水輝視点で続きます。
まだエロシーンはありません。
仏頂面で部屋に戻った水輝を奈月は困惑した面持ちで迎えた。
「はい、これ。これを挿れれば大丈夫だろ?」
そう言いながら水輝は奈月の手にタンポンの入った箱を押し付けた。
立城の器を壊し、誓約を利用して罪穢を他者になすり付けるという計画を根底から壊した。そのことを水輝は立城に詫びる気はなかった。木龍神としての罪を全て引き受けた真也の魂が散ったことも水輝には判っていた。が、それでもどうしても詫びる気にはならなかったのだ。
詫びてどうなるってもんでもないしな。水輝は胸中で呟きながらテーブルについた。悪かったと頭を下げることで全てがなかったことに出来るなら、水輝もそうしていた。だが誰かが詫びる程度ではどうにもならないところまで事は進んでいたのだ。そのことは立城も判っているだろう。
何が気に入らないんだか。そう呟きながら水輝は何気なく奈月に目をやった。奈月は両手にタンポンの箱を包むようにして持っている。それを見た水輝はあれ、と声を上げた。
「どうした? 着け方が判らないか?」
苦笑して告げて水輝は立ち上がろうとした。だが奈月がそれより早く首を横に振る。どうやら奈月はタンポンの使い方が判らない訳ではないらしい。
「これ、とても大切な品だと思います。想いの力を感じます」
「いや、そんなものにこめられても」
困ったような悲しむような奈月の言葉に水輝はすかさず言い返した。幾ら想いがこもっていようが何だろうが、タンポンを後生大事に持ち歩く趣味はない。水輝はすげなくそう続け、奈月に挿入するように言った。
「だめです。これは紫さんのものですから」
水輝は取ろうとしていた箸をテーブルに置き、ため息をついて頭をかいた。
「だから、立城は……って、何でそっちの名前で呼ぶんだ?」
龍神に生理用品など必要ない。何しろ龍神は孕まないのだ。当然、生理もある訳がない。子宮や膣といった女性器はあるが、それは性交の際に用いられるだけだ。力のない龍神になるとそれすらも持たないことも多い。
何をそんなに拘るって言うんだ。機嫌悪く顔をしかめて水輝はまたため息をついた。
「この品物は紫さんにとって、とても大切な品なはずです」
「だから」
苛立ちをこめて言ってから水輝はそっぽを向いた。判った、とため息をついて水輝は立ち上がった。戸惑った面持ちで佇む奈月に近付く。
「これが立城にとって大事なのは判った。返せばいいんだろ?」
そう言いながら水輝は奈月の手からタンポンの箱を取り上げた。次いで、奈月のセに手を回す。片腕に奈月を抱いて水輝は静かに告げた。
「奈月はおれの質問に答えてないぞ。何でその名を呼ぶ?」
振袖に身を包む奈月を水輝は強く抱きしめた。右手に握ったタンポンの箱を奈月の身体越しに見る。これといって特別なものには見えない。
「あの、紫さんは女性なんです!」
「うーん……」
水輝は腕の中でもがく奈月の身体を強く抱き、困ったように笑った。立城の本来の名が紫であることは知っている。が、その名は易々と呼んでいいものではない。
「どう言えばいいかなあ……。とりあえず、だ。男でも女でも構わないから立城って呼んでやれ。でないと余計なの引っ掛けるぞ」
ため息混じりに告げて水輝は奈月から手を離した。タンポンの箱をベッドに置く。振り返ると奈月の困ったような顔が目に留まる。
「だから、立城さんも本当は女性なんです」
「それで?」
半ば諦め気分で水輝はテーブルに戻った。雑煮は冷めてしまったのか、もう椀から湯気は上がっていない。やれやれと肩を落として水輝はお重に詰まっていたおせち料理に手をつけた。
「あの、水輝さん。水輝さんは、ゆ……立城さんのことを愛してらっしゃいますよね?」
生真面目な顔で奈月が問う。水輝は思わずむせた。生ぬるくなってしまった汁を啜って何とか喉を落ち着ける。あー、びっくりした。そう呟いてから水輝は汁椀を奈月に突き出した。
「冷めた。あっためて」
答えは口にせず水輝はぶっきらぼうに告げた。奈月が水輝と出された汁椀とを見比べる。
「はい」
汁椀を受け取った奈月が目を閉じる。次いで奈月は炎の力を呼び出した。落ち着いて見ると奈月が器用に力を呼び出していることが判る。本来なら魔法を扱いにくいこの世界でも奈月の詠唱はスムーズに力の元へと届いている。
が、どうも調整が上手くないらしい。汁椀の中身はあっという間に蒸発してしまった。
「またやっちゃった」
泣きそうな顔で奈月が呟く。まあまあ、と苦笑して水輝はもう片方の椀を示した。試しにもう一回やれば、と勧めてみる。奈月はおっかなびっくりといった態で椀を持ち替えた。
奈月が目を閉じる。水輝は奈月が呪文を詠唱した瞬間、右手の指を鳴らした。導き出された力を大幅に削る。すると今度はきちんと雑煮があたたまった。
「ふうん。呼び出す量の調整が今ひとつなんだな」
水輝は手の中に引き取った炎の力を軽く宙に放り投げた。渦を巻く炎が徐々に小さくなる。やがてその力は真紅の小さな石となった。小指の先ほどもない石がこつん、と小さな音を立ててテーブルに落ちる。
「立城さんは、今の状況にとまどってらっしゃるんだと思います。立城さんも水輝さんのことを愛してらっしゃるから」
水輝は差し出された暖かい雑煮を受け取りながら顔をしかめた。だが奈月はどこまでも真面目な顔をしている。
「愛とか言われてもなあ。よくわかんねえな」
そう答えて水輝は空腹に任せて雑煮を食べ始めた。白味噌仕立ての雑煮は程よく味付けされている。白身の魚がきれいに椀の中で花開いている。水輝は食べながら奈月を隣の席に促した。が、奈月は視線を泳がせるだけで座ろうとしない。どうやらまだ振袖が汚れるかも知れない、と気にしているようだ。
魔法を習った奈月が早速、アレコレ試しています。