は布団の上に放り出されていたシャツを取り上げて羽織った。ベッドを降りて下着とジーンズを穿く。水輝がのろのろとシャツのボタンをかけはじめたところで部屋のドアが開いた。
「おー。随分早いなあ。ところで一体、いつの間におせち料理なんてつく」
言いながらドアを見たところで水輝は絶句した。奈月が手にしたトレイの上には二つの汁椀が乗っている。
「水輝さん。おはようございます」
朗らかに挨拶しながら奈月がテーブルに汁椀を乗せる。水輝は湯気をたてている赤い汁椀と奈月とを何度か見比べた。
「え、ええと……どしたんだ? その振袖」
奈月はいつもとは違い、振袖を着ていた。柔らかな春を思わせる色使いの生地には桜の花が描かれている。長い髪は結い上げられ、かんざしがついている。白い肌と赤い小さな唇がとてもよく似合っている。水輝は佇んだまま、思わずぼんやりと奈月に見とれていた。
「あ、あの! 似合いませんか?」
水輝が黙って見ていることに不安を覚えたのか、奈月が泣きそうな顔で告げる。水輝は慌てて首を横に振った。
「そうじゃなくて」
奈月のせりふを否定してから水輝は微笑んだ。
「すげえ似合ってる。可愛いよ」
それにきれいだし。そう付け足して水輝は枕の近くに置いてあった新しいタオルを取り上げた。
「あ、ありがとうございます」
真っ赤になった奈月がトレイで半分、顔を隠すようにして小声で言う。水輝は思わず苦笑して奈月の傍に寄った。上目遣いに水輝を見る奈月に手を伸ばし、トレイを退ける。軽く口づけしてから水輝は顔を洗いに行く、と部屋を出た。
ドアを閉じてそっと息をつく。それから水輝は満面に笑みを浮かべた。やっと終わったんだなあ、という妙な感慨がこみ上げてくる。半端になっていたシャツのボタンを留めながら歩きだす。屋敷は静まり返っているというのに、何故か以前のような寂しい感じはない。
緋色の断罪の主は代替わりした。もしかしたら永久欠番になるかとも思われたその席にいま座っているのは順だ。本人が納得できるかどうかは別として、早く慣れて貰わなければならないだろう。
ま、どのみちハンターも少しずつ淘汰されるか。そう呟きながら水輝は洗面所に入った。顔を洗って肩にかけていたタオルで拭う。ついでに歯を磨こうとした水輝は洗面台付近に歯ブラシがないことに気がついた。
「あれ?」
水輝たちの部屋の傍にあるこの洗面所には、水輝のものと奈月のもの、そして立城の歯ブラシが並べて置いてあった。なのにそれがないのだ。歯ブラシをかける箱だけが残っている。水輝は眉を寄せてしばしその場を探した。
「っかしーなー。何でないんだか……」
「歯ブラシならここにあるよ」
不意に背中から声が聞こえてくる。水輝はぎょっとして慌てて振り返った。そこで硬直する。不愉快そうに眉を寄せた立城が水輝に無言で歯ブラシを突き出す。水輝は立城と差し出された歯ブラシとを見比べた。
立城は今は人の年齢にすれば十歳程度の子供の姿になっている。無理に男の性をまとっているからなのか、それ以上成長した姿を取れないらしい。そんな子供の姿をした立城が羽織り袴を身につけているのだ。水輝は頬をひくひくと引きつらせて震える手で立城から歯ブラシを受け取った。
「新年だから色々と取り替えようと思っただけなんだけど。何でそんな顔をするの」
以前よりずっと立城の表情は増えている。半ば怒ったような顔で言われた水輝は焦ってなんでもないと手を振った。ふうん、と素気なく答えて立城が残りの二本の歯ブラシを箱に入れようとする。が、どうも背丈が足りないらしい。背伸びをして腕を伸ばしているが箱に手が届いていない。
「ぶっ」
我慢出来なくなり、水輝はとうとう吹き出した。立城を指差して爆笑する。懸命に手を伸ばしていた立城はそこでぴたりと動きを止めた。どうも相当怒っているらしい。振り返った立城の顔に浮かんでいた表情を見て水輝はそう理解した。が、どうしても笑いが納まらない。
「……笑っていないで手伝ったらどうなの」
「い、いや、悪い」
歯磨きコップに自分の歯ブラシを立てて水輝は立城に手を伸ばした。慌てた声を上げる立城の腰をつかみ、軽々と抱え上げる。
立城は反動で小さい子供の姿になってます。