でもBLだったりTSだったりします!
青い空が見える。水輝は瞬きをして瞼を擦った。慌てて身体を起こす。柔らかな下草の広がるその場所を見回して水輝は呆然と目を見張った。
どこまでも澄んだ湖水に空が映っている。流れる雲が映り、ゆっくりと右から左に動いていく。緑豊かな木々に囲まれた湖を見つめ、水輝は息を飲んだ。間違いない。ここはあの場所だ。
ふらりと立ち上がって歩き出す。水輝は習慣的に胸ポケットから煙草を出し、一本抜いて咥えた。火を点けて深く息を吸い込んではたと気付く。そういえば自分は罪穢を焼く炎に巻かれた筈だ。
「……なるほど。意識だけって……わけか」
低い声で呟いて水輝は立ち止まった。柔らかな風に吹かれ、コートの裾が閃く。水輝は春の暖かな日差しの元、しばし黙って煙草を吸った。紫煙が風に流れて消えていく。
遠くに桜の花が見える。まるで雪のようにも見える薄紅色の花が湖のほとりに少しずつ広がっていく。結界に包まれたこの場所そのものの時間の流れが不規則に変じているのだ。瞬く間に緑の木々の中でたくさんの花が開く。遠目に白く見える桜が次々に花開くと、周囲の景色は本当に雪が積もったように真っ白になった。
薄紅色の花びらが音もなく降る。水輝は黙って歩き出した。下草を踏み分けてゆっくりと湖畔に向かって進む。
風に緑の草が揺れる。波のようにさざめく草色のじゅうたんの向こうにそれはいた。水輝はその姿を捉え、足を止めた。唇から煙草を剥がして煙を吐き出す。微かに聞こえる細い声に目を細め、水輝は黙って彼らを見つめた。
二人が裸で睦み合うのを水輝はしばし眺めた。遠目では二人がはっきり何をしているのかは見えない。だが見なくても知っている。二人は限られた時間の中であらゆる方法で愛し合っているのだ。ただ、ひたすらに。
「……こんなの、今さら見せられてもな」
低く、不機嫌な声で水輝は吐き捨てた。例え片方がかつての自分であったとしても、いまの自分でない限り単なる他者でしかない。そんな者の情事を覗く趣味はないんだがな。そう呟いて水輝は踵を返そうとした。
不意に甲高い音が響く。その音に驚いたのか、木に止まっていた小鳥が一斉に飛び立った。湖面が揺れ、映りこんだ空がさざめく。水輝は目を見張ってゆっくりと顔を戻した。
そこには男の姿になった自分がいた。水輝は目を見張ったまま、一歩ずつぎこちなく前に進んだ。今と色を除けば違わぬ姿で自分が紫翠に抱かれている。目を見張り、息を詰めた水輝の唇から自然と煙草が落ちて消えた。淡い燐光を放つ二人に水輝はふらふらと近づいた。
あと数メートルというところで水輝は足を止めた。深く突き入れられてあられもなく喘ぐ自分の姿に目を細め、水輝はため息をついた。今すぐにでも殴ってやめさせようかとも考えたが、恐らく手は出せないだろう。
「何でわざわざ男のかっこで犯されなきゃならないんだ」
うんざりしながら水輝は新しい煙草を取り出した。案の定、水輝の声は二人には届かないらしい。ごく普通に出した水輝の声にも全く反応しない。変わらず抱き合っている。
やれやれと肩を落として水輝は煙草に火を点けた。聞こえないと判っていながら水輝は変態め、と紫翠を罵倒してみた。だがやはり二人とも水輝の方は見ない。水輝は煙草を吸いながらしばし二人の様子を伺っていた。二人ともが龍神であることを除けば、特に変わったことはない。人のそれと同じように性交渉しているだけだ。
だがこれまで水輝の記憶に男同士の姿で抱き合ったという場面はなかった。どうやらこれも紫翠の遺した術の一環らしい。ため息をついて水輝は天を仰いだ。一体、これを見せてどうしようというのだろう。
大きくため息をついて水輝は二人に目を戻した。そこで目を見開く。男の自分を腕に抱いた紫翠がちらりと水輝を振り返って笑ってみせたのだ。おい、と水輝は思わず呟いた。だがすぐに紫翠は腕の中に抱きしめた者に向き直った。甘い言葉を囁きながらそれのペニスに手を伸ばす。水輝は引きつりながら二人に近づいた。
「気付いてるなら気付いてるって言え!」
そう怒鳴りながら水輝は紫翠に大股で近付いてその頭を後ろから叩こうとした。が、振った手が空しく紫翠の頭を突き抜ける。試しに足を振り上げた水輝はそこで硬直した。
紫翠の手が滑って胸にのぼっていく。激しく喘ぐそれの胸に紫翠が手を埋めていく。水輝は蒼白になって足を下ろした。待て、と掠れた声で呟いて紫翠の腕を押さえようと手を伸ばす。だがどうしても触れない。
身体を弓なりに反らせたそれが高く鳴く。実体で紫翠に犯されながら、器の中にこめられた宝珠を同時に指で犯されているのだ。それは理解出来る。だが水輝は奇妙な切迫感を覚えて懸命に紫翠を止めようとした。怒鳴って二人を引き剥がそうと手を伸ばす。なのにどんなに力をこめようと、腕は空しく二人の身体をすり抜けるだけだ。
「おい! 紫翠! いいかげんに」
そう叫んで水輝は紫翠を睨みつけた。そこで息を飲む。紫翠は陶然とした面持ちで腰を前後に揺すりながら口許に嗤いを浮かべている。その手が胸から抜ける。声を上げて仰け反ったそれのペニスから白いものが迸る。
白い牙が見える。水輝は呼吸をするのも忘れ、魅入られたように紫翠を見つめていた。紫翠が握った緋色の宝珠に牙を立てる。水輝は愕然と目を見張り、よろけてその場にへたり込んだ。
龍宝珠は龍神が生まれた時から持つものだ。逆に言えば龍宝珠が己を形作っていると言ってもいい。龍宝珠は世界の力を仲介するものであり、また持ち主の力を示すものでもあり、そして。
TSをTLと間違えそうになりました(汗)
危ない危ない。