※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

90 / 175
エロシーンはありません。


誓約の選択 1

 倒れた幼い少年の傍に屈みこみ、凪は静かに手を差し伸べた。床には大量の血溜まりが出来ている。青白い顔をした少年の名は吉良瀬立城。木龍神の長だ。凪は胸のうちで相手のことを思い出しながら手のひらからゆっくりと力を注いだ。

 

 青白かった頬に僅かに赤味が差す。どうやら間に合ったらしい。そのことにほっとしながら凪は立城の腹の傷に指先でそっと触れた。その瞬間、びくん、と立城が身体を跳ねさせる。

 

「傷口を塞ぎます。しばらく動かないでください」

 

 かたく目を閉じて苦しそうに息をつく立城に凪は静かな声をかけた。栄子から分けられた力が徐々に刀傷を癒していく。それと共に立城の呼吸はゆっくりと落ち着いていった。

 

 傷口を塞ぎ、ある程度の力を送り込んだところで凪は微かに笑った。これでとりあえずは命の心配はない。後はゆっくりと回復するだけだ。いきなり大きな力を注がれてしまったら、逆に立城の回復には邪魔になるだけだろう。凪はそっと両腕を伸ばして立城を静かに抱き上げた。

 

 不意に空気が揺れる。凪は黙って空気の揺れた場所を見た。部屋の中央に光るドアが現れる。その後、ドアから見知らぬ少年が現れた。凪は片手に刀を握り、もう片方の腕に銀の羽根を生やした少女を抱えた少年に深々と頭を下げた。

 

「お初にお目にかかります。風龍神の使い、凪と申します」

 

 そう言って凪はゆっくりと頭を上げた。少年の後ろに続いていた三人の女性が不思議そうに部屋の中を見回している。彼らが吐き出された後、ドアは音もなく消え去った。

 

「こちらこそ初めまして。吉良優一郎と申します」

 

 にっこりと笑って優一郎と名乗った少年が頭を下げる。凪は聞き覚えのある名前にふわりと微笑んだ。優一郎は栄子の言っていた通り、総一郎によく似ている。だがまとう雰囲気は総一郎とは全く異なっている。かつては親子として一緒に暮らしていたと言うが、離れてから随分と時間が経つのかも知れない。

 

 優一郎は失礼、と凪に声をかけてから近くのベッドに歩み寄った。ベッドには一人の見知らぬ少女が先に横たわっていた。その横に優一郎が腕に抱えていた羽根のある少女を横たえる。

 

 三人の女性は戸惑ったように顔を見合わせながら優一郎の後を追っている。あれは恐らく冥界の犬だ。いつか見たことのある女によく似た雰囲気を三人ともまとっている。凪は静かな眼差しで彼らのことを観察した。

 

「水輝さんは風龍神に助力を頼まれたのですか?」

 

 ベッドに少女を静かに横たえた優一郎がにこやかな笑みをたたえて告げる。凪は微笑みで応えながら慎重に言葉を選んだ。

 

「いいえ。私は風龍神の御方から直接に地上の王に助力するよう申し付けられました」

 

 そう言って凪は静かに頭を下げた。腕の中で立城は眠るように目を閉じている。

 

「出来ましたら私をこの御方の傍に置いて頂けませんでしょうか」

 

 静かな口調で続けて凪はゆっくりと頭を上げた。優一郎が微笑みをたたえたまま凪とその腕に抱えられた立城とを見やる。

 

「条件があります。よろしいでしょうか?」

 

 凪に負けず劣らずの落ち着き振りで優一郎が告げる。僅かの間、思案してから凪は告げた。

 

「私は風龍神の使い。その命に逆らうことは許されません。その条件の元であれば」

 

 出来る範囲で従いましょう。凪はそう言って目で礼をした。

 

「まずひとつ。立城さんと、性的な交渉を持つことは程度に関わらず禁止させていただきます」

 

 淡々と優一郎が告げる。凪はぴくりとも表情を動かさず、黙って優一郎を見つめた。なるほど、と胸の中で呟く。確かに立城の状態を考えればその条件を出してくるのは酷く自然だ。

 

「続いてもうひとつ。あなたの受けている命に反さない限り、ここでは僕の命に従っていただきます」

 

 ここは僕の城みたいなものですからね。そう言って優一郎がにっこりと笑う。凪は笑みでそれに応えながら静かに告げた。

 

「私は風龍神の御方に地上の王を助力するよう申し付けられました。その命には当然ながら伽も含まれるのですが」

 

 腕に立城を抱えたまま凪は静かな微笑を優一郎に向けた。優一郎が笑みを浮かべたままで首を傾げる。

 

「なるほど。それでは妥協が必要ですね。僕の建てた計画に沿って、立城さんの伽をおまかせするということで妥協願えないでしょうか?」

「計画の内容を後ほど詳しくお聞かせ願えますか? 命と照らし合わせてお返事をいたしたく存じます」

 

 凪は静かにそう返した。それから、と言葉を継ぐ。

 

「私はただの使い。私を介しては風龍神の御方との繋ぎは一切取れないとお考え下さい」

 

 そう言ってから凪は優一郎の背後に控える三人に目をやった。三人は引きずるほどに裾の長い黒い服を身につけている。冥界の犬があちらで好んで身につけるものだ。

 

「とりあえずこの御方を寝所にお運び致したいのですが、優一郎様、ご案内して頂けますか?」

 

 立場のはっきりしない者の前でこれ以上の口をきくとぼろが出るかも知れない。そう考えた凪は笑顔で言って優一郎を見つめた。

 

「わかりました。案内しましょう」

 

 そう答えて優一郎が歩き出す。それから優一郎は佇んでいた三人に声をかけた。

 

「阿遊那、世羅、摩魅華。お前たちには仮に部屋を与えよう。途中まで、道は同じだから付いてくるように」

 

 ぱっと三人が顔を輝かせる。どうやら彼女たちの今の主は優一郎らしい。なるほど、と胸の内で呟いて凪は彼女たちに先に道を譲った。それぞれが凪に会釈をして部屋を出て行く。凪は彼らの最後尾について部屋を出た。




このエピソードでこの章は終わりです。
そろそろキャラ紹介とかいるかも知れませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。