エロシーンはありません。
「最高の技量の方を寄越せとは言いません。もちろん、未熟な方では意味が有りませんが」
「うーむ。仕方ないのう」
肩をひょいと竦めて泰蔵が苦笑する。それから泰蔵は静かに視線を立城に向けた。立城は正座して俯いたままだ。
「吉良瀬殿。お探し物は見つかりましたかな?」
泰蔵が穏やかな声で問う。要はじっと立城を見た。立城がびくりと身体を震わせる。膝の上で握りしめたこぶしが小さく震えている。
「僕は……別に」
小さな声で立城が答える。すると立城の横に座る優一郎がふわりと微笑を浮かべた。
「後で、お話を聞かせてくださいね」
そう言ってから優一郎が泰蔵に向き直る。だが泰蔵はまだ立城を見つめていた。その泰蔵の顔を見た要は不思議に思い眉を寄せた。泰蔵は要が目にしたことのない優しい、穏やかな微笑みを浮かべている。
「のう、吉良瀬殿。ここらでほんの少し休まれてはいかがかな?」
柔らかな口調で泰蔵が告げる。立城がゆるゆると頭を上げる。その横顔を見た要はぎょっとして息を飲んだ。立城は握ったこぶしを震わせつつ泰蔵を鋭く睨んでいるのだ。
「……どこに……隠しているんですか」
絞り出すように言って立城が歯軋りする。
「言われなくても、僕はこの通りです。これじゃ、力を使って回収することなんて」
「吉良瀬殿」
静かな声で泰蔵が立城の声を遮る。
「ご乱心めされるな。貴殿の役目は別ではないですかな? のう、優一郎殿」
にっこりと笑って泰蔵が優一郎に水を向ける。
「母上。真にあなたの元に戻るべきものなら、いつか必ず戻るでしょう」
泰蔵に負けず劣らず静かな声で優一郎が告げる。するとその場に立城が立ち上がった。
「見つけたのに……折角、見つけたのに」
そう呟いたかと思うと立城はいきなり泰蔵に向かって走り出した。要はほぼ反射的に立城を取り押さえた。畳に組み伏せてからしまった、と目を見張る。どうもいつもの癖で組み伏せてしまった。立城は要の下で必死で暴れている。
「よ、良かったのかしら」
そう言いながら要は顔を上げた。離せ、と立城が身体の下で喚いている。だがどうも離さない方がいいような気がする。
「いえ、良い判断です」
優一郎が要に頷く。要はそれを見てほっと胸に余った手をあてがった。泰蔵がほっっほ、と笑う。
「例え見出せたとしても二度と同じ形には戻りませんぞ? それがあのお方の覚悟であったと、吉良瀬殿はみなの者に諭されたのではございませんかな?」
そう告げてから泰蔵はよいしょ、と腰を上げた。襖を開けて廊下に向かって声を張る。
「楓!」
気のこもった泰蔵の声が別荘の庭に響く。すると庭の大きな木の上から少女が姿を現した。泰蔵の元に着地し、跪いて頭を垂れる。その少女が姿を現した途端、立城は狂ったように要の下で暴れ始めた。
「離せ!」
ほんの一瞬、要の手が緩む。立城はその隙に要の下からするりと抜け出した。机を跳び越えて走る。その手にはいつの間にか大きな日本刀が握られていた。要は慌てて畳を蹴って駆けようとした。
小さな身体のどこにそんな力があるのだろう。怒号を上げて立城が刀を振り上げる。だが刀が少女に届く寸前に泰蔵が一喝した。
「動くな!」
腹の底に響く気のこもった声を泰蔵が発した瞬間、立城はぴたりと動きを止めた。そのまま歯を食いしばって腕を震わせる。泰蔵の声にあてられて動けなくなったのだ。要はその隙に立城に駆け寄り、首筋に手刀を入れた。ぐらりと傾いだ小さな身体を腕に受け止める。
これで八十過ぎですものね。大したものですわ。要は脱力した立城の身体を両腕に抱え上げながらちらりと泰蔵をうかがった。泰蔵はいつの間にか元のにこやかな笑みを浮かべている。身を屈め、泰蔵は立城の傍に転がっていた紫色の刀を取り上げた。すると泰蔵の手の中で刀の形が崩れる。紫色の刀はあっという間に一つの丸い宝玉に変化した。なるほど、これが龍宝珠と呼ばれるものか。感心する要に泰蔵が宝珠を差し出す。すると紫色の宝珠は泰蔵の手から離れて要が腕に抱く立城の胸に音もなく吸い込まれていった。
静かに部屋を横切って元の場所に座る。要は腕に立城を抱えたまま無言を守った。よくは判らないが泰蔵は立城に休めと言っていた。泰蔵が言うならきっと立城には休息が必要なのだ。
「さて、優一郎殿。麗、鈴、楓と三人の少女を見てどう思われますかな?」
泰蔵が楓と呼ばれた少女を伴って部屋に戻る。元通りに腰を下ろした泰蔵の傍に楓が静かに腰を下ろす。
「楓さんは我が強いですね。麗さんは艶やかにすぎる。鈴さんは能力では劣るようですね」
「そう。楓はいま。麗は未来。そして鈴は過去をそれぞれ示しておる」
要は泰蔵の告げた言葉に首を傾げた。一体、泰蔵は何の話をしているのだろう。それに優一郎はどうしてやけに真剣な顔をしているのだろう。多輝と斎姫も要と同じ疑問を抱いたのか、不思議そうに首を捻っている。
「一人を選べといわれたなら、僕は鈴さんを選びます」
「ほう。それはまた何故じゃな?」
楽しそうに笑いながら泰蔵が告げる。
「単純に好みの問題です」
あっさりと優一郎が答える。すると泰蔵は声を上げて笑い出した。しばらく笑ってから頷く。
「よかろう。優一郎殿に鈴をしかと預けよう……まあ、麗や楓はちと危険すぎるしの」
そう言って泰蔵が軽く楓に手を振る。楓は一礼するとその場から姿を消した。入れ替わりにさっき要と勝負した少女が現れる。少女は静かに泰蔵に頭を下げてから優一郎の前に正座した。
「時宗鈴と申します。以後、宜しくお願いいたします」
そう告げて鈴が優一郎に深々と頭を下げる。
「こちらこそ。よろしく」
にっこりと優一郎が笑う。要はほっと息をついて無意識にこめていた肩の力を抜いた。その拍子に腕の中の立城を落としそうになる。あら、と呟いて要は立城を抱え直した。
失神した立城の顔はあどけない子供そのものだ。さっきのは何だったのかしら。そう思いながら要はしばし立城の顔を見つめていた。
鈴は今後もちょいちょい出てきます。