※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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エロシーン……というか、事後? が微妙に残ってます。


四章
優一郎の大誤解の始まり


 腹を押さえて鈴が微かに呻く。優一郎は恐る恐る鈴に手を伸ばした。身を丸めた鈴が小さく呻いて全身に力をこめる。それを見た優一郎はびくりと手を震わせ、引っ込めた。

 

 赤い血のついた口許を手の甲で拭う。優一郎は愕然とした面持ちで鈴の陰部を見た。鈴の陰部は赤い血と白い精液で汚れたままだ。それを見た優一郎は目を細めて息を潜めた。誘われるように鈴の陰部に顔を近づけ、舌で血をすくい取る。自らの精液の混じったそれを優一郎は夢中で舐めた。甘い香りに頭の芯がぐらりと揺れる。

 

「紫さんの……力?」

 

 ぼんやりとした視線を彷徨わせながら優一郎は呻く鈴の腿を押さえつけた。鈴が苦しんでいることは判るのに、欲求に抗えない。優一郎は狭い膣内から零れてくる血を舌で何度も舐め取った。そのうちに膣内に放出された精液がなくなり、零れてくるのが血だけになる。

 

「鈴さん、どこが傷みますか?」

 

 囁き声で訊ねながら優一郎はそっと陰唇を左右に割り開いた。狭い膣口に舌を差し込んで零れかけた血を丹念に舐め取る。

 

「あ、う……だ、大丈夫、です」

 

 そう言いながら鈴が顔を歪めて腹を押さえる手に力をこめる。それを見つめ、優一郎は目を細めた。鈴がいま流している血は処女血ではない。舌に感じる味の変化から優一郎はそのことを悟っていた。立城が鈴に叩き込んだ力は多輝にも完全に消せなかったらしい。残留した力が鈴の内蔵を傷つけているのだ。

 

「迂闊だった……」

 

 そう呟いてから優一郎は鈴の視線に気づいてにっこりと笑った。

 

「あ、いえ、なんでもありません」

 

 そう告げて顔を上げる。鈴は痛みを懸命に我慢しているのだろう。優一郎に合わせて微笑もうとする。が、相当に痛むらしく、顔は真っ青になっている。

 

 多輝は治療の際に立城の力を抑えたらしい。が、優一郎が鈴の膣内に射精してしまったことにより、抑えられていた力が活性化してしまったのだ。しかもその上、人の身体に龍神の精液は強すぎる。それらの事が全て重なり、鈴に致命傷を与えてしまったのだ。

 

 今から病院に運んでもとても間に合わない。かと言って、治療に龍神の力を用いることも出来ない。

 

「鈴さん。痛みをとりますね」

 

 笑みを浮かべて告げ、優一郎は鈴の下腹部に手をあてがった。立城の残した力を回収しつつ鈴の痛覚を麻痺させる。すると鈴は自身を抱きしめていた腕から力を抜き、ほっと息をついた。一気に緊張が解けたのだろう。鈴の身体から力が抜ける。ほどなく鈴は眠りについてしまった。

 

 だがこれでは根本的な解決にはならない。優一郎はため息をついて額を覆った。

 

 不意に小さな音が背後から聞こえる。いつの間に入ってきたのだろう。驚きに振り返った優一郎の視線の先には立城が立っていた。立城はドアの脇に立ち、手で軽く壁をノックしたのだ。

 

「何をしにいらしたのですか? まさかこの少女に止めでも刺されるおつもりですか?」

 

 にっこりと笑いつつ優一郎は険のある声で告げた。立城が静かな表情で答える。

 

「じゃあ君が殺す?」

 

 そう言いながら立城がゆっくりと歩き出す。優一郎は警戒しつつ立城の動きをじっと見つめた。だが立城は特に鈴に対して敵意を剥き出しにはしていない。じっと鈴を見つめ、ベッドの脇で立ち止まる。

 

「鈴は僕の物ですから。救いますよ」

 

 笑顔で答えて優一郎は立城を見た。立城は静かな眼差しで鈴と優一郎を見比べ、そう、と小声で告げる。立城は目でベッドを指し、首を傾げた。どうやら座ってもいいかという意味らしい。立城の意図を読めないまま、優一郎は肩を竦めてみせた。それを返事と読んだのだろう。立城が静かにベッドの縁に腰掛ける。

 

「どうやって救うの? 今から身体を治すの?」

 

 淡々と立城が告げる。それを聞いた優一郎はぴくりと眉を上げた。

 

「身体を治すのは無理です。でも脳は保護できますから」

「へえ。どうやって脳だけを取り出すの?」

 

 どこか遠くを見つめながら立城が告げる。優一郎は僅かに顔をしかめた。だが瞬きでその表情をきれいに消す。

 

「この研究所にも手術設備はあります。保護装置も当然あります」

「誰が息の根を止めるの? まさか生きたまま身体を切るつもりじゃないよね?」

 

 即座に立城が切り返す。優一郎はしばし答えに窮した。いつもは生きた状態のまま呉羽の許に対象の女性を送り、優一郎の手元には保護された脳のみの状態で送られてくるのだ。当然、優一郎は呉羽が人を切り刻んでいるところを見たことがない。

 

 立城が横目に優一郎を見る。

 

「生きているうちにメスを入れなければ、手術にならないでしょう?」

「そう。君がそれをするんだ?」

 

 小さく笑って立城は静かに立ち上がった。優一郎はベッドを降り、脱ぎ散らかしていた服の中から電話を取り上げた。

 

「果穂さんにお願いするつもりです」

 

 そう言って電話のボタンを押す。最初に出た保美に果穂を呼び出すように言った優一郎は目を見張った。どうやら果穂は多輝に抱き壊されてしまったらしい。呆然として電話を切った優一郎に立城が笑みかける。

 

「たまには自分で手を下せば?」

 

 くすくすと笑って立城が優一郎に向き直る。優一郎はため息とともに告げた。

 

「そうするしか無いようですね。母上、彼女を手術室に運ぶのを手伝っていただけますか?」

 

 いいよ、と簡単に答えて立城がベッドに向かう。優一郎は手早く服を身につけた。立城が腕を伸ばして静かに鈴を抱え上げる。どうやら今の立城でも鈴程度の重みを抱えることは楽に出来るようだ。それを見て取った優一郎は立城を促して寝室を出た。

 

 手術室はこの地下二階の入り口付近に作られている。緊急の際のために作っておいた部屋だが、これまで一度も使ったことはない。優一郎は無言でその部屋に向かった。立城も黙って後からついてくる。

 

 金属製のドアを開く。優一郎は手術台を示し、鈴をそこに乗せるように告げた。立城が頷いて腕に抱いた鈴を静かに手術台に横たえる。その間に優一郎はゴム製の手袋を引出しから取り上げた。マスクをかけて脳の保護に使用する機材を棚から引っ張り出す。

 

「そちらにある、手術用鋸とドリルを取っていただけますか?」

「判った」

 

 そう告げて立城が部屋の壁沿いに設えられた棚の中を探る。優一郎は次々に使用する器具を真新しいステンレスの台に乗せていった。その端に立城が鋸とドリルを乗せる。

 

「僕、見学していていい?」

 

 微かな笑みを浮かべて立城が告げる。

 

「見学と言わず、看護婦の代役を務めてください」

 

 にっこりと笑って優一郎は真新しい白衣とマスク、それに手袋を添えて立城に差し出した。いいよ、と答えて立城がそれらを身につける。

 

 剃刀をあてて丁寧に鈴の頭髪を削ぎ落とす。一本残らず頭髪を落としてからマジックで頭皮に印を打つ。優一郎は作業の間、殆ど口をきかなかった。隣で優一郎の補助をする立城も必要以外のことは口にしない。

 

 ドリルと鋸を使って頭皮ごと頭蓋骨を切断する。現れた脳の必要部分を取り出す。血に濡れた手袋に優一郎が鈴の脳を取り上げた瞬間、異変が起こった。

 

「来た」

 

 立城が目を細めて中空を睨む。優一郎は驚きに息を飲み、つられて立城の見た方向を見た。天井の一角から何かが次々に飛び込んでくる。黒く丸いものが闇色の尾を引いて手術室の中を飛び交う。その内に部屋の中には低い低い声が聞こえ始めた。

 

 唐突に闇色の珠が一斉に向きを変える。目を見張る優一郎の脇を次々に過ぎた珠は立て続けに鈴の胸に飛び込んでいった。最後の一つが飛び込む。それを境に低い声はゆっくりと小さくなっていった。

 

 保護用の容器の中に脳を沈める。優一郎の手は小刻みに震えていた。

 

「あなたはこれを呼び出すために、あのような一見愚行に見えるような行動を行ったのですね?」

 

 問い掛ける優一郎の声は乾ききっていた。立城が血に濡れた手袋を外し、マスクを取る。既に事切れた鈴を見つめ、立城は静かに告げた。

 

「今のは人の目には決して映らない、冥界の死者の怨嗟だよ」

 

 答えた立城の声はあくまでも穏やかで澱みはない。優一郎は震える手から何とか手袋を外した。震えて歯が上手くかみ合わない。

 

「君はヒューマノイドを作るたび、対象の命をある意味では生かし、またある意味では殺しているんだ。彼女はヒューマノイドとしてこれから生きるかも知れないが、人としては死んでしまうんだよ」

 

 静かな声で言いながら立城が白衣を取る。畳んだそれを部屋のステンレスの台に放り、立城は微かに笑った。

 

「母上、ご教示ありがとうございます」

 

 震えを抑えて優一郎はそう告げた。だが立城がそれを笑って否定する。

 

「いや。僕は教えるつもりであんな真似をした訳じゃない。あの時は確かに私欲に駆られていたよ。それは間違いない」

 

 だから真也の魂は砕けたんだろう。囁くように立城が呟く。それまで感心していた優一郎は目を見張って立城を見た。立城は薄い笑みを浮かべている。

 

「僕には真也の魂の叫びは聞こえない。……僕はね。単に君に思い知らせたかったんだよ」

 

 そう言いながら立城が歩き出す。

 

「ヒューマノイドは人ではない。わかっていたつもりだったんですが。知識としては持っていても、それを本当に理解しているかどうかは別問題なのですね」

 

 全てはたなごころの上か。まだまだ修行が足らないな。そう呟いて優一郎はため息を吐いた。ドアに向かって歩いていた立城がふと振り返る。その顔には一片の笑みもなかった。

 

「それが君の選んだ道の重さだ」

 

 そう告げて立城がドアの向こうに姿を消す。優一郎はしばし部屋の中に佇んで言われた言葉を胸の内で繰り返していた。




ここまででもかなり色々すれ違っているのですが。
そもそもこのシリーズって誤解とすれ違いがメインか、と思うくらい登場人物の意思疎通が出来ていませんw
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