「それで何を為そうとしていたのですか? 手っ取り早く力を取り戻し、父上の魂を回収しようと、つまり、父上の役目を妨害しようと企てていたのでし……!?」
目を見張り、言葉を切った優一郎が床に横たわる少女に駆け寄る。
「多輝!」
鋭い優一郎の声が響く。するとその場に多輝が姿を現した。立城は小さく笑いながら少女を含む三人を横目に見た。
「何だよ、いきなり」
顔を赤くした多輝が着衣の乱れを直しながら問う。
「鈴さんは腹部に力を篭めた攻撃を受けている。すぐに治療を」
多輝にそう言ってから優一郎が険しい顔をして立ち上がる。立城は歩いてくる優一郎に薄い笑みを向けた。
「いったい、何を企ててらっしゃるんですか? 砂利のように砕かれた父上の魂が、今、さらに砂のように砕かれました。いったい、昼間、あなたは何を見たんですか?」
険しい顔をして優一郎が声を張る。立城は薄い笑みを浮かべたまま唇を静かに開いた。
「なにも」
微かな音がする。立城は床に横たわる少女を治療する多輝と優一郎とを見比べた。それからおもむろにドアを指す。
「僕、もう行っていい?」
「誓約により、あなたの罪は問われる事はありません。僕には止める権限も力もありません。ですが、息子として母上に要望があります」
真剣な目がどことなく真也に似ている気がする。だが立城は思い浮かんだことを心の底に沈めた。結局のところ、誰も代わりになどなりはしないのだから。そう呟いて立城はにこやかな笑みを優一郎にむけた。
「なあに?」
優しい声で訊ねて立城は首を軽く傾げた。
「僕は母上を抱きたいと思っています。裸になって、ベッドに横になっていただけますか?」
そう言ってから優一郎は振り返った。
「多輝、鈴さんの容態は?」
「大丈夫だ。……でも、お前……」
戸惑ったように多輝が告げ、優一郎と立城を交互に見やる。立城はそんな多輝に笑みを向け、次いで優一郎を見た。
「断ったら?」
くすくすと笑いながら立城は告げた。優一郎の言葉に器は如実に反応を示している。少しでも力を取り戻そうと、立城の持つ力そのものが他者からの癒しを渇望しているのだ。現に傍に優一郎を感じているだけで膣内からはどんどん愛液が染み出してきている。
「僕にはどうしようもありませんから、対処可能だと思われる、多輝の父君を呼びます」
静かに優一郎が告げる。立城はしばし優一郎を見つめ、それからまた小声で笑い出した。多輝は相当に驚いているのか目を見張っている。
「先に多輝とあの子を何とかしてあげたら?」
そう告げて立城は壁に近付き、寄りかかった。背中を預けて天井を仰いで息をつく。出来るかな。そう心の底で問う。いま、力は殆どないに等しい。下手をしたら時空の狭間に飲まれてしまう可能性がある。
それでもいいかな。立城はそう心の中で呟いた。
「多輝。僕の部屋か君の部屋で鈴さんの介抱を頼む」
優一郎が振り返って告げる。その瞬間、立城は素早く自分の額に指をあてがった。残った全ての力をかき集める。
「おう。判った……って」
多輝が目を見張って慌てたように立城を指差す。立城は歯を食いしばって俯いた。紫の光が一気に燃える。
優一郎が深々とため息をついて頭を抱える。発していた光が唐突に消え、立城は深い痛みに襲われた。床に膝をついて崩れ落ちる。遅まきながら立城は時空の支配者のことを思い出した。跳ぼうとした立城を時空の側が拒絶したのだ。そのため、立城が放とうとしていた力が全て、術者である立城自身に跳ね返ったのだ。
「母上。とりあえず、お休みください。今日はもうセックスさえ無理でしょう?」
そう言われて立城は無言で身体を起こした。ふらつきながら壁伝いに立ち上がる。痛みは放っておけばそのうち消える。疲れた身体もそのうち治る。だがこみ上げるこの異様な性欲だけは止まらない。
立城は無言のまま歩き出した。ゆっくりと歩いてドアに辿り着く。
「わかりました。できるだけ負担にならないように、抱きましょう。だから意地を張らないで下さい」
優一郎がため息をついて開く前にドアを押さえる。立城は腕を取られてその場によろけた。バランスを崩した立城の身体を優一郎が抱え上げる。多輝は困惑した面持ちで二人を見比べてから、少女を抱えてその場から消えた。
「おろして」
立城は優一郎の胸を震える腕で押した。だが力が殆ど入らない。
「だめです」
殆ど力のこもっていない立城の抵抗に優一郎がきっぱりと答える。立城はため息をついて懸命に優一郎の腕から逃れようとした。
「白銀は食べないし、あの少女にも手を出さない。それなら別に、僕がどこで何をしようといいだろう」
「したくてたまらないんでしょう? 人間の男性でも食うつもりですか?」
即座に優一郎が切り返す。立城は小さく笑ってそのつもりだけど、と答えた。別に相手なんて誰でもいい。欲求さえ満たされればそれでいいのだから。立城はそう言って優一郎の胸を押した。
「だから離して」
「父上をさらに苦しめ、塵のごとく砕くことがお望みという理解でよろしいですか?」
立城はぴたりと身体の動きを止めた。目を細めてから薄い笑みを浮かべる。
「……どうして水輝や多輝はよくて、僕は駄目なの?」
答えは判りきっている。比べることがそもそも間違いなのだ。だが立城はそれでも優一郎に問い掛けた。
「今の母上に手加減できるとは思えません」
あくまでも優一郎の声は静かだ。立城は疲れたため息をついた。
「じゃあ、相手が龍神なら構わない?」
そう問い掛けてから立城は自分の質問のあまりのばかばかしさに力ない笑い声を上げた。駄目に決まっている。そもそも白銀のように力を削がれた龍神を探すことの方が難しいのだ。その精を胎に受けて何ともないという保証はない。
「僕が相手ではご不満ですか?」
「義務で抱かれるほど不愉快なことはないね」
笑いを納めて立城は言った。だから、離して。そう続けて優一郎の胸を押す。腕に力をこめると自然と下腹部にも力が入り、膣内に溜まっていた熱い愛液が漏れて肌を伝う。その感触に僅かに身震いしてから立城は再び腕になけなしの力をこめた。
性欲がぐるぐるしすぎて訳が判らなくなってる、というのもあるのですが、明らかにこの頃の立城の様子は変です。